番組初のゲスト、今村健一さんとは何者か
学びの楽屋は、株式会社Learner's Learnerの黒川公晴さんと大谷直紀さんが、学びやリーダーシップのあり方を問い直すビデオポッドキャストです。第18回にして、番組は初めてゲストを迎えました。
ゲストの今村健一さんは、宇宙開発の会社ispaceのCPOであり、個人で立ち上げた株式会社ソノマの代表取締役社長でもあります。さらに、Learner's Learnerが運営するミネルバ式リーダーシッププログラムのファカルティも務めています。
今村さんはispaceで、人事やカルチャー、総務などのバックオフィス部門を見ています。ispaceに加わったのは3年ほど前です。
(ソノマを通じた)リーダーシップ開発のプログラムは、時間的にはそっちが副業なんですけど。気持ち的にマインドシェアは半々ぐらい。
今村さんの1社目はリクルートで、在籍は22年ほどに及びます。その後、今のLINEヤフーの親会社にあたるZホールディングスに人事として転職し、現在のispaceへと移りました。
リクルート時代の大谷さんは「チャラそう」だった?
大谷さんにとって今村さんは、リクルート時代の「スーパー大先輩」です。今村さんは人事にいた頃、「面白いやつがいる」という話から大谷さんを知ったといいます。
黒川さんに当時の大谷さんの印象を聞かれた今村さんは、間髪を入れずに答えました。
チャラ、チャラそう。
ど、どの地に足をつけてるのかな。
一方で今村さんは、大谷さんが人事の立場から、既存のリクルート社員をアジアに連れていく企画などを手がけていたことを挙げ、発想の面白い人だという印象も持っていたと話します。
大谷さんから見た当時の今村さんは、社長のすぐ近くにいつもいて、何でも知っていそうな人だったそうです。
キャリアは山登りではなく「川下り」
この回のテーマは「令和のミドルリーダー層のキャリアデザインと学び」です。1つの会社で定年まで働く一本道のキャリア観から、スキルや環境を見直しながら進む複線的なキャリア観へと変わるなかで、振れ幅の大きいキャリアを歩む今村さんに話を聞くという趣旨です。
ところが今村さん自身は、宇宙企業にいることで振れ幅が大きく見られる点は自覚しつつも、自分のキャリアの振れ幅が大きいとはあまり思っていないといいます。
キャリア観を聞かれたとき、今村さんがいつも答えるのは「川下り型」という言葉です。目指す場所や強いパッションを決めて山を登るタイプとは、むしろ対極だと話します。
僕は川下り型ですっていつも言うんですよね。(目指したいところに向かって)山を登っていく感じのタイプではない。むしろ対極なんですよね。
実際、リクルート時代に何度も経験した異動のうち、自分で希望したのは1回だけでした。その後の2回の転職も、自分で探したのではなく、声をかけてもらって加わったものだといいます。
目指したいところや成し遂げたい事業が先に決まっていて、そこへ向かって登っていく
異動や声がけといった流れに乗りながら、その都度進む方向が決まっていく
軸足を置いたまま向きを変える「ピボット型」
ispaceへの転職のきっかけは、同じミネルバのファカルティを務める知人がispaceの社外取締役をしていて、人事責任者を探していたことでした。
今村さんは自身のキャリアを、もう1つ「ピボット型」とも表現します。両足をそろえて新しい場所へジャンプしたことは一度もなく、いつも軸足を残したまま向きを変えてきたといいます。
宇宙も人事っていう軸足をずらしてないので。業界は当然全く違うけれども、なんか続いてる感じはしてるけどね。
人事との出会いも偶然でした。今村さんは大学で船舶海洋工学を学んだ理系出身で、営業をやりたいとリクルートに入社しました。最初の異動先の経営企画室で、経営アジェンダの1つだった人事制度の変更に関わったのが、人事との接点の始まりです。
