US版Magic Momentとも言えるOutreachとは何か
今回のGrowth Radioで取り上げるのは、アメリカの未上場ユニコーンOutreachです。海外ユニコーン解説の第2回で、前回のGongに続くセールステック領域の企業になります。
Outreachは、営業チーム向けのセールスエンゲージメント ── 営業活動の一連のやり取りを一元管理し、効率化するツールのカテゴリー。メール・電話・SNSなど複数チャネルでのアプローチを自動化・可視化しますというカテゴリーに位置づけられます。浜田さんによれば、Gongに比べるとやや渋いものの、アメリカではほとんど誰もが使っているような定番だといいます。
Gongと比べてやや渋いんですが、なんかアメリカだと本当にみんな使ってるみたいな感じですね。
OutreachかSalesloft使ってるみたいな感じで、デフォルトっぽい感じがしますよね。
Outreachが解決するのは、主にインサイドセールスの活動を効率化するという課題です。インサイドセールスは、リード情報があってもなかなか話せなかったり案件にならなかったりするため、1人の顧客をある意味しつこく追い続ける必要があります。
たとえば1つの顧客に対して5回電話をして2回メールを送る、といった動きです。通常はこれをインサイドセールス自身がSalesforce上で管理しますが、抜け漏れが起きたり、次に何をすべきかを考えること自体に時間を取られたりしがちです。
Outreachは、この一連のアプローチをシーケンスという仕組みで自動化します。1つのリードに対してどの順番でアプローチするか、電話と電話の間隔は何日空けるか、といったルールをあらかじめ決めておくのです。
ルール設定
1リードに対しアプローチの順番と間隔をあらかじめ決めておく
当日の対象を提示
今日電話する人・メールする人が画面に整理される
テンプレート適用
1回目・2回目など状況に応じたテンプレートが自動で割り当てられる
実行
インサイドセールスは送信ボタンを押すだけで済む
結果として、インサイドセールスは画面を見るだけで、今日電話する相手、メールする相手がわかります。メールも1回目か2回目かでテンプレートが整理され、送信ボタンを押すだけの世界になると浜田さんは説明します。
清沢さんも6、7年前に前職でインサイドセールスを経験していました。当時は成果を出す人ほど、毎日やるべき電話のタイミングとメールをきっちり管理していたといいます。
(成果を出す先輩を)見よう見まねでやっていたみたいな感じだったんですけど、Outreachはそれを全員が同じ行動質を担保できるように自動化するソリューションなのかなと。
できるインサイドセールスは、前日の時点で翌日誰に当たるかを全部決めています。ただ、夕方まで電話をしきった後に翌日のプランを立てるのは残業になりがちで、負荷が大きい。その部分を自動化し、ある意味誰でもできるようにしようという発想だと浜田さんは指摘します。
求人サービスからのピボットで生まれた創業ストーリー
Outreachの創業は2014年で、それほど古くはありません。本社はサンフランシスコではなくシアトルに置かれています。
現在は6000社以上の顧客を抱え、ZoomやTwilioといったテック企業も利用しています。資金調達はシリーズG ── スタートアップの資金調達ラウンドの呼称。A、B、Cと進み、Gは7回目にあたる後期のラウンドを指しますまで到達しました。
2021年のシリーズGでは、企業評価額が44億ドル、日本円にして約4400億円に達しました。2014年の創業から毎年のように調達を重ね、8年でこの規模に至っています。
2023年度の年間収益は2億ドルでした。浜田さんは、そこから30パーセント成長を2回続ければ3.3億ドル前後になる計算だとしつつ、2億ドルの規模から2倍に伸ばすのは難しいとも話しています。
創業の背景には、ピボットの物語があります。ファウンダーのマニー・メディナさんはエクアドル出身で、コンピュータサイエンスとMBAを取得したエリートです。AWSの初期メンバーやMicrosoftでの事業立ち上げ、UiPathなどビッグテックを渡り歩いてきました。
最初に始めたのは求人採用マッチング領域のサービスでした。しかしうまくいかず、倒産の数か月前ほどまで追い込まれます。
転機になったのは、自社プロダクトを売り込むために営業メールを送っていたときでした。そのプロセス自体に課題があると気づき、独自に開発したメール追跡と自動化ツールが返信率40パーセントを記録します。
