人口が減っても地方は豊かになれるのか?
最初の話題は、木下斉さんが考える地域開発のコンセプトです。川邊健太郎さんは、人口が縮むことを前提にしながら地域を盛り上げるスマートシュリンク ── 人口減少を前提に、都市や地域の規模を計画的に縮めながら暮らしの質を保とうとする考え方のような発想なのかと尋ねます。
木下さんの答えは、日本の地方の形そのものが特殊だという指摘から始まります。日本の地方は、足りない分を外から持ってくることを前提に運営されてきました。一方でヨーロッパなどの豊かな地方は、農林水産業の基盤が前提にあるといいます。
木下さんが問題視するのは、都市と地方の不均衡です。都市部の生活者は安く物を買いたいが、生産はしていない。地方は食べるものを作っているのに、その価値が十分に支払われていない構図があると話します。
地方が豊かになるためには、東京で牛乳1パック2,000円ぐらい払えば北海道が超潤うわけですよ。
ただ、日本は少しの物価上昇にもみんなが震え上がる国になっており、政治家も支持率を気にして手を出せないと木下さんは見ています。そこで鍵になるのが輸出です。ヨーロッパの農林水産業も国内需要だけでなく輸出をしているといいます。
木下さんが典型例に挙げるのが、北海道でホタテ漁を営む猿払 ── 北海道北部、宗谷地方の村。ホタテの水揚げで知られ、漁業を基盤に高い所得水準を持つ地域として話題になることがありますです。地の果てのような場所にありながら、ホタテの貝柱漁で大きく稼いでいるといいます。
国内にこだわらなければ、農林水産業製品は世界中に売れる話なので。だから日本の人口減とかあまり関係ない。
では、なぜみんな地方の人口問題を口にするのか。木下さんによれば、根本的には交付税 ── 地方交付税のこと。国が集めた税の一部を、財政力の弱い自治体に配分する仕組みで、人口などをもとに額が算定されますが減らされるからです。予算をあてにして地域を回してきたため、人口が減るとその前提が崩れてしまいます。
木下さんは、必要な人員体制を根本から変えることが地方の維持管理でも重要だと話します。外に払う電気や燃料などの「外貨」を生産で稼ぎつつ、払う側のコストを技術革新で下げれば、少人口でも地域の生存可能性は相当高まるという見立てです。
不動産が安くなると、商売は何でもできるようになる
木下さんは自身のキャリアを「行き当たりばったり」と表現します。商店街から始まり、温泉街が出てくれば温泉街で事業をし、今は農村などの持続可能性の設計にも関わっています。
木下さんが繰り返し強調するのは、物件価格が下がることの効果です。物件が10億円と言われたら何の商売もできないが、300万円に下がれば外から人が入り、商売や宿泊施設を始める人が出てくるといいます。
それ(物件価格)が300万とかに下がると何でもできる。
川邊さんは、前々回のゲストだった鳥貴族 ── 全国展開する焼き鳥チェーン。均一価格のメニューで知られますの大倉忠司さん書き起こしでは「奥田さん」の話を引きます。地価が下がったことが商売の拡大に大きくつながったと語っていたそうで、川邊さんも「それは絶対そうでしょうね」と同意します。
木下さんは、コストが高止まりしている前提では地方で何をしても難しかったが、コストが小さくなることでやれることが増えると話します。田舎でも都市部でも、やり方を変えることが次の10年の仕組みを考えるうえで大切だという見方です。
物件が10億円規模で、コストが高止まりし何の商売もできない
300万円程度に下がり、外から人が入って商売や宿泊業を始める人が出てくる
5世帯の水道に8億円、地方インフラの限界
川邊さんは、木下さんが仲間内で「ソロプレナー」の話をしていたことに触れます。木下さんは中小企業の社長と知り合いが多く、会社経営のモデルが大きく変わっていくと感じているといいます。
