寝起きの頭痛から生まれた「食後じゃないとあかんのか」という疑問
薬剤師のたいぞーさんは、薬局で在宅医療や外来患者対応に取り組みながら、社内の新人育成や研修講師、外部での講演も行っています。この回のテーマは「痛み止めは食後に飲まないといけない、というのは本当か」という疑問です。
疑問のきっかけは、この回の収録日の朝でした。たいぞーさんは目覚めたときに頭痛があり、寝起きすぐに痛み止めを飲みました。つまり食後ではなく、何も食べていない状態での服用です。
たいぞーさんは普段、患者さんへの服薬指導で「食後に服用してください」と伝えることがあります。患者さんの側から「痛み止めだから何か食べてから飲んだほうがいいよね」と言われ、「何か食べておいたほうがいいかもしれないですね」と応じることもあったといいます。
実際患者さんに服薬指導を行う時なんかは、食後に服用してくださいというようなことを言うことがあるけど、今実際自分は食後に服用してない。
これってほんまに、食後じゃないとあかんでやっていうことが純粋に疑問として浮かんできました。
薬の作用で胃が荒れるなら、食事は関係ないのでは?
たいぞーさんの疑問は、なんとなく浮かんだものではありません。一般的な痛み止めであるNSAIDs ── 非ステロイド性抗炎症薬の略称。ロキソプロフェンやイブプロフェンなど、痛みや炎症、発熱を抑える薬として広く使われるグループですが胃を荒らす理由を考えたとき、食前と食後で意味があるのかと感じたことが出発点でした。
たいぞーさんが思い浮かべたNSAIDsが胃を荒らす理由は、薬理作用によるものです。NSAIDsが痛み止めとして働くとき、同時に胃の粘膜の防御機能が弱まることが知られています。粘膜が弱まると、胃への刺激が強く届くようになり、胃が荒れるというわけです。
この仕組みが正しいなら、胃が荒れるのは薬を飲んだ直後ではなく、体に吸収されて痛み止めの力を発揮するのと同じタイミングになるはずです。そう考えると、飲む前に食べ物を食べているかどうかは、あまり関係ないのではないか、とたいぞーさんは考えました。
服用・吸収
NSAIDsが体に吸収され、痛み止めとして働き始める
粘膜の防御低下
作用と同時に、胃の粘膜の防御機能が弱まる
胃が荒れる
胃への刺激が強く届くようになる
仮説
吸収後に起こるなら、食前か食後かは関係ないのでは
調べてわかった、もう1つの影響「物理的な刺激」
疑問を持ったたいぞーさんは、その朝のうちに情報を調べました。すると、NSAIDsの胃への影響は薬理作用だけではなく、もう1つあることがわかりました。それが胃への物理的な刺激です。
NSAIDsは、胃に対して直接的な刺激作用を持つ薬です。そのため、胃の中が空っぽの状態で服用すると、この物理的な刺激がより起こりやすくなります。
たいぞーさんは、ここで「食前に何か食べておく」という説明の意味をとらえ直しました。食後服用の指導は、物理的な刺激を軽減するためのものであり、薬理作用を考慮したものというより、こちらの理由が大きかったと今更ながら気づいたと話しています。
薬が吸収され作用する過程で起こる。食事の有無とはあまり関係しないと考えられる
胃に直接触れることで起こる。空腹時に服用すると起こりやすく、食後服用で軽減を図る
仕組みを知ると、指導も見守り方も変わる
たいぞーさんがこの経験から得た1つ目の気づきは、薬がなぜその作用を起こすのかを正しく理解していれば、患者さんへの支援も正しく行える、ということです。
具体例として、たいぞーさんはNSAIDsの製剤の違いを挙げます。NSAIDsの中には、胃への直接的な刺激を抑える工夫がされた製剤もあります。そうした薬であれば、同じNSAIDsでも必ずしも食後服用に限定しなくてよい、と改めて理解できたといいます。
もう1つの理解は、連用のリスクです。NSAIDsが物理的な刺激と粘膜の防御機能低下という2つの経路で胃を刺激するなら、続けて服用するほど胃のダメージはかなり大きくなっていくと考えられます。
このリスクを正しく理解していれば、胃腸の症状があるときにNSAIDsの服用がどれほどの要因になっているかを見積もって対処できます。たいぞーさんは、患者さんに胃の症状が出ていないかを確認することの重要性も、自分の中で変わってくると話しています。
患者さんの「胃が痛い」をどう見極めるか
たいぞーさんの2つ目の気づきは、薬の働きを理解していると、目の前の患者さんがなぜその症状で困っているのかを、正しい視点で理解できるようになる、ということです。
たとえば、NSAIDsを飲んでいる患者さんが「胃が痛い」と言ったとき、その痛みの原因は1つとは限りません。痛み止めによる直接的な刺激なのか、粘膜の防御機能の低下なのか、あるいはその両方なのかを見極める視点があると、その後の対処が変わってきます。
患者さんが胃が痛いと言った時に、その痛みというのは痛み止めを服用していることによる直接的な胃の刺激によって起こっているのか、それとも粘膜の防御機能が落ちていることによって起こっているのか、もしくはその両方なのか。
ここを見極める視点があると、その後の対処というのが変わってくると思います。
たいぞーさんは、薬がなぜその症状を起こしているのかが見えることで、薬への対処そのものが変わるからだと説明しています。
「薬学で患者を語る」とはどういうことか
最後にたいぞーさんは、薬学の知識を活かそうとしても、薬のことを正しく認識・理解しているかどうかで、活かせる度合いが大きく変わると振り返ります。
たいぞーさんが挙げるのは、薬の働き方、製剤の特性、作用が現れるタイミングといった要素です。これらを1つずつ理解して分解し、目の前の患者さんの状態を見ながら考えることで、患者さんに起きていることを正確に読み解けるといいます。
たいぞーさんは、患者さんが薬と上手に付き合うための支援をするためにも、薬学的な視点で患者さんを読み解く「薬学で患者を語る」ことが大切だと、自身の経験から感じた朝だったと締めくくっています。
まとめ
寝起きの頭痛で空腹時に痛み止めを飲んだことから、たいぞーさんは食後服用の指導の根拠を問い直しました。NSAIDsの胃への影響を2つに分けて理解することで、製剤選びや副作用の見極めまで、患者支援の質が変わることが語られています。
- NSAIDsは、粘膜の防御機能低下と物理的な刺激という2つの経路で胃に影響する
- 食後服用の指導は、主に空腹時の物理的な刺激を軽減するためのもの
- 胃への刺激を抑える工夫がされた製剤なら、必ずしも食後に限定しなくてよい場合がある
- 連用するほど胃のダメージは大きくなるため、胃の症状の確認が重要になる
- 薬の働き・製剤の特性・作用のタイミングを分解して理解することが、患者さんを読み解く力になる



