山荘の食堂でスリーデイズ?スーパー登山部の無謀なライブ
収録場所が社長室に変わって2回目。今井さんと青木さんは、撮影スタッフのリアクションが気になったり、狭い部屋の換気を気にしたりと、まだこのロケーションに慣れていない様子です。
オープニングトークで今井さんが紹介したのは、出不精の青木さんなら「絶対行かない」イベントです。名古屋のロックバンド「スーパー登山部」が、全国ツアーのクライマックスとして、白馬山荘の食堂で9月の平日にスリーデイズ公演を行うといいます。
このチケット、で、この、イベント自体、まず、その、そこまで登んないといけないんで。そんな、ハイキングではないんですよ。
チケット発売は早朝で、サーバーが落ちるほどの人気。今井さんは先輩に誘われてチケットを取ることができ、3日間のうち1日に参加するそうです。
青木さんが一番気にしたのは、5人編成のロックバンドの機材を誰がどうやって山の上まで運ぶのかという点でした。
本人たちなのかスタッフの方なのか、その専任のそういう方なのかが、背負子みたいなのをさ、めちゃくちゃアンプとか背負ってさ、上がって下がるんだろうな。
今井さんは、ライブの様子をまた番組で報告すると約束しています。
「世界中を知りまくりたい」欲望は手放すべき?
この回のテーマは旅です。別府市に住むリスナーのマルさんから届いたお便りが紹介されました。
私は知らない場所へ行くことが好きで、近場、国内、海外を問わず、週に1回はどこかへ出かけます。その中で自分には世界中を知りまくりたいという欲望があることに気づきました。
でも、死ぬまで旅を続けても世界を知り尽くすことはできません。そう考えると、この欲望は中途半端で先の見えないものなのではないかとも感じます。いっそ手放した方がいいのか、それともこの気持ちを持ち続けてもいいものか、お二人は旅に出ることについてどうお考えですか?
今井さんはこのお便りを受けて、「旅に出たい気持ちはどこから来る?」というテーマで考えすぎてみようと提案します。
今井さん自身は出張も海外旅行も好きですが、国内なら2泊、海外なら3泊ぐらいで帰りたくなるといいます。青木さんはそれを聞いて、気分転換で出かけるのは好きでも、ホームから長く離れるのは好きではないタイプだと整理しました。
さらに今井さんは、旅人には2種類いると話します。旅先の環境に順応しようとする人と、旅先に自分の環境を持っていく人です。
旅先の環境に自分を合わせようとする
充電器など自分の環境を旅先に持っていく。今井さんはこちらで、使わない荷物も多い
家族旅行は5回未満。旅をほぼしない青木家
一方の青木さんは、旅行をほとんどしません。結婚して20年以上経つものの、家族旅行は5回も行ったことがないのではないかといいます。
かつて神社巡りが好きで奈良や京都に行ったこと、子どもができてから熱海に行ったことがあるくらいで、家族もみな同じように旅行に積極的ではないそうです。
それでも青木さんは、友人に誘われた旅には、スケジュールがきつすぎなければ応じるようにしています。友人のフランス行きに合わせて、ミラノに住む大好きな人に会いに行ったこともあるといいます。
嫌なんだけど。いや、嫌だって言うとストレスは感じるんだけど、でもほんとこういう機会でもないと絶対行かないからって言って。
仕事と関係のない旅行は、年に1回あるかどうか。旅先では盛り上がった雰囲気を出せないことも多いため、誘ってくれた相手には事前にそれを伝えておくそうです。
ニューヨーク案内に誘われたときも、行くのは面倒だと思う一方で、相手への興味や、行けば発見があることもわかっていたといいます。
なんていうか、自分の本性としてのあの物臭さが、いやめんどくさいなって一瞬思っちゃうっていうだけなんだけど。
今井さんはこれを「お風呂みたいですね」と表現しました。行けば楽しいとわかっていても腰が重い感覚です。青木さんは「風呂キャン界隈 ── 入浴が面倒で風呂をキャンセルしてしまう人たちを指すSNS発祥のネットスラングか、俺は」と笑って受けています。
「全部行きたい」はスタンプラリーと同じ構造?
