明るい刺激から温かな肌へ。フルールドゥポーの香りはどう変わる?
ディプティックの「フルールドゥポー オードパルファン」は、2018年に登場した香水です。香水ラジオでは第8回で一度取り上げており、今回は香りの特徴や背景を詳しく調べ直した改訂版として紹介されました。
ホストによると、フルールドゥポーは白いムスクに、アイリスの乾いた粉とピンクペッパーの細い刺激が重なる香りです。ディプティックが公式に挙げる主要な香りは、ムスク、アイリス、アンブレッド、ピンクペッパーの4つで、アンブレッドは植物から得られるムスクのような香りだと説明されています。
清潔なムスクだけではなく、粉とスパイスもあるんですね。
フルールドゥポーの印象は、時間とともに変わります。つけた直後は明るく少し鋭く、その後は冷たい粉のように感じられ、最後は肌の温度に近いムスクが残るといいます。ホストは、パウダリーなアイリスが好きで、大きく広がるより近い距離で香る作品を探している人に向いていると話しています。
フルールドゥポーのトップノートは、アルデヒド ── 香水に使われる合成香料の一群。石鹸や洗い立ての布のような明るく清潔な印象を与え、香りの立ち上がりを華やかにする役割を担います、ピンクペッパー、アンジェリカ、ベルガモットです。アルデヒドが石鹸の泡のような明るさを作り、ピンクペッパーが細かい刺激を加えます。
トップノートに入るアンジェリカについて、ホストは青い茎や乾いた根を思わせる香りだと説明します。その乾きが、次に来るアイリスの根のような乾きへ自然につながっていくそうです。
ミドルノートはアイリスとターキッシュローズです。中心になるのはアイリスの乾いた粉の質感で、ローズは花束のように強くは出ません。アイリスが硬く感じすぎないよう、ローズが柔らかさを加える役割を担っています。
ラストノートでは、ムスクとアンブレッドに、キャロット、アンバーグリス、サンダルウッド、レザー、アンバーウッドが重なります。キャロットは土の中の根のような乾きを加え、木とレザーは白いムスクが石鹸のようになりすぎないよう、落ち着いた深さを作るといいます。
フルールドゥポーの3段階の変化は、温度が移り変わるように感じられる構成としてまとめられました。
トップ
アルデヒドとピンクペッパーによる、石鹸の泡のような明るさと細かい刺激
ミドル
アイリスの乾いた冷たい粉。ターキッシュローズが硬さを和らげる
ラスト
ムスクとアンブレッドに木やレザーが重なり、肌の温度に近い香りが残る
グロッシアー ユー、ロー パピエとの違いはどこにある?
ホストは、フルールドゥポーの個性は第420回で取り上げたグロッシアー ユーと比べるとわかりやすいと話します。どちらも肌に近いムスクの香りで、ムスク、アンブレッド、ピンクペッパーが共通しています。
ユーはより軽く透けるようなムスクです。フルールドポーはアイリスとアルデヒドが作る粉の感触をもっとはっきり感じます。
同じディプティックのロー パピエも、第173回で取り上げられています。ホストによると、ロー パピエもムスクが肌の近くで柔らかく香りますが、手掛かりになるのは米の蒸気や紙のような柔らかさです。
湿度のある紙の柔らかさを好むならローパピエ、乾いたアイリスの粉を好むならフルールドポーが比較の目安です。
肌の近くで香る3つの香水は、質感の違いで選び分けられると整理されました。
| 香水 | 共通点 | 質感の手掛かり |
|---|---|---|
| グロッシアー ユー | 肌に近いムスク | より軽く透けるようなムスク |
| ロー パピエ | 肌の近くで柔らかく香るムスク | 米の蒸気や紙のような湿度のある柔らかさ |
| フルールドゥポー | 肌に近いムスク | アイリスとアルデヒドが作る乾いた粉の感触 |
フルールドゥポーには、同じ名前のオードトワレもあります。オードトワレは2025年に登場した別の香りで、マンダリンとマグノリアの明るさを加えたものだと紹介されました。
名前が同じでも単に薄くしたものではないんですね。
ホストは、アイリスの粉とムスクの厚みをより感じたいならオードパルファンが基準になると話します。ほかに指先でつけるソリッドパフュームもあり、日本公式のオードパルファンは75ミリリットルで31,460円です。
