満席の講習会を前に、なぜバイタルサインの話をするのか?
たいぞーさんは、10月25日に開催する日本在宅薬学会 ── 在宅医療に関わる薬剤師などが集まる学会。薬剤師向けのバイタルサイン講習会などの研修を行っていますのバイタルサイン講習会の講師を務めます。同時開催のインストラクター講習会も含め、いずれの会も満席となり、募集はすでに締め切られています。
講習会に向けて、参加者が「学びに来てよかった」と思えるセミナーにするため、たいぞーさんは準備を進めているところだといいます。この回は、講習会で話す内容について気持ちを温める一環として、バイタルサインの話をする回です。
より参加していただいた皆さんが、いや、これは学びに来てよかったなと思っていただけるようなセミナーが開催できるように、現在絶賛準備中というところになるんですが。
バイタルサイン講習会を定期的に開いていると、薬剤師がバイタルサインをとって患者に介入する際の困りごとを相談されることがあるそうです。研修先で知り合った人からも、一緒に働く店舗のスタッフや会社の人からも、「バイタルを取るとなると難しい」という声を聞くといいます。
聴診の音も舌の状態も「よくわからない」という悩み
たいぞーさんが最もよく受ける相談は、胸部の聴診についてです。聴診器を当てて音を聞いても、それが何の音なのかわからない、心臓の音は聞こえてもその音がどうなのか判断できない、という声です。
先日受けた相談には、吸入薬の副作用に関するものもありました。吸入薬を使っていると、舌にカンジダ ── カビ(真菌)の一種。吸入ステロイド薬の使用後などに口の中で増え、口腔カンジダ症を起こすことがありますという菌が広がって繁殖する副作用が出ることがあります。
薬剤師は副作用が起きていないかを確認し、困っているようなら対策を伝えたり、薬剤の変更を提案したりして介入します。ただ、舌に菌が繁殖しているかどうか自体を見極めるのが難しい、という相談だったそうです。たいぞーさんは、これも一種のフィジカルアセスメント ── 問診・視診・触診・聴診などを通じて、患者の身体の状態を評価すること。薬剤師が行う場合は薬の効果や副作用の確認が主な目的になりますだと捉えています。
確かに僕自身もやっていて、その聴診器を当てて音を確認して、じゃあそれがもうバシッとわかるかというと、正直わかりにくいというか、難しいなと感じる部分も正直実際はあります。
講習会を開く立場のたいぞーさん自身も、聴診で音を正確に聞き分けるのは難しいと率直に認めています。
音を聞き分けられなくてもいい、と言える理由
そのうえでたいぞーさんは、薬剤師がバイタルサインで介入する際、患者の細かな状態を音で聞き分けるような介入はしなくてもいい、できなくてもいいのではないかと考えています。もちろん、できればそれに越したことはない、という前提つきです。
理由として挙げるのは、聞こえた音や舌の状態が何なのかを見極めるのは、診断の領域になるという点です。薬剤師の専門教育では、その能力は正直磨かれていないのではないか、とたいぞーさんは話します。
じゃあ診断できんのやったらいらんのかというと、そういうことではなく、そもそも診断するのは薬剤師の役割ではないですし、薬剤師がやっていい行為でもないと僕は思ってます。
診断ができないことは、薬剤師がバイタルサインをとる意味がないことを意味しない、というのがたいぞーさんの立場です。では薬剤師は聴診器で何をするのか、という問いが次の話につながります。
鑑別ではなく「前後の変化」を見る
たいぞーさんの答えは、患者さんの変化を見ていくことが薬剤師にできるバイタルサインの活用方法だ、というものです。
症状を見て鑑別することと、変化を見ることの違いについて、たいぞーさんは薬を飲む前と飲んだ後の状態を見比べることだと説明します。本人は言葉の選び方を気にしつつ、「間違い探し」に近い感覚だとたとえています。
聞こえた音や舌の状態が何なのかを見極める。診断の領域で、薬剤師の役割ではない
薬を飲む前と後の違いを見比べる。間違い探しのように変化に気づき、薬学的に考える
前と後の違い、変化を捉えることで、薬剤師というのは十分患者さんの状態を薬学的に見ていくことができるんじゃないかなというふうに思います。
心臓の音の違いから、薬の作用を逆算する
たいぞーさんが最初に挙げる例は心臓の音です。薬を飲む前に、どんなリズムでどう聞こえていたかを把握しておくことが出発点になります。