青木さんがマルさんのお便りで引っかかったのは、旅好きの先に「世界中を全部見たい」という欲望が生まれている点でした。この感覚は旅に限らず、ほかにも同じ構造を持つものがあるのではないかと考えます。
なんかさ、スタンプラリーみたいなものの感覚にちょっと近いのかなって。
スタンプラリーは、関係なければ「なぜスタンプのためにあちこち行くのか」と思うものです。それでも1つ押し、偶然2つ目も押せると、コンプリートしたくなる。青木さんは、読めないのに本を買ってしまう「積ん読」やコレクションにも、同じ構造を見ています。
青木さんによれば、同じ旅好きでも、好きな場所に何度も通う人がいる一方で、マルさんは行っていない場所を全部回りたいスタンプラリー型の衝動に動かされているのではないか、といいます。
今井さんは、マルさんの場合は絶対に埋まらないとわかっているスタンプラリーを始めてしまった悲しさもあるのではないかと付け加えました。
抑えると長続き、やり抜くと早く終わる衝動の付き合い方
青木さんは、スタンプラリー型の衝動はたいていの人がどこかで飽きたり、お腹いっぱいになったりするものだと話します。そして、自分の経験として、衝動は抑えると長続きするといいます。
今井さんが「八王子ラーメンに急にハマったら」と例を出すと、青木さんは、味を楽しみたいというより「ラーメンという概念」への好奇心に関心が移ってしまうのだと説明しました。
美味しいとかお腹いっぱいっていう、その身体的な実感を超えた、なんか概念みたいなものを追い始めると、毎日予約困難店をこう回りたいとかさ、思うけど。
青木さんの見立てでは、勢いのまま行くと衝動は早く終わり、月2回にしようと抑えると延々と続きます。
抑える
ペースを落とすと衝動が長続きする。ライフワークにしたい人向け
やり抜く
我慢せず突き進むと早く飽きる。人生のプランと合わない欲望向け
今井さんは音楽でも同じだと応じます。好きな曲を何度も聴くと早く飽き、大事な曲にもなりにくいといいます。青木さんは、お菓子やコンビニのどら焼きを食べ過ぎているときも、あえて節制せず、うんざりするのを待つそうです。
コロナ禍で移動したいと思わなかったかと聞かれると、青木さんは「思わなかった」と即答。大変だった人に申し訳ないと断りつつ、家に閉じこもっても罪悪感がなく、幸せを感じた時期だったと振り返っています。
2〜3泊で帰りたくなるのは移動中が好きだから?
今井さんは自分の話に戻り、2〜3泊で帰りたくなるのは、旅の主眼が移動にあるからではないかと考えます。今でも東海道新幹線に乗るとテンションが上がるそうです。
東海道新幹線だと東京京都間が今2時間15分、11分ぐらいだからね。なんかどう考えても2時間で見られないだけダウンロードしたりとかね。
本も3冊読めるつもりで持ち込むという今井さんに、青木さんも「そういうのあるな」と共感しました。
一方でマルさんについて、二人は目的地に行って見ることが好きなのだろうと推測します。青木さんは、思い出がたくさん欲しい人、記憶のコレクションをしたい人なのではないかと話しました。
青木さん自身は昔のことを覚えていないため、旅に魅力を感じないのかもしれないといいます。写真も思い出ではなく形ばかり撮るそうです。
思い出肥満にこのままじゃなっちゃうんじゃないか警戒みたいなのあるのかもね。
嫌なのは旅ではなく「予定が決まること」?
