大阪万博のアンドロイドに着せた「皮膚」とは?
川邊さんが「今いちばん夢中になっている仕事」を尋ねると、廣川さんは大阪万博への参加を挙げました。廣川さんが関わったのは住友館と、石黒浩さんの「いのちの未来」館の2つのパビリオンです。
いのちの未来館で廣川さんが手がけたのは、アンドロイドの皮膚と骨格のように見える衣装でした。テーマは「1000年後の未来の人間」で、人間の服を作ってきた廣川さんにとって、ロボットが着る服を作るのは初めての経験だったといいます。
要は今まで人間の服作ってきたじゃないですか。ロボットが着る服を初めて作ったんですけど、それはテーマが1000年後の未来の人間みたいな。
川邊さんも実際に会場でこのアンドロイドを見ていて、「着ているというより皮膚ですよね」と反応しています。廣川さんは、今の技術の中でどう表現するかを考えながら、やりたいようにやらせてもらえた仕事だったと振り返ります。
ロボットが本当に社会に出てくるかはわからないとしつつ、石黒さんは「間違いなく出てくる」と考えているそうです。廣川さんは、ロボットがあらゆる場所にいる社会になるなら、外装のデザインが重要になると感じたと話します。
(ロボットが)今後はもしもっとたくさん出てくるとしたら、なんか外装、ロボットの外装デザインとかすごい楽しいかも。
人型ロボットが何億台も出回る時代の外装ビジネス
廣川さんの「外装デザインは楽しいかも」という言葉に、川邊さんは「楽しいし儲かっちゃうかもしれない」と返しました。根拠として挙げたのが、イーロン・マスク ── テスラやスペースXなどを率いる起業家。テスラでは人型ロボット「Optimus」の開発を進めていますさんの発言です。
川邊さんによると、イーロン・マスクさんは10年後に何億台もの作業ロボットを出すと言っているそうです。主な用途は工場ですが、家庭に入ってお手伝いをするロボットも想定されていて、アーム型ではなく人型のアンドロイドだといいます。
(イーロン・マスクは)もう電気自動車じゃなくて、そっちにだんだん作るのを切り替えていくって宣言してるんで。
川邊さんは、iPhoneの中にSONYやTDKなど日本メーカーのセンサーが多く使われて利益を上げているように、ロボットの肌の分野でも同じことが起きるかもしれないと話します。
人型ロボットの量産
作業ロボットが工場や家庭に何億台も出回るという構想
外装の需要
あらゆる場所にロボットがいれば、外装デザインが重要になる
日本企業の出番
iPhoneのセンサーのように、肌の分野で日本の作り手が稼げるかもしれない
廣川さんも、ドラえもんのようにロボットのアイデアを出し続けてきた日本は、ロボットが得意な国だと応じました。
犬に服を着せる人たちは、ロボットにも服を着せる?
ロボットの皮膚を廣川さんが提供するとしても、人はその上にさらに服を着せるはずだ、と川邊さんは予想します。たとえに出したのはペットの犬でした。
やっぱ犬に服着せちゃう人たちですから。どう考えても犬の立場で立つと暑いだけなのに。
ロボットが家族の一員のようになれば、皮膚と服の両方を出せるのではないか、というのが川邊さんの提案です。少子化が止まらない中で、子どもよりロボットのほうが多い世界になるかもしれないとも話しています。
川邊さんは、東京ではすでに子どもの数より犬猫の数のほうが多いと話し、ペットの服を作るのもいいのではと勧めました。廣川さんは驚きつつ「なるほど」と受け止めています。
アンドロイドの衣装は「完全な服」だった
川邊さんが万博のアンドロイドに新素材を使ったのかと尋ねると、廣川さんの答えは意外なものでした。使ったのは、いつも服に使っている素材とまったく同じものだったそうです。
その半年間毎日動かすんで、どのぐらい耐久性があるのかなって思ったんですけど、意外と強いんですよ。
アンドロイドから衣装を脱がすと、ショッキングピンクの肌をした人間のような姿があり、そこに黒いアームが刺さって動く仕組みになっていたといいます。廣川さんはその上に、骨格と皮膚の服を重ねて形を出していました。
廣川さんはこの作り方を、昔の西洋で使われたクリノリン ── 19世紀のヨーロッパで、スカートを大きく膨らませるために用いられた骨組み入りの下着にたとえています。骨格のようなスカートを着せ、皮膚の服を着せて、形を出す方法です。
今後については、ロボットは一人では作れないとしつつ、機会があれば面白そうだと話しました。川邊さんは「そういう機会はいっぱい出てくると思います」と後押ししています。
椅子に服を着せたら、家具はどう変わる?