薬をある程度飲んだあと、患者が「ちょっと調子が悪くて」と言ったときに胸の音を聞くと、最初に聞いていた音と違うことに気づける場合があります。そこから、飲んでいる薬に心臓の状態を変える作用があったかを薬理機序 ── 薬が体のどこにどう作用して効果を出すのかという仕組みのことから考え、その変化を起こしうるかを検討していきます。
たいぞーさんは、この「謎を解いていく」過程こそが、番組名にもなっている「薬学で患者を語る」ことの実践だと話しています。
服薬前
心臓の音のリズムや聞こえ方を把握しておく
不調の訴え
服薬後に患者が「調子が悪い」と言う
変化に気づく
胸の音を聞き、最初の音との違いに気づく
薬学的に検討
薬理機序から、その薬が変化を起こしうるかを考える
呼吸の音が消えたら、治療の見直しにつなげる
呼吸の音も同じ考え方で扱えます。熱が出て咳があり、咳止めや痰切り、抗生物質などを飲み始めるとき、その症状があった時点の胸の音を確認しておきます。
なんかちょっと音が聞こえるなというようなことが、それは何の音かはさておき、なんか音聞こえるような感じがするなと。
ポイントは、その音が何の音かを特定しなくてよいことです。「こんな音がするんだな」と確認しておき、一定期間服薬したあとに再び聴診して、前に聞こえていた音が聞こえなくなっていれば、薬の働きから考えて効いたと判断できます。
薬がうまく効いているとわかれば、次はその薬を続ける必要があるのか、もうやめてよいのかを医師と確認しながら、薬物治療の再検討を行う介入へ進みます。
服薬開始時、何の音かはさておき胸に音が聞こえるのを確認しておく
一定期間後、前の音が聞こえなくなっていれば薬が効いたと判断し、継続か中止かを医師と検討する
大事なのは「何のために取り、どう生かすか」
たいぞーさんは、前後の変化を捉えられれば、薬剤師は十分にバイタルサインを生かした薬学的なフィジカルアセスメントができると考えています。
難しく考えてわからないと思い込むのではなく、何のためにバイタルサインをとり、どう生かすのかというポイントさえ押さえれば、案外簡単に実践でき、より質高く患者に関われる、というのがこの回の結論です。
10月25日の講習会は5時間あるため、このあたりをさらに詳しく話し、現場での実践の勘所を掴んでもらえるセミナーにしたいといいます。今年は満席ですが、来年も開催を考えており、案内はこの放送でも行う予定だそうです。
姫路の講演会で語る、専門性を極める薬剤師のキャリア
放送の最後に、たいぞーさんは2月14日に兵庫県姫路市で自ら主催する講演会を予定していると告知しました。タイトルや会場、時間などの詳細はまだ決まっておらず、お昼の時間帯になる見込みだといいます。
講演会のテーマは、専門性を生かして患者に関わる日々の実践を通じて、薬剤師がどんな価値を届けられるかです。たいぞーさんは、専門性を極めた先のキャリアの道筋が示されていないという課題を、現場で感じているといいます。
たいぞーさんの見立てでは、薬剤師のキャリアプランはマネジメントによって形成する道筋が示されることが多いそうです。その道も大切だとしたうえで、専門性を最大限に生かしてプロフェッショナルとして患者に関わる道を極めたい薬剤師も、一定数いるのではないかと考えています。
賃金になかなか反映されにくい、だからこそそういったキャリアの道を選びにくいというような、ことが現実起こってるんじゃないかなということを思います。
やりがいや社会貢献性は感じられても、専門性の道は賃金に反映されにくい。その課題をどう解消するか、たいぞーさん自身がどんな思いで現場でチャレンジしているかを、姫路の講演会で話す予定です。
まとめ
たいぞーさんは、聴診などのバイタルサインを「音を聞き分けて診断する技術」ではなく「薬の前後の変化を捉える道具」として捉え直すことで、薬剤師でも十分に活用できると語りました。
- 音や舌の状態が何かを見極めるのは診断の領域で、薬剤師の役割ではないとたいぞーさんは考えている
- 薬を飲む前の状態を把握し、飲んだ後との違いを間違い探しのように見比べることが薬剤師の活用法
- 変化に気づいたら薬理機序から理由を考え、効果があれば継続か中止かを医師と検討する
- 何のためにとり、どう生かすかを押さえれば、バイタルサインは案外簡単に実践できる
- 2月14日の姫路の講演会では、専門性を極める薬剤師のキャリアと賃金の課題を話す予定


