なぜ今『LOVED』を読むのか
今回のGrowth Radioは、名著再読としてプロダクトマーケティングをテーマに取り上げます。手がかりにするのは、海外で出版された『LOVED 市場をかたちづくり製品を定着に導くプロダクトマーケティング』です。
この本を選んだ背景には、日本でのPMM ── プロダクトマーケティングマネージャー。製品の市場投入からメッセージ設計、定着までを横断的に担う役割という役割の広がりがあります。清沢さんは、これまでマーケティングが話題の中心だったのが、ここ数年でプロダクトマーケの話に染み込んできたと話します。
著者はマルティナ・ラウチェンコさんです。MicrosoftやNetscapeといったテック企業でプロダクトマーケティングのリーダーを経験し、数百社に及ぶコンサルティングを手がけてきた人物だと紹介されます。
日本でこの本が翻訳されたのは2023年で、そこまで古い本ではありません。一方でアメリカでは、Microsoft時代のApple版Wordのリリースにまつわる話も出てくるといいます。
これなんかもうその、アメリカだと、だからもう2000年くらいからプロダクトマーケティングってあったのかなみたいな、そんな感じですよね。
国内SaaSでの先駆けとして、二人はSmartHRの名前を挙げます。清沢さんは前職にいた当時、PMMという言葉にあまり馴染みがなかったと振り返ります。
さらに浜田さんは、宮田さんの「タライガニ買い回ったら新ポジションの合図」というブログが2019年、コロナ前だったと指摘します。日本でも、この言葉自体はかなり早い時期から登場していたことになります。
PMMを形づくる4つの核となる役割
本書の冒頭では、いかに優れたプロダクトでも市場で勝ち続けるのは難しく、勝ち負けを分けるのはプロダクトマーケティングだと強調されます。清沢さんは、そもそもこれが何なのかを紐解いていきたいと切り出します。
最初に取り上げられるのが、PMMの4つの核となる役割です。アンバサダー、ストラテジスト、ストーリーテラー、エバンジェリストという、カタカナが並ぶ形で提示されます。
浜田さんは、この4つの提示には狙いがあると読み解きます。プロダクトマーケターは製品資料を作る人、営業に売り方を提案する人、といった狭い偏見がアメリカにもあり、それに対して役割はもっと広いと定義しているのだといいます。
アンバサダー
顧客と市場のインサイトを発見し、社内に橋渡しする
ストラテジスト
発見したインサイトから勝ち筋を見出し、市場投入を方向づける
ストーリーテラー
勝ち筋を言葉にし、メッセージへと紡ぐ
エバンジェリスト
メッセージを他者が語れる形に落とし込み、伝播させる
浜田さんは、これらすべてをやって一人前のPMMであり、めちゃくちゃやること多い役割だと本書は説明していると話します。この4つの解説が、本書前半の一番コアの内容だといいます。
アンバサダー──毎週、顧客と対話する
1つ目のアンバサダーは、顧客のインサイトを拾い、社内に橋渡しする役割です。清沢さんは、まず顧客のインサイトをしっかり拾ったうえで、社内につないでいく領域だと整理します。
浜田さんは、アンバサダーを大使や外交のイメージで、市場と自社の接点になる意味だと説明します。本書では、最低限実践すべき機能として、顧客と直接対話すること、理想的には毎週対話することが挙げられているといいます。
さらに本書では、顧客や見込み客向けのFAQを用意すること、プロダクトチームとGo-to-Marketチームの議論にインサイトを反映すること、重要なインサイトを書き出して共有・活用できるようにすることが挙げられます。
本当に営業張りにガンガンお客さんと話しなさいと。で、その話した結果を、プロダクトチームとGo-to-Marketチームの二つに対して市場の最新の声を届けていく。
清沢さんは、プロダクトマーケは市場を感知するため、あらゆる角度の質問に答えられる必要があると補足します。ユーザーが何をしようとしているのか、その問題をどう認識し優先事項にしているのかなど、細かい粒度の問いにパッと回答できる解像度が求められるといいます。
浜田さんは、これをJobs to be Done ── 顧客が「どんな機能がほしいか」ではなく「どんな課題を片付けたいか」に注目する考え方。クリステンセン教授が広めたとされるという考え方と重ねます。大事なのは、どんな機能を提供するかではなく、どんな課題を解決するかだといいます。
