2人のゲストが帰ってきた記念回
こじらせシアターのこの回は、小松大介さんと舩原孝路さんの番組に、かつてのメインパーソナリティ2人がゲストとして戻ってきた記念回です。
小松さんによると、番組は2年続いたことを機に記念企画を考えました。そこでシーズン1のメインパーソナリティだった劇作家のジェシカさんと、シーズン2のメインパーソナリティだった俳優の中井晴子さんを招いています。
まあ一応なんかこう記念的なことをやろうかと思ったら、やっぱりシーズン1に出てた方とシーズン2に出てた方ということで。
中井さんは番組のステーキチャレンジにも出演し、舩原さんの舞台にも足を運んでいたそうです。一方のジェシカさんは、中井さんが休んだ回に代打で出た1年ほど前以来の登場だといいます。
「誰もいないんだよね」で決まった2つの仕事
小松さんは2人に、この1年の出来事を「事件簿風」に話してほしいと振ります。ジェシカさんが挙げたのは、2026年の大きな仕事2つに共通する「連続事件」でした。
ジェシカさんの仕事の1つは歌舞伎の演出助手で、もう1つは7月から8月にかけて上演された『コントラクト』という芝居の演出です。『コントラクト』は米内山陽子さんの脚本でした。
(2つの仕事に)ちょっと共通した事件というか、誰もいないんだよねって言われて、もらった仕事というか。
どちらの仕事も、企画が始まる1か月前ほどに急に依頼が来たといいます。依頼主はジェシカさんの演出も演劇も見たことがなく、会うのはおそらく2回目ぐらいだったそうです。
ただ私という人の名前を知ってるぐらいの。知ってちょっと会ったことある。多分2人とも会って2回目じゃないかな。
東京に出てきて3年間、作品を発表し続けてきたジェシカさんにとって、作品を見られずにオファーが来る年は驚きだったようです。ジェシカさんは「演劇界に人がいなさすぎるのでは」という点こそ事件だと笑います。
小松さんは「演出がいないまま始まるプロジェクトがあるのか」と驚き、舩原さんは、2回目の面会で仕事を任されるのはジェシカさんの人柄と人脈が信用されている証拠だと受け止めています。
ダイエット中の爆食と、1日1つの挑戦
中井晴子さんの事件は「爆食事件」です。中井さんは体を絞ろうと、自炊と筋トレを続け、大好きなハンバーグも我慢して2週間ほど過ごしていました。
ところが中井さんは、お酒を飲んで面白い芝居を観た帰りにコンビニへ寄ってしまいます。そこでおにぎり、サンドイッチ、大きなパスタ、ラーメンを買い、その日の深夜に全部食べたそうです。
私お酒を飲むとさらに胃袋がブラックホール化するんですけど。
さらに意外だったのは翌日の体重です。中井さんが測ると体重は減っていて、ジェシカさんは「そっちのほうが事件では」と反応しました。
自炊と筋トレを続け、ハンバーグも我慢して2週間ほど頑張っていた
飲酒後にコンビニで炭水化物を大量に買って完食。それでも翌日の体重は減っていた
話題は番組公式アカウントで限定公開されている、中井さんの約2ポンドのステーキチャレンジ動画にも広がりました。小松さんと舩原さんは、中井さんが最後まで美味しそうに食べていたと振り返っています。
中井さんは最近、変わらない毎日に不安を感じ、1日1つ何かに挑戦したいと考えているそうです。小松さんも同じことを意識しており、料理やトレーニングは変化をつけやすいと話します。
ジム行ってトレーナーの方に「なんか今までと違うやつやってください」って言ったら、喜んで出してくれるから。
小松さんは、何か1つ新しいことをすると1日に充実感が生まれると語ります。その気づきは30代になってからだったため、20代で同じことを考えている中井さんに感心していました。
サイゼリヤに行ったことがない小松さん
