社長室から届ける「やる気スイッチ」の回
今回の収録は、いつものスタジオではなく、クラシコム本社にある青木さんの社長室で行われました。ビデオポッドキャストを試すために、今井さんが「青木さんの部屋に行けたりします?」と頼んだのがきっかけです。
社長室ったってさ、3畳ぐらいだよ、これ、もう。
クラシコムはほぼリモートの会社で、青木さんの仕事の大半はオンラインミーティングです。そのため社長室は、防音の効いた「青木さん専用のミーティングブース」に近い使い方をしているといいます。
そのうえで今井さんが出したテーマが「やる気スイッチって本当にある?」でした。6月に入って雨の日が増え、雨や低気圧を理由に自分へ言い訳しやすくなる、というのが今井さんの実感です。
(昔は)気圧は甘えだと思ってました。
今井さんは、昔は気圧も花粉も甘えだと思っていたものの、今は花粉症になって反省していると笑います。やることは山ほどある中で、やる気が出ないときはどうするのか、そもそもやる気は必要なのかを考えていきます。
「やる気がある日のほうが少ない」青木さんの若い頃
青木さんにやる気がしない日はあるのかと今井さんが聞くと、返ってきたのは「やる気がある日のほうが本当にないかもね」という答えでした。
今井さんは、スティーブ・ジョブズのスタンフォード大学での卒業式スピーチを持ち出します。毎朝鏡に向かって「今日が人生最後の日でも、今日と同じ予定を過ごすか」と自分に問う、というエピソードです。
あれ(ジョブズのスピーチ)、やっぱ学生の時とか聞いて、俺もやるぞみたいなのありましたけど、今は全然。
青木さんは、若い頃はやる気がないことに悩んだと振り返ります。大人になってもやる気らしいものが現れなかったそうです。
音楽が好きで自分で曲を作り、録音したこともありましたが、ミュージシャンになろうと思えたことはありませんでした。青木さんにとっては、その手前から始まっている問題だったといいます。
まずさ、ミュージシャンになりたいと思えてないのよ。
(音楽で)「一丁やったろう」とか思えないわけ。
その結果、やりたければやるし、やりたくなければやらない、という状態になったと青木さんは話します。今でも「よし、やるぞ」「早くこれやりたい」と思える瞬間はほとんどないそうです。
第4クォーターが憂鬱な理由と「滑落」の怖さ
青木さんが特にやる気が出ないのは、毎年5〜7月です。クラシコムにとってこの時期は期末にあたる最後の3か月、つまり第4クォーターです。
第4クォーターは、今期の着地が気になるうえに、来期の予算編成が大詰めを迎える時期です。青木さんは先のことを考えるのがあまり好きではないため、1年で一番憂鬱なタイミングだといいます。
先のこと考えると、やっぱさ、ああかなこうかなって不安も同時に起こるじゃん。期待も。
青木さんにとっては、期待しすぎても計画にがんじがらめになり、不安はそのまま不安として残ります。普段は瞬間瞬間でよい意思決定を積み重ねるやり方をしていますが、来期の計画を決める責任はあります。そのため「今日は会社に行くのが嫌だな」と思うこともあるそうです。
それでも青木さんは、その仕事をやります。今井さんが責任感なのかと尋ねると、青木さんは別の理由を挙げました。
「あ、やだな、嫌だからやらない、嫌だからやらない」をやっていくと、もう本当に際限のない、滑落が起きるんで。
やる気がなく、大したパフォーマンスが出なさそうな日でも、行かないよりは傷が浅く済むと青木さんは考えています。そうしておけば、調子がかみ合ってきたときに、取り返さなければいけない「借金」がない状態でいられるからです。
これを繰り返すと、際限のない滑落が起きる
借金が増えず、調子が戻ったときに取り返す必要がない
青木さん自身にもグダグダになっていた時期があったそうです。その経験から、仕事を続ける理由は責任感というより、「今日行けば借金は増えない」という感覚に近いと話しています。
来期予算は「やる気より仮説」で組む
ここで今井さんが個人的な興味から、来期の計画を考えるとき、青木さんはGoogleドキュメントやPowerPointなど何に向かうのかを質問します。青木さんの答えは「何にも向かってない」でした。
