「喫茶田中」と「夕暮れコーヒー」、どっちに入りたい?
この回のテーマは、保呂田さんが持ち込んだ「ネーミング」です。会社名、商品名、サービス名など、いろいろな名前がブランドに直結するのに、番組でまだ扱っていなかった話題だといいます。
ずばり名前なんですよ。ネーミング。
会社の名前だったり、商品サービスの名前だったり、いろんな名前あると思うんですけど、それってブランドに直結するよねというお話です。
片山さんは冒頭で、2つのカフェの名前を出してどちらに入りたいかを尋ねる実験を始めます。1つ目が「喫茶田中」、2つ目が「夕暮れコーヒー」です。
保呂田さんは「喫茶田中」を選び、こだわりの店主がネルドリップで淹れる昭和のレトロ喫茶を思い浮かべたといいます。一方、中島さんは「夕暮れコーヒー」を選びました。
なんか日の光が差して差し込んでくる大きな窓ありそうだなくらいまではイメージしました。
片山さんの意図は、「夕暮れコーヒー」を選んでほしかったところにありました。名前を聞いた瞬間に、情報ではなく気持ちのほうへ人が動くかどうかを見たかったのです。
片山さんによれば、「喫茶田中」は情報を伝える名前で、「夕暮れコーヒー」は気分、つまり情緒価値を伝える名前です。名前一発で気持ちが動くのがネーミングの力だといいます。
そこでああって気持ちが動くわけじゃないですか。名前だけで。名前一発で。
ブルーボトルコーヒーが「腹落ち」する理由
保呂田さんはさらに踏み込み、この喫茶店の話なら、情報的にも情緒的にも本当の答えは別にあるのではないかと切り出します。挙げたのは「ブルーボトルコーヒー」でした。
保呂田さんは、言いやすくて耳に残る名前は、カフェという業態や客層と複合したときに選ばれやすいと話します。スターバックスやブルーボトルのような横文字系のほうが、日本人にとって選択しやすいのではないかという見立てです。
片山さんはこの見立てに同意しつつ、自分が出したのは2択のクイズだったと苦笑します。ここでは正解を1つに決めるのではなく、情緒価値のある名前のほうが人の心は動きやすい、というのがこの導入の要点です。
保呂田さんは、ブルーボトルコーヒーというネーミングの成功要因を掘り下げます。青いボトルという他にないユニークさがあり、かつ言いやすく、人との距離が近づきやすい名前だといいます。
保呂田さんによれば、ブルーボトルはシングルオリジン ── 単一の産地・農園の豆だけを使ったコーヒー。産地ごとの個性が味に出るため、こだわり系のコーヒーとして扱われますのような、少しハイエンドなコーヒーを楽しむ入り口の走りでした。スタバの緑系のリラックス空間とは違う何かを求める層に届いたと分析します。
中島さんが指摘したのは、「ブルーボトルコーヒー」は大して短くもないのに言いやすいという点です。片山さんはこれを「腹落ちしやすい」と表現し、ターゲットや業界に対してすっと入る名前だとまとめます。
「フレッシュライフ」から「通勤快速」へ
次に話題になったのが、靴下の「通勤快速」です。中島さんは知らなかったこの商品名の背景を、片山さんが説明します。
片山さんによれば、これはレナウン ── かつて存在した日本の大手アパレル企業。多くの衣料品ブランドを展開していましたが出した抗菌防臭の紳士靴下で、最初は「フレッシュライフ」という名前でした。1981年発売の商品です。
片山さんは、「フレッシュライフ」も横文字で爽やかそうで悪くない名前だと言います。しかし、中身を変えずに「通勤快速」へ改名したところ、売上が大きく伸びました。
改名して、もともと3億円ぐらい売ってた商品なんやけども。
改名した年に13億円、その翌年45億円。
名前を変えただけで、売上は4倍から最終的に15倍になったといいます。中身は同じ商品のままです。
中島さんは「通勤快速」から快速電車を連想しますが、この商品名の「快速」は、快適な足を意味する漢字が使われています。通勤・場面・ターゲット・業界がすべて名前にはまった例だと3人は整理します。
片山さんは、「フレッシュライフ」の「ライフ」がどこにかかるのかわかりにくいと指摘します。フレッシュな新社会人を連想させるのに、本当に必要としていたのは、疲れて電車で通うおじさんたちだったからです。
