人気大学ほど総合型選抜は難しい、という前提
冒頭で笠原さんは、この回の実感を先に打ち明けます。偏差値の高い人気大学に関しては、総合型選抜で入るほうが一般選抜よりも難しいくらいに思っておいたほうがいい、というものです。
世間でイメージされている一発逆転は、そうそう起こらないと笠原さんは話します。そのうえで、では誰が向いているのかを現場の感覚で話していく、と回の見取り図を示します。
この回は前回、第112回の後半にあたります。笠原さんは、まだ前回を聞いていない人は先にそちらを聞いたほうが話がつながると案内しています。
前回配信にはアスコマさんからお便りが寄せられました。この春から私立大学に勤務することになり、総合型選抜 ── 大学入試の方式の一つ。学力試験だけでなく、志望理由書や面接、活動実績などで多面的に選抜する。以前はAO入試と呼ばれていましたをはじめ、いろいろな種類の入試があることに驚いている、という内容です。
アスコマさんは、高校現場への負担が重かろうと申し訳ない気持ちだとも書いています。一方で、大学は生き残りがかかっていてこの傾向を変えるのは難しそうだ、とも述べています。
いろいろな種類の入試があることに驚いたというのが、まさに保護者世代の実感に近いものではないでしょうか。
笠原さんによると、募集要項は大学ごと、学科ごと、下手をするとコースごとに違っていて、高校側は毎年読み解くだけで結構な一仕事になるといいます。
高校が本当に難しいと感じる場面
書類の量や日程の重なりといった事務的な負担は、やっていけばなんとかなる、と笠原さんは言います。生徒の負担も、初めから総合型選抜のつもりで準備していれば、高校生活の組み立て方として見通しが立つといいます。
では高校側で一番難しいのは何か。笠原さんが挙げるのは、向いていない生徒が向いていない入試に向かっていくのを見なければならないときです。
書類を作るのを手伝いながら、本人の言葉が出てこないのがわかってしまって。でもそれでも本人は出願したがっていて。
総合型選抜は、出願した瞬間になんとなくいい結果が出るのではと思い込んでしまう入試だからこそ、メンタル面のサポートが教員の重い仕事になる、と笠原さんは説明します。
傾向が変わらないというアスコマさんの見立てに笠原さんも同感します。変わらないからこそ、誰に総合型選抜を進めやすく、誰には進めにくいのかという判断を高校側が持っておくことが大切だ、というのが今回の前提です。
時期としては9月後半で、出願がひと段落し、これから面接や小論文の準備に入る生徒が増えてくる頃です。出願してホッとしている生徒には、この回の話は少し厳しく聞こえるかもしれない、と笠原さんは前置きします。
向いているのは「話し出すと止まらない人」
総合型選抜に向いている生徒とはどういう生徒か。笠原さんの答えは単純です。自分の話したいことがすでにあって、人に話し始めると止まらなくなるような人が向いている、というものです。
自分の話したいことがもうあって、人に話し始めるともう止まらなくなるような人がやっぱり向いてると思うんですよ。
これまで順当に合格を取っていく生徒は、やりたいことが自分の中に溢れていて、話し出すと止まらないタイプが多いといいます。書類作成で話を聞いていると、全然話すのをやめない子は、大学側から見ても一目でわかるのだろう、と笠原さんは話します。
逆に、総合型選抜のために実績を作り、やりたいことを型にはめて話し始める生徒もいます。しかし、型にはめた瞬間に本人の言葉じゃなくなるため、面接で書類と本人の言葉が食い違えばすぐにわかってしまうだろう、と笠原さんは見ています。
笠原さんは保護者向けの資料も自作して渡しています。そこには、志望理由書を保護者が書くのは論外として、アドバイスするにしても直しすぎないことが大事だと書いているといいます。大人の入れ知恵は面接で確実に馬脚を現す、というのがその理由です。
大人ができるのは、本人が調べて考え込んだことが言葉としてまとまらないところを、うまくつないであげるくらいだ、と笠原さんは言います。
やりたいことが今なくても挑戦していい理由
一方で笠原さんは、誤解されたくないとも付け加えます。マグマのようにグツグツ煮えたやりたいことを持っている人ばかりが世の中にいるわけではないし、そういう人だけの入試でもない、というわけです。
書類を作る作業の中で自分のやりたいことに気づき、だんだん自分の言葉を話せるようになっていく生徒もたくさんいる、と笠原さんは話します。だから、今やりたいことがないから挑戦するべきではない、とは断言しないといいます。
今やりたいことがないから挑戦するべきじゃないみたいなことを断言は自分はしないです。
書いてみて初めて、自分が何に引っかかっていたのかがわかる。そういう順番は普通に起こり得る、と笠原さんは言い添えます。
では、向き不向きの線引きはどこでするのか。しばらく書類作成に取り組み、自分自身の分析を繰り返しても、やりたいことや自分の言葉がうまく出てこないなら、無理をせず一般選抜のほうがその子には向いている、というのが笠原さんの考えです。
