2025年、ナイキ苦戦とオニツカ躍進の対比
この回の出発点は、前回のテーマだったナイキとオニツカタイガーの立ち位置が、2025年に逆転しているという事実です。
片山さんは、ナイキの2025年春の決算を紹介します。売上はマイナス10%、純利益はマイナス44%で、アメリカ本社では在庫調整や人員削減も発表されているといいます。
一方で、オニツカタイガーを擁するアシックスグループは過去最高益を記録しました。中でもオニツカタイガーは前年比プラス58.3%増だと片山さんは話します。
銀座、心斎橋、ロンドンの店舗でも、朝から外国人が行列を作っているシーンを、僕なんか大阪だから心斎橋の店の前で見ますよ。
保呂田さんも、海外出張でよく乗るJALの機内広告が、ここ何年もオニツカタイガーであることを挙げ、外国人からの人気の高さを実感していると語ります。
それぐらい外国人、めちゃくちゃオニツカタイガー好きですよ。
平野さんは、ナイキストアには外国の来店客が多い印象があると応じつつ、この逆転が数年前には考えられなかったことだと確認します。
「Just Do It」から「Just Show It」へのズレ
片山さんは、ナイキが今、ブランドの「熱」の扱いに迷っているように見えると分析します。
その象徴として挙げるのが、コラボレーションの多さです。トラビス・スコット、オフホワイト、シュプリームなど、名だたるストリートブランドやハイブランドとのコラボはどれも話題になったといいます。
ただしその結果、スポーツブランドとしての軸がぼやけたのではないか、というのが片山さんの見立てです。保呂田さんも、ナイキのイメージはスポーツより渋谷のクラブやストリートのほうがしっくりくると同意します。
片山さんは、ナイキが「走る靴」から「見せる靴」へ変わってきているのではないかと指摘します。
Just Do Itが、Just Show Itになっちゃってんじゃないかなっていう。
スニーカー好きの平野さんも、SNSで見かける投稿は、走るために履くよりも、コラボモデルを抽選で手に入れる文脈が目立つと実感を語ります。
マニアすごいっすもんね。自分用と保存用と、見せる用。
片山さんは、ブランドが「動機」ではなく「結果」の部分にフォーカスされるようになると、共鳴が薄くなると懸念します。自分も動き出したくなるエネルギーというナイキの強さの火が、弱くなっているのではないかと話しました。
オニツカタイガーが選んだ「静けさ」という戦略
片山さんは、オニツカがナイキと真逆の路線で人気を上げている点が面白いと語ります。
オニツカもコラボはしていますが、その相手はジル・サンダー、アンダーカバー、アンドレア・ポンピリオなど、ファッションの中でも静けさのあるブランドが中心だと説明します。派手さではなく、造形美や質感で勝負しているといいます。
派手じゃないけれども、造形美とか質感で勝負してる。静けさの中に強さがあるよねっていう打ち出し方かなっていう。
保呂田さんは、前回語られた「ナイキが一度オニツカに恋をして別れた」というエピソードを振り返り、両者が別々の方向で成功している今の状況を肯定的に受け止めます。
店舗のつくりにも、その静けさは表れています。片山さんは、銀座のフラッグシップ店の様子を具体的に描写します。
木とか石とか使った落ち着いた内装で、照明は低めで、靴がまるで工芸品のように並ぶ。BGMも控えめで、スタッフも売るよりは整える感じのトーンかな。
さらに片山さんは、ロンドンのコベントガーデンで、期間限定で日本のクラフトマンシップを体験できるタバーンを展開し、靴だけでなく日本文化そのものを体験できる場を提供していたことも紹介しました。
「煽るブランド」と「整えるブランド」の分岐点
保呂田さんは、両ブランドの違いを飲み物にたとえます。ナイキがエナジードリンクなら、オニツカタイガーは緑茶やお抹茶のようだ、という表現です。
オニツカはもうしっかり緑茶として、またはお抹茶みたいな形で、日本の文化と一緒に売ってるんだなっていう、ちょっと胸アツでした。
片山さんは、この対比を「煽るブランド」と「整えるブランド」という言葉で整理します。
ナイキが煽るブランドだったとすれば、オニツカは整えるブランドなのかなと。まさに文化の香りを売ってるのかなっていう感じがしますよね。
平野さんは、昔ながらの日本の文化やよさが、今そういう形で世界に受け入れられているのではないかとまとめます。保呂田さんも、抹茶が伸びていることを例に、日本文化そのものが世界で受け入れられていると実感を語りました。
ナイキの原点回帰、スポーツへの立ち返り
一方で、片山さんはナイキも動き出していると付け加えます。