コメント返しでは、舩原さんが、前回のサイゼリヤカードゲームの回に寄せられたコメントを読み上げます。
サイゼリヤカードゲーム、もう商品化されているもんだと思って聞いていました。きゃなりさんの手作りだったんですね。いろんなお店のメニューに対応できそうで楽しそうです。サイゼリヤファンが集まったら盛り上がること必至。
いざよい さんから
コメントでは、小松さんのサイゼリヤに関する発言を聞いて朝ごはんを吹きそうになったとも書かれていました。小松さんは実際に、サイゼリヤに行った記憶がないといいます。
カードゲームは、きゃなりさんがメニュー名を上下に分け、どれとどれが組み合わさるかを当てる手作りのものでした。舩原さんは、サイゼリヤの人にぜひ商品化してほしいと話します。
(初めてのサイゼリヤの感動を)これから味わえるっていう。すごい羨ましい。
メンバーは、サイゼリヤならメニューが多く安いので、高校生でも値段を見ずに注文できると盛り上がります。舞浜店の食べ放題の話や、舩原さんが行ってみたいケンタッキーの食べ放題の話にも広がりました。
肉、陸上、和楽器。ゲスト2人の意外な共通点
小松さんは、ジェシカさんと中井さんの意外な共通点を紹介していきます。まずはアルバイトで、ジェシカさんは焼肉、とんかつ、しゃぶしゃぶ、焼き鳥と、肉に関わる店で働いてきたそうです。
いろんなバイトを受けるんだけども、お肉関連しか受からないみたいな。それは呪いじゃない?
2人は陸上経験者でもあります。ジェシカさんは砲丸投げ、中井さんは800メートル、1500メートル、3000メートルの中長距離を走っていたといいます。書道の経験も共通していました。
楽器では、中井さんがお囃子を担当していました。青森ねぶたのあと、ねぶたが中井さんの地域にやってきて、その後ろで和太鼓や鐘、横笛を演奏しながら練り歩いたそうです。
ジェシカさんは小学校の雅楽クラブで、肺活量が必要な七力という楽器を担当していました。バイオリンでクラシックも演奏していたといいます。
ジェシカさんの楽譜はカタカナで書かれ、中井さんの楽譜は押さえる場所が黒丸と白丸で示されていたそうです。太鼓は膝を叩いて覚える口伝えの世界だったと、2人は振り返ります。
10代の疑問「俳優は何を売っているのか」
本編のテーマ「我々は何を売っているのか」は、小松さんが考えたものです。小松さんは高校生の頃から養成所に通い、10代のうちにこの疑問を持ちました。
映画とか舞台とかテレビとかでやるんだけど、何を対価にしてお金をもらってるんだろうなっていう疑問があって。
講師や友人に聞いても答えは返ってきましたが、小松さん自身はいまひとつピンとこなかったそうです。小松さんが自分なりの答えを見つけたのは30代後半でした。
小松さんは、劇作家、ミュージカル俳優、若い俳優では考え方がまったく違うはずだと考え、このメンバーで話したいと思ったといいます。じゃんけんで負けた小松さんが、最初の語り手になりました。
俳優が売っているのは「物語」
小松さんの答えは、俳優は物語を売っているというものです。では物語には何の意味があるのかを、小松さんは料理にたとえて考えます。
小松さんによると、料理人が売る料理には美味しさがあり、栄養素という物理的な効果もあります。物語にとってのそうした効果は、現代社会においては「共感」を提供することだといいます。
ホモサピエンスというのは、ストーリー理解しかできないという前提がありますよね。
小松さんは、人間は物事を確率の連続ではなく、「これがあるからこうなる」という因果や運命の流れとしてしか理解できないと話します。
愛情についても、遺伝子的に大事だからではなく「大切な人だから守る」「好きだから」という理由づけをして、人はそれを自分の中に落とし込むのだといいます。