一般選抜は、過去問があって点数が出て、どこが足りないかがわかり、参考書も充実しています。努力の方向性がはっきりしている入試だ、と笠原さんは説明します。
対して総合型選抜には、そうした物差しがありません。物差しのないところで努力し続けるのは、やりたいことが溢れている人には苦にならないものの、そうでない人には精神的にかなりきつくなる、と笠原さんは指摘します。
人気大学で逆転合格が起きない理由
さらに厳しい話として、笠原さんは偏差値の高い人気大学の総合型選抜について語ります。世間がイメージするほど簡単に逆転合格は起こらず、順当に学力でラインが引かれてくる実感がある、というものです。
高偏差値帯や競争倍率の高い人気大学では、求められる実績自体のハードルも相当高くなり、ライバルが強い、と笠原さんは言います。
具体例として挙がるのは、数学オリンピック ── 数学の問題を競う国際的なコンテスト。国内予選を勝ち抜いた高校生らが参加し、上位入賞は高い数学的能力の証明として評価されますや生物オリンピックのように学力が分かりやすく示せるもの、学会での発表、論文の執筆、イベントで中心的な役割を果たした経験などです。
誰が見ても学力や実績が保証されている、口を揃えてすごいと言うようなものでなければ、高偏差値帯の大学で逆転合格は起こらない、というのが笠原さんの基本的な印象です。
難関私立大学にも総合型や推薦はあるものの、募集人数が少なく、高い評定と実績が求められます。挑戦するなら遅くとも高校2年生から準備がいり、それを理由に一般選抜の勉強を薄めることもできない、と笠原さんは言います。
だから倍負担が増えるみたいな感じで考えた方がいいはずなんですよ。
総合型選抜は努力の方向性がわからず、どの大学がどう評価しているかがブラックボックスの中にあります。そのため、なんとなく自分のやっていることが正しいのではというバイアスがかかり、受かる気になりやすい、と笠原さんは分析します。
受かった気になったまま不合格が出ると、ショックは一般受験よりさらに大きくなります。点数が足りなかったではなく、自分の生き方がこの大学にはいらないと言われたような響き方をするからだ、と笠原さんは話します。
「宝くじ狙い」ならやめなさい
こうした背景から、笠原さんが生徒によく言う言葉があります。総合型選抜で一発逆転の宝くじを狙いに行くなら、それはやめなさい、というものです。
一発逆転の宝くじを狙いに行くんだったら、それはやめなさいっていう言い方をします。
宝くじを狙うのではなく、自分の話をこの大学に、この大学のこの先生にぜひ聞いてほしいという気持ちを持てるのであれば、偏差値に関係なく挑戦するべきだ、と笠原さんは言います。
本当にやりたいことがあるなら、大人が止めても会いに行きたくなるはずです。大人の制止を振り切るくらいの勢いがあるほうが総合型選抜には向いている、と笠原さんは話します。
一方で、一般の受験勉強をやりたくないから総合型選抜で何かできないか、という発想はよくないと笠原さんは釘を刺します。楽な方法があるのではという見え方で受験するのは避けるべきだ、というわけです。
総合型選抜で高く評価される人は、勉強の代わりに何かへものすごく時間を投資している、というのが笠原さんの印象です。勉強していないのではなく、勉強に使う分の時間を別の何かに丸ごと注ぎ込み、それが書類や面接に出てくるといいます。
合格した生徒は、大学に入っても同じことを言い続けている、と笠原さんは振り返ります。会うたびに同じ話をしているのは、自分の価値観がずっと続いているということだ、というわけです。
正直、総合型選抜の対策という言い方自体が自分はあんまり好きじゃないです。
対策しなければ出てこない内容なら、多分持続しない。対策しなくても出てくる熱意やマグマのようなものがある人に向いている入試だ、と笠原さんは考えています。ただし最初はそのマグマの正体がわからなくてもよく、話すうちに見えてくるタイプでもいい、と付け加えます。
保護者が判断に使う4つの観点
ここから笠原さんは保護者向けの話に移ります。世の中の流れとして、総合型選抜のほうが得ではないかと言う家庭が多い、という現状への応答です。
年内入試が広がると、家庭には二つの気持ちが生まれがちだと笠原さんは言います。一つは早く合格を確保したいという気持ち、もう一つは、うちも年内で決めないと乗り遅れるのではという焦りです。
どちらも自然な気持ちですが、どちらも基本的には判断を狂わせる、と笠原さんは指摘します。前回の話のとおり、人気校の年内入試の倍率は4倍や6倍で、年内なら楽に受かるという事実はあまり当てはまりません。
さらに、選抜で合格すれば受験はそこで終わるため、その結果が本人に向いているかを合格後に考えることはできません。出願前に考えなければならないこと自体がリスクだ、と笠原さんは言います。