木下さんの関心は会社にとどまりません。行政や農村集落の経営でも人手不足がボトルネックになっていますが、人がやらなくてよいことが拡大すれば、その前提も変わると考えています。
木下さんが例に挙げるのが水道です。半世紀ほど前は、集落の水道を役所がやっておらず、住民が沢の水を引いてきていたといいます。今は行政の水道に多くの人員と費用がかかっています。
集落5世帯あるところのパイプがもう50年ぐらい経って古くなったから、じゃあ置き換えようって言って、5世帯のために8億円の見積もり来るみたいな。
さらに木下さんは、衛星から漏水を察知できるようになった現状にも触れます。スキャンするとかなり漏水しているのに、直すお金がないため見なかったことにする例がたくさんあるそうです。
木下さんは、ソロプレナーのように会社の経営モデルが変わるのと同じく、社会の運営体制そのものが変わっていくのではないかと考え、そこに強い関心を持っていると話します。
中国はAIで統治される?会社は「目的とスキルとデータ」の塊
ここから川邊さんは、AIによる変化を「マクロ」と「ミクロ」の両面から語ります。マクロの話として川邊さんが挙げるのは、中国政府や中国共産党が最初にAIによるガバナンスへ移行するのではないかという見立てです。
川邊さんによれば、中国は皇帝と官僚制で広い国土と多様な人々を治めてきました。官僚制の仕事は、警察が人を逮捕するような場面を除けば、要するに書類仕事であり、それは根こそぎAI化されうるといいます。
その人災でなんか変な文化大革命とかやられるぐらいだったら、もう別にAIがそのやってくれた方がいいわみたいに、人民の納得を得ながらそっちに移行していくみたいなことは全然あるんじゃないかなって。
マクロでそれが可能なら、ミクロの会社単位では余裕でできる、と川邊さんは続けます。川邊さん自身、一人会社を起業し、実際にAIで組織を作っています。
川邊さんの会社の組織は、Discord ── チャットやボイス通話ができるコミュニケーションアプリ。サーバー内にチャンネルを作って話題ごとに会話を分けられますの中に経営部や開発部といった部署を作り、MCP ── Model Context Protocol。AIモデルを外部のツールやデータにつなぐための共通規格接続でClaudeなどのAIが入って動く形です。契約書を作ってと頼めば、Discord上で契約書ができるといいます。
それって別にこのLINEヤフーにいて、こういう契約するんで契約書を作ってくださいって言って、その法務部の人にSlackで言ってたのと何にも変わりがないんで。
そこから川邊さんは、会社とは何かを考え直します。会社は、目的があり、それを実現するスキル、データ、積み重ねてきたコンテキストの塊だというのが川邊さんの整理です。
これまでは人間の頭の中や文書でその動的な平衡を保っていましたが、今後はシステムとAIで保てます。川邊さんは、目的を指し示すことが人間の役割として残り、それ以外はほぼAIでよくなると見ています。
川邊さんは、人間がやる組織とAIだけの組織の違いは、AIのコストで回収できない場合に人間がやる、という形になると考えています。木下さんはそれを「基本はAIからスタート」と言い表しました。
一方で川邊さんは、AIができないことだけ人間がやるのはプライドが許さない、仕事が奪われるのが怖い、といった理由でAIを使わせない「人間っぽいこと」がたくさん起きているとも指摘します。
AI導入が早いのは地方の中小企業、遅いのは大企業と役所
木下さんは、地方のプロジェクトや企業は人手不足だからこそ、AIが適切に導入されるチャンスがあると話します。川邊さんも、今回の地方視察で、案外AIが導入されていると感じたそうです。
川邊さんが視察で見たのは、出来のいい後継ぎが事業を引き継ぎ、AIを使って伸ばしている会社でした。そもそも後継ぎの出来が悪ければ先代が事業を終わらせている、という事情もあると二人は話します。
