薬剤師が真っ先に「薬の影響」を考えるのはなぜか
たいぞーさんは薬局の薬剤師として在宅医療や外来患者の対応にあたりながら、社内の新人育成や研修講師も務めています。今回のテーマは、薬剤師が患者から相談を受けたときに、薬の影響を判断するうえで陥りやすい落とし穴です。
たいぞーさんによると、薬剤師は日々さまざまな場面で、患者から健康や体の困りごとについて相談を受けます。そうした話を聞くと、薬剤師には「使っている薬の影響かもしれない」という視点が自然に湧き上がってくるといいます。
ここでいう薬の影響には2つの面があります。1つは、作用機序 ── 薬が体のどこにどう働きかけて効果を出すのかという仕組みのこと。薬の効き目や副作用を考える基本になりますから見て薬がきちんと効いているかどうか。もう1つは、副作用のように薬が体に悪さをして症状が起きていないかどうかです。
これ(薬の影響を考えること)が、薬剤師として薬学的な視点で患者を見ていく上で、真っ先に浮かんでくること、そしてとても重要な視点かなというふうに思います。
ただし、たいぞーさんは同時に、この「薬かもしれない」という視点が強くなりすぎると、判断が歪んでしまうことがあると指摘します。
「薬が原因のはず」という前提が受診を遅らせる
たいぞーさんが挙げる判断の歪みは、薬が原因にあるはずだという前提で情報収集を進めてしまうことから始まります。そうすると、薬の影響を裏付ける情報ばかりに目が行ったり、ごく細かな情報を拾って「目の前の患者にそれが起きている」と判断してしまったりします。
たいぞーさんは、これを認知バイアス ── 思い込みや先入観によって、物事の判断が無意識のうちに偏ってしまう心理的な傾向。自分の仮説に合う情報ばかり集めてしまう「確証バイアス」もその一種ですの一種に陥る状態だと説明しています。
薬が原因だと思い込んだときの判断の流れは、次のように整理できます。
前提
薬が原因にあるはずだと考えて情報収集を始める
情報の偏り
薬の影響を裏付ける情報や、細かな可能性ばかりを拾う
誤った判断
目の前の患者にその影響が起きていると判断してしまう
結果
必要な受診や検査のタイミングが遅れることもある
さらにたいぞーさんは、患者自身が「薬のせいだ」と思って薬剤師に相談してくる場面もあるかもしれないと話します。その場合、薬剤師と患者の双方が薬に固執し、視点を曇らせてしまうおそれがあります。
そこでたいぞーさんが大事だとするのは、薬が原因かもしれないという視点と同じぐらいの重みで、薬ではないという可能性も丁寧に検討することです。
たいぞーさんによれば、薬の影響を慎重に判断するのは当然大事なことです。一方で、薬が影響していないと早く判断できれば、その分だけ患者を適切な専門職につなげるスピードが上がるといいます。
疑いを晴らすことも薬剤師の仕事
たいぞーさんは、薬のプロとして薬の影響を考えることは当然大事だとしたうえで、薬が原因ではないと判断する力も同じぐらい重要だと強調します。
たいぞーさんが示す評価の仕方は、薬が影響している可能性の大きさだけを見るのではなく、無関係である可能性の大きさも同時に天秤にかけるというものです。
作用機序から効果を考え、副作用で症状が起きていないかを検討する
無関係である可能性の大きさを評価し、早く判断できれば適切な専門職へつなげる
(影響と無関係の可能性を)天秤にかけながら評価していく。それがプロとしての視点、思考であり、それを決断して対応していくのが、プロの仕事なのかなというふうにも思います。
たいぞーさんは、今回の放送が「薬ではない」と判断することの重要性を考えるきっかけになればと締めくくっています。
まとめ
薬剤師にとって薬の影響を疑うのは自然で重要な視点ですが、それが強くなりすぎると認知バイアスに陥り、受診や検査を遅らせかねません。たいぞーさんは、薬ではない可能性も同じ重みで検討し、疑いを晴らすこともプロの役割だと語っています。
- 相談を受けた薬剤師は、薬の効果と副作用の両面から影響を考えるのが自然な出発点
- 「薬が原因のはず」という前提は、裏付け情報ばかり集める認知バイアスにつながる
- 薬剤師と患者の双方が薬に固執すると、必要な受診のタイミングが遅れることもある
- 影響がある可能性と無関係な可能性を天秤にかけ、決断して対応するのがプロの仕事



