在宅医療で避けて通れない褥瘡という問題
たいぞーさんは薬局で在宅医療や外来患者に対応しながら、新人育成や研修講師、勉強会・セミナーの開催にも取り組んでいる薬剤師です。
今回のテーマは褥瘡褥瘡 ── 床ずれのこと。長時間同じ姿勢で圧迫が続くと、皮膚への血流が悪くなって生じる皮膚や組織の損傷。寝たきりの人に起こりやすい。です。先日、褥瘡の勉強会に参加した経験がきっかけになっています。
在宅医療で関わっていると、寝たきりの状態にある患者と対応することが多くなります。同じ姿勢で過ごし続けると皮膚への血流が悪くなり、褥瘡が生じてしまうことは珍しくないといいます。
発生を防ぐため、介護職の人が定期的に体の圧力がかかる場所を動かして分散させたり、耐圧分散ができるエアマットのような介護用具を使ったりと、さまざまな工夫が講じられています。
それでも褥瘡は栄養状態などにも左右されるため、完全に避けて通ることは難しい面があると、たいぞーさんは話しています。そして褥瘡が発生した際には塗り薬を使って対処していきます。
塗り薬の主役は薬ではなく「基剤」
たいぞーさんが強調するのは、褥瘡の塗り薬、ひいては塗り薬全般に言えることとして、成分のほとんどが薬そのものではないという点です。
薬の成分は、その軟膏の中に数パーセント混ぜ込まれているだけだといいます。ただし、その数パーセントでも力を発揮するほど強力なものが混ぜ込まれています。
つまり、全体に占める割合のほとんどは基剤であり、この基剤をどう選ぶかが治療の鍵になる、という話です。
油・水を与える・水を吸う―基剤の使い分け
たいぞーさんは、基剤には大きな特徴があり、ざっくり3つの種類に分けられると説明します。油の成分を中心に含んだもの、水分を皮膚に与えるもの、水を吸収するものです。
油を中心とした基剤は、皮膚に塗ると表面に油の膜を張ります。表面を保護し、皮膚側の水を逃さないように守る、つまり水を保持する役割があります。
そのため乾燥した場所に塗ると、それ以上水が外へ逃げなくなります。体の自浄作用で水分がしっかり保持され、皮膚の状態が良くなっていく、という治し方につながります。
一方で、水分がカラカラになくなっているような場所には、水気を足してあげる浸透性の基剤を使うこともあります。
さらに、怪我などでジュクジュクした皮膚の状態のときには、その水気を吸い取ってあげる必要があります。ジュクジュクした状態が必要以上に続くと、皮膚の再生がしにくくなってしまうためです。
油性の基剤で膜を張り、水分を逃さず保持する。浸透性の基剤で水気を足すこともある
水を吸収する基剤で余分な水気を吸い取り、皮膚の再生を促す
傷口を治すには、適度な水気、つまり湿潤環境湿潤環境 ── 傷口を適度に湿った状態に保つ環境のこと。乾燥させすぎず、余分な浸出液もためすぎないことで、皮膚や組織の再生がスムーズに進むとされる。を整えることが大事になってきます。だからこそ、基剤を傷の状態に応じて使い分けることが、傷を早く治すうえで重要な要素になります。
製剤学は薬剤師だからこそ深く学ぶ領域
たいぞーさんによると、こうした基剤の特性を学ぶのは、薬学部の製剤学製剤学 ── 薬の成分をどのような形(錠剤・軟膏・注射剤など)に仕上げ、体に届けるかを扱う学問。基剤の性質や薬の安定性、効き方の設計などを研究する薬学の専門分野。という科目です。他の学部では細かく学ぶ機会が少ないと言われている領域です。
そのため薬剤師は、基剤と言われれば「あの基剤ということはこういうことだね」とピンと来るくらい、教育の中でしっかり教わっています。
結果として、この傷の処置に適した軟膏基剤は何かを選んでいくことができるようになる、とたいぞーさんは話します。
褥瘡治療では、傷の状態を踏まえた薬そのものの選択に加えて、薬と軟膏基剤をうまく組み合わせて、より効果的な治療を選択できることが薬剤師の活躍のポイントだと述べています。
「あの傷が治るなんて」―家族から感謝された経験
たいぞーさん自身、褥瘡の状態を見て創の状態に合わせた軟膏基剤の提案をすることで、傷がびっくりするほど綺麗に治った経験があるといいます。
褥瘡は患者自身も痛みを伴います。さらに、治らなければ処置をし続ける介護者の負担も大きくなります。
以前、褥瘡で介入した患者の家族からは、深く感謝されたと振り返っています。
あの傷が治るなんて本当によかったと思う。直してくれてありがとうございます。
たいぞーさんは、褥瘡治療は薬学の専門性を活かせる場面が多く、薬剤師が積極的に介入していくべきだと考えています。
そのために重要になるのが、実際の傷口を見ることです。傷口を見て、その状態に応じて自分の専門性を活かして判断し、医師と処方を検討していくことが、患者の過ごしやすい生活を守ることにつながる、とまとめています。
まとめ
褥瘡の塗り薬は、成分の大半が軟膏基剤で占められています。その基剤を傷の状態に応じて使い分けるという製剤学の知識が、薬剤師が褥瘡治療で活躍できる要になる、というのがこの回の中心でした。
- 寝たきりの患者が多い在宅医療では、褥瘡は工夫を重ねても避けきれない問題として現れる
- 塗り薬の薬効成分は数パーセントで、残りのほとんどは軟膏基剤が占めている
- 基剤は油性・水を与える・水を吸うの3系統に分けられ、乾燥やジュクジュクなど傷の状態で使い分ける
- 基剤の特性を深く学ぶ製剤学は薬学部特有の領域で、薬剤師の専門性が活きる根拠になっている
- 傷口を実際に見て状態に合った基剤を提案し医師と検討することが、患者と介護者双方の負担軽減につながる



