地震の2週間後に届いた、力づけられるニュース
この回は、前回が熊本地震から1か月というタイミングだったことを振り返るところから始まります。発災から2週間ほど後に、大きな経済ニュースが出ました。
杉山さんは、あれだけの災害の直後に大きな経済ニュースが出たことを、心強い出来事だったと話しています。
地震で熊本大変だってなった、その10日後ぐらいにああいう大きな経済のニュースが出て、なんかこう心強いというか、力づけられる、そういうニュースでしたよね。
田中さんは、素人目線では大きな災害の後に「拠点としてどうなのか」という議論が出てもおかしくないと指摘します。
その上で田中さんは、今回はむしろ逆に力を入れていくという意思表示が、早い段階で発表されたことに注目したと述べています。
ソニーとTSMCが合志市に合弁会社
田中さんが紹介したのは、ソニーとTSMCが8月11日に次世代イメージセンサーの合弁会社設立で確定契約を結んだというニュースです。
場所は合志市で、出資はソニーが約4650億円、TSMCが約2820億円、合わせて7470億円。量産は2029年の予定とされています。
杉山さんは、これが熊本のJASMとは違う構図だと説明します。JASMもソニーは出資しているものの、TSMC主体であるのに対し、今回はソニーが主体になるといいます。
今回はソニーが6割で、TSMCが4割ということで、ソニーが主体ということで、また全然違った形になりますよね。
イメージセンサーは、ソニーが世界的にリードしている分野です。杉山さんは、これがソニーの重要な強みのある領域だと話しています。
杉山さんは、これまで熊本では半導体そのものを「作る」段階から、それを「使う」産業を集めることが大事だと言われてきたと整理します。
その上で杉山さんは、今回はソニーが自社の敷地内で半導体の生産からセンサー化まで一体的に行うことに意義があると述べています。
第2工場が3ナノへ ― 最先端が熊本にやってくる
もう一つのニュースは、台湾経済部が3月に熊本第2工場の計画変更を承認したというものです。
田中さんによると、第2工場は3ナノメートル、12インチウエハーで月産1万5000枚、2028年に設備を導入して量産を始める計画です。当初は6〜7ナノの計画でした。
杉山さんは、数字が小さくなるほど最先端になると説明し、もともと汎用品の位置づけだった熊本に、本当の最先端がやってくる意味は大きいと話します。
杉山さんは、最先端は難易度が高い分、装置・材料・人材に求められる水準も一段上がると指摘します。
その汎用の半導体を作るよという位置づけだった熊本に、本当の最先端がやってくるよということで、日本国内で世界でも最先端の量産が回っていくのはすごく意義が大きい。
杉山さんは、半導体は裾野が広い産業だとして、地元や九州の企業がそのサプライチェーンにどう入っていけるかが大事だと述べています。
田中さんは、春の第2工場のニュースと夏の合弁会社のニュースが続いたことを、ここ数年でもバリューの大きい話が続いたと受け止めています。
杉山さんは、第2工場は一時期スケジュールが空いて心配された時期もあったと振り返り、3ナノという発表はポジティブサプライズだったと話しています。
台湾が承認したということの意味
杉山さんは、地域の話に移る前に、このニュースを台湾経済部が承認した点も大きいと補足します。
杉山さんによれば、最先端技術は国家が国外に出すことを管理しており、その承認は、台湾から見て日本が信頼できる生産地と認められたことを意味します。
台湾が承認したっていうのは、要は日本という、台湾から見て信頼できるところでこれを生産していいよっていう話。
杉山さんは、地理的な近さや戦略的重要性が言われてきた熊本に、その重要な技術を出してよいと台湾が認めたことを、地政学的にも重要なニュースだと捉えています。
田中さんは、これがソニーに対して技術や情報を開示することにもつながるとして、これまでとは事情が変わる局面だと述べています。
菊陽町が、17年ぶりの不交付団体に
ここから話は地域の視点へ移ります。TSMC・JASMが工場を置くのは菊陽町です。
田中さんによると、菊陽町は2025年度当初予算で固定資産税を55億7102万円と見込み、前年度より14億3107万円増加しました。
この結果、菊陽町は2025年7月に普通交付税の不交付団体となり、これは熊本県で17年ぶりのことだといいます。
杉山さんは、固定資産税で自主財源を持つのは大きなことだとしつつ、制度上は手放しで喜べない難しさもあるかもしれないと述べます。
その上で杉山さんは、自主財源があることで、菊陽町のニーズに合ったお金の使い方をよりフレキシブルに考えられるのではないかと話しています。
杉山さんは、今回の増収は工場の立地する菊陽町の固定資産税である一方、渋滞など面として周辺に及ぶ課題もあると指摘します。
「TSMCの町」ではなく、暮らしから考える総合計画
杉山さんは、自身が菊陽町とつながりを持つ理由として、総合計画の策定審議委員を務めていることを挙げます。
総合計画とは、自治体が作るまちづくりの基本方針です。杉山さんは会社の中期経営計画に近いものだと説明しています。
杉山さんによると、前の計画がまだ途中だったものの、大きな環境変化を受けて、吉本町長のもとで新しい計画を立てる議論が行われたといいます。
