フォントは「ロゴデザイン」と別物?意識されにくい字体の話
この番組はブランディングを難しくせずポジティブに解きほぐす実験室です。今回はブラボーワークスの保呂田直行さんの持ち込みで、「ブランディングの種」シリーズの字体・フォント編が始まりました。
これまで音、色ときて、続くテーマが字体です。MCの中島さんは、字体をあまり意識してこなかったと打ち明けます。
ちょっと字体ってなんかあんまり意識してなかったかな。
一方で保呂田さんは、ロゴには必ず字体が関わっていると指摘します。スターバックスもセブンイレブンも、あの文字は字体そのものだという話です。
ロゴを作る時に、スターバックスのあのロゴもセブンイレブンのあの文字も全部字体が絡んでるわけじゃないですか。
多くの人は、文字の位置や配列を整えることを「ロゴデザイン」だと感じています。字体(フォント)そのものがデザインと結びついていない、という感覚のずれがこの回の出発点です。
活版印刷からデジタルフォントへ、文字はどう生まれたか
保呂田さんは、そもそもフォントがなぜできたのかを歴史からたどります。出発点は、はるか昔の活版印刷でした。
それまで聖書は、神様が言ったことを書いたものとして、偉い人しか見られませんでした。しかもすべて手書きで、本の数そのものが少なかったといいます。
そこに活版印刷という技術革新が起きます。一文字ずつ金属を削って活字を作れば、あとは何度でも押せる。この技術で、たくさんの人が本に触れられるようになりました。
じゃあこの時にどういう字の形だったらいいのかが、フォントの一番最初です。
時代が進み、MacやWindowsが登場した頃、フォントはデジタルデータとして扱われるようになります。AdobeやMicrosoftなど多くの企業が、昔ながらの字体をデジタル上に再現していきました。
日本語でも、毛書体や隷書、楷書といったさまざまな文字の形がコンピューターの中で再現できるようになります。各ブランドは、こうしたフォントを組み合わせて自分たちのロゴマークを作っていったわけです。
なお中島さんが発明者の名前を「グーテンターク」と言い間違える場面もありました。片山さんいわく、それはドイツ語の挨拶で、活版印刷機を発明したのはグーテンベルクです。
高級ブランドの字体が近年シンプルに似てきた理由
歴史を押さえたうえで、話はブランドと字体の関係へ移ります。保呂田さんは、プラダやGUCCIといったファッションブランドの文字の形はわかりやすいと切り出します。
象徴的というか、もう浮かびますよね。
保呂田さんによれば、これらのブランドは近年のリブランディングで、みんな同じようなシンプルな字体になったといいます。中島さんは、そう言われて初めて気づいた様子でした。
その理由として保呂田さんが挙げたのが、スマートフォンの普及です。ブランドにアクセスする接点が、店頭や紙からスマホの画面に変わったことが背景にあると話します。
お客さんがどの機種で、どんな画面で見るのか。そこで認識しやすいように字体を寄せていく、ということをブランドは考えているらしい、と保呂田さんは説明します。
「高級感のあるフォント」は、実は他ブランドが決めている
続いて保呂田さんは、中島さんに「高級なブランドを立ち上げるとき、フォントの何を見るか」と問いかけます。中島さんは可愛さや高級感を挙げました。
高級感は細め、可愛さは丸みといった印象の話も出ますが、保呂田さんはそこに逆説的な答えを示します。
でも実際、なんでかって言ったら、答えが実はもうすでにあって。他の高級ブランドが使ってるかどうかなんですよ。
VOGUEが長年使い続けてきた有名なフォントを使えば、たいてい高級ブランドのロゴらしくなる、というのです。逆に、それ以外を使うと高級には見えなくなります。
つまり、高級感は字体そのものより、みんなの刷り込みで決まっているという見方です。ヘルベティカやフツラのように、フォントには名前が付いていて、デザイナーは字体を見るだけでブランドの格や業種を大まかに読み取れると保呂田さんは話します。
フォントを選ぶことは、自分の世界観を選ぶこと
中島さんは、マリメッコの展覧会に行った体験を語ります。インスタのストーリーズに投稿しようとしたとき、マリメッコっぽい字体を選べたといいます。
中島さんの中には、真面目な話をするときの字体、大阪弁で突っ込むときの太い字体、といった使い分けが自然とあるそうです。そこにマリメッコのロゴに近いフォントも並んでいました。
保呂田さんはこの話を、中小企業のブランディングに引き寄せます。マリメッコの取り組み以上に、中島さんが場面ごとにフォントを選び分けていることの方が、中小企業には必要だと評価しました。
資生堂フォントを手で書く、フォントは「人生を溶かす」仕事
保呂田さんは、とある車の会社の仕事で、メールやちょっとしたメモ書きにも指定のフォントを使うようバチバチに決められた経験を明かします。見出しはこのフォント、と徹底されていたそうです。
片山さんは、弟が資生堂のクリエイターで、1年目に最初にさせられたのが資生堂フォントを書けるようにすることだった、と続けます。つまり手書きで再現する訓練です。
ここで話の肝として、フォントはそもそも手書き・手作りで作られているという事実が語られます。英語は文字数が少ない一方、日本語は漢字があるため文字数が膨大です。