前回のPredictable Revenueで、すごく工夫したメールで9から10パー返信率あってめちゃくちゃいいってなった。業界平均5パーだから、40パー開封されるだけでもすごいなっていう。
浜田さんは、この経緯をSlackの誕生に重ねます。ゲーム会社が社内コミュニケーションツールを作っていたら、ゲームより本業でないツールのほうが売れたという発想と同じだといいます。
この成果を受けて、Outreachは求人領域のサービスから完全にピボットし、2014年にリリースされました。2019年には評価額10億ドルに達し、創業から5年でユニコーンになっています。
なぜOutreachは勝てたのか、カテゴリー創出という戦略
ここからは、Outreachがなぜ10年弱でこれほど成長できたのかを掘り下げます。競合として挙がるのはSalesloft、Apollo、そして周辺のClariです。
浜田さんによれば、直接のセールスエンゲージメント競合はSalesloftです。Apolloは営業データを起点に、ZoomInfoのようにデータとエンゲージメントの両方を扱います。Clariはやや離れた領域ですが、Outreach自身がセールスインテリジェンス領域に進出したため結果的に競合しました。
勝因の1つ目は、マーケットの教育とカテゴリー創出です。2014年頃はセールスエンゲージメントという言葉自体が黎明期で、まったく新しい概念でした。
セールスエンゲージメントってのは、パッと聞いてよくわかんないカテゴリーですよね。それでここまで定着するのすごいなと思いますね。
象徴的なのが、2018年に営業関連メディアのSales Hackerを買収したことです。メディアを買って業界の知識やノウハウを広げ、具体のソリューションよりも先にセールスエンゲージメントという概念自体を広めていきました。
浜田さんは、カテゴリー立ち上げ期には情報発信が非常に重要だと指摘します。自社を上げすぎるよりも、まずセールスエンゲージメントそのものを定義するメディアを作るやり方がうまいといいます。
創業者自身も、まずカテゴリーの存在を知ってもらうことが大事だと考えていました。業界そのものを盛り上げつつ、この領域ならOutreachだというカテゴリーリーダーの地位を最初から作りに行った点が優れた戦略だと清沢さんは評価します。
社名もね、Outreachってわかりやすいですよね。Outreachする側のツールなんで。
自社のペインから磨かれたプロダクト力
勝因の2つ目は、プロダクトそのものです。カテゴリーを作るだけでなく、認知が広がったときの製品力も重要で、機能面で競合よりかなり先を進んでいたと言われます。
浜田さんは、その差分は細かいものかもしれないとしつつ、いくつかの要素を挙げます。SalesforceやDynamicsといったCRMとの深い連携、電話の連携、そしてLinkedInのDM対応です。
特にマルチチャネルでのアプローチが重視される中、メールだけでなく電話やLinkedInを早くカバーしていた点が大きいといいます。この機動力はアメリカらしいと浜田さんは話します。
こうした解像度の高さの背景には、創業者たち自身が営業メールで困っていた経験があります。ペインを知っているからこそ、必要不可欠な機能を先に作り、痒いところに手が届くプロダクトになったと考えられます。
(自社の領域は)掘っていくほど深いというか、インサイトがあるので、そこを愚直にやっていくのが競争戦略になっていく。見えづらいですけど、愚直なポイントだと思います。
毎年やり続けた資金調達と攻めの拡大戦略
勝因の3つ目は、積極的な資金調達と拡大戦略です。シリーズGまで到達したように、調達力は明らかに高いといえます。
浜田さんは、2021年に44億ドル、7年で約5000億円規模の会社を作った点に驚きを示します。株主にも恵まれており、古くからMayfield FundやDFJ Growthといった著名なVCが入っていたといいます。
注目すべきは調達の頻度です。通常スタートアップの資金調達は2年に1回ほどで、しかも1回に1年ほどかかります。ところがOutreachは2015年から2021年まで毎年のように調達していました。
毎年やってるって、もう毎日資金調達してるような感じですよね。あんまりやりたくないんですけど、やっぱりそうすることに意味があると彼らも投資家も判断したっていうことなんでしょうね。
