忙しい二人は本を読めているのか
この回のテーマは「忙しい時のインプットどうしてる?」です。この秋、黒川さんは多くのイベントに登壇していて、本人も「ずっとマイク握ってる」と話すほど慌ただしい日々を送っています。
番組ディレクターからの手紙が、このテーマのきっかけになりました。手紙は、二人のスケジュールが特に今年は厳しいという噂に触れ、三宅香帆さんの『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』 ── 文芸評論家の三宅香帆さんによる新書。働く人が読書から遠ざかる背景を、日本の労働と読書の歴史からひもといた本として話題になりましたが話題になったことを挙げて、忙しいときのインプット法を尋ねています。
大谷さんは、本はトイレや隙間時間に置いて触れるようにしているものの、1冊を読み切るのはあまりできていないと正直に明かします。黒川さんも同じで、出かけるたびに積読から1冊取って少し読み、戻してはまた別の本を持ち出す読み方になっているそうです。
本は読んでる。隙間時間とかトイレとかにも置いてるし。本はまあ触るようにはしてる。
こう1冊全部読み切るっていうのがあんまりできてないっていうのは正直なところかな。
大谷さんは、インプットは本だけでなく動画、SNS、雑誌、映画も含むと広げます。映画については、以前お互いに見たい作品を挙げ合ったのに、結局二人とも見ないまま上映が終わってしまったという笑い話も出ました。
朝のジムと送迎の車内、隙間時間に聴くPodcastは?
黒川さんが忙しい中で続けているのは、毎朝ジムで運動する1時間弱に、PodcastやYouTubeをラジオのように流す習慣です。本ではないと気にする黒川さんに、大谷さんは「別に本じゃなくてもいいやろ」と返します。
黒川さんがよく聴くPodcastとして挙げたのは、COTEN RADIO ── 歴史をテーマにした人気Podcast番組。株式会社COTENのメンバーが、一つの人物や時代を数回にわたって掘り下げますの過去回、最近ゲスト出演した荒木さんの『超相対性理論』、そしてアメリカなど海外の英語のビジネス系Podcastです。
大谷さんは、黒川さんが漫画やお笑いにも詳しく、新しく出てきた芸人について持論を語る姿をよく見るといいます。黒川さんはお笑いが大好きで、気に入った芸人を見つけると全部のネタを見る癖があり、それは主に寝る前の時間だそうです。
好きなその芸人とか見つけたら徹底的にもう全部のネタを、見るみたいな癖があって。
大谷さんの場合、福岡県の糸島では移動がすべて車なので、送り迎えの時間にPodcastを流しています。聴いているのは、自分たちの番組と、韓国に住む女性が日本語で一人で話す20分ほどの番組です。黒川さんは自分の番組は恥ずかしくて一切聴けないと話し、対照的な二人の姿が見えます。
一人で20分話し切るPodcastがロールモデルな理由
大谷さんは、韓国在住の女性が一人で話す番組『韓国に住んだらこうなった』をずっと追いかけていて、自分にとってのロールモデルだと語ります。自分でPodcastを始めてから、その凄さがさらによくわかったといいます。
二人でこうやって喋るのもまあ大変やん。一人で20分自分でテーマ決めて喋りきるの。
(台本はなくても)全然聞けるねんな。なんか話のテンポとか。で、どんどん上手なっていくねん。
一方、大谷さんはYouTubeはほとんど見ないそうです。黒川さんは番組単位ではなく、トピックごとに面白そうな動画を探し、運動中にラジオ的にかけているといいます。
大谷さんが「それは仕事のための情報として時間を使っているのか」と尋ねると、黒川さんはPodcastは偶然楽しめるものが多いと答えます。ただし本は違い、最近は気になるテーマのヒントを探しに読みに行っている感覚があるそうです。
登壇のテーマが決める、ヒント探しの読書
黒川さんの本の読み方が変わった背景には、講演や登壇といったアウトプットの機会の多さがあります。自分が知っているつもりのテーマでも、どんな切り口で話すかのヒントを得るために本を読むことが多いといいます。
具体例として黒川さんは、ミネルバの文脈でパーパスがアジェンダに入ったときに、パーパスや意識の問題、さらに最近のAIまで勉強する必要が出てきたことを挙げます。グローバルリーダーシップの登壇では「信頼」がどう作られるのかを調べ直し、偶発性がテーマになれば偶然性の研究にあたったそうです。
