ZoomInfoとは何の会社なのか
今回のGrowth Radioが取り上げるのは、B2B領域の営業・マーケティング向けデータプラットフォーム、ZoomInfoです。日本には進出しておらず、浜田さんはSansan在籍時に強くベンチマークしていたと振り返ります。
ZoomInfoの社長が全部のリードに90秒で電話をかけてるみたいな、オペレーションのすごさもあるんですけど、事業戦略とかデータの揃え方はすごく見てましたね。
ZoomInfoが提供するのは、法人だけでなく担当者個人の情報まで含んだデータベースです。企業ごとの担当者の電話番号、メールアドレス、所属組織、役職などのプロフィールを保有しています。
浜田さんは、日本の企業データベースとの違いをわかりやすく説明します。日本では契約しても企業の代表番号や分析用の情報が中心ですが、ZoomInfoは違うと言います。
この企業の法務部長に行きたいんだけどって言ったら、法務部長のメアドと電話番号とLinkedInプロフィールとか全部載ってるんですよね。そこからアウトバウンドできちゃう。
日本で近いサービスとして、浜田さんはFORCAS ── 企業データを活用したB2Bマーケティング支援を手がける日本のサービス。ユーザベースグループの一つですやセールスマーカーを挙げます。帝国データバンクや東京商工リサーチよりも新しく、Salesforceにきれいにデータが入る点が特徴だと言います。
コロナ禍で上場、セールステックで数少ない大型上場企業
ZoomInfoの規模は業界でも抜きん出ています。2020年、コロナ禍のタイミングでナスダックに上場し、売上は前年時点で12億ドル、社員は約4000名規模に達しています。
浜田さんは、アメリカのセールステックには上場企業が多そうに見えて、実は少ないと指摘します。フォーカスするとSalesforce、HubSpot、ZoomInfoの3社に集約されていくと言います。
前回取り上げたOutreachも大型調達をしていますが、まだ未上場です。実際に上場して時価総額もトップレベルにあるセールステックは、数えられるほどしかいないというのが二人の見方です。
こうした状況もあり、ZoomInfoは営業データベースといえばこれ、と言われるカテゴリーリーダーとして使われているサービスです。
クレジットカードを限界まで使った創業と、地道な横展開
創業者はヘンリー・シャック氏です。1983年生まれと若く、髭をたくわえた見るからにパワフルな風貌で、上場時のインタビュー動画からも自信と熱量が伝わってくると二人は話します。
顔ね、髭たくわえて、すごいもう見るからにスタミナっていうかパワーがありそうな感じ。喋り方もすごいですよ、パワー感じる。
シャック氏はオハイオ州立大学のロースクール在学中からB2B業界でインターンを経験し、23歳で起業します。当時の社名はDiscoverOrgでした。
学生時代のリサーチ業務のなかで、買った企業リストの担当者情報が古くて使えない、データが不正確で営業が無駄な電話ばかりしている、という課題を感じたことが出発点でした。2007年にDiscoverOrg社を立ち上げます。
注目すべきは資金の集め方です。最初の創業資金は約2.5万ドル、日本円で300万円ほどで、VCから調達せず自己資本で始めています。
自己資本どころかクレジットカードをギリギリまで使ったって書いてありますよね。アメリカのスタートアップでたまに聞きますけど。
成長の仕方も地道でした。浜田さんは、特定のカテゴリの大口顧客に売っていったのではないかと推測します。
IT企業と話してると、こういうカテゴリのCIOのデータが欲しいと言われる。それをちゃんとリサーチャー入れて作ると、そのデータは他のIT企業も欲しいっていう感じで。
一つの業界で必要なデータをきれいに整え、それが同業他社にも売れるという形で、業界を一つずつ横展開しながら着実に売上とデータを積み上げていったといいます。清沢さんは、ユーザベースのSPEEDAが金融やコンサル領域から当てにいった創業初期の動きと近いのではと重ねます。
その後、2014年にはPEファンドから出資を受け、2010年代後半にはARR1億ドルを達成します。VCではなく上場前に入る大型のグロース投資ファンドの資金だけを受け入れ、それ以外は自己資金でやり切ったという珍しい会社です。