一方で、焦りによる拙速な判断も禁物だと笠原さんは話します。募集要項が出揃うのは高校3年生の春から夏にかけてなので、そこから方針を決めても基本的には大丈夫だといいます。
では何を見て判断するか。笠原さんは、性格や印象だけでなく、事実を4つ確認したほうがいいと勧めます。
評定は年内入試の土台、模試は一般選抜の土台になります。語れることがなければ志望理由書は書けず、面接でも話せない、と笠原さんは整理します。
募集要項では、その大学の年内入試が選抜なのか、募集枠の大きさはどうか、どんな書類を出し何をアピールできるのかといった現実を確認します。この4つを並べると、大体の傾向が見えてくるといいます。
評定は高いが模試が伸びない、あるいはその逆といったズレが出てきて、そのズレが判断材料になる、と笠原さんは言います。
定期テストは強いが模試で力を出しにくいコツコツ型なら年内入試と相性がよい可能性があり、一発の試験で力を出せるタイプなら一般選抜が強い武器になります。ただし最後は、本人が何で勝負したいかが大きい、と笠原さんは話します。
保護者があの大学の推薦をもらいなさい、一般選抜で受けなさい、と誘導するのは避けたほうがいい、と笠原さんは言います。年内入試で問われる意欲は、借り物では最後まで続かないからです。
裾野が広がる総合型選抜と、普段の授業の役割
ここまで厳しめに語ってきた笠原さんですが、最近は総合型選抜の割合自体が増え、もう少し裾野の広い入試になってきているのも事実だ、と話を転じます。
前回紹介した数字のとおり、私立大学の入学者の2割以上が今や総合型選抜です。しかし全員が数学オリンピックや学会発表、SSH ── スーパーサイエンスハイスクールの略。文部科学省が指定する、理数系教育に重点的に取り組む高校のことの生徒というわけではない、と笠原さんは言います。
普通の高校生が普通の高校生活を振り返り、自分を深く理解して、大学での学びの適性を説明できる。抜群の実績がなくても、自分の学び方を理解して説明できる生徒に向いた総合型選抜も増えている、というのが笠原さんの見方です。
この先の見通しとして、子どもの数は減少していく一方です。第111回で触れたとおり、大学よりも先に高校が少子化にぶつかる、とも笠原さんは振り返ります。
志願者が減れば、大学側には一人一人を丁寧に選抜する余裕が生まれる可能性があります。書類を読む時間も面接する時間も相対的に増えるため、多面的な評価を行う割合は今後広がっていくだろう、と笠原さんは予想します。
裾野が広がったときに大事になるのは、対策することではない、と笠原さんは言います。高校3年間で、自分が何を好きで何をやっているかを定期的に振り返り、やりたいことを言葉にして説明する時間を教育課程の中で取ることのほうが重要だ、というわけです。
出願の一ヶ月前に急に始める作業ではなくて、学校の側が生徒が自分について話す時間を三年間のどこかに埋め込んでおけるかっていうことになるんじゃないか。
国語科の教員としては、これは自分たちの仕事の範囲ではないか、と笠原さんは考えます。書いたり話したり、自分の考えを言葉にしたりすることは、対策としてではなく普段の授業で豊かにやっていれば、結果としてつながってくるものが多いはずだ、と結びます。
合格後も同じことを言い続けているか
エンディングで笠原さんは、リスナーに一つの問いを投げかけます。総合型選抜で大学に入った人は、入学後も出願時に書いたことと同じことを言い続けているか、それとも入って変わってしまったか、というものです。
総合型選抜で入学した後も、出願のときに書いたことと同じことを言い続けていますか。それとも何か変わってしまいましたか。
笠原さん自身の実感としては、言い続けているという人が多い印象だといいます。ただ、見ているのは合格した生徒の一部なので、外れている可能性も十分ある、と自ら断りを入れています。
この回はシルバーウィークの中日に配信されるとのことで、台風で天気が悪そうだが皆が無事に過ごせているか、と笠原さんは気遣います。自身も来週の台本や授業の準備を考えて過ごすつもりだ、と近況を語ってこの回を締めくくります。
まとめ
総合型選抜に向いているのは、話し出すと止まらないほど自分のやりたいことがある人だ、というのがこの回の中心でした。人気大学ほど逆転は起きにくく、宝くじ狙いはやめたほうがいい一方で、裾野は広がりつつあり、その受け皿になるのは対策ではなく普段の授業だと笠原さんは語ります。
- 向いているのは、話し始めると止まらないほどやりたいことが溢れている人。型にはめた言葉は面接で見抜かれる
- 人気大学の総合型選抜は一般選抜より難しいと考えたほうがよく、逆転合格はそうそう起こらない
- 保護者は、評定・模試・語れること・募集要項の4つの事実で向き不向きを判断するとよい
- 年内入試で問われる意欲は借り物では続かず、保護者の誘導は避けたほうがよい
- 裾野が広がる中で大事なのは対策ではなく、3年間で自分を振り返り言葉にする普段の授業