その意味とは、競合に勝つために投資を仕切ることだと浜田さんは説明します。2社ある中でスタンダードになったほうが勝ちだからこそ、広告も打ち、いい人を雇う。勝ち馬に乗れば儲かるというストーリーが、資金を集める正当化になったわけです。
44億ドル。同時期のSalesloftの約2倍近い規模で調達
23億ドル。セールスエンゲージメントの直接競合
実際、競合のSalesloftは2021年に評価額23億ドルでした。Outreachは同時期に44億ドルと約2倍近い規模で調達しており、市場の評価も追いついてきています。攻めの投資で先手を打ち、競合との差を開かないようにする点に学びがあると清沢さんはまとめます。
Gongと殴り合うマルチプロダクト戦略
ここからは、より具体的なマルチプロダクト戦略の話です。前回のGong回でも取り上げた重要なポイントになります。
コアの機能はセールスエンゲージメント、つまりシーケンスです。これに加えて、会話のインテリジェンスを扱うOutreach Kaiaという機能を投入しました。浜田さんはこれを、Gongの領域に殴り込んだと表現します。
創業時期はGongが2015年、Outreachが2014年とほぼ同時でした。音声から始まったGongに対し、メールから始めたOutreachがKaiaでGongの領域に入り、Gongもセールスエンゲージメントへ進出したため、両社は相互に殴り込む関係になっています。
さらにOutreachは、デジタルセールスルーム ── 営業側と買い手側が、導入プランやタスクを1つの画面で共有できるコラボレーション空間。DSRと略されますにあたるSuccess Plansという機能もリリースしました。営業と買い手が共通のプラン表や導入タスクを共有できる仕組みです。
浜田さんは、デジタルセールスルームは初回商談後に使われる機能だと補足します。本来は商談前を担うOutreachが、初回商談以降にも踏み込んでいく意味でこの機能を出してきたと見ています。
加えて、予実やパイプライン管理を担うOutreach Commitもあります。これはCanopyという会社を買収して取り込んだもので、レベニューインテリジェンスの領域にあたります。
浜田さんは、コアでグロースの波を作ったら次はM&Aで取り込み、自社のエコシステムに入れていくのは王道だと話します。GongもZoomInfoがChorusを買収したように、この動きは共通しています。
市場が立ち上がっていく時にゼロから作るよりは、買っていく方が早い。勝ち馬に(VCの金が)集まるので、何百億円って単位で調達して、それで買収する感じですよね。
なぜ未上場のままM&Aを繰り返すのか
Outreachが未上場のままM&Aを繰り返す背景には、アメリカのファイナンス事情があります。株式交換を使えば、現金がなくても自社株でジョインしてもらう形の買収が可能だと浜田さんは指摘します。
一般には、上場すると資金調達がしやすくなると言われます。しかし浜田さんは、実はそうではない面があると説明します。
上場企業が新株を発行して市場から調達すると、市場からは経営者が自社株を割高と判断しているサインと受け取られ、株価が下がりやすくなります。そのため上場後はあまり新株発行での調達をしないというのです。
だとすれば、むしろ非上場で大きいファンドの金を使ってM&Aしたほうが柔軟にできるというのがトレンドだと浜田さんはまとめます。競合のSalesloftもDriftという会社を買収しています。
この動きは国内でも見られます。従来はSaaSも上場後にM&Aするのが通例でしたが、直近ではワークスさんの事例のように、未上場スタートアップがM&Aで自社ソリューションを広げるケースが増えつつあると清沢さんは話します。
マルチプロダクト化が進む理由は、顧客側の事情にもあります。GongとOutreachのプロダクトポートフォリオがほぼ同じになっていく中で、顧客は複数プラットフォームを使いたくないからです。
プラットフォーム戦略は成果も出ています。Outreachでは複数製品を導入する顧客が急増し、400社以上が2つ以上のモジュールを併用しています。結果としてARRは直近で2倍以上に成長し、新規契約の獲得規模も拡大しました。
AI時代にメールと営業はどう変わるのか
Outreachが今後掲げているのは、AIとオールインワンプラットフォームです。中でもAI SDR ── インサイドセールスの業務をAIが担うソリューション。SDRはSales Development Representativeの略で、新規開拓の初期対応を指しますへの対応を進めるとしています。