黒川さんが挙げた偶然性の研究者は、書き起こしでは「群起収蔵」となっていますが、哲学者の九鬼周造を指していると考えられます。
大谷さんは、抽象的なテーマが次々と来て、期待値を超えるアウトプットのためにご飯をかき込むようにインプットするのは疲れないかと尋ねます。黒川さんは「ちょっとスポーツやってる感はある」と答えています。
登壇テーマが決まる
パーパス、信頼、偶発性などのキーワードが提示される
ヒントを探しに本を読む
知っているつもりのテーマでも、話す切り口を探しに行く
登壇で話す
読んだ内容を他のキーワードとつなげて語る
つまみ食いの読書は血肉になるのか
大谷さんは、本を1冊持って出かけ、移動中にパラパラ読んで戻す「つまみ食い」のインプットが、自分の血肉になっている実感が薄いと打ち明けます。見た覚えはあっても、その言葉を引用して話せるかというと話せないこともあるそうです。
忙しい時のインプットって、すごい断片的に情報に触れてるだけで、やっぱりなんかアウトプットとセットなんやろなっていうふうに思うんだよね。
黒川さんも、読んだら書く、読んだら話すという姿勢には同意します。最近は、どんなテーマでインプットしたものでも、ランダムな話題について話すときにパッと出てくるようになってきたといいます。
どんなテーマで読んで、どんなテーマで話しても、なんか繋げて感じるとか考えられるようになってきてる感じはある。
黒川さんは「多分無理やりやってるところもある」と留保しつつ、インプットの楽しさが増えてきている感覚があると話しています。
バラバラの知識をつなぐ「自分の軸」とは
大谷さんは、黒川さんが知識をつなげるとき、自分の何とつなげているのかを尋ねます。たとえばリーダーシップを深めていれば、偶然性や信頼をリーダーシップに紐付けて咀嚼しているのか、という問いです。
黒川さんは前日の登壇を例に挙げます。ミネルバのファカルティを務めるMasaさんこと橋本さんとの対談では、パーパス、システム、データ、チームダイナミクス、偶発性とランダムなキーワードが並んでいました。それでも話すうちに「さっきの話に戻るんですけど」とつながって見えてきたそうです。
大谷さんは、自分の側に軸がないと、信頼や偶然性、データやAIといった知識がバラバラなまま残り、体重の乗った言葉にならないと感じています。だからこそ、自分の中に一本芯を通すこと、それを何にするかが大事だと考えていたといいます。
黒川さんは、普段の活動の主軸とどうつながるか、そして過去の体験にどれだけ紐付けて考えられるかで、言葉の確信性が変わってくると応じます。
「あの本に書いてたんですけど、こうこうこうで」みたいな紹介の仕方だと、その本読めばいいし、調べればいいから。
黒川さんは、自分なりの解釈や、身近にそういう人がいるといった実感があるかどうかを、自分の中で確かめに行くといいます。大谷さんはこれを受けて、忙しいときでも余裕があるときでも、インプットを自分の幹とどう絡めて出すかのイメージを持つと、インプットに意味が生まれるとまとめます。
信頼、偶然性、データ、AIが個別にバラバラで、体重の乗った言葉にならない
活動の主軸や過去の体験に紐付き、自分なりの解釈として確信を持って話せる
幹が太すぎる罠と、関係なさそうな本の効用
黒川さんは一方で、幹が太いほど結局得意技に戻ってきてしまい、自分のベースから離れられないという罠もあると指摘します。何でも自分の専門性に引きつけて話す人もたまにいる、という懸念です。
大谷さんは、その固さを緩めるために、関係なさそうなものに手を伸ばしていると話します。フィクションや小説、旅雑誌などを読むことが、幹に固執しすぎないよう自分を保つ方法になっているという感覚です。
本当にフィクションとか小説とか、旅雑誌とか、なんかそういうところに手を伸ばすのは、その幹の部分に固執しすぎないように自分を保つみたいな。
黒川さんは、大谷さんが大学院に通ったのにも同じような理由があったのではないかと振り返ります。大谷さんはこの構えを、忙しいときのインプットで大事なものだと話しています。
息子に「YouTubeよりテレビを見て」と言う理由