浜田さんは、有名なシェイクの例を紹介します。ハンバーガーショップでシェイクを買っていくのは、甘いもの好きな子どもや女性ではなく、意外にもこれから長時間運転するおっさんだったという話です。
おっさん何するの?って言ったら、いやここから一時間運転なんだよみたいな。そうやってやっぱ現場に見に行ったりとか、お客さんと話さないとわからないんですよね。
浜田さんは、こうして解決すべき課題と、その課題を持つ理想的な顧客 ── idealcustomerprofile。自社の製品が最も価値を発揮する、狙うべき典型的な顧客像を見出すのがアンバサダーの仕事であり、これがPMMの第一歩だとまとめます。清沢さんも、一次情報をつかみに行くことの大切さに同意します。
ストラテジスト──市場への届け方を設計する
2つ目のストラテジストは、プロダクトの市場投入を方向づける役割です。清沢さんは、顧客のフィードバックや要望を得るだけでは意味がなく、それをいかに戦略に紐づけていくかがプロダクトマーケの役割だと説明します。
浜田さんは、届け方全体のチャネル戦略を作る必要があると話します。商材や理想的な顧客によって届け方はまったく違い、エンタープライズなら展示会、スモールビジネスならウェブやインフルエンサー、といった具合に変わるためです。
一方で、マーケターはイベント担当やコンテンツ担当のようにチャネルごとに分かれているため、放っておくとそれぞれが自分の持ち場で頑張ってしまう、と浜田さんは指摘します。そこで全体の方向性を決めるのがPMMだといいます。
「いや、これはもう大企業向けだから、ウェブマーケティングとかやらなくていいです。その予算ガッツリ展示会に投資しましょう」みたいな、そういう方向性の全体のリソース分配もこのPMMの仕事ですよ。
清沢さんは、具体的には流通戦略として、直販、インサイドセールス、代理店といったチャネル、トライアルやフリーミアム形式などの手段を全体設計し、予算を含めて分配していくと補足します。そのうえで、これはプロダクトマーケというより起業家に近い役割にも聞こえると感想を述べます。
浜田さんも、PMMは事業責任者に一番近く、予算やリソースの分配まで担うと本書は書いていると応じます。清沢さんが、収益目標や事業目標を達成するための成長促進も構成要素に入っていると指摘すると、浜田さんは結論を言い切ります。
ストーリーテラー──ポジショニングとメッセージングは別物
3つ目のストーリーテラーは、世界がプロダクトをどう捉えるかを形作る役割です。清沢さんは、ここで印象的なのはポジショニングとメッセージングの話だと切り出します。
浜田さんは、この2つは混同されがちだが全然違うと本書が整理している点を面白いと話します。本書によれば、ポジショニング ── プロダクトが顧客の心の中に位置する場所。既存の製品と何が違うかを顧客に伝えるはプロダクトが顧客の心の中に位置する場所であり、既存とどう違うかを伝えるものだといいます。
一方のメッセージング ── ポジショニングを強固にするために語る言葉。プロダクトの信用を高める短期的な手段は、ポジショニングを強固にするために語ることで、それによってプロダクトの信用が高まるとされます。そして、ポジショニングは長期戦、メッセージングは短期戦だと本書は位置づけます。
浜田さんは、ポジショニングは自社が決めることではないと強調します。ポジションステートメントを作ればポジショニングができるわけではなく、ポジショニングを作るために、顧客に届けるメッセージを紡いでいくのがプロダクトマーケターの仕事だといいます。
清沢さんは、この区別が頭に入っていると、PMMの動きをするときに、これはメッセージングの動きなのかポジショニング側なのかを使い分けて考えられると補足します。
プロダクトが顧客の心の中に位置する場所。長期戦で構築していくもの
ポジショニングを強固にするために語る言葉。短期戦で顧客の認識を作りにいく
優れたメッセージングをつくるCASTフレーム
本書では、メッセージングの具体的なフレームワークとしてCASTが紹介されています。清沢さんは、優れたメッセージングをどう研ぎ澄ますかのフレームだと説明します。
何をするかが明確で、好奇心がそそられる理由があるか
顧客にとって感情的に意味がある言葉を使い、わかってもらえるか
何が魅力的で、何が違うのかがわかるか
実際に経験する状況の中で繰り返しテストしたか