ロボット以外に今取り組んでいることとして、廣川さんが挙げたのはインテリアです。空間インスタレーションの機会があり、かつて作ったアートの椅子をプロダクト化する構想があるといいます。
きっかけは、キヤノンと組んでミラノサローネ ── イタリア・ミラノで毎年開かれる世界最大級の家具見本市。デザイン界の重要なイベントとして知られていますに出展したことでした。家具の祭典なので家具を1つ作ろうと考え、スチールの骨格に脱ぎ着できる皮膚をかぶせる「スキンボーンチェア」を試作しました。
川邊さんが「売りはファッション性か、座り心地か」と尋ねると、廣川さんはまず家具の買い替えにくさを挙げました。大きな椅子は一度買うとなかなか変えられず、模様替えも難しいという悩みです。
大きな椅子は一度買うとなかなか買い替えられず、模様替えが難しい
骨格はそのままに、椅子の服を買い替えて雰囲気を変える。催事のときだけ着せることもできる
川邊さんは「家具を買い替えるのではなく、服を買い替えよう」とまとめました。廣川さんは、座り心地も変えられるなら追求していけるかもしれないと付け加えています。
リカバリーウェアから飛行機、ペットボトルまで
椅子の服の話から、川邊さんは最近よく売れているリカバリーウェア ── 着ることで血行促進や疲労回復をうたう衣類。一般医療機器として届け出された商品もありますを持ち出しました。座っている時間は長いので、椅子に着せれば健康になる、という発想もありうるのではというわけです。
いやもうもちろん信じてますよ。信じるところから始まりますから。
川邊さん自身はリカバリーウェアをプレゼントされることが増え、3着ほど持っているそうです。廣川さんは、機能的に面白い服がたくさん出てきていると応じました。
川邊さんが「人間以外にアンドロイドや椅子、飛行機にもいけますよ」と言うと、廣川さんはさらに身近な例を挙げます。
飛行機とか。なんならペットボトル全部服着てるじゃないですか。巻かれてるの。
廣川さんは、こうした前例のない仕事を頼んでくる人の勇気にも感謝しています。実はロボットの仕事は万博が2回目で、1回目はホンダのアートプロジェクトで、開いて閉じる花形ロボットの外装をデザインしたそうです。
頼んでくる、こられるっていうのはすごいありがたいことだなってすごい思ってます。
川邊さんは、服という考え方はあらゆるものに効くと受け止め、こうしたエッジの効いた挑戦ができるのは独立したメリットだと話しました。
自己ベストはスキンシリーズ、では一番大変だったことは?
番組恒例の質問として、川邊さんは「自己ベスト」を尋ねました。廣川さんが挙げたのは、最初に作った「スキンシリーズ」です。
(スキンシリーズが)なかったら今がないしっていう感じぐらいですかね。
スキンシリーズは季節ごとに入れ替わる商品ではなく、形や色を少しずつ増やしていく定番品だといいます。春夏秋冬の流れに沿わずに開発していて、最初は女性向けだけでしたが、今はメンズのTシャツやジャケット型もあり、体にぴったりするもの以外も作れるようになってきました。
「一番大変だったことは?」という質問には、廣川さんは「すぐ忘れちゃうんですよね」と答えています。ずっと大変だったはずなのに、振り返るとよかったことが記憶に残っているそうです。
忘れるから楽しいことができる。
川邊さんの最大の後悔は「動画」
廣川さんの答えを受けて、川邊さんは自分の場合を語りました。最大の後悔は、Yahooとして動画にもっと力を入れなかったことだといいます。
インターネットがこんなに動画化すると思ってなかったんで。
SNSのようなものは想像の外だったのでできなかったと思うが、YouTubeのようなことはできたはずだ、というのが川邊さんの見立てです。廣川さんは「でもYahooがあってすごく助かってます、暮らしは」と返しました。
やれたことはいろいろありますけど、やれなかったこともいっぱいあって、それの最大にやれなかったことは動画だなと。
インターネット時代はAIの準備期間だった?