実際に超必要としてたのはフレッシュな人たちじゃなく、ちょっと疲れた電車で通ってるおじさんたちなんですよ。
片山さんによれば、「通勤快速」への改名には「ダサい」という反対意見もあったといいます。それでも売れたことは、かっこよさを追求するのは、ただのエゴになりうることを示していると3人は話します。
片山さんは、企業が発するブランド名はしばしば、企業がつけたい名前になっていると指摘します。買う側からすれば、同じような商品が2つ並べばどちらに愛着があるかという曖昧な動機で選ぶため、そこにこそブランディングが必要だといいます。
フレッシュライフ(1981年)。横文字で爽やかだが、誰の何にかかるのか伝わりにくい
通勤快速。疲れて電車通勤する紳士に、快適な足という機能を場面ごと届けた
「ほぼカニ」がカニじゃないのに強い理由
続いて話題になったのが「ほぼカニ」です。保呂田さんは、この名前がカニではないことを潔く認めている点に注目します。
中島さんは、パッケージにはカニではありませんとはっきり書かれていると補足します。それでも片山さんは、晩酌のつまみに最近よく買ってしまうといいます。
ストレートやけれどもとんち効いてる、これでええやんって言ってるおじさんいっぱいいると思う。別にカニじゃなくて。
片山さんによれば、「ほぼカニ」は2014年に発売され、2022年に日本ネーミング大賞 ── 商品名やサービス名などのネーミングを表彰する賞。優れた名前を選出していますの最優秀賞を受賞しています。
応募740点の中から選ばれた最優秀賞だといいます。わずか4文字の名前が、トップに立ったことになります。
片山さんは、「ほぼカニ」は口に出すと少し可愛く聞こえるなど、音の響きの良さも強みだと話します。名前を考えるうえで五感が大事だという流れにつながっていきます。
海外で伝わる名前と「音の気持ちよさ」
五感の話から、保呂田さんは日本産の和牛や食材の名前が、海外でどう受け取られるかへ話を広げます。名前の語感が、海外での伝わりやすさを左右するといいます。
保呂田さんは、神戸ビーフを例に挙げます。英語では「Kobe beef」となり、バスケットボール選手コービー・ブライアントの名前の由来にもなったといいます。話題性がさらに神戸ビーフの認知につながったと話します。
保呂田さんによれば、最近国内で元気があるのは宮崎で、英語にすると語感がとても良いといいます。宮崎、A5、Japanese和牛ビーフという組み合わせは、非常に言いやすいと評します。
同じく、ウイスキーの「山崎」も響きや破裂音の音感が英語圏の人に刺さりやすいと保呂田さんは話します。牡蠣では「Kumamoto Oyster」が言いやすく、アメリカ産でも熊本のブランド名になっていると紹介します。
一方で、鹿児島は「カゴシマ」となると言いにくいらしいと保呂田さんは言います。名前の言いやすさは、土地や商品の広まり方にも影響しうるという話です。
片山さんは自分の名前「光祐(コウスケ)」も海外では読みにくいと笑います。テコンドー道場では「コスク」「コシュキ」などと呼ばれ、言い直すのも面倒だったといい、名前と発音の話で盛り上がります。
「ガリガリ君」「うまい棒」に見るターゲット逆算
保呂田さんは、子供にとって語感の良い商品名の代表として「ガリガリ君」を挙げます。ガリガリという音が食感を先に伝え、商品自体もガリガリしている点が強みだといいます。
片山さんが以前「最強のお菓子の名前」と話していたのが「うまい棒」でした。うまいと名乗り、実際にまずくない。片山さんはこれを超えるネーミングはなかなかないと評します。
だってうまいもん。あれ超えるネーミングのお菓子なかなかないと思う。
片山さんは、ガリガリ君もうまい棒も、子供というターゲットにしっかり訴求できていると指摘します。パッケージデザインも含め、大人が真面目に考えたものだといいます。
重要なのは、受け取る側の気持ちが逆算されている点だと片山さんは話します。誰に届けたいのかが、企業のエゴによって欠落してしまうケースが多いといいます。
ネーミングの3つの負けパターン
ここから片山さんと保呂田さんは、個人でカフェを始める人や一人でサービスをやる社長がやりがちな、ネーミングの3つの負けパターンを挙げていきます。