50%だからこうなった、10%だからこうなったという事象の連続
これがこうだからこうなった、大切だから守るという因果と理由づけ
人権の時代に、なぜ物語が必要になったのか
小松さんが「現代社会において」と注釈をつけるのは、人権という概念が生まれる前は、自分で自分の生き方を規定する必要がなかったからです。
小松さんは中世ヨーロッパについて、カルヴァン ── 16世紀の宗教改革者ジャン・カルヴァン。職業を神から与えられた召命とみなす考え方は、勤労倫理と結びつけて論じられてきましたの話にも触れながら、「この仕事は神がお前に与えたものだ」と言われれば人は納得できたと説明します。
一方、基本的人権が尊重される現代では、職業も恋愛も結婚相手も自分で選べます。小松さんは、その分だけ選択肢が多すぎて人は戸惑うと話します。
他にいい人がいるかもしれないみたいな確率論のことをずっと考えてたら先に進めないから。
だからこそ現代人は「この人は運命の相手だ」といった物語を構築しなければ生きていけない、というのが小松さんの考えです。ジェシカさんは「めんどくさくて弱い生き物」と反応しました。
人権以前
仕事や生き方は与えられ、自分で規定する必要がなかった
人権の尊重
職業、恋愛、結婚を各個人が選べるようになった
選択肢の多さ
確率論で考えると迷い続けて先に進めない
物語の構築
運命や理由づけの物語によって選択を受け入れる
村上春樹の「良き物語」と「悪しき物語」
小松さんはさらに、作家の村上春樹さんの考えを受け売りだとして紹介します。物語には「良き物語」と「悪しき物語」があるという考え方です。
悪しき物語の例として小松さんが挙げたのは、オウム真理教 ── 1980年代に松本智津夫が設立した宗教団体。1995年の地下鉄サリン事件など一連の重大事件を起こしましたです。高学歴の幹部たちが、なぜ松本智津夫の言うことを信じたのかという問いです。
小松さんによると、松本智津夫は「前世がこうだから現世ではこうすべきだ」という自分に都合のよい物語を浸透させました。村上さんの『アンダーグラウンド』などに、そうした話が出てくるといいます。
(悪しき物語に)対抗できるのは良き物語しかないんだと。
小松さんは、良き物語とは善悪や道徳のことではなく、自分の物語を保つ力を与えるものだと説明します。それを提示するのが現代の小説家の役割の1つだという村上さんの考えに、小松さんは深く納得したそうです。
小松さんは、テレビドラマや舞台、映画を作る俳優も、小説家と同じく良き物語を売っているのではないかと考えるようになりました。
語り手に都合のよい物語で人を感化する。例として、オウム真理教の教義
善悪や道徳ではなく、受け手が自分の物語を保つ力を与える
演技ではなく作品を届ける。ダンスや特撮との違い
舩原さんは、役者は物語ありきで仕事をするので「物語を売る」という答えはまさにそうだと応じます。小松さんも、俳優は演技を直接お客さんに売っているわけではないと話します。
僕らは一応お芝居、演技をするということを基本的には提示するんだけれども、演技を直接お客様に売ってるわけじゃない。
作品は脚本家や劇作家、演出家や監督、スタッフと一緒に作るもので、その作品とは何かと考えると「物語」がしっくりきたと小松さんは語ります。
舩原さんは、コンテンポラリーダンスやモダンダンスの作品を作るときは物語が欠かせないと共感します。舩原さんは一度台本を書いてから、それを踊りにすることもあるそうです。
ただし小松さんは、この答えがすべての表現に当てはまるわけではないと認めます。超絶シュールな舞台、ボレロのような呪術的なダンス、『エクスペンダブルズ』のようなB級アクション、特撮、歌舞伎の古典、オペラは例外として挙げられました。
タロットと占いもストーリーテリング?