青木さんの頭の中には、数字だけでなく、社内の空気やお客さんの雰囲気など、いろいろな要素が入っています。そこから「A、B、Cという根拠に基づけば、このぐらいは伸ばせる」という見立てを、まずは制約条件として置くといいます。
次に、その根拠A・B・Cが本当に期待してよいものかを、それぞれを担当する執行役員と話します。執行役員は資料などで根拠を示し、青木さんは「じゃあこれは期待していいんだな」と確かめていきます。
クラシコムの業績予想では、お客さんにどれくらいアプローチできそうかという需要側と、ものの準備などの供給側が、それぞれ独立に見込みを出します。そこへ両方を見ている青木さんの仮説を最後に突き合わせると、何回かの調整を経て、だいたい同じ結論に行き着くそうです。
最後は、会社として無理がないか、今やるべき勝負に合っているかも確かめたうえで「これで行こう」と決めます。収録時点では、ちょうど予算案の第1稿が届いた段階でした。
スケジュールは、期末が7月末で、7月の取締役会で予算の第1弾を承認し、9月中旬に業績予想を対外発表する流れです。7月に承認したあとで事態が急変しても、9月までに修正できるバッファがあるといいます。
やる気がなくてもできる状況をつくる
話はやる気に戻ります。今井さんは、自分がいつやる気が出ないのかを把握して、曜日ごとに仕事の役割を変える人がいると紹介しました。午前は頭を使う仕事、午後は打ち合わせ、と分ける人もよくいます。
青木さん自身はそうした工夫はしていないそうです。そのかわり、社会人として本格的に働きはじめてからずっと続けているのが、やる気がなくてもできる状況に自分を置くことだといいます。
よくさ、なんか忙しくない?みたいな話をするけど、いや無理なのよ。忙しい状態でやるっていうのは。
相手に時間を押さえられて、その場で質問に答えるような仕事なら、やる気がなくてもこなせます。一方で、締め切りから逆算して自分で段取りを組む仕事は、青木さんにとってとても苦手なものです。
(段取り仕事が)自分としては苦手だったので、起業したとこもある。
起業すれば、仕事の進め方を自分でコントロールでき、誰にどう助けてもらうかも設計できます。青木さんは最初に枠組みをしっかり作ることに時間を使い、その枠の中でどうするかは周りに聞いてきてもらう形にしています。
その結果、青木さんの手元にはあまり仕事が残りません。周りから「ダラダラしてる」「暇そう」に見えるそうで、実際にそうだと本人も認めています。
今井さんが「変なことをやりたくなって邪魔しちゃう?」と聞くと、青木さんはそのとおりだと答えます。作った構造にはやる気がフィットしないため、最近はやる気が出ないようにしているそうです。
テンションが上がる瞬間と「会食は月2回」
それでも、青木さんにもテンションが上がる瞬間はあります。何かがわかったときや構造が見えたとき、そして「なんでだろう?」を考えたり調べたりするときです。
ほんとよくわからないことをAIと調べ続けるみたいな時は、ほんと時間溶けるように(なる)。
もうひとつは、やる気があって、やりたいことを共有できそうな人に会えたときです。青木さんは、この番組に誘ってくれた今井さんがまさにそうだと話します。
ポッドキャスト一緒にやろうよみたいな。でも自分でポッドキャスト始めようみたいなことは無理だし、なんなら毎週更新とか絶対できないから。
一緒にやれる能力を持つ人は山ほどいます。それでも、バイブスや考えのバランスがちょうど合う人は限られていて、そういう人に会えるのが「一番嬉しいタイミング」だと青木さんは言います。
そのため青木さんは、自分の感覚では努力して人に会うようにしています。ただ、ほかの経営者に会食の頻度を聞くと「平日に1〜2日休める日があればラッキー」という答えが返ってきたそうです。青木さんの頻度を伝えると、相手は絶句したといいます。
| 頻度 | 青木さんの感覚 |
|---|---|
| 月2回 | 心地よい最適回数。インプットと気分転換にちょうどいい |
| 週1回 | ギリギリ |
| 週2回 | 今週はきつかったと感じる |
今井さん自身も、最近は週2〜3回の会食が入っているそうです。青木さんは人と話すこと自体は好きで、会食も楽しいといいます。多摩地域に住んでいて移動が面倒なこともありますが、本質は自分が対応できるエネルギー量の問題だと話しています。
やる気が出ないのは、動かないからかもしれない?