杉山さんは、経済目線では「TSMCの町」に見えても、総合計画は住民の暮らしから構想が練られるものだと話します。
杉山さんは、菊陽町の南部には農地が多く、ニンジンなどの農業も有名だと紹介します。
杉山さんは、農地を守り、住民の暮らしを守り、国策としてやってきた産業の集積を支える、この3つのバランスと相乗効果を議論したと振り返っています。
農地を守る
南部に広がる農地や、ニンジンなどの農業を守る
暮らしを守る
もともと住んでいる住民の生活を守る
産業を支える
国策としてやってきた工場・産業の集積を支える
外国から来る人が増えるということ
田中さんは、菊陽町の人口が5年ほどのスパンで増え続けていることに触れ、進出に伴って外国から来る人も増えていると述べます。
杉山さんは、熊本でこれまで外国人が急に増えることはあまりなかったとして、教育環境や共生が新たな課題になっていると話します。
杉山さんは、この状況を日本全体の人口減少という文脈の中で、熊本で先行して起きているテストケースのようだと捉えています。
田中さんは具体的な数字を示します。熊本県内の外国人労働者は2025年10月末時点で13年連続の過去最多を更新し、前年比12.3%増だといいます。
田中さんによると、国籍別ではベトナムが最も多く、業種別では製造業と農業・林業の2つで半数を占めています。
田中さんによると、熊本県の在住外国人は2024年12月末で2万9385人で、5年前の約1.64倍になっています。そのうち台湾籍は1919人で、全体の約6.5%にあたります。
杉山さんは、公立小学校に通う台湾の子どもの言葉のフォローなど、きめ細かな対応も議論されていると話します。
杉山さんは、産業の集積には人の集積が欠かせないとして、外から来た人が根付いて生活できる環境を整えることの大切さを述べています。
「やさしい日本語」という考え方
田中さんは、街の標識や看板を日本語だけでなく別の言語でも表示する地道な整備もあるかもしれないと述べます。
これに対して杉山さんは、現地の言葉に翻訳する以外に「やさしい日本語」という考え方があると紹介します。
杉山さんは、伝わりにくい例として、尊敬語や謙譲語が重なった丁寧すぎる日本語を挙げます。第一言語でない人には長くてわかりにくいといいます。
すごく丁寧な日本語で書いてたりするけど、日本語が第一言語じゃない方からするとすごく長くて、尊敬語があったり謙譲語があったりして、何だかわからない。
杉山さんは、むしろシンプルでダイレクトな「やさしい日本語」で書くことが第一歩で、翻訳もしやすくなると話します。
杉山さんは、これは災害などすぐに情報を伝えなければいけないときにも効いてくると指摘します。
地震の時に「津波、すぐ逃げて」と出たりするじゃないですか。ダイレクトだけど伝わりやすい、そういう地道な取り組み。
田中さんは、菊陽町の武蔵ケ丘中学校で、外国にルーツを持つ生徒や日本語指導が必要な生徒に対応している例を紹介します。
田中さんは、公立学校でのサポート体制を今後どう拡充し、効率化していくかも、みんなで考えなければいけない課題になると述べています。
それぞれの「当たり前」が違う ― そして拠点思考へ
杉山さんは、今後のサイエンスパーク構想に触れ、企業や人が熊本の外、さらには国外から集まってくると話します。
杉山さんは、そうした背景の違う人々にとってビジネスがしやすく、家族が暮らしやすい環境とは何かを、これから議論できたらいいと述べます。
杉山さんは、熊本の人だけで議論していると、この環境が当たり前になってしまい、外から来る人が何を求めているかが見えにくいと話します。
具体例として、杉山さんは台湾の友人が広い家を求めることや、海外では寝室ごとにトイレやシャワーがある家が一般的なことを挙げます。
台湾のお友達と喋ってると、結構彼ら広いお家を求めてたり、ベースが結構広いんですよ。
杉山さんは、海外では子どもだけを家に置いておくことが避けられる例も挙げ、日本の「お留守番」とは前提が違うと指摘します。
田中さんは、自分たちの当たり前が当たり前ではない場合があると共有し、しっかり議論していく関係性を作れればよいと応じます。
杉山さんは、熊本・東京・台湾それぞれの「当たり前」が重なり、みんなが折り合えるところが見つかっていく発想を語ります。
杉山さんは、若干無理やり寄せているかもしれないが、それこそが拠点思考だと締めくくり、田中さんも同意しました。
そうですね、まさしくそれが拠点思考ですよね。
まとめ
この回は、熊本の半導体をめぐる大型ニュースを、経済・地政学・暮らしの3つの目線から読み解く内容でした。合弁や3ナノ化といった産業の話から、外国から来る人が増える町の暮らしまでが地続きで語られています。
- 地震の2週間後、ソニーとTSMCが合志市に合弁会社を設立。ソニー主体という点でJASMと構図が異なる
- 第2工場は6〜7ナノから3ナノへ計画変更。世界最先端の量産が熊本にやってくる
- 台湾経済部の承認は、日本が信頼できる生産地と認められたという地政学的な意味を持つ
- 菊陽町は固定資産税の増収で17年ぶりの不交付団体に。総合計画は農地・暮らし・産業のバランスから考えられている
- 外国から来る人が増える中で、「やさしい日本語」やそれぞれの「当たり前」の違いを議論することが、拠点思考につながる







