なぜM&A編でyutori社を取り上げるのか
第26回はM&A編の続きとして、アパレルブランドを展開するyutori社を取り上げます。SNSで有名な「ゆとりくん」でも知られる企業です。
この番組がM&A編を続けているのには理由があります。M&Aという手法でスタートアップが既存企業を買収し、その企業が大きく成長した背景には、最先端の事業成長やマーケティングのノウハウが詰まっているのではないか、という佐久間さんの見立てがあるからです。
M&Aという手法でスタートアップが既存企業を買収して、そのもともとの既存企業がすごく成長したということは、その成長の中に事業成長のノウハウとかマーケティングのノウハウが詰まってるんじゃないかなと思ったので。
ヤマさんが「これは地方企業にも使えるのか」と尋ねると、佐久間さんは使えるという立場を示し、yutori社の解説へと入っていきます。
7年で520倍。倍率で語られる異例の成長
yutori社はアパレルブランドとして、設立わずかな年数で東証グロースに上場しています。アパレル企業での上場という点も特徴的だと佐久間さんは話します。
さらに創業から7年間で5件のM&Aを実施し、グループ合計の売上高は直近で83億円に達したとされています。これは創業時と比べて520倍にあたる規模です。
七年間で五件のM&Aを実施して、グループ合計の売上高が直近八十三億で五百二十倍に七年で成長された。倍、倍、倍、倍、倍のでもとかじゃないですか。
あんまり成長倍率で聞かないですよね。
主力ブランドの一つが「9090(ナインティーンナインティ)」で、yutori社は複数のブランドを展開しています。もともとは古着販売からスタートし、自社ブランドのアパレルメーカーへと事業を広げていきました。
買われる側から始まったyutori社の物語
yutori社のM&Aストーリーで面白いのは、yutori社自身が一度M&Aされている点だと佐久間さんは指摘します。まず自社が他社に買われ、その後に上場し、今度は逆に買う側へ回ったという流れです。
ゆとりも一度M&Aされてるんですよ。自社が買われてるんです、他社に。その後に上場して、逆に買う側に回ってるんですね。
そんなストーリーがある会社あります?
yutori社を買ったのはZOZOです。M&Aは株式会社同士が株式を買い、経営権を持つという形で行われます。ZOZOはyutori社の株式を51%取得し、子会社化しました。
遠心力で飛ばす「スイングバイIPO」とは
yutori社は子会社化された後、そのグループの中で事業を成長させ、あらためて上場に至りました。一度独立した会社が子会社化を経て、再び上場するこのやり方を「スイングバイIPO」と呼びます。
これをスイングバイIPOって言うんですよ。
スイングバイとは、遠心力を使ってものを遠くに飛ばすことを指す言葉です。この比喩の通り、一度グループに入って知見や力を借り、自社を大きく伸ばしてから上場まで持っていくのがスイングバイIPOの考え方です。
独立した会社
自社ブランドを持つ独立企業として事業を営む
子会社化
親会社に株式の過半数を取得され、グループに入る
グループ内で成長
親会社の知見・力を借りて事業を大きく伸ばす
IPO
あらためて上場し、一般投資家からも株を買ってもらえるようにする
ZOZO傘下で得た3つの成長エンジン
ZOZOの傘下に入ったことで、yutori社にはいくつもの利点があったと佐久間さんは整理します。まずはファイナンス面で、財務が安定し投資余力が生まれた点です。
次に採用面です。大手の採用基準や採用ブランドの安心感によって、いい人材が採れるようになったといいます。
さらに商業施設への出店交渉でも効果がありました。親会社の名前や信用が付くことで、よい立地を取れるようになったという点です。
これはでかいですね。
買う側に回ったyutori社と、49%の話
成長を経て上場したyutori社は、今度はM&Aする側に回ります。有名な事例が、元AKB48の小嶋さんが手がけていたブランド「Herlipto」の取得です。アクセサリーやランジェリーを扱うブランドとされています。
yutori社はHerliptoについても51%の株式を取得しています。その後のニュースでは、残りの49%を、当初51%を買った価格よりも高い単価で引き取る動きが伝えられました。事業が成長した分、単価が上がったためです。
残りの四十九パーセントを、五十一パーセントで買った株式の価格よりもさらに事業成長してるんで、確か百五十パーセントぐらいの単価で残りも売るっていう形で、何十億みたいな話のニュースも出てきました。
つまりyutori社は、完全子会社化する道もあれば、スイングバイIPOを狙う道もあるという形で、M&Aを柔軟に使い分けています。自らもM&Aされ、する側にもなって他のブランドを成長させてきたのが、この会社の特徴です。
なぜ違うブランドを買うと成長できるのか
アパレルではブランドイメージが付く分、顧客群が固定化しやすいと佐久間さんは説明します。ファン層が定まるということです。
そこでyutori社は、M&Aによって異なる顧客群とのシナジーを生み出し、グループとして業績を拡大してきました。これは多角化による成長の成功事例だと佐久間さんは位置づけます。
ヤマさんが「買われてから買う側に回るパターンはよくあるのか」と尋ねると、佐久間さんはあまり聞いたことがないと答えます。
買われて独立して買う側になる、このパターンって結構よくあるんですか?