大学
理系で船舶海洋工学を学ぶ
リクルート入社
営業を担当する
経営企画室
人事制度の変更に関わり、人事との接点が生まれる
事業・海外を経験
どこにいても人事が軸足の一方に残る
Zホールディングス、ispace
人事を軸足にしたまま業界を変える
事業に戻ったり海外に出たりしても、人事は必ず軸足のどちらかにありました。軸足を置いていると、自然と声がかかる機会があったのだろうと、今村さんは振り返ります。
オランダで知った、本当に嬉しかった瞬間
今村さんには「人事で生きていく」と決めたタイミングがあります。リクルート時代、オランダに駐在して関連会社の社長を務めた経験です。
社長はゴールやパッションをもとに方向を示す仕事で、今村さんもそれを楽しんでいました。それでも3年ほどの駐在期間で一番嬉しかったのは、別の瞬間だったといいます。
一番楽しい瞬間、嬉しかった瞬間は何だったかっていうと、後任のオランダ人の社長を任用できた時だったんですよね。
この経験から、今村さんはリーダーを支援することに自分はワクワクするのだと気づきます。その1年後にミネルバのプログラムに出会い、その気づきが確信に変わりました。
リーダーを支援するとか支えるみたいなことが自分はワクワクするんだなっていうふうに思って。
リクルートを辞めたのも、転職が決まったからではなく、自分で会社を作ってリーダーシップ開発の仕事をしようと考えたからでした。リーダーシップ開発はライフワークであり、Zホールディングスにいた時も、ispaceにいる今も、その軸は変わっていないといいます。
いろんな社長を見て気づいた「俺、ムリだな」
今村さんは話しながら、もう1つの理由にも思い至ります。経営企画や人事、社長秘書などの立場で、リクルートでもZホールディングスでも多くの社長を見てきたことです。
(社長の仕事は)俺無理だなって思ったんだよね。頑張れる気がしないっていうか。燃えないというか。
オランダでは事業変革のタイミングでチェンジマネジメントに取り組み、それ自体にも燃えていました。しかしそれ以上に燃えたのは、後任をどう育て、社内でどう承認を得て、どうコーチングするかを考えることだったといいます。
次のフェーズへ持っていくチェンジマネジメント。燃えてはいた
後任づくり、社内承認、コーチングを考える。それ以上に燃えて楽しかった
今村さんがこうした生き方、働き方をしたいと思ったのは、10年ほど前、40歳ぐらいの頃だったそうです。
キャリアの棚卸しは3年に1度
黒川さんは、何度も転職を繰り返す人もいるなかで、川の進路を変える時期はいつが良いのかを尋ねます。
結局変える変えないはその都度考えればいいんだけど、三年に一回は考えた方がいいような気がする。
今村さんがすすめるのは、今のまま進むのか、異動や転職を検討するのかを、3年に1度ぐらいのペースで考えることです。リクルート時代も2〜3年ごとに異動があり、実際には転職活動をしないことが多かったものの、社内と社外のキャリアをその都度棚卸ししていたといいます。
3年という周期を勧める理由は、同じ場所に居続けると動けなくなる感覚があるからです。
両足ズブズブ地面に埋まってっちゃって、身動きできにくくなる気がなんとなくしますよね。
ミドルやシニアになるほど、1〜2年でできることは少なくなります。会社にインパクトを残せたと振り返れる仕事になり、キャリアの血肉になるまでには、感覚的に3年ぐらいかかると今村さんは話します。
嫌になって異動や転職をした経験はないといいます。唯一自分から希望した異動は「海外に行かせてほしい」というもので、それがオランダでの大きな気づきにつながりました。
今村さんもキャリアに悩むことはある?