メールボックス連携で生データを集める独自の手法
なぜ競合の多い企業データ市場でZoomInfoが頭一つ抜けられたのか。二人は複数の要因を挙げます。第一は、データの品質と精度が圧倒的だったことです。
当初から正確さにこだわり、他社がクローリングやアップデート頻度に課題を抱えるなか、人力で検証された最新の連絡先データを提供しました。
浜田さんは、ここで重要なのはそもそもZoomInfoが社名変更したのではなく、DiscoverOrgがZoomInfoという会社を買収したという点だと補足します。そのZoomInfoが独特な手法を持っていました。
企業データを使うためには、あなたのメールボックスとうちのサービスを連携させてくださいって言うんですよ。それでまずすごい生のデータをたくさん取ってくる。
集めた生データをリサーチャーが検証し、メールが届くかどうかまで確認していくため、精度が高く使えるデータになります。これが旧来型プレイヤーとの大きな違いだったといいます。
旧来型の代表例として浜田さんはダン・アンド・ブラッドストリート ── 世界的に古くから企業の信用情報を提供してきた米国の企業データ会社。日本の帝国データバンクに近い位置づけですを挙げます。信用情報が中心で、営業データベースとは性格が違うと説明します。
個人情報のグレーゾーンを攻めるオプトアウト型の割り切り
このメールボックス連携という手法は、真似しようと思っても勇気がいると清沢さんは言います。企業データを渡す代わりに相手のメールボックスと連携してしまうやり方だからです。
それはめちゃくちゃトリッキーですよね。
背景にはアメリカの個人情報の考え方があります。浜田さんは、アメリカがオプトアウト型 ── 本人が拒否の意思表示をしない限り、データの取得や利用を認める仕組み。拒否があって初めて対象から外れますである点を説明します。会社のメールアドレスなどは、売り買いすること自体は違法ではないといいます。
自分のデータをZoomInfoに載せないでねっていう申告はできるんです。でも、オプトアウトされないデータは売っていいみたいな。
日本でも会社の連絡先情報は厳密には個人情報ではないという説があります。ただ浜田さんは、そのグレーゾーンを攻めてメールアドレスを売りまくる企業は日本ではまだ見たことがないと話します。曖昧さゆえのリスクを避けているという見方です。
使い勝手も勝因の一つです。伝統的なサービスに対し、ZoomInfoはクラウドベースで使いやすいUIとCRM連携をフィットさせ、Salesforceの中にデータが入る形を作り込んでいました。
価格は高く、エンタープライズ向けのサービスです。浜田さんは、売上約2000億円を顧客3万社で割ると1社平均700万円ほどになり、多くの企業が月数百万円を払っている水準だろうと見積もります。
社長みずから偽名で資料請求する「90秒コール」の徹底
もう一つの強さが、営業とマーケティングの実行力です。ZoomInfoはあらゆるリードに対して90秒以内に電話をかけるオペレーションで知られます。浜田さんは、これを身をもって体験したと語ります。
ホワイトペーパーをダウンロードしたら、私日本なんでプラス81の電話番号ですけど、普通にかかってきて「お、来た」みたいな。国際電話でも本当に90秒でかかってきました。
さらに徹底ぶりを示すエピソードがあります。創業者のシャック氏は、毎月1回ほど実在する社長の名前で自社に資料請求し、本当に90秒で電話がかかってくるかを確認しているといいます。
ミシュランとかでもそういうのがあるみたいな。
抜き打ちのゴーストショップ。徹底してますね。
清沢さんは、これまで見てきたユニコーン各社に共通する点だと整理します。カテゴリ作りやUI/UXだけでなく、営業や現場の徹底力をサボらずやり切るという姿勢が、成功企業に共通していると話します。
その徹底が収益にも表れ、80%を超えるグロスマージンを維持してきました。浜田さんは、2020〜2021年頃のZoomInfoの成長率と利益率が異次元だったと振り返ります。
PEファンドと組んだロールアップ戦略とM&A