黒川さんはXでインプットすることもある一方、ニュースもテレビもほとんど見なくなったといいます。それなのに先日テレビの画面が割れ、買い替えるという「痛恨の出費」があったそうです。
大谷さんは意外にも、息子には「YouTubeばかり見ないでテレビを見て」と言っているそうです。黒川さんは思わず「トンチ?」と返します。
YouTubeやとさ、もうマインクラフトを見始めるとマインクラフト関連のものがずっと出てくるわけ。
大谷さんの息子のインプットは、マインクラフトで埋め尽くされている状態でした。テレビならニュース番組でいきなり「今年は何々が不作です」のような、まったく知らない話題が飛んできて「何これ?」と思えるのが良いのだといいます。
見たものに関連する動画が続き、マインクラフトで埋め尽くされる
ニュースなどで、関心外の話題がランダムに飛んでくる
アルゴリズムでセレンディピティを仕込む時代
黒川さんは、マスメディアもトレンドに絡め取られている面はあるとしつつ、YouTubeやXは基本的に「おすすめ経済」なので偏っていくのは当然だと話します。
さらに黒川さんは、東大の松尾研 ── 東京大学の松尾豊教授の研究室。AIやディープラーニングの研究で知られ、多くの卒業生がAI系スタートアップを起業していますを出てAI系スタートアップの社長をしている人から聞いた話を紹介します。テックスタートアップでは、プラットフォーム上でセレンディピティ ── 思いがけない偶然の出会いや発見のこと。予期していなかった価値あるものに出会う力を指して使われることもありますを演出する仕組みを、アルゴリズムに組み込み始めているそうです。
全く自分のそのこれまでの閲覧履歴に関係ないやつを、なんかの確率でこう表示させるみたいな。
黒川さんによれば、TikTokがこの仕組みで有名らしく、ユーザーが慣れて消費しなくなるのを防ぐために、定期的に刺激を送り込む狙いがあるといいます。大谷さんは「すごい話やで」と驚きつつ、自分が息子にテレビを勧める日が来るとは思わなかったと笑います。
黒川さんは、まさに偶発性という点で、テレビにはまだ少し余地があると感じているようです。
余白に必要なのは時間よりお金?
黒川さんは前日の対談で、どれだけ余白を持てるかが、たまたま流れてくる情報の面白さに気づけるかに直結すると話していました。それを聞いたMasaさんの答えは意外なものでした。
いや、それマジそうっすって。で、でも面白かったのは基本はお金の余白だけでOKですって言ってて。
Masaさんによれば、お金がないときの起業家ほど、資金調達のために他のことがどうでもよくなり、理解しがたい動きをしがちだといいます。だから起業家にとっては、まずお金の余白をどう確保するかがとても大事なのだそうです。
一方で時間の余白については、面白そうでビジネスにつながりそうなアイデアがあれば、起業家は優先順位を全部変えてでも掴みに行けるので、あまり関係ないという考えでした。黒川さんは「確かにそうか」と納得したといいます。
大谷さんは、余白というと直感的に時間をイメージしてしまうものの、余白を感じられるのは実はお金の面かもしれず、それは起業家以外にも当てはまる可能性があると受け止めます。話は「忙しい時のインプット」から、最後はお金の余白の大切さに着地しました。
ないと資金調達に追われて他がどうでもよくなるため、まず確保が大事
なくても良いアイデアがあれば優先順位を変えて掴みに行けるので、あまり関係ない
まとめ
多忙な二人の結論は、断片的なインプットはアウトプットや自分の軸とつなげてこそ意味を持つ、というものでした。同時に、軸に縛られすぎないための寄り道や、偶然の出会いに気づくための余白も大切だと語られています。
- 忙しいときは本を1冊読み切るより、つまみ食いや運動・移動中のPodcastでインプットしている
- 断片的なインプットは、アウトプットとセットにすることで血肉になりやすい
- 知識を体重の乗った言葉にするには、自分の活動の主軸や過去の体験とつなげることが大事
- 軸が太すぎると得意技に戻る罠があるため、小説や旅雑誌など関係なさそうなものにも手を伸ばす
- おすすめ経済の中で偶然に出会うには余白が必要で、起業家にとっては時間よりお金の余白が大事だという見方も紹介された