いやー、あんまり聞いたことないです。
「空中戦」としてのM&A戦略
佐久間さんは、yutori社のM&A戦略を、アパレルの真正面の目線とは違う「空中戦」だと表現します。財務的な戦略を軸にした動きだという意味です。
M&A戦略は主に、ファイナンス面と、親会社のブランドやテクノロジーのノウハウを借りるやり方で成り立っています。いいものを市場に届けたいという発想とは、少し性質が異なるという整理です。
普通のアパレルでこういうものを市場に届けたいっていう真正面の目線とちょっと違う、空中戦ですよね。本当に財務的な戦略じゃないですか。これをしたたかにやってるのすごいなと思いますよね。
いいものを作って売れて上場する、という道だけでなく、財務面でどうすれば成長できるか、どこと協力するとよいかを考え、その延長で「買う側にもいける」と判断したのだろうと佐久間さんは読み解きます。
M&Aという手法自体は昔からあるもので、佐久間さんは堀江さんが手がけていたライブドアの例を挙げます。ただ、アパレルでM&Aを重ねて成長した例はあまり聞かない、と特殊さを強調します。
新規事業のルールをブランド開発に持ち込んだ「Yリーグ」
多くのブランドを立ち上げるのは大変で、すべてを当てる必要もある中で、yutori社が成功した手法として語られるのが「Yリーグ」です。ブランドを育てる基準を明確にした仕組みです。
Yリーグでは、たとえば一定期間までに一定の年商を達成したら追加投資を得られ、次の段階でさらに高い年商を目指す、という形でルールが定められています。撤退基準と、次の投資を受けられる基準がはっきりしているのが特徴です。
裏を返せば、プロデューサーがどれだけ熱量を持っていても、期限までに基準へ届かなければ撤退します。当たらなかったと判断し、損失が小さいタイミングで切って成長させていくという考え方です。
どれだけプロデューサーがめっちゃ熱量を持ってても、期限までにそれに行かなかったらもう撤退ねってルールが明確なんで、小さい損失のタイミングでそこは切って成長させていく。
佐久間さんは、この仕組みがリクルートの新規事業室で見聞きしたやり方と全く同じだと話します。リクルートでは「ステージゲート」と呼ばれ、何期までに何ユーザー、何億といった基準を満たせば追加投資が得られる仕組みだといいます。
ブランド開発に用いる。期間ごとの年商基準で追加投資と撤退を判断する
新規事業開発に用いる。期・ユーザー数・売上の基準を満たせば追加投資を得て事業部化を目指す
佐久間さんは、yutori社が新規事業開発のルールをブランド開発に取り込んだのだと解釈します。さまざまなビジネスのトレンドを、うまくアパレル業界に持ち込んだ企業だという見方です。
地方企業はyutori社から何を学べるか
ヤマさんが、この考え方を地方企業に生かすとどうなるかと尋ねます。佐久間さんは、自社の顧客基盤を生かすことや、新規事業を生み出すときのルール決めを挙げます。
具体的には、責任者を任命して小さくでもやってみて、どこまで成長できたら追加投資を得られるか、その部門の部門長になれるか、といった基準を設ける考え方です。
責任者を任命して小さくでもやってみて、いくらまで成長できたら追加投資が得られて、逆にそこの部門の部門長になれるかもねっていう話。
M&Aをすぐにされる、するという規模まで地方企業が到達しているかはわからないとしつつ、こうした考え方でさまざまな企業と連携していくことが一つのヒントになるのではないか、と佐久間さんは締めくくります。
まとめ
yutori社は、ZOZOに買われる側から始まり、スイングバイIPOで成長し、今度は買う側に回るという独自の道をたどってきました。M&Aを財務的な戦略として使い分け、異なる顧客群とのシナジーで多角化成長を実現した事例です。
- yutori社は創業から7年で5件のM&Aを実施し、グループ売上高は520倍に成長した
- 自社がZOZOに51%取得され、グループ内で成長してから再上場する「スイングバイIPO」を実現した
- ZOZO傘下では財務・採用・出店交渉の面で成長の後押しを得た
- 上場後は買う側に回り、Herliptoなどを取得して顧客群のシナジーで業績を拡大した
- ブランド開発に「Yリーグ」という基準を導入し、撤退と追加投資のルールを明確にした点が成長の鍵とされる