浜田さんは、フレームワークはわかっても、ここにたどり着くのは超大変だと率直に話します。わかりやすく、嘘なく、ブランドらしさやトーンまで表れているメッセージを作るのは、簡単ではないといいます。
清沢さんが、immedioで意識しているポイントを尋ねると、浜田さんは何回もやり直している点を挙げます。メッセージは半期、四半期ごとに見直しているといいます。
今我々でいうと、決まる商談が増える、有効商談オートメーションimmedioみたいな感じにしてるんですけども、まあこれ(CAST)に沿ってるかなとは思ってますね。
浜田さんは、immedioは無駄をそぎ落とすプロダクトなので、メッセージもシンプルにしていると話します。決まる商談がどれだけ、どうやって増えるかではなく、決まる商談が増えるんですというシンプルさを意識しているといいます。
見直しの頻度については、プロダクト自体が進化するとコンセプトもいい意味でずれていくため、見直すのを厭わないと浜田さんは話します。
清沢さんが、メッセージが響いているかの検証方法を尋ねると、浜田さんは商談でお客さんに言ってみる、展示会でひたすら声を出すしかないと答えます。お客さんが振り向くか、頷くかを見るのだといいます。
清沢さんも、メッセージを初回商談用資料の一番前に持ってきて話すと、明らかに共感が返ってくることがあると自身の経験を語ります。定性的な反応ではあるものの、いいメッセージかどうかは最終的にお客さんが決めることだといいます。
プロダクトマーケで描いたメッセージをちゃんと営業資料に落とし込んで、営業の反応を聞いて修正していく。ここもPMMとしての役割は大事なのではという気はしますよね。
エバンジェリスト──他者が語りたくなる状態をつくる
4つ目のエバンジェリストは、他者が語れるようにプロダクトの物語を伝播させる役割です。清沢さんは、他者をイネーブルメントする役割だと整理します。
浜田さんは、これはセールスイネーブルメント ── 営業が成果を出せるよう、資料や情報、仕組みを整えて支援する取り組みが一つだと説明します。加えて、ガートナーやフォレスターといった専門家にわかってもらい、メッセージの裏側にあるファクトも伝えていくといいます。
浜田さんは、ただメッセージだけ伝えても仕方がないので、それをパッケージして周りの人が使える状態にする落とし込みの部分だとまとめます。
究極的には、他の人が「あれ知ってる」「あれ面白いよね」と語ってくれる世界だと浜田さんは話します。例として、勝手に周りがこれからのトレンドだと語り、関連プロダクトを作り始めるような、カテゴリ創造に近い状態を挙げます。
一方で、こうした自然な広がりはBtoBではなかなか起きないと浜田さんは釘を刺します。清沢さんも、資金を投入して生まれたSNSサービスですら、直後は口コミで広がっても、結局みんなInstagramやXといった強いブランドに戻っていくと指摘します。
話は、二人が自然と語りたくなるプロダクトの具体例に移ります。清沢さんは、西川のエアーマットレスが好きで、寝具の話になると推し続けていると打ち明けます。
(西川のエアーマットレスが)実際いいと思ってるんで、自然と言っちゃうというか。あの枕もセットで買った方がいいですよ。
浜田さんが、製品がいいから語りたいのか、メッセージやブランドがいいから語りたいのかを尋ねると、清沢さんはメッセージは正直わからないと答えます。値段が高すぎず、寝心地が良く、さらに大谷翔平が実際に使っている点を理由に挙げます。
浜田さんは、自分がいいだけでは語りたくならないが、好きな人も使っていると、そのコミュニティの一員であることをいい気分に感じて語りたくなる、と分析します。清沢さんも、トップアスリートが使っているなら間違いないという信頼性が効いていると応じます。
さらに二人は、西川が伝統的なブランドである点にも触れます。バズで急に売れたものではなく、大谷翔平が宣伝しているのも、お金のためではなく本当に良かったからだと思える、という信頼につながっているといいます。
清沢さんは、身近で好きなブランドを見ていくと、この本のエッセンスに当てはまるポイントがあると面白がります。エバンジェリストの役割は、こうした「語りたくなる状態」を意図的に作ることだといえます。
PMMの成果はどこで測る──HEARTメトリクス
4つの役割を見たうえで、清沢さんはプロダクトマーケティングをどんな指標で追うのかに話を進めます。ここで紹介されるのが、HEARTメトリクスというフレームワークです。