浜田さんは、インサイドセールスの自動化はAIが最もハマる領域だと見ています。従来のテンプレートメールを大量に送るやり方から、AIを使ってスマートにパーソナライズされたメールを送る方向へ進化しているといいます。
一方で、この市場は揺れてもいます。AI SDRで最も注目されていた11xという会社が、会計の粉飾をしていたと発覚するなど、話題が過熱しすぎた反動も出ていると浜田さんは触れます。
さらに構造的な変化として、メールそのものの環境が変わりつつあります。1年ほど前から、アメリカのGoogleやYahooがスパムの認定基準を厳しくしました。
未開封のメールが多すぎるドメインは、Gmailが迷惑メールと判定して受信ボックスに入れない基準を厳しくしたのです。OutreachやSalesloftのようなツールが流行りすぎ、人間が送った風のロボによるメールが増えすぎた結果だと言われています。
メールがどんどん便利になっている結果として、人がそれを読まなくなってるとか、なんならシステムがそれを迷惑メールとして判定してるみたいな時代がすでにアメリカでは始まっている感じですね。
清沢さんは、10年後のメールボックスがどうなるのかと問いかけます。メールの数が指数関数的に増えれば、チャネルとしては奪い合いになり、そもそも開かれなくなるのではという懸念です。
メールを送るとか電話をかけるところがAI化すると、絶対(それを)受けるAIも出てくる。結局AI対AIのバトルになるよねみたいなことはみんな言っている。
清沢さんは、この流れが商談の概念そのものを変える可能性に言及します。資料請求や問い合わせすらAIが自動でフォームを入力し、要点を整理してくれるなら、担当者はただ待つだけになるからです。
浜田さんは、ChatGPTのエージェント機能を例に挙げます。課題を伝えれば、AIがウェブサイトを巡回し、必要なら資料請求までして星取り表を作る世界が、数か月後には来るイメージだといいます。
そうなると、営業だけでなくマーケティングの前提も変わります。人ではなくAIに価値があると判断させるためのウェブマーケやLPの改善が重要になり、ゲームチェンジが起きると清沢さんは見ています。
Outreachの出口はどこにあるのか
最後の論点は、OutreachのExitです。前回のGong回でも白熱したテーマで、上場するのかM&Aなのかが焦点になります。
浜田さんは、2021年に44億ドルの評価がついたことが難しさになっていると指摘します。現在の売上を3億ドルほどとすると、今上場しても44億ドルの価値はつかず、後期に入った投資家にとってはダウンラウンド ── 前回の資金調達時より低い企業評価額で新たに調達すること。既存投資家にとって不利になりますになってしまうからです。
現実的なシナリオは2つあると浜田さんは整理します。利益率を高めながら売上を4億〜5億ドルまで伸ばし、50億ドルほどで上場する道。もう1つは、SalesforceやHubSpotのような戦略的価値を感じるプレイヤーに買収してもらう道です。
競合のSalesloftは2021年、4年前にSalesforceから出資を受け、事実上買収されています。競合がすでにExitしている中で、Outreachもさまざまなシナリオを検討しているのだろうと清沢さんは推測します。
いずれにせよ、セールスエンゲージメントを広げてきたOutreachは、今後もプラットフォームを軸に成長していくと考えられます。前回のGongと隣接しながら、やるべきことを正しいタイミングで実行してきた点が、成功企業の共通項として見えてきました。
まとめ
Outreachは、インサイドセールスの業務を極限まで効率化するセールスエンゲージメントの先駆者として、カテゴリー創出・プロダクト力・攻めの資金調達を重ね、USで市場リーダーの地位を築いてきました。AI時代に向けて、メールの価値やM&A戦略も含め、営業とマーケティングの前提そのものが変わりつつあります。
- Outreachはシーケンスによる自動化で、誰でも成果を出せるインサイドセールスを実現した
- 求人サービスからのピボットで生まれ、創業5年でユニコーンに到達した
- セールスエンゲージメントというカテゴリー自体を、メディア買収も使って啓蒙し、リーダーの地位を築いた
- 毎年の大型調達とM&Aによるマルチプロダクト化で、Gongと相互に領域を奪い合う競争を続けている
- AI SDRやスパム基準の厳格化により、メールと営業の前提が変わり、Outreachはオールインワンとの両輪で価値を高めようとしている




