お香界の助演俳優賞、受賞するのはどの素材?
阪本琢磨さんは、暑くなるとついアイスやビールを買ってしまうという季節の話から番組を始めます。そのうえで、この回のテーマとして「もしお香の世界に助演俳優賞があったら」という問いを立てます。
阪本さんがまず思い浮かべる一流の助演俳優は、俳優の松重豊さんです。阪本さんによれば、こうした俳優が出ていると、それだけでいい映画らしい雰囲気になり、実際にいい作品には必ずいるといいます。
(松重豊さんのような俳優は)それだけじゃなくて、主役にもなることができるっていう、そういう面白さもあったりしますよね。
阪本さんは、お香を作っている人なら全員一致で選ぶのではないかという素材があると続けます。その素材が、お香界の助演俳優賞にふさわしい白檀です。
白檀はなぜ「サンダルウッド」と呼ばれる?
白檀は英語でサンダルウッドと呼ばれます。阪本さんによると、もともとインドで「チャンダン」と呼ばれていた呼び名が変化して、サンダルウッドになったそうです。
サンダルウッドって名前なんでね、サンダルに使われてる安い木なんじゃないかって思われる人多いんですけどね。全然サンダルに関係ないです。
阪本さんは、もしサンダルウッドで作ったサンダルがあれば、とんでもないお金持ちのものか偽物ではないかと冗談まじりに話しています。白檀という素材は、それだけ貴重なものとして語られています。
白檀は暑くてジメジメした地域で育つ植物です。阪本さんが面白い点として挙げるのは、白檀が単体の木として育つのではなく、大きな木の横に寄生するような形で育つらしいということです。
そういうところも、助演俳優っぽいですよね。主役の横にいるっていう感じもね、あるんですけども。
産地で香りは段違い、インド産ローザン白檀とは
白檀の産地として、阪本さんはインド、インドネシア、オーストラリア、フィジーを挙げ、マレーシアにも少しあるかもしれないと話します。沖縄にもあるという話を風の噂で聞いたこともあるそうです。
阪本さん自身は、インド、インドネシア、オーストラリア、フィジーの白檀を試したことがあります。そのなかで香りが圧倒的に良いのは、インドで作られている白檀だといいます。
インド産の白檀はローザン白檀 ── インド産の白檀を指す呼び名。特にインド南部のマイソール周辺のものは、香りが豊かな高級品として古くから知られていますと呼ばれ、よく採れる地方の名前からマイソールと呼ばれることもあります。普通の白檀がさらっとした香りなのに対し、ローザン白檀は甘く濃厚なのに爽やかさもある香りだと阪本さんは説明します。
もうほんま数字で言うたら、香り3倍4倍ぐらい香りがしっかりしてるんちゃうかなって思ってね。
インドネシアやフィジーなどで採れ、比較的さらっとした香り
インド・マイソール周辺で採れ、甘く濃厚で爽やかさもある。香りの強さは3〜4倍ほどの印象
置くだけで香る、仏像や欄間に使われるローザン白檀
ローザン白檀は、すごくいい仏像や最高級のお念珠に使われることがあります。阪本さんによれば、ローザン白檀は置いているだけで香りが漂うほどだからです。
阪本さんは一度、ローザン白檀で作られた欄間 ── 和室の天井と鴨居の間などに設ける、彫刻や透かし彫りを施した板。採光や通風の役割もあり、仏壇の内部装飾にも使われますを見たことがあるそうです。
すごいですよ。もう置いてるだけで、その辺り一帯が白檀の香りになってね、最高なんですけども。
ただし、ローザン白檀は非常に手に入りにくくなっています。阪本さんの見立てでは、現在流通する白檀の90パーセントほどはインドネシアやフィジーなどの白檀ではないかということです。
主役とダークヒーローを取り持つ、白檀の調和力
阪本さんが白檀を「助演俳優」と呼ぶ最大の理由は、香りをまとめる力にあります。ローザン白檀でもフィジーやオーストラリアの白檀でも、お香の材料に入れると全体がまとまるといいます。
阪本さんのたとえでは、主役的な映える香りの材料Aと、それに対立するダークヒーロー的な香りBがあると、そのままではぶつかり合います。そこに白檀を入れると、A と B の香りが割とまとまるそうです。
もう1つの例は、派手でパキッとした陽キャっぽい合成香料をお香に入れる場合です。ここに白檀を加える効果を、阪本さんは今風の若い俳優と松重豊さんの凸凹コンビにたとえます。
(若い俳優と松重豊さんの)凸凹コンビでこう、すごいこう、まったりと楽しめかつ面白くなるみたいなね。
個性の強い香り
主役Aとダークヒーローの香りB、または派手な合成香料
そのままだと
香り同士がぶつかり合う
白檀を加える
お香全体がまとまり、楽しめる香りになる
こうした調和の力があるため、現代的な部屋で焚くお香でも、昔ながらのお寺で焚くお香でも、白檀はよく使われていると阪本さんは話します。
「白檀の香り」と本物はメロンとメロンソーダほど違う?