本書155ページに、プロダクトマーケティングのための指標として挙げられています。一般的にはプロダクトチームやUXチームが追う指標だが、プロダクトマーケティングが影響を与える側面もある、という位置づけです。
顧客がプロダクトにどれだけ満足しているか
どれだけ愛着を持って使っているか
プロダクトが利用として定着しているか
使い続けてもらえているか
抱えていた課題が実際に解決されているか
浜田さんは、これを見て、もはやカスタマーサクセスのKPIではないかと感想を漏らします。定着を意味するアダプションも、CSのオンボーディング後の利用定着で語られることが多いためです。
清沢さんも、幸福になり、愛着を持って使い続けて定着し、継続し、抱えていた問題が解決されているという流れは、ほぼLTVだと整理します。
Happinessの測り方について、浜田さんはNPSや、コミュニティイベントへの参加度などで測れるのではと話します。タスクの成功は、immedioなら商談数が本当に増えているかを問うことになるといいます。
immedioでも過去にNPSを実施し、今も企画しているといいます。清沢さんは、本来こうした指標はCSチームだけでなくPMMも追うべきで、導入後のサクセスも指標として見ていくべきだとまとめます。
PMMってマーケティングというよりマーケからCSまで全体で見ていく人なので、PMMの成果指標は基本的にはCSと同じになりますっていうことですよね。
PMMに向いているのはどんな人か
最後に、清沢さんはPMMになれるのはどんなキャリアの人かを尋ねます。PLの数字を見つつ、CS的な発想もあり、メッセージングや戦略も絡む、領域の広い役割だからこそ、どこがスタートに向いているのかという問いです。
PMMという役割になれるのは、どういうキャリアパスの人か。どこからスタートするのがいいのか。
清沢 康平 さんから
浜田さんは、最終的に問われるのはある種の起業家気質や好奇心だと答えます。いろんな領域にまたがって理解する必要があり、プロダクトの進化に合わせて常にやることを変えていく役割だからです。
営業とかインサイドセールスみたいな同じタスクを繰り返すというよりは、どんどんプロダクトの進化に合わせて常にやること変えていかなきゃいけない。結構特殊な感じがするんですよね。
清沢さんは、事業を成長させる手段を自分で拡張していく姿勢に加え、顧客への興味や好奇心が強いことも大事ではないかと補足します。浜田さんも、顧客の成功に強い興味があり、目の前のお客さんをどうハッピーにするかを直接考えたい人なら、営業やCSと相性が良さそうだと応じます。
浜田さんは、本書に挙げられているスキルセットの評価順も紹介します。1番目は顧客への強い好奇心と傾聴力、2番目はプロダクトへの好奇心と技術的な能力、3番目は戦略実行力とビジネスセンス、次にコラボレーティブに進める力、最後に口頭と文字での強力なコミュニケーション能力です。
清沢さんは、これを全部持っている人がいるのかと率直な感想を述べます。大きな組織なら、一つの職能から派生してPMMポジションを作り、事業企画や部門連携を経験させながら育成していくのが良さそうだといいます。
これ大変ですよね。だって、お客さんと話せて、エンジニアと話せて、営業と話せる必要があるみたいな。何言語喋れんだみたいな感じですよね。
清沢さんは、それぞれの共通言語を理解しながら、PMMとして目指す先という北極星を描き、マーケチームを説得していく、タフな役割だとまとめます。次回は同じ流れで『INSPIRED』を取り上げ、プロダクト周りの話を続ける予定だと告げて回を締めくくります。
まとめ
『LOVED』は、PMMを「製品資料を作る人」といった狭い職能ではなく、アンバサダー・ストラテジスト・ストーリーテラー・エバンジェリストの4つを兼ねる広い役割として定義します。その成果はCSと重なり、向いているのは好奇心と起業家気質を持つ人だと二人は読み解きました。
- PMMは顧客インサイトの発見から市場投入戦略、メッセージ設計、伝播までを横断的に担う
- ポジショニングは顧客の心の中の位置で長期戦、メッセージングはそれを強固にする短期戦であり、両者は別物
- 優れたメッセージングはClear・Authentic・Simple・Testedの4条件(CAST)で研ぎ澄ます
- PMMの成果はHEARTメトリクスで測られ、獲得よりもLTVに近く、CSと同じ指標に行き着く
- PMMに求められるのは顧客への好奇心と傾聴力を筆頭に、複数の職種と会話できる幅広さと起業家気質