一旅終えて帰ってきた感想は、地方の人手不足で、出来のいい後継ぎがいる会社の方がAI駆動化が早く進むな。
木下さんも、農業や酪農でもやっている人はやっていると応じます。高度なフィジカルAIでなくても、電気製品の制御を自分でプログラムしたり監視したりする手間がAIで代替されつつあり、集落の生存可能性は高まっていくと見ています。
反対に川邊さんは、人が豊富な大企業、いわゆるJTC ── Japanese Traditional Companyの略。年功序列などの慣行を持つ日本の伝統的な大企業を指す、ネット発の俗称の方が進まないのではないかと話します。自分の仕事がなくなる恐れや、学ばない姿勢がAIへの代替を阻むという見立てです。
人手不足で人がいない。出来のいい後継ぎがAIを使って事業を伸ばしている
人がいるため、仕事を失う恐れや責任回避の意識がAI導入を阻む
木下さんは、役所もAI導入が進むところと進まないところの差が大きく出てきていると加えます。川邊さんは、役所は現状を変えたくない、責任を取りたくない、怒られたくないという意識が強く、SNSの発達がそれを悪化させている面もあると話します。
川邊さんが例に出すのが、鹿児島で電気系統の工事やメンテナンスを手がける大手企業の後継ぎです。自社ではAIで高精度の故障予測をして成果を出しているのに、最大の顧客である行政には「今まで通りやってくれ」と言われるそうです。
自社では使ってるのにお客さんには使えないみたいなとこはやっぱいっぱい平気であるんですけど、その最大のお客さんの行政っていうのは、なんかやっぱ暗澹たる気持ちに。
役所が変わるのは「引き受け手がいなくなった」とき?
木下さんは、役所が変わる決定打は引き受け手の不在だと見ています。地方では人口が減るスピードより、働く側の生産年齢人口 ── 15歳から64歳までの人口。労働の担い手となる年齢層の目安とされますが減るスピードの方が速いからです。
受注側の会社もいずれ、役所の仕事を受け続けるかを経営判断することになります。川邊さんは「そこに人を貼り付けられない、こっちはAI化したから」となるはずだと応じます。誰も引き受けなくなって初めて変わる役所が多いだろう、というのが木下さんの予想です。
それってすごい愚かなことですよね。そうならないと変われないって。
木下さんは、それが当事者性のない組織の特徴だと話します。中小企業にはオーナー一族がいて長い先を見ていますが、役所の担当者は目先の数年で自分が責任を取らずに済むことを優先しがちです。
さらに政治家も選挙を見ているため、本来は最も長期的に続くべき行政機構が、最も短期的な思考になっていると木下さんは指摘します。
ただし、トップが決めればやれるところもあり、自治体間の差はこれから開いていくと木下さんは見ています。役所全体は無理でも、集落単位や商店街なら、電気やエネルギーも含めて変えていける余地があるといいます。
川邊さんは、その余地を生かすには人材が重要だと話し、木下さんが10年続けているスクールを高く評価します。館山に住み、狩猟で各地のローカルを訪ねる川邊さんは、地域おこし協力隊 ── 都市部から過疎地域などに移住し、地域協力活動に取り組む人を自治体が委嘱する国の制度の出身者が一人いるだけで地域が全然違うと実感しているそうです。
AIを使いましょうよってちゃんと思考としてあって、あわよくばその使い方も知ってるような人が入ると、もうめっちゃ変わるなっていう。
ドイツの山奥とキャンピングカーの旅に見る、インフラの自給
木下さんは、これまで「このままでは無理」と詰んでいた地域の話が、「ここは結構いける」に変わりつつあると話します。小さく試してわかったことを、複数の地域で実装していく段階に入っているという見方です。
木下さんが例に挙げるのはドイツの山奥です。小さな木質ボイラーを作り、DIYで道路に管を通して各家に熱交換器を入れ、みんなで暖め合っている地域が普通にあるといいます。