大谷さんの目には、今村さんはあまり悩まない人に見えていました。一方で、ミドル・リーダー層には今後のキャリアに悩む人が多いのではないかと感じています。
今村さんの答えは「あるよ、あるある」でした。悩みには内的な理由と外的な理由の2種類があるといいます。
異動したものの、いまひとつパフォームできていない感覚がある
ヘッドハントで声がかかり、素敵な会社や仕事なら転職しなくても一旦考える
行き詰まっても、だから普通にあると思いますけど、僕も。
焦るミドル層へ「まず目の前のことを必死に」
大谷さんは、働ける期間が限られるなかで、これからのキャリアに焦りや不安を抱く人に、今村さんがどう答えているのかを尋ねます。
とにかく目の前のことを必死にまずやるってことを、まずは。
今村さんによると、キャリアの相談をする人には、目の前の仕事に向き合いきれていない人が多い印象があるそうです。ただし、だからこそ相談しているとも言え、鶏と卵の関係だとも付け加えます。
自分が何者かっていうふうに言えるぐらい、今の会社とか今の職種で頑張ってますかっていうのは問いたいですよね。
やりきった人には「100%転職を薦める」
一方で、今の仕事をやりきった人の悩みには、今村さんははっきりした答えを持っています。会社に残れば出世しそうだが少しつまらないかもしれない、でもスタートアップに移るには勇気がいる、という悩みです。
その悩みを受ける時はもう百パーセント転職を僕はお勧めしますよね。
だってもう戻れる時代だもん。一回スタートアップで仮に失敗したとしても。戻りゃいいし、別に。
今村さんは、悩んでいる時間がもったいないと言い切ります。大谷さんも、かつては戻る選択肢があまりない世代だったが、今は頭を下げれば戻れるのだから、悩むくらいなら体験したほうがよいということだと受け止めました。
一本道のキャリアで、一度出たら戻る選択肢があまりない
スタートアップで失敗しても戻れる時代。悩むより一回出てみる
今村さん自身、リクルートに22年いたことを少し後悔しているといいます。もっと早く他の会社や業界を知っていれば、もっと面白い自分がいたかもしれないと思うことがよくあるそうです。
今村さんは、1つの専門や1つの会社から越境し、その組み合わせでキャリアを積むことが、今の時代はもっとできるようになっていると話します。社内で出世できそうな人ほど、戻っても出世するのだから一度出てみればいい、スタートアップが上場すればそれもハッピーストーリーで、どちらでもいいという考えです。
今村さんは社員からも相談を受けるなかで、キャリアデザインを上るイメージではなく、アジャイルにクイックに広げる発想で捉えたほうがよいと考えています。結果として上ることもできるはずだといいます。
「再現性ねえな」で締めくくる川下りの話
大谷さんは、キャリアは斜めに上がり続けなければならず、戻れないという空気が誰かの魔法のようにあるからこそ人は迷うのだと整理します。実際には戻れる時代だからこそ、どんどん広げればよいという話です。
感想を求められた黒川さんは、今村さんがフラットかつカジュアルに考えながら今の立場にいることに驚き、冗談まじりにこう言いました。
再現性ねえなと思いながら聞いてたんですけど。
再現性ないな。再現性ないね。
それでも黒川さんは、川を下ってもボートで戻れると思えば、キャリアをもっと自由に考えられると受け止めました。次回は、今村さんの人生とキャリアがどうつながっているのかを聞いていく予定です。
まとめ
今村健一さんのキャリアは、目標に向けて山を登るのではなく、流れに乗りながら人事という軸足を保って向きを変える「川下り型」「ピボット型」でした。ミドル・リーダー層に向けては、目の前の仕事をやりきったうえで、戻れる時代だからこそ越境してみることが勧められています。
- 今村さんのキャリアは、異動や声がけに乗る川下り型で、人事を軸足にしたピボット型
- 人事で生きる決め手は、オランダで後任社長を任用できた瞬間の嬉しさだった
- 3年に1度はキャリアを棚卸しし、両足が埋まって動けなくなるのを防ぐ
- やりきった人の転職の悩みには、戻れる時代だからこそ100%転職を勧める
- キャリアデザインは上るより、アジャイルにクイックに広げる発想で捉える







