「薬剤師の訪問は必要ない」と言われるのはなぜ?
たいぞーさんは薬局の薬剤師として在宅医療や外来患者の対応に携わりながら、社内の新人育成や研修講師、勉強会やセミナーの開催もしています。今回の配信のテーマは、専門家が専門性をきちんと活かして働くための役割分担です。
たいぞーさんは薬剤師になって10年以上が経ち、この10年で地域の在宅医療を利用して暮らす人が本当に増えたと感じているそうです。
在宅医療の現場では、訪問看護師が自宅でケアを支え、ケアマネージャー ── 介護支援専門員。介護保険サービスを利用する人のケアプランを作り、事業者との調整を担う専門職ですが介護支援を整え、医師も必要に応じて訪問します。訪問型から通所型まで、さまざまな介護サービスもあります。
たいぞーさんは、こうした多職種連携が地域で当たり前になった時代がとうとう来たと、現場にいながら日々感じていると話します。
その一方で、在宅医療に昔から関わる中でよく耳にする言葉があるといいます。それが「薬の管理は訪問看護師さんがやってくれているので、薬剤師の訪問は必要ありません」という声です。頻度はそれほど多くないものの、今でも聞くことがあるそうです。
(薬剤師不要という声は)そんなにめちゃくちゃ頻度が多いわけではないですが、やはりまだこういった声を聞くことがあるなということを思います。
看護師が薬を管理してくれるなら、それで十分なのか
たいぞーさんは、看護師が薬の設定や整理をしてくれるから薬剤師は不要だ、と言われることにも一定の理解を示しています。薬剤の管理という観点だけで見れば、不要と言われるのもわかるという立場です。
看護師は薬の管理に加えて体調管理もしてくれるので、利用する側にとっては一石二鳥のように受け止められているのかもしれない、とたいぞーさんは推測しています。
さらに、今のところ患者さんの生活がうまく回っているなら、薬剤師が無理に割り込むのは違うとも話します。患者さんの状態や状況に応じた支援の在り方がある、という考えです。
「薬のことは薬剤師の仕事ですから」と無理くり入り込むのはちょっと違う話になるなということも思うので。
そのうえでたいぞーさんは、一度立ち止まって考えたいことがあると切り出します。看護師が薬を管理しているから大丈夫、という「大丈夫」は本当に大丈夫なのか、という問いです。
看護師の訪問時間は、薬のセットに使われていないか
たいぞーさんは、看護師を本当に幅広い専門性を持つ職種だと捉えています。訪問看護師は、患者さんの体調管理や生活の支援、医療的なケアまで、さまざまなことをサポートしています。
訪問看護師は限られた訪問時間の中で、そうした多様なケアを行うことになります。たいぞーさんは、その時間が薬の設定や整理に取られているなら、看護師が本来の専門性を発揮しきれていない状態かもしれないと指摘します。
一方で薬局が薬の管理を担う場合、薬局はもともと薬を調剤して準備する場所です。調剤した後、自宅で管理できる状態まで整理してから患者さんの家に持っていけるので、薬の整理やセットを最短の時間で済ませられるといいます。
さらに薬剤師は訪問時に、薬の効き具合や副作用の兆候がないかを薬学的な視点で確認できます。たいぞーさんは、そうした視点で患者さんを見る人が入ること自体もメリットになると話します。
薬の管理を誰が担うかによって、何が起きるかは次のように整理できます。
限られた訪問時間が薬の設定や整理に取られ、体調管理や医療的ケアといった本来の専門性を発揮しきれない可能性がある
調剤から自宅で管理できる状態まで整えて届けられるため最短時間で対応でき、効き具合や副作用の兆候も薬学的に確認できる
どちらか一方ではなく、二つの専門性を重ねる
たいぞーさんは、看護師は体の状態やケアをきちんと見てくれる職種、薬剤師は薬の働きを詳細に読み解ける職種だと整理します。この2つが合わさると、2つの職種が連携しながら患者さんと薬をより的確な視点で見ていく体制が作れるといいます。
看護師と薬剤師の役割はそれぞれ違うため、片方がいるからもう片方はいらない、とはなりにくいというのがたいぞーさんの考えです。薬剤師がいるから看護師が不要にもならないし、看護師がいるから薬剤師は不要にもなりにくい、と話します。
看護師さんは体の状態や体のケアをきちんとしてくれる。薬剤師は薬の働きを詳細に読み解くことができる。
ここからたいぞーさんは、多職種連携そのものの捉え方へ話を広げます。多職種連携とは、全員が何でもやることではないという主張です。
多職種連携では専門家が関わっている以上、それぞれが自分の専門性を集中して活かせる役割を適切に配分することが大切だとたいぞーさんは話します。それが、サービスを利用する患者さんにとって最大のメリットになると考えられています。
薬剤師は自分の専門性を多職種に伝えきれているか
たいぞーさんは、薬剤師が薬学の専門家として何を提供できるのかを、ほかの職種にきちんと伝えることが必要だと話します。薬剤師が薬のセットだけでなく、薬学の視点で患者さんに関われると理解してもらえなければ、「こっちがあるからこっちでいい」という発想から抜け出せないといいます。
たいぞーさんは「薬剤師の訪問は必要ない」という声があること自体を、薬剤師の専門的な力がまだ周りに伝わりきっていない表れだと受け止めています。
自分たちの仕事をまだまだ伝えきれてないというところになるのかなということを思いますし。
同時に、薬剤師の側も、看護師や医師、リハビリを担う理学療法士 ── 病気やけが、加齢などで低下した体の動きを、運動療法や物理療法で回復・維持させる国家資格の専門職ですなどが、どんな専門性を持ちどんな力を発揮できるのかを理解しておく必要があるとたいぞーさんは話します。
自分たちの専門性とほかの職種の専門性を組み合わせると、患者さんの生活の質をどう相乗効果でよくしていけるか。たいぞーさんは、双方向の理解がその問いを考えることにつながると述べています。
伝える
薬剤師が薬学の専門家として何を提供できるかを多職種に伝える
知る
看護師・医師・理学療法士などの専門性と発揮できる力を薬剤師も理解する
組み合わせる
互いの専門性を重ね、患者さんの生活の質を相乗効果で高める方法を考える
変わる
関わる人が多いだけの状態から、効果の高いチーム医療へ変わる
たいぞーさんは、これが実践できたとき、多職種連携は「単に関わっている人が多い状態」から、患者さんに関わる効果の高いチーム医療が実践できる状況に変わるのではないかと話しています。
最後にたいぞーさんは、今回の役割分担の話が、専門性をいかに活かすかを考えるきっかけになればうれしいと締めくくりました。
まとめ
在宅医療で「薬の管理は看護師がいるから薬剤師は不要」という声に対し、たいぞーさんは理解を示しつつも、その安心に根拠があるかを問い直しました。専門性の違う職種が役割を適切に分け、互いの専門性を伝え合うことが、患者さんにとって効果の高いチーム医療につながると語られています。
- 看護師の限られた訪問時間が薬のセットに使われると、本来の専門性を活かしきれない可能性がある
- 薬局が薬を管理すれば、調剤から自宅でのセットまで最短で対応でき、効き具合や副作用も薬学的に確認できる
- 多職種連携はみんなが何でもやることではなく、専門性を集中して活かせる役割の配分である
- 薬剤師は自分の専門性を伝え、ほかの職種の専門性も理解することで相乗効果を生み出せる