廣川さんは「やれなかったことより、これからどうするかを考えますよね」と問いかけました。川邊さんの答えは即座に「AIですよ」でした。
もうAIです。もうそんなもう動画もSNSも全部足しても足りないぐらいすごいイノベーションなんで。
廣川さんが「100年ぐらい経ったらAI革命時代と呼ばれる感じですか」と尋ねると、川邊さんは30年くらいで十分だと答えています。
川邊さんはこの日、自著『7つの激変』を廣川さんに贈りました。インターネット時代の激変を自身の体験を通じて書いた本ですが、最後の結論はその時代そのものを位置づけ直すものです。
川邊さんは、7つの激変が束になってもかなわない激変がこれからやってくるだろうと話しています。
三宅一生さんの何がすごかったのか
次の恒例質問は「会ってきた中で、すごかった人は誰か」です。廣川さんは、すごい人はたくさんいるとしたうえで、1人挙げるなら三宅一生 ── 日本を代表するファッションデザイナー。一枚の布や「プリーツ プリーズ」など、既成の服づくりにとらわれない仕事で知られますさんだと答えました。
廣川さんが挙げた理由は、既成の概念にとらわれない発想が社会を豊かにするという点です。決まりごとは無意識のうちにあり、その無意識こそが時代性なのではないかと話します。
150年ぐらい前、みんな着物を着てたのが普通だったのに、今は洋服を着てるのが普通だと。
西洋のシステムに従って洋服を作るのが今の普通ですが、廣川さんは、そうではない作り方の服があってもいいと考えています。
川邊さんは、以前のゲストでバイオリニストの廣津留すみれさんが、同じ質問にヨーヨー・マ ── 世界的なチェリスト。クラシックにとどまらず、民族音楽やポップスなど幅広いジャンルとのコラボレーションで知られますさんを挙げたことを紹介しました。理由は、クラシック音楽家の枠を飛び出ていることだったそうです。
川邊さんは2人の答えを重ね、第一人者になったうえで、さらに枠を飛び越えられる人がすごい人なのだろうとまとめています。
廣川さんは、三宅さんが国立のデザインミュージアムをつくることにも意欲的に取り組んでいたと話しました。自分の仕事だけでなく、デザインの価値を上げるという社会の視点を持っていた点を尊敬しているといいます。
これまでは準備期間、これからは何にでも服を着せる
最後に川邊さんは、人生の総括と今後の抱負を尋ねました。廣川さんは、少しずつ進むたびに新しい目標が現れるが、振り返ると1つの道筋を進んできた気がすると話します。
その道の途中で多くの人に出会い、インスピレーションをもらい、それが仕事に発展してきたそうです。廣川さんは、人の縁で自分の人生が築かれていると感じています。川邊さんはこれを「セレンディピティがいっぱいあった」と表現しました。
今後について、廣川さんは川邊さんと同じキーワードを口にします。
これからの10年、20年でできることは、まだはっきりわかっていないといいます。それでも川邊さんの「あらゆるものに服を着せる活動を」という言葉に、廣川さんは「何にでもとにかく着せる」と応じ、あらゆるものに服を着せていくという方向を示して対談を締めくくりました。
あらゆるもの何にでももうとにかく着せる。
まとめ
廣川玉枝さんの最終回は、人間の服から始まったスキンシリーズの発想が、アンドロイド、椅子、さらにはあらゆるものへ広がっていく話でした。川邊さんのAIの話と重なる「これまでは準備期間」という言葉が、2人の今後を象徴しています。
- 大阪万博では、普段の服と同じ素材でアンドロイドの皮膚と骨格を表す衣装を作り、半年間の稼働に耐えた
- 川邊さんは人型ロボットの普及を見据え、外装や服が新しいビジネスになる可能性を指摘した
- スキンボーンチェアは、家具を買い替える代わりに服を着せ替えるという発想から生まれた
- 廣川さんは三宅一生さんを、既成の枠にとらわれず社会のことも考えた人として挙げた
- 川邊さんも廣川さんも、これまでを「準備期間」と捉え、AIや服の新たな広がりに向かおうとしている