もう一つの成長軸が、PEファンドと組んだロールアップ戦略です。ZoomInfoは上場前から積極的にM&Aを仕掛けていました。
浜田さんは、TAアソシエイツやカーライルといったPEが出資したこと自体が、もともとロールアップの戦略があったことを示していると指摘します。企業データは合併するほどデータの質が高まるため、相性のよい戦略でした。
元々DiscoverOrgって会社があったのがZoomInfoを買収し、あとRainKingって会社も買収して。日本だとユーザベースがセールスマーカーもユーソナも買収して上場みたいな世界ですよね。
社名をZoomInformationからZoomInfoにしたのも、響きのよさが理由だと二人は話します。会議ツールのZoomと被る面はあるものの、入りやすい名前です。
浜田さんは、この戦略の本質を古典的なプレイだと表現します。安いデータ会社を買い、精度を高めて高く売るという流れです。
ZoomInfoとかって、お客さんからデータもらうみたいなので安かったと思うんですよね。だから安く会社を買って高く売るみたいな、古典的なプレイ。
競合を取り込みながら市場シェアを拡大し、価値のある製品にはプレミアム価格を設定していく。清沢さんは、基本的だが実行にはリスクと勇気を伴う施策をやり切ったことがポイントだと評価します。
採用・マーケへ広げるマルチプロダクト戦略
企業データそのものは、さまざまなソースから入手可能になり、コモディティ化が進んでいる領域です。浜田さんは、その大きな要因としてLinkedInの普及を挙げます。
LinkedInのデータって割とスクレイピングできちゃって、安いけど一応カバーしてますみたいなプレイヤーが増えた。データだけだとお金が取れなくなって、ZoomInfoもマルチプロダクト化していった。
その対応の柱の一つが、コア製品の強化です。買収したDataViaのように、企業が使っている技術スタックのデータを取り込んでいきました。
浜田さんはこれをテクノグラフィック ── 企業がどのツールやシステムを導入しているかという技術利用状況のデータ。売上や業種より一歩踏み込んだ営業向け情報ですと呼びます。この会社はMarketoを使っている、この会社はSalesforceを使っている、といったより深いデータを持つ企業を買っていったと説明します。
さらに、メールやカレンダーから自動で顧客とのやり取りを記録するInbox AI的な機能も取り込みます。前回紹介したOutreachやChorusに近い領域です。データを提供するだけでなく、実際のオペレーションのなかに入っていこうとする動きだと浜田さんは言います。
関連領域への拡張も進めます。採用向けデータベースのTalentOSを立ち上げ、候補者プロフィールや転職意欲のシグナルを人事採用担当に提供しています。日本のリクルートマーカーに近い領域で、売上も大きく伸びているといいます。
営業と人材ってやっぱ常に紐付いてるなって感じしますよね。
マーケ領域では、ABMプラットフォームのMarketingOSを発表しています。ここで買収したRingLeadは、新しく入ってきたリードを誰に差配するかという機能を持つ会社で、immedioに近い性格を持つと浜田さんは指摘します。
結果として、見込み顧客の発掘からアプローチ、顧客化後のデータ管理までをZoomInfo一つで賄える統合的な価値を目指す戦略になっています。清沢さんは、ニッチな課題解決から横に広げていくと、各社が気づけば同じ領域でぶつかるのがマルチプロダクトの行く先だと整理します。
時価総額が数分の一に、Clayの台頭とディスラプト
上場を果たしたZoomInfoですが、足元は苦戦しています。浜田さんによると、時価総額は元々1〜2兆円あったものが、今は数千億円まで下がっているといいます。
ネットリテンションレートが90みたいな感じになってて。料金が高いのと、似たようなプレイヤーが出てきてるんで、実は今ディスラプトされてる感じですね。
その象徴として浜田さんが挙げるのが、アメリカで最も話題のセールステック企業Clayです。ZoomInfoの小型版のようなデータを持つ、安いが質はそこまで高くないサービスがアメリカには100ほどあるといいます。