これ、1つのフォント作るのに1人の人生終わってますからね。
人生を溶かすっていうんですよ、フォントは。だから沼なんです。
フォントは制作の手間が大きく、1年の使用料に何万円もかかることもあります。その大変さを知れば、逆にお金を払わせてほしいと思うほどだ、と保呂田さんは語ります。
だからこそ、指定のフォントを使い続けることには意味があります。そのフォントを使うことが、その企業がその企業であることの証明になるという考え方です。
文字の形は、その会社の世界観そのものを表してしまう。高級感を出したいならそのフォント、可愛らしさを出したいならこのフォント、と統一していくことが大事だと整理されます。
外部の発注先が変わってもブランドを崩さないルール
保呂田さんは、フォントの統一は社内のインナーブランディングだけでなく、外部のベンダーまで含めて図るものだと話します。
ここで片山さんが、中小企業のあるあるを挙げます。パンフレットの発注先が今年はこの会社、3年後は別の会社、と変わっていくと、トーンやルールがどんどんまちまちになり、ブランドがずれていくというのです。
自社できちっとルールを作っておいて、それがどの会社に発注した時も守られるっていう状況を作らないといけないよね。
大企業はこうしたキープが徹底されている一方、中小企業は規模が変わると継続力を失いがちだ、と中島さんは指摘します。
これに対して片山さんは、最初に決めてしまえば以後は決めなくてよくなる、と応じます。最初にパワーを出して決めることが肝心だという見立てです。
字間・縦長・手書き、字体が語る商品の「格」
打ち出したいイメージによってフォントの選択が変わる、という話から、より細かな表現の技術に踏み込みます。保呂田さんは、文字と文字の間隔の取り方も印象を左右すると話します。
例としてBalenciagaのロゴが挙がります。一文字ずつ離すことで、あえて間の抜けたような独特のイメージを出せるといいます。
また、Lのように極端に縦長の細い字体は高級感を表現します。字体のイメージによって、その商品の格やグレードが表現されているというわけです。
そこには流行も強く関わります。中島さんは、少し前に細長くて重心の高いフォントが流行っていたと振り返ります。
だから手書きでちょっとハッピーバースデーのバースデーカード書く時も、みんなちょっとそれ使って。
石鹸ブランドのLUSHのような手書き感も話題に上ります。字体の印象が、ブランドの雰囲気をそのまま伝えていく例です。
ドンキの手書きPOPは、なぜパソコンで作れないのか
フォントの重要さの実例として、ドン・キホーテのPOPが取り上げられます。あのPOPはすべて手書きで、手書きだからこそあの魅力が出ていると保呂田さんは言います。
ドンキのPOPって手書きじゃないですか、全部。あれ手書きだからあの魅力だと思いません?
パソコンではあのインパクトは作れない、と保呂田さんは断言します。生成AIで「っぽく」はできるかもしれないが、色を塗りつぶすペンの跡のようなアナログ感が肝だという見方です。
一方で、ロゴに使ったフォントを資料にも同じく使い続けるのは難しい、という現実的な悩みも出ます。片山さんは、これは技術というより組織の問題だと整理します。
インナーブランディングの難しさを示す小さなエピソードとして、中島さんが以前、事務所のお花見でSEIのロゴを手書きでフォトプロップスにした話が出ます。みんなが写真を撮れるように用意したものの、使ってくれたのは2人だけだったそうです。
フォントは文字の意味以上に語る、その大事さを持ち帰る
終盤、中島さんは「ナカジマノート」として気づきをまとめます。フォントには、書かれている文字の内容や意味以上に語り出す力がある時がある、という点です。
片山さんも、映像制作でテロップのフォントを選ぶ大変さに触れ、保呂田さんも選ぶこと自体が億劫だと共感します。赤ちゃんが話す場面で丸文字を使うように、イメージ戦略を持ってフォントを選ぶことの一例です。
逆に、ブランド側からフォントを指定されると、制作側は迷わずに済んで楽になるという実感も語られました。
最後に保呂田さんは、パソコンで文字を打つ人はみなフォントを作るクリエイターに感謝した方がいい、と話します。片山さんは、読みやすさやシンプルさを追求しすぎてブランディングを手放していないか、と問いを投げかけました。
まとめ
フォントは単なる読みやすさの道具ではなく、高級感や可愛らしさ、その会社の世界観までを無言で語る要素です。歴史をたどれば手作りの積み重ねであり、それを選び、決め、社内外で使い続けることがブランディングそのものだと語られた回でした。
- 高級ブランドのロゴが似てくるのは、スマホ時代の見やすさと、他ブランドが使う定番フォントへの刷り込みが背景にある
- フォントは基本的に手書き・手作りで作られ、日本語では膨大な文字数のため「人生を溶かす」ほどの労力がかかる
- 同じフォントを使い続けることは、その企業がその企業であることの証明になる
- 外部の発注先が変わってもブランドを崩さないため、自社で最初にルールを決めて守り続けることが重要
- 読みやすさやシンプルさを追求しすぎて、自社らしさを手放していないかを一度見直す視点が問われる