日本では役所がやると熱供給事業の基準に従い、大都市並みの計画を立てるため採算が合いません。木下さんは、今なら制御もコンピューター管理で集落単位で簡単にでき、大々的なベンダーはいらないと話します。
小さな木質ボイラーをDIYで作り、管を通して各家で暖め合う
熱供給事業の基準に沿って大都市並みの計画を立て、採算が合わない
川邊さんは、AIとは別に、キャンピングカーでの旅でインフラの重要性を痛感したと話します。旅の間に常に気にするのは、ガソリン、電力、トイレの3つでした。
特に印象的だったのは、震災後の熊本県八代を訪れたときです。物見遊山の人が現地のインフラを使うと批判されかねないため、ガソリンは事前にこまめに給油して現地では一切給油せず、通信はスターリンク ── SpaceXが運営する衛星インターネットサービス。空が見える場所なら山奥でも通信できます、電源は車載の電源でまかなったそうです。
供給を受けながらやってたタイミングと、全く供給なしに自分だけでやったタイミングが両方経験できて思ったのは、多分まあそんな地方なんてもっとグリッド化してやっていきゃいいじゃんっていう。
オフグリッドと地域の「お金の流出」を止める発想
木下さんは、川邊さんの実感に同意します。アメリカやハワイにはオフグリッド ── 電力会社の送電網などに頼らず、太陽光発電や蓄電池などで電力を自給する暮らし方のゾーンがたくさんあり、日本でもオフグリッドゾーンは十分ありうると話します。
海外では職人を呼べない前提でDIYが基本だと木下さんはいいます。ハワイでは雨水を貯めて飲み水にするレインキャッチングシステムがホームセンターで普通に売られており、今なら水質センサーとAIで安全かどうかも簡単に判断できるといいます。
木下さんは、奈良県の東吉野で活動する人から聞いた話を紹介します。町の予算は20億円ほどですが、町の人たちが払っている電気、ガス、ガソリン代の総額は、その3倍ほどになるそうです。
自前の電力会社を持つ村はほとんどないため、そのお金は地域の外に流れ出ています。木下さんは、エネルギーを適切に分散するだけでも、地域に残る現金が増え、生存可能性が高まると考えています。
木下さんは、中小企業も同じだと続けます。法務担当がいない中小企業でも、AIで契約書を作り、重要なものだけ顧問弁護士に確認し、毎月の請求まで任せられます。人を雇えないからスケールできない、という前提が変わると話します。
川邊さんは、どんな山奥でもスターリンクがあればそれができると応じます。空さえ見えれば配信もでき、AIとも話せたそうです。
そういうグリッドがとかなんとかも、もうDIYでやる方法とかも、みんなYouTubeとかで共有してるわけじゃないですか、世界的に見ると。そういうのを全部AIが学習してるから。
木下さんは、地域経営もAIと伴走しながら検討できるようになると話します。各家にHEMS ── Home Energy Management Systemの略。家庭の電力使用を見える化し、家電などを制御して省エネにつなげる仕組みをつければ状況がわかり、シンクタンクに調査を頼む必要もなくなってきたといいます。
木下さんの見立てでは、上から降ってくる政策や制度を待つより、現地で低コストに創意工夫を回すところがどんどん前に進み、上からの施策を期待するところは立ち遅れていきます。
細かな規制にはどう立ち向かう?「ひっそりやる」という知恵
ここで川邊さんは、自身の経験から切実な問いを投げかけます。AIで自由にやれるようになっても、以前の時代の規制や省令が邪魔をするのではないか。ライドシェアの規制改革に取り組んだ川邊さんは、結構絶望視しているといいます。
木下さんの答えは「どさくさでやるしかない」というものです。実は村長などの首長の権限は大きく、多くの法制度には首長が認めればできる例外条項があるといいます。