ナイキは2024年から「スポーツオフェンス」という再構築戦略を始めているといいます。ランニング、バスケットボール、フットボールという創業期の3本柱に戻り、もう一度アスリートの現場に立ち返る動きだと説明します。
日頃から走るという平野さんは、ランニングのシーンでのナイキの変化を実感を持って語ります。最初はガチで走る人に履かれている印象が薄かったものの、厚底シューズを出し始めた頃から、プロのランナーがレースで履く姿が増えたといいます。
広告の手法も変わってきていると平野さんは感じています。片山さんは、以前はCG満載だったものが、今はリアルな方向に寄っていると補足します。
走る選手の息遣いとか、汗、路面の音。デジタルから身体感覚へみたいな感じで、もう一度人が人を動かすブランドに戻そうとしているのかなっていう。
なお、この流れで片山さんは、ナイキの語源が勝利の女神ニケであることに触れます。平野さんも保呂田さんも初めて知ったと反応し、ナイキが今、ブランドの意味そのものを問い直している最中だと確認しました。
CBBEピラミッドで見る「共鳴の質」の違い
平野さんは、ここまでの話を、片山さんが得意とするブランディングの構造で整理するとどうなるかを尋ねます。
片山さんが持ち出すのは「CBBEピラミッド」です。ブランドが認知から共鳴へと至る4段階のモデルだと説明します。
片山さんは、このモデルの4段階を順に挙げます。土台の認知(サリエンス)、次に機能と印象(パフォーマンス・イメージ)、3つ目に評価と感情、信頼と交換の段階、そして最上段の共鳴(リゾナンス)です。この積み上げで、心に残るブランドが完成するといいます。
片山さんは、この4段階にナイキとオニツカを当てはめて比較します。
| 段階 | ナイキ | オニツカ |
|---|---|---|
| 認知 | 世界一有名だが選ぶ理由が弱い | 日本の上質として再認知 |
| 機能と印象 | コラボ中心で機能より文脈 | 履き心地と造形美が一体 |
| 信頼と交換 | かっこいいで止まっている | 誠実・落ち着く・信頼できる |
| 共鳴 | 持つ満足で短期的 | 履く心地が生き方とつながる |
片山さんは、この整理を一言でまとめます。ナイキが外見やかっこよさに寄っているのに対し、オニツカは機能や履き心地にしっかり向き合っている、という違いです。
ナイキの方は語るブランドなんだけれども、オニツカは感じるブランド。
片山さんは、どちらも正しいアプローチだとしたうえで、今の時代、世界は「感じる」方に寄っていっていると分析します。90年代はナイキの目を引くスニーカーが所有欲につながり時代とマッチしていたが、今はそうではないという見立てです。
両ブランドの物語はハッピーエンドか
平野さんは、90年代から2000年頃にかけて自分たちがナイキに憧れて夢中になった体験を振り返ります。それはブランドを知るきっかけにはなったが、そこから次のアクションへつながるかは別の話だと気づきます。
片山さんは、ナイキがスポーツブランドというよりファッションブランドへ広がっていった経緯を指摘し、オニツカの人気上昇を見て、ナイキが原点のスポーツへもう一度戻ろうとしていると捉えます。
ブランドが自分を見つめ直す動きに、どんどんなっているかなっていうふうに思いますよね。
片山さんは、前回語られた両ブランドの物語をあらためて振り返ります。フィル・ナイトが日本にやってきて、鬼塚喜八郎に「売らせてください」と始まったところから、ナイキは世界的ブランドへ成長し、ファッションへ展開しました。そしてオニツカもまた世界に認められてきたといいます。
両方ともハッピーエンドじゃないですか、これ。胸アツですよ。
平野さんは、お互いが存在することで引き立つものもあると応じます。1つ2つのメーカーだけよりも、いろいろなメーカーがあってシーンが盛り上がるほどよいという考えです。
最後に平野さんは、話の中心に日本の文化や神戸があることに、前回から続く誇らしさを感じたと語ります。片山さんも「日本人で良かったなって思える」と受け止め、後編を締めくくりました。
まとめ
この回は、業績で逆転したナイキとオニツカを題材に、人々がブランドに求める価値が「語る」から「感じる」へ移りつつあることを、CBBEピラミッドを使って読み解いた回でした。
- 2025年、ナイキは減収減益、オニツカタイガーは前年比58.3%増と対照的な状況にある
- コラボ中心で「見せる」方向へ傾いたナイキと、静けさ・質感・文化体験で「整える」オニツカが対比された
- CBBEピラミッドで見ると、ナイキは「語るブランド」、オニツカは「感じるブランド」と整理できる
- 今の時代、世界の価値観は「感じる」方向へ寄っていると分析された
- ナイキも2024年からスポーツへの原点回帰を進めており、両ブランドの物語はハッピーエンドと受け止められた