今井さんは、筋トレをするとやる気が出る、という話を持ち出します。青木さんは、それと並んでよく言われる「やったらやる気が出る」という説のほうが、真実に近いのだろうと考えています。
僕がだからこんなエネルギー量少ないんだよねとかって言ってる大きい理由はやらないからだよね。
青木さんは、手も体も動かさないからやる気が出ないのに、「やる気がないなりにやっています」と言っているのかもしれないと自分にツッコミを入れます。「動かせよと。したらやる気出るよみたいな」と、シンプルな話かもしれないと続けました。
今井さんは半年ほど筋トレを続けていましたが、週1回しか行けず、最近は止まっているそうです。週1回では筋肉を維持するだけになり、成果を実感できないのが続かない理由でした。
キープって何も楽しくないんですよ。
今井さんによると、推奨は週2回で、それも月曜と木曜のように間を空ける必要があります。筋肉を痛めつけて回復させることを繰り返すのだと聞いて、青木さんは「なんでやんのよ、そんな」と思ってしまうと笑います。
健康ブームと、規則正しい生活が生む読書時間
青木さんが会食などで会う中年の経営者たちは、ひと目で鍛えているとわかる人ばかりだそうです。その中で自分だけ「しおれたたたずまい」なので、彼らをかっこいいと感じるといいます。
今井さんは、健康管理がビジネスパーソンの条件のようになったのはアメリカ由来ではないかと話します。アメリカではお腹が出ているだけで舐められ、歯並びまで見られると言われるそうです。
青木さんは、ここまで健康が重視されるようになったのは直近4〜5年ほどではないかと見ています。それ以前は、破天荒なキャラクターの経営者のほうが評価されていた気がするといいます。
会食さ、週5やって、週2体動かすとかって、もうアクセルとブレーキベタ踏み両方してて、なんか大変そうみたいな。
青木さんはお酒を飲まず、外食も少なく、生活も規則正しいため、昔から健康で体重もあまり変わっていません。最近、健康診断で悪玉コレステロールの値が少し高いと言われる程度だそうです。
会食が少ない
お酒も飲まず、外食も少ない
規則正しい生活
健康を害さない
健康回復に時間を使わない
仕事も18時ごろに終わる
時間がたっぷりある
読書などに時間を使える
今井さんは、青木さんの読書量はこの規則正しい生活に支えられているのではないかと気づきます。青木さんも、プライベートの時間を無限に使えるから確かに時間はあると応じました。
青木さんは、変わらない人には一生のうちで時代と合う時期が来ると考えています。自分のようなノリは40代後半から流行りはじめた気がするそうです。ただ、流行ることは「ダサい」と言われはじめる前触れなので、60代前後に一度ダサい扱いされるのではないかとも話しています。
時代に「合わせない」のではなく「合わせられない」
今井さんが、時代に合わせてしまったことはあるかと尋ねると、青木さんは「合わせたいんだよ」と強調しました。
その合わせたくないって思ってるって思われるの嫌なんだよ。違うんだよ。そうじゃないんだよ。
合わせられないんだよ。
青木さんはこの感覚を、人混みが苦手なことにたとえます。音楽は好きでもフェスには行ったことがなく、好きなアイドルのライブも最近は無理だと感じて、DVDで見るのがちょうどいいと思いはじめたそうです。
最近、哲学や人文っぽい話題が流行ってくると、青木さんはそうした話をしづらくなり、サブカルの話でもしようかと思ってしまうといいます。本人は「逆張り野郎みたいでほんと嫌」と話しています。
相対評価される中に入っちゃったら、自分はもう全然そんなとこに及ばないから、なんか、すごい元気なくなりそう(なんだけど)。
青木さんにとって、自分のスタイルが流行ってきたときにすることは「俺の時代が来た」と頑張ることではありません。そこから少し離れて、別のことをやろうと思うそうです。
エコーチェンバーより怖い「バズ」
今井さんは、Xなどで自分の欲しい情報ばかりがアルゴリズムで届くエコーチェンバー ── SNSなどで、自分と似た意見や好みの情報ばかりに囲まれ、考えが偏ったり強まったりする現象。アルゴリズムによる推薦がこれを強めるとされますに気をつけているかと尋ねました。