木下さんによれば、面白い取り組みをしているのは市より村や町の単位が多いそうです。数千人から2、3万人規模ならトップはほぼ全員と顔見知りで、どうにかなる場面が多いからです。
木下さんが例に挙げるのが、岩手県紫波町の公民連携 ── 行政と民間企業が役割を分担して、公共施設やまちづくりの事業を進める手法事業です。木下さんも初期から関わってきた取り組みで、当時の藤原町長は「改革します」とは一切言わず、表ではとぼけたような岩手の方言で同じ説明を繰り返していたといいます。
しかし藤原町長は実際にはとてもクレバーで、ありえないPFI ── Private Finance Initiativeの略。公共施設の建設や運営に民間の資金とノウハウを活用する手法事業を実現させました。ルール上はPFIのコンサルティング会社を入れることになっており、木下さんはそれも利権だと指摘します。
紫波町は十数年前、火葬場の建て替えに必要なお金がなく、民間が建て替えて1体あたりいくらを払う形のPFI事業を行いました。計画は町の職員が自分たちで制度を書き、事業者の募集から契約まで自前で進めたそうです。
何のためにね、大学まで出たやつ雇ってるんだと。読み書きできるから雇ってるんだと。
藤原町長の言葉として木下さんが紹介するのは、わからなければ他の自治体に電話すればいいという考えです。公務員は同業者に親切で教え合うため、それで書類は作れ、結果としてPFIの協会で賞まで受けたといいます。
省令には書いてあっても、やったら逮捕や実刑になるとまでは書いていません。一度ケースができて良いとなれば「そういうパターンもある」と認められていく、と木下さんは話します。ボケたふりがすごく大切だと学んだそうです。
川邊さんは、実際には町長がリスクを取っているのであり、覚悟を持った人が欠かせないと指摘します。木下さんによれば、藤原町長はリンゴ農家から創業し、北東北でも五指に入る運送会社を育てた経営者で、何が起きても怖くないという自信があったといいます。
地元の医療関係者などから反対の声が上がっても、藤原町長は気にせず進めたそうです。木下さんは、切れ者を装わない振る舞いは町や村の規模なら通じるが、市になると意見が多様で睨みが効きにくいと話し、本丸ではなく「外様の外様」でひっそりやるのが面白いと語ります。
川邊さんはなぜ技術に戻り、地方に目を向けたのか?
今度は木下さんが川邊さんに問いかけます。数十年組織の中で働いてきた川邊さんが、ソロプレナーとして新しい働き方に切り替わり、インターネットが登場したときと同じ興奮があると話していた。その興奮度はやはり違うのか、という質問です。
いやこれはだからもう大盛り上がりですよ。
川邊さんは、ライドシェアの規制改革の結末を受けて自分なりに考えたといいます。柄にもないことを3年ほどやってしまったと振り返り、これまで楽しく成果を出せたのは、インターネットという技術革新の上に乗っていたからだと気づいたそうです。
政治の世界はレバレッジが効きにくく進みも遅い。もう一度技術に立脚したことをやるほうが自分らしいと考え始めたとき、生成AIがスパークし始め、そこに飛び乗ったと川邊さんは話します。
きっかけは、バイブコーディング ── AIに自然言語で指示を出し、細かなコードを書かずにソフトウェアを作る開発スタイルを見たことでした。ウェブサービスやアプリを作ってきた川邊さんにとって、ボトルネックはエンジニアの確保でした。それが解放されれば好きなサービスを作りまくれると考えたといいます。
ところが退任の準備をしていた頃、「SaaS is dead」というトレンドが現れます。AIの成長が想像以上に速く、ちょっとしたサービスはサービス化される前に、課題を持つ人とAIの間で解決されるようになってきたのです。
おやおやと。あの、自分が出る幕、これなくなるんじゃないかっていうふうに思って。