Clayはその100のデータベンダーと繋がってて、製薬業界のCIOのデータ1000人分欲しいと言うと、安いデータベースに聞きに行って最新っぽいものをまとめて作ってくれる。ZoomInfoに超高額を払うより、だいぶ安い値段で精度は変わらないものができちゃう。
企業データやクローリングで取得できるデータはコモディティ化を避けられません。清沢さんは、本質的にどういうデータが価値を持つのかという問いに展開していくと指摘します。これは日本市場にも当てはまる論点です。
名刺データに学ぶ「解約されないデータ」の条件
データベンダーには、ダウンロードされて解約されてしまうという構造的な課題が常にあります。浜田さんは、ここで名刺データの強みを引き合いに出します。
名刺の美しいところは、名刺のデータだけじゃなくて、誰が誰といつ会ったっていうデータ構造になってるところ。ZoomInfoだったら誰のデータです以上で終わってしまうので、そこの差分がでかい。
清沢さんは、企業固有の文脈を持つデータであるかどうかが、SaaSとしての粘着性や代替の難しさを生むと整理します。
ZoomInfoも、メールを見られるInboxや、Gongの競合であるChorusという音声サービスを買収し、利用企業が自社データを蓄積する基盤を取り込もうとしています。ただ、それでもすぐ解約されてしまう課題は残り、直近1〜2年は苦労していると浜田さんは語ります。
エンタープライズ特化と、これからの戦い方
AIエージェントの台頭でデータ取得がさらに容易になるなか、ZoomInfoはどう差別化するのか。清沢さんは、まずエンタープライズへの特化を挙げます。収益の約7割が大企業向けで、フォーチュン500などエンプラにフォーカスする姿勢を明確にしています。
浜田さんは、エンタープライズはデータの質やコンプライアンスを重視するため、新しいAIでガンガンスクレイピングしたようなデータはすぐには使ってくれないと指摘します。そこを守りに行くのではないかと見ています。
もう一つはプロダクトのイノベーションです。単なるデータ提供よりインテリジェンス機能へと進み、ZoomInfo Copilotで営業向けのインサイトを提供しています。ただ、これは各社が同じことを言っている領域でもあります。
OutreachもGongもSalesforceもHubSpotもみんなそうですよねってところで。むしろマストみたいになって、差別化要素にならないですよね。
では本当にモートになり得るのは何か。浜田さんは、最後の勝ち筋を次のように描きます。
そのうえで、ある程度の株価がつけば、それを使って面白い企業を買収しに行けると浜田さんは付け加えます。清沢さんは、株価が一時60ドルに達したものの、直近では10ドル前後まで下落していると数字を確認します。2〜3兆円あった時価総額が5000億円になった計算です。
急減速のなか、投資家からのプレッシャーも強まっています。コストを圧縮しつつトップラインを伸ばし、足元の解約を防ぐことが、これからのZoomInfoにとって重要になると清沢さんは締めくくります。
二人は、ZoomInfoの歩みが日本のセールステックにとって数年先の未来を示す先行事例であり、学びと先手の機会になると振り返りました。海外ユニコーン解説はGong、Outreach、ZoomInfoと続き、今後も続いていきます。
まとめ
ZoomInfoは、メールボックス連携による生データ収集と人力検証で精度の高い営業データベースを築き、90秒コールに象徴される営業徹底力とPEファンドとのロールアップ戦略で市場を席巻しました。一方で、データのコモディティ化とClayのような新興プレイヤーの台頭により、いまは株価も大きく落ち込んでいます。
- 独自のメールボックス連携と人力検証で、他社と一線を画す精度のデータベースを構築した
- 自己資本とPEファンドという珍しい資金戦略で、VCに頼らず成長と上場を実現した
- 社長みずから偽名で90秒コールを抜き打ち確認するほど、営業オペレーションを徹底していた
- M&Aによるロールアップと、採用・マーケへのマルチプロダクト化で統合プラットフォームを目指した
- データのコモディティ化とClayの台頭でディスラプトされ、エンタープライズ特化と解約防止が今後の焦点になっている