ジェシカさんは、趣味で学び始めたタロットの話を持ち出します。タロットには「教皇」というカードがあり、教皇は人間と神様の橋渡しをする存在だといいます。
こういう思し召しだから、あなたは今こういう目にあってるんですよっていう翻訳をするみたいな。
ジェシカさんは、理不尽な神様の意図を翻訳して伝えなければ人は生きていけなかったと話し、物語を伝えることは人が生きるために必要なのかもしれないと考えます。
小松さんは、占いは完全にストーリーテリングだと応じます。ちょろっとラジオのちろきゅんさんがプロの占い師で、小松さん自身もタロット占いを受けたことがあるそうです。
小松さんは、信じる信じないではなく、ストーリーをつなげて納得させるという効能に人はお金を払っているのだと話します。ジェシカさんは、生きる上で「納得」がとても大きな力を持つことに驚いていました。
言葉にできない思いを、共感で届ける
小松さんは、物語の効能である共感について掘り下げます。人には言葉にできない思いがあり、それは物語でしか伝えられないといいます。
言葉にできないものは物語じゃないと伝えられないんですよ。だって言葉にできないから。
小松さんによると、「家族の愛が大事」「戦争はやめよう」と言葉で言うだけでは伝わりきりません。観客が登場人物の気持ちに共感すると、日常生活で曇っていた部分がクリアになるといいます。
小松さんはこれも村上春樹さんの受け売りだとしながら、物語が観客に作用するものとして強く納得しています。料理でいえば、物語にとってのタンパク質や食物繊維にあたるものだというわけです。
小松さんはこの考えを、劇作家がフルコースのメニューを作り、演出家や監督が出し方を考え、俳優が素材をきちんと作るという仕事のたとえに置き換えます。そう捉えると、どの役でもきちんと演じることが大事だと腑に落ちたそうです。
「感動を売っている」と言う人もいますが、小松さんにはそれが俳優個人の売っているものという感じがしなかったといいます。
オーディション番組やインド映画が人を動かす理由
小松さんは逆説的に、今は良い物語でないものは売れていないのではないかと話します。オーディション番組もサクセスストーリーの部分を売っているというのが小松さんの見方です。
小松さんによると、物語がしっかりしていれば、タイパやコスパが重視される時代でも『国王』のような3時間ほどの作品を観られます。物語の力は衰えず、グローバルにさらに必要になるといいます。
そのインド映画のダンスの部分だけ見て感動をあんまりしないと思うんだ。
ハリウッド作品やインド映画に感動できるのは、愛などの感情がホモサピエンスに共通しているからだと小松さんは考えます。「I love you」と文字でわかるだけでは足りないといいます。
小松さんの「心を磨く」という表現に、中井さんは「すごく素敵だ」と反応しました。
表現に優劣はない。あるのは好き嫌いと質
小松さんは、物語を摂取するために、美味しいものを食べに行く感覚でドラマや映画、舞台があることが大事だと話します。受け手自身も、今どんな気持ちが曇っているのかはわからないからです。
同じ「家族の絆」でも、連続テレビドラマで伝わることもあれば、15秒のCMで響くこともあります。小松さんは、冷凍おにぎりのCMに家族の絆を感じた例を挙げています。
受け手によって、また同じ人でもタイミングによって、ダンスやアニメ、本など響く表現は変わります。だからこそさまざまな表現があるべきだと小松さんは考えています。
小松さんによると、古典芸能か新しいものか、テレビか舞台かという優劣はなく、あるのは好き嫌いと、作る側から見た質の高さだけです。一発ギャグのような分かりやすさで一時的に出ることはあっても、質の低いものは評価され続けないといいます。
小松さんは、質の高い物語を作り続けることが仕事の根幹だとまとめました。いろいろな考え方があってすべて正解の可能性が高いとし、次回以降のメンバーの答えを楽しみにしています。次回はジェシカさんの回です。
番組の最後には中井晴子さんから告知があり、劇団ルートボーイズ第3回公演『HandsUpForever』に出演し、中板橋の新生館スタジオで12月16日から20日まで上演すると紹介されました。
まとめ
小松大介さんにとって、俳優が売っているのは演技そのものではなく、作品としての物語です。物語は、言葉にできない思いを共感によって届け、日常で曇った心をクリアにして観客を支えると小松さんは考えています。
- ジェシカさんは2026年、作品を見られないまま「誰もいない」という理由で演出と演出助手の仕事を任された
- 小松さんは、ホモサピエンスは物事を因果のある物語としてしか理解できないと考えている
- 人権の時代は選択肢が多く、運命などの物語がなければ人は選択を受け入れにくいと小松さんは話す
- 村上春樹さんの「良き物語」の考えを踏まえ、俳優も自分の物語を保つ力を与える物語を売っていると小松さんは語る
- 表現方法に優劣はなく、あるのは好き嫌いと質の高さだという考えで締めくくられた