エンジニアが失業の憂き目に遭い、さらにはインターネットサービス事業者自体もAIに淘汰されかねない。それを見た川邊さんは、AIから遠い事業をAI駆動化して利益率を上げる方が、AIの射程で殺されないだろうと考えました。
技術に戻る決意
ライドシェアの規制改革を経て、技術に立脚した仕事が自分らしいと考える
バイブコーディングとの出会い
エンジニア不足が解消され、サービスを作り放題になると期待する
SaaS is deadの衝撃
小さなサービスはAIと利用者の間で解決され、出る幕がなくなると感じる
AIから遠い事業へ
地方の事業をAI駆動化する方が生き残れると考える
川邊さんはもう一つの背景も語ります。ネットで「ソロプレナーで儲かった」とされる事例を調べると、ほとんどが情報の非対称性を利用して鞘を抜くせどり ── 安く仕入れた商品を高く転売して利益を得る手法。もとは古書の転売を指す言葉だったそうです。
川邊さんはせどりではなく、小さくても事業をAI駆動で回して利益を出したいと考えました。条件を詰めると地方に機会が多そうだと見て回ると、人手不足のまま黒字倒産しかけている事業者が多くいたといいます。
大体そういうのってほら、地方の地方で必要とされてるものが多いじゃないですか。
そうした事業がAIの力で続けば、地域のためにもなり意義も深い。川邊さんはそこを狙いに行っていると話します。
B5ノートの予約台帳から、笑っちゃうような村へ
木下さんは、地方産業で必要とされる人員モデル自体が集まらず成り立たない一方、人がかけている作業には「なんでそんなことを」と思うものも多いと話します。今でも女将がB5のノートに予約を書いている宿はごまんとあるといいます。
木下さんによれば、これまでコンピューターを扱える人は、いわば特権階級のような存在でした。それがタイピングもフリック入力もなく、音声だけでほぼ何でもできるようになり、コンピューターが民主化されつつあると話します。
今なんでB5で書いてるかって言ったら、コンピューターの操作法を覚えるっていうこと自体ができなかった。
商店街や地方に約30年関わってきた木下さんにとって、それが最大のネックでした。加えて、高額な初期費用の壁もありました。今は人件費よりトークンの方が安く、自分たちで変更をコントロールできるため、残れる企業は多いと木下さんは見ています。
操作法を覚えられず、初期費用も高いため、人を雇うか紙のノートで回す
音声だけで扱え、人件費よりトークンが安く、自分たちで変化をコントロールできる
木下さんは、集落も同じだと話します。国、都道府県、市町村が決めたインフラ基準に合わない地域は維持できないと諦めてきましたが、自分たちで自律的に運営できれば、入ってくる収入と出ていく支出をコントロールできるといいます。
川邊さんは、フィジカルAIが発達すれば必ずそうなると応じ、木下さんはそれをいち早くやりたいと語ります。そして川邊さんが口にしたのが、この回を象徴する一言です。
木下さんは「こんなのできちゃうの?」と思わせる村のことだと受け止め、静かに村長を巻き込んでどこかでやるのがよいと応じます。川邊さんが「何かあったらぜひお誘いください」と返し、会食は締めくくられました。
まとめ
人口減少が進む地方でも、生産で外貨を稼ぎ、エネルギーや水などの支出をAIとDIYで下げれば、小さな地域は自立できる。木下斉さんと川邊健太郎さんは、規制の壁は首長を巻き込んで「ひっそりやる」ことで越え、人を驚かせるような村をつくろうと語り合いました。
- 地方が豊かになる鍵は農林水産業の輸出と、外へ流れ出る電気・ガス・ガソリン代などの支出を減らすことにある
- 人手不足の地方の中小企業ほどAI導入が進み、人が余る大企業や役所ほど変化が遅いと二人は見ている
- 規制には首長の例外権限を使い、モデル事業と言わずにひっそり実績を作るのが有効だと木下さんは話す
- 川邊さんはAIから遠い地方の事業をAI駆動化することに、生き残りと地域貢献の両面で意義を見出している