青木さんの答えは「めっちゃエコーチェンバーに囚われてんじゃない?」というものでした。むしろ青木さんが怖いのは、自分が何かを強く促す側になることだといいます。
(いいねが)50とかさ、100とかついたりとかしちゃうと、怖いと思って。急に消したりとかしちゃったり。
今井さんは、反応が増えてきたら投稿ごとに通知を切る方法を紹介します。しかし青木さんは、何が起きているかわからないほうが怖いので、投稿自体を消してしまうそうです。
青木さんは、何に関しても波に乗るのが下手だと言います。浮いていただけなのに「乗ってますよね」と言われると、早くその波から降りたくなるそうです。
熱より光にフォーカスすると、やる気に左右されにくい
青木さんは、やる気に満ちあふれた状態の自分は、コンディションとして心地よくないのかもしれないと話します。今井さんも、クラシコムの社員の人たちはやる気に満ちあふれたタイプではないと感じているそうです。
頼むとその正気でいてくれと。
ある人から「青木さんって情熱あるんですか?」と聞かれたことがあるそうです。会社を経営している以上やる気はあるはずなのに熱を感じない、それはポーズなのか、わかりにくいだけなのか、本当にないのか、という質問でした。
青木さんは、他人に情熱があるのはありがたいが、自分が情熱を宿すのは居心地が悪いと気づいたといいます。では熱がないのになぜ物事を推進できているのかを考えて、ひとつの答えにたどり着きました。
ここでいう「光」とは、照らして明らかにすることで場に関わる、という意味です。青木さんによれば、明らかになれば情熱はいらないといいます。やるべきことが明白になり、こうすればこうなるとわかれば、熱がなくても動けるからです。
熱は力でもあるため、光を必要以上に明るくするなど、適切なコントロールを難しくする要因にもなると青木さんは考えています。光は認識の問題なので、やる気の有無で見える・見えないがぶれにくいのです。
情熱の伝播で動かす。力になるが、強弱が安定せずバランスを崩しやすい
整理し、見方を共有して明らかにする。やる気に左右されにくい
やる気ないから見えないとかはあんまないんだよね。むしろやる気ない時の方が見えるぐらい。
やる気がないときは危機感が高まり、インプットが少ない分だけ解像度が上がることもあると青木さんは言います。光の側にフォーカスするほうが成果も安定するため、自分はやる気に恐れを持っているのかもしれない、と話しています。
やる気を恐れるのは、テンションの上下を知っているから
今井さんは冗談まじりに、青木さんが「国立のご当地アイドルやるわ」と目をギラギラさせはじめたらどうするのかと聞きます。青木さんは、それは病気かコンディションが悪いかで、怖いと答えました。
なんとなくその病気としての躁鬱っていうよりは、なんかその躁の状態の方をむしろ恐れてるっていうか。
青木さんによれば、躁が高いほど、その後に鬱的な方向へ振れやすいといいます。今井さんが、よく喋るから躁っぽく見られてきたのかと尋ねると、青木さんは見られ方だけでなく、実際にそういう面があるから怖いのだと答えました。
青木さんはもともとテンションの上下が大きいタイプで、それに任せるとどうしようもなくなると感じたそうです。大人になる過程で、落ち込みよりも上振れのほうを抑えるようになりました。その結果、気がつけばやる気と無縁な人になっていたのではないか、と青木さんは振り返っています。
まとめ
青木さんにとってやる気は、頼るものではなく、むしろ慎重に扱うものです。やる気がなくても回る枠組みを作り、嫌でも「借金」を増やさないように動きます。そのうえで、熱ではなく、物事を明らかにする光で周りと関わるのが、青木さんの仕事の進め方です。
- 「嫌だからやらない」を続けると滑落が起きるため、やる気がなくても行くほうが傷は浅いと青木さんは考えている
- 起業や枠組みづくりによって、やる気がなくてもできる状況に自分を置いている
- テンションが上がるのは、何かがわかった瞬間と、一緒にやれそうな人に会えたとき
- 会食は月2回がちょうどよく、規則正しい生活が読書の時間を生んでいる
- 熱より光にフォーカスすると、やる気に左右されにくく成果も安定するという