白檀の香りという言葉はよく耳にしますが、阪本さんの印象では、本当に白檀が入っている商品は意外に少ないといいます。「白檀の香り」と書いてあっても、白檀をあまり使っていない商品が多いそうです。
阪本さんは、一流メーカーの商品でも、白檀が小さじ1杯や耳かき1杯しか入っていないようなものがあると指摘します。極端な話、法律上は白檀が入っていなくても「白檀の香り」と書けるといいます。
その理由として、お香は化粧品や食品ではなく雑品 ── 化粧品や食品のような成分表示の義務がない雑貨類の扱い。お香は一般にこの区分に入るため、原材料の表示は販売者に委ねられています、つまり雑貨扱いで、中身を正直に書く必要がないことが挙げられています。
正直、本物の白檀と比べると、さながらメロンとメロンソーダぐらい違うなってこと結構ありますね。
ポップアップで驚かれた「思ったより爽やか」な香り
収録時、阪本さんは京都のポップアップストアで匂い袋講座を開いていました。その講座の匂い袋にもローザン白檀を入れているそうです。
ローザン白檀の粉末をお客さんに聞いてもらうと、意外な反応が返ってくるといいます。
(お客様から)「あれ、思ってるよりも爽やかな香りですね。私の知ってる香りはもっと甘い香りですよ」って言われたりするんですけど。
阪本さんは、多くの人がイメージする白檀の香りと、本当の原木の香りや原木に火をつけた香りとの間には差があるのではないかと考えています。
市販品などで知った「白檀の香り」は、もっと甘い香り
ローザン白檀の粉末を聞くと、思っていたより爽やか
本物の白檀を聞くなら、どこへ行けばいい?
阪本さんは、可能であれば実際の白檀を粉末にしたものなどで香りを聞いてほしいと勧めます。その違いを、阪本さんは「カラオケと生バンド」ほどの差と表現しています。
阪本さんは、本物の香りに触れることで人生が豊かになると考えています。前々回に話した伽羅 ── 沈香の中でも特に品質の高い最高級の香木。非常に希少で、白檀よりはるかに高価な素材として知られていますに比べれば、本物の白檀は比較的手頃に手に入るといいます。
ただし、阪本さんは買わなくてもよいと話します。阪本さんのお店に来ればいつでも白檀の原木の香りを聞けるほか、ちゃんとしたお線香屋さんにも置いてあることが多いそうです。
阪本さんは、ローザン白檀をお香界の松重豊と呼び、すごいバイプレーヤーの原木の香りをぜひ聞いてほしいと締めくくっています。
まとめ
お香界の助演俳優賞に選ばれた白檀は、個性の強い香り同士をまとめる名脇役であり、インド産のローザン白檀になると主役級の香りも放つ素材です。一方で、市販の「白檀の香り」と本物の間には大きな差があり、原木の香りに触れることで白檀の本当の姿がわかると阪本さんは語っています。
- 白檀(サンダルウッド)の名は、インドの呼び名「チャンダン」に由来し、サンダルとは関係がない
- インド・マイソール周辺のローザン白檀は、甘く濃厚で爽やかさもあり、香りの強さは段違い
- 白檀をお香に入れると、ぶつかり合う香りや派手な合成香料も全体がまとまる
- お香は雑貨扱いのため、「白檀の香り」と書かれていても白檀がほとんど入っていない場合がある
- 本物の白檀は、お香のお店やお線香屋さんで原木の香りを聞くことができる