二面のラベルと調香師オリヴィエ・ペシューの仕事
フルールドゥポーのボトルは透明で、ディプティックらしい楕円のラベルが付いています。表と裏の絵が、香水の液体越しに重なって見えるつくりです。
ラベルの題材は、古代ギリシャ神話のエロスとプシュケです。アイリスとハイビスカスの絵が粉っぽいムスクと花を表しており、イラストはディミトリ・リバルチェンコが手がけたと紹介されました。
二面の絵が一つに見えるのが(エロスとプシュケの)二人の物語につながるんですね。
フルールドゥポーの物語について、ホストはエロスとプシュケの愛と結びつきをムスクで表していると説明します。フランス語の「フルールドゥポー」は肌の花を思わせる名前で、ムスクが肌に馴染むと名前の意味もわかりやすくなるといいます。
フルールドゥポーの調香師はオリヴィエ・ペシューです。ペシューは1966年にパリで生まれ、フランスやタイで経験を積んだ後、1998年に香料会社ジボダン ── スイスに本社を置く世界有数の香料会社。香水や食品向けの香料を開発し、多くの著名な調香師が所属していますに入りました。
ディプティック自体は、1961年にパリのサンジェルマン大通り34番地で始まったブランドです。絵画、インテリア、舞台に関わる3人の創業者が、布地や旅の品を扱う店として始めたと紹介されました。
ペシューがディプティックで手がけた作品には、テンポ、オルフェオン、オーデサンスなどがあります。ジボダンもフルールドゥポーを彼の代表作の一つに挙げているそうです。
ホストによると、ペシューは素材を重く濁らせず、空気や肌の感触としてまとめる仕事で知られていました。フルールドゥポーでも、粉とムスクが重くなりすぎないのはそのためだと考えられます。
清潔さと官能的なムスクを同時に感じられる理由が見えます。
ペシューは2023年に57歳で亡くなりました。自由な発想と、若い調香師へ知識を渡す姿勢も記憶されていると話されています。
受賞歴と、春秋の静かな日に向く使いどころ
ディプティックの最初の香水「ロー」は1968年に登場し、その50年後の2018年にフルールドゥポーとテンポが発売されました。フルールドゥポーは2019年、フランスのフレグランスファンデーションで加盟日ブランドの最優秀フレグランスに選ばれています。
フルールドゥポーの受賞記録には、調香師オリヴィエ・ペシューと香料会社ジボダンの名前も記載されており、発売の翌年に評価された作品だと紹介されました。
フルールドゥポーを使う場面について、ホストは、実際につけた人は春や秋の日中、静かな仕事、少人数の食事で使いやすいと感じることが多いようだと話します。柔らかなシャツや薄手のニットに合わせると、パウダリーで落ち着いた印象とつながるそうです。
フルールドゥポーの持続時間や広がり方には、感じ方に幅があります。肌の近くで長く残る人もいれば、早く軽くなると感じる人もいるといいます。
フルールドゥポーへの感想は、柔らかな石鹸、上品なパウダー、花とムスクの清潔感を好むものが多い一方で、粉っぽさが強すぎると感じる人もいます。粉っぽさや最初の酸味、胡椒の刺激が強く出ることもあるそうです。
そのため、紙だけではなく肌で数時間試すと判断しやすい香水です。
ホストはさらに、暑く湿った日は粉やピンクペッパーを強く感じる場合があるため、人との距離が近い場所では少量から試すのが適していると添えています。
まとめ
フルールドゥポー オードパルファンは、明るい刺激からアイリスの冷たい粉を経て、温かなムスクへ移る香りです。エロスとプシュケの神話がムスクの表現と二面のラベルにつながり、調香師ペシューの軽やかな仕事が粉とムスクを重くしすぎない一本にしています。
- トップのアルデヒドとピンクペッパー、ミドルのアイリス、ラストのムスクで温度が変わるように感じられる
- グロッシアー ユーより粉感がはっきりし、ロー パピエの湿った紙の柔らかさとは対照的な乾いた質感
- 2025年のオードトワレは別の香りで、アイリスとムスクの厚みを求めるならオードパルファンが基準
- エロスとプシュケの神話が、ムスクの表現と液体越しに重なる二面のラベルに込められている
- 春や秋の静かな仕事や少人数の食事に合い、粉感の出方は肌で数時間試して確かめたい






