1日2回の新薬追加で、何を確かめようとしたのか?
たいぞーさんは薬局で在宅医療や外来患者対応に取り組みながら、社内の新人育成や研修講師も務める薬剤師です。今回は、以前の放送で話した「薬ではないことを薬剤師がきちんと疑う」大切さを実感した事例が紹介されます。
たいぞーさんが担当したのは、血糖コントロールがうまくいかず、新しい糖尿病の薬が追加になった患者さんでした。この患者さんはそれまで1日1回服用の薬しか飲んでいませんでしたが、新しい薬は1日2回の服用が必要なタイプでした。
新しい薬は1回に2錠ずつ飲む必要があり、たいぞーさんはやや単純ではない飲み方だと感じていました。そのため、効果や副作用に加えて、患者さんが薬を適切に続けられているかも気になったといいます。
何より1日1回の薬しか今まで飲んでなかったので、1日2回服用するということが可能なのかどうか。
こうした懸念から、たいぞーさんは患者さんと電話でのフォローアップを約束しました。薬局での投薬で終わらせず、服用開始後の様子を追いかける判断です。
食欲不振は新薬の副作用なのか
たいぞーさんは、新しい薬が体で働き始めるであろうタイミングを予測し、そこに合わせて電話をかけました。すると患者さんから、数日前から食欲がガクッと落ちたという話を聞きます。
(患者さんから)全然食べる気がしないんだよねというような話を聞きました。
追加された糖尿病の薬は、副作用として食欲不振の報告がある薬でした。薬が作用し始める予測時期と症状が出た時期も一致していたため、たいぞーさんは薬の影響を疑いました。
たいぞーさんは医師に情報提供を行い、減量の提案 ── 薬剤師が患者の状態や副作用の可能性をもとに、処方した医師へ薬の量を減らすよう提案すること。最終的な処方の判断は医師が行いますをしました。医師はこの提案を受け入れ、ひとまず用量を減らして様子を見ることになりました。
減量しても戻らない食欲と、医師の別の判断
減量から数日後、たいぞーさんは症状が改善したかを確かめるため、再びフォローアップの電話をかけました。ところが患者さんの食欲は全く戻っておらず、水分もあまり取れない状態になっていました。
減量で改善しなかったことから、たいぞーさんは医師に、新しい薬を一旦中止して様子を見てはどうかと提案します。あくまで薬が原因という見立ての延長線上にある提案でした。
しかし医師の答えは、薬の中止ではありませんでした。すぐに受診してもらい、状態を精査させてほしいという判断です。
医師から返ってきたのは、薬の中止ではなくて、すぐに受診をして状態を精査させてほしいというような判断でした。
たいぞーさんが患者さんにすぐの受診を伝えると、患者さんも迅速に対応し、病院で検査を受けることになりました。
検査で浮かんだ尿路感染という別の原因
検査の結果、この患者さんには尿路感染 ── 腎臓・尿管・膀胱・尿道など尿の通り道に細菌が感染する病気。発熱や排尿時の痛みのほか、高齢者では食欲低下など分かりにくい症状で現れることもありますの疑いがあると診断されました。改めて服用薬を見直すと、以前から飲み続けていた薬の中に、尿路感染を誘発する報告のある薬が含まれていたことがわかりました。
そこで、今回追加された糖尿病の薬と、尿路感染を誘発しうる薬は、どちらも一旦中止となりました。さらに抗生剤が処方に加わり、尿路感染の治療が始まりました。
たいぞーさんは、抗生剤で症状が本当に改善したかどうかが大事なポイントだと考え、数日後にまた電話で経過を確認しました。患者さんの症状はだいぶ改善に向かい、食欲も戻って水分も取れるようになっていました。
新薬追加
1日2回・1回2錠の糖尿病薬が追加され、電話フォローを約束
食欲不振
作用時期と一致したため副作用を疑い、減量を提案
改善せず
食欲も水分も戻らず、中止を提案
受診・検査
医師の判断で受診し、尿路感染の疑いと判明
治療
関係する薬を中止し抗生剤を開始、症状が改善
上の図のように、薬の影響を疑った2回の提案のあとで、医師の受診判断によって別の原因にたどり着いています。
怪しい薬を見つけたときの落とし穴とは?
一連の対応を振り返り、たいぞーさんが痛感したのは、怪しい薬を見つけるとそこにだけ気持ちが引っ張られてしまうという落とし穴でした。いわゆる認知バイアス ── 人が判断するときに陥りやすい思考の偏り。最初に立てた仮説に合う情報ばかり重視してしまう傾向などが知られていますにあたる状態です。
たいぞーさんは、副作用を疑うこと自体は薬剤師として大切な視点だとしています。ただし、副作用にとらわれすぎると大事な兆候を見落とすことを、この症例から強く感じたと話しています。
たいぞーさんの振り返りでは、もっと早い段階で「薬だけでは説明しきれない症状があるのではないか」と考えるべきだったといいます。そのうえで、服用中のすべての薬を一度フラットに見直し、食欲不振などを引き起こしうるものが本当にないかを精査することが必要だったとしています。
新しく追加された薬の副作用だけを疑い、減量・中止を提案した
薬だけで説明しきれない可能性を考え、全服用薬をフラットに精査する
たいぞーさんは、こうした見直しができていれば、尿路感染を早めに疑って受診勧奨 ── 患者の症状などから医療機関の受診が必要と判断し、受診を勧めること。薬剤師の重要な役割の一つですしたり、感染症を誘発しうる薬の中止につなげたりと、より良い対応が取れたのではないかと振り返っています。
医師との連携は何を補ってくれたのか?
一方でたいぞーさんは、今回の事例で医師と密に連携していたことはとても良かったと考えています。薬の視点に寄りすぎていたたいぞーさんを、医師が別の専門性で補ってくれたからです。
僕が薬の視点に寄りすぎているところを、医師が別の専門性を持って補ってくれた。
まず受診して状態を精査しようという医師の判断は、その時点のたいぞーさんには全く考えていなかったものでした。その視点があったからこそ、患者さんにとって最適な治療につながったとたいぞーさんは話します。
最後にたいぞーさんは、薬の影響を疑うだけでなく、広い視野で患者さんの状態を読み解くことの大切さを、自身の実践経験を通して疑似体験として届けたいと締めくくりました。
まとめ
食欲不振を新薬の副作用と疑った事例は、医師の受診判断によって尿路感染という別の原因にたどり着きました。たいぞーさんは、副作用を疑う視点の大切さと、それにとらわれすぎる落とし穴、そして専門性の違う医師との連携の価値を振り返っています。
- 服用開始後に作用時期を予測して電話フォローし、症状の変化をとらえた
- 怪しい薬を見つけると、そこに気持ちが引っ張られて他の原因を見落としやすい
- 薬だけで説明しきれない可能性を考え、全服用薬をフラットに見直すことが大切
- 医師の別の専門性が、薬剤師の視点の偏りを補い、最適な治療につながった