1つ目は、かっこよさを追求しすぎて読めなくなるパターンです。意味不明な横文字や、フランス語風にすれば上品だろうという発想が典型だといいます。
片山さんは、仮にフランス語にするにしても、日本人がどう読むか、どう略すかを想定したうえでつけるべきだと話します。読まれ方が想定と違えば、名前として機能しにくくなります。
2つ目は、逆に説明しすぎるパターンです。「大阪手作り焼き菓子工房」のように地名と商品内容を全部くっつけてしまうと、Google検索そのものような名前になってしまいます。
ただし片山さんは、AI時代にはこの説明過多が意外と正しい面もあると補足します。地名やサービス内容を入れることで、AIやユーザーに発見されやすくなるメリットがあるからです。
片山さんは、SEO ── Search Engine Optimizeの略。検索エンジンで見つけてもらいやすくするための最適化に加えて、MEO ── Googleマップなどの地図サービスで見つけてもらいやすくする最適化、さらにAIにどう見つけてもらうかまで、プロは考える必要があると説明します。
つまり、利便性や情報の詰め込みと、ターゲットにいかに刺さるかを、バランスよく両立させることが大切だという整理です。
3つ目は、おそらく最も多いパターンで、「高級」「プレミアム」「上質」といった言葉で逃げるやり方です。一時期、「◯◯プレミアム」が増えまくったと2人は振り返ります。
片山さんは、こうした言葉は名前で期待値を爆上げしてしまうため、実物がついてこなければ「名前負け」になると指摘します。
片山さんは、期待値が名前などで上がってしまうと、ちょっとのことで落ちてしまうと話します。真面目が売りの人が少しつまずくと印象が崩れやすい一方、期待値が低ければ小さな良さでも評価されやすいという、諸刃の剣の性質があるといいます。
受け取る人の気持ちから名前を考える
話は番組を制作する「SHOBERY」自身のネーミングにも及びます。保呂田さんは、SHOBERYがやっているのは、会社が持つ価値を伝わる言葉に翻訳することだと説明します。
保呂田さんによれば、番組名も切り口も、最初の名乗りが説明で止まってしまう会社は多いといいます。大切なのは、聞いた人の気持ちがどう動くかから逆算することです。
聞いた人の気持ちがどう動くか、そこから逆算するっていうね。
片山さんは、SHOBERYという名前には「SHOW」と「SHABERI(しゃべり)」がかかっていて、おしゃべりをエンターテインするという意味が込められていると紹介します。言いたいことを並べるのではなく、受け取る人の気持ちを先回りしたネーミングだといいます。
明日からできること、そして「静香」の話
最後に、明日からすぐできることとして、片山さんは今持っているサービスや商品の名前を一度考え直すことを挙げます。本当にターゲットに届いているか、別の代案がないかを見直そうという提案です。
通勤快速みたいにズバーンと一本取られたってなるぐらいバチッとハマる名前がもしかしたらあるかもしれないので。
中島さんは、名前を考え直すときに、家族など観点の違う人から発想をもらうと、意外とズバッとくる名前が浮かぶかもしれないと話します。
MCの中島さんは、締めの「ナカジマノート」で、自分の名前「静香」にも触れます。喋る仕事をしているのに「静か」という名前であることを面白がりつつ、名前がその人のイメージを表しうると話します。
中島さんは、破裂音が付いた名前が若い世代や女子に受けやすいといった印象にも触れ、世代によって名前の受け取り方が変わることを、通勤快速の例と重ねて締めくくりました。
まとめ
名前は単なるラベルではなく、ブランドに触れた瞬間に最初に受け取られる情報のひとつです。この回では、身近な商品や店の名前を題材に、名前が人の気持ちを動かす仕組みと、その落とし穴が語られました。
- 情報を伝える名前と、気分・情緒を伝える名前では、人の心の動き方が変わる
- 靴下「通勤快速」は中身を変えず改名しただけで、売上が最大15倍に伸びた
- 「ほぼカニ」「ガリガリ君」「うまい棒」は、ターゲットの気持ちから逆算された名前
- 読めない名前、説明しすぎる名前、プレミアムで期待値だけ上げる名前は負けパターン
- 名前は「何と名付けたいか」ではなく、誰にどう受け取ってほしいかから考える