今井さんは、青木さんが別荘のサブスクを使っていることに触れ、家で本を読む方が合っていそうなのに、なぜ行くのかと尋ねます。青木さんの答えは「嫌なんだよ、だから」でした。
それでも行けば気分がいいとわかっているので、青木さんは決まった場所にしか行きません。そこは家に限りなく近いコンディションで、食事の店もルーティンになっているそうです。
でも行ったら行ったで、なんか高速降りて、あーやっぱ気持ちいいなとか思うんで。
2〜3時間の運転も嫌いではないのに、「今日行くのか」と思うと気が重くなる。青木さんは、その一点を乗り越えるのが難しいだけだと話します。
今井さんもこれに共感します。友達とのランチや飲みは好きでも、何も予定のない土日に家で寝ているのが一番落ち着くそうです。二人は前回の「計画を立てたくない」という話にもつなげ、会社の人が聞いたら不安になるかもしれないと笑っています。
旅嫌いでも共感する「概念化の暴走」とは
旅嫌いの青木さんですが、マルさんの「世界中を見回りたい」という思いには共感があるといいます。旅が好きだと思い始めたあと、あるとき「パチッ」と入るスイッチがあるという感覚です。
それって多分身体感覚的な満足とか充足を超えた概念化の暴走みたいな。
青木さんは服でも同じことが起きるといいます。スタイルを変えようと1つ買うと、パンツや靴も揃えたくなり、誰も気にしないのに衝動が止まらない。それでも、ある日パタッとなくなるのが不思議だと話しています。
漫画全集を「読むため」ではなく「持つため」に買う
今井さんは、豪華版の漫画にハマった経験を話します。A4ほどの大判ハードカバーで出ている谷口ジロー ── 『孤独のグルメ』の作画などで知られる漫画家。緻密で上手い絵に定評があるのコレクションで、1冊3000円ほど。『孤独のグルメ』は上下巻で6000円ほどになるそうです。
文庫なら1000円を切る作品でも、1冊買うとコレクションとして揃えたくなる。『坊っちゃんの時代』はそれほど好みではなかったのに、抜けているのが気持ち悪くて買い揃え、途中で落ち着いたといいます。
今井さんは、大友克洋さんの全集が数年かけて30〜40巻ほど出る予定で、まだ『AKIRA』まで達していないことにも触れ、手を出すと危ないと話しました。
所有するために買って。そうするとそれってやっぱり概念を買ってるから。
青木さんによれば、概念を買っている時点で「お腹いっぱい」が発生しないため、衝動が暴走します。最初は旅や漫画、美しい造本が純粋に好きだったのに、いつしか味わうことよりコンプリートすることへ関心が入れ替わる瞬間がある、と話しています。
旅や漫画、綺麗な造本の本を純粋に味わって楽しむ
味わうことよりコンプリートが目的になり、満腹感が来ない
RICOH GR IIIを買って調べ尽くしてしまう衝動
青木さんが最近その衝動を感じているのはカメラです。RICOHのGR III ── リコーのコンパクトデジタルカメラ。APS-Cセンサーと単焦点レンズを備え、スナップ用に人気があるを買ったところ、各社のカメラや単焦点とズームのレンズなど、全部調べ始めてしまったといいます。
今井さんは、ガジェットの性能比較はAIが得意なので、比較系の発信者は商売上がったりになりそうだと話します。青木さんは、みんな同じ答えになって1種類しか売れなくなるのではないかと返し、今井さんは「あとはデザインの勝負」と応じました。
それでも青木さんは、自分の用途を考えればそこまでの知識はいらないはずだといいます。カメラは長続きさせたい趣味だからこそ、調べる衝動を抑えているそうです。車も、いきなり名車に行くと一瞬で終わるので、10年ほどかけてコツコツ楽しみたいといいます。
アートについては、好きになるより知りたさから始めたため、一時期ギャラリーをノルマのように回っていたと振り返ります。今井さんは、土日に青木さんのインスタのストーリーがギャラリーの投稿で埋まっていた時期を覚えていました。
なんかまだ好きかどうかもわかんない時の方がコンプリート側に行くのかもね、もしかすると。
青木さんは、まだ本当に好きになっていないからこそ概念が暴走するのではないかと考え、好きで居続けるためにそうなりすぎないよう気をつけているといいます。
本の中身を覚えていなくてもいい?
今井さんは、記憶が苦手だという青木さんがよく本を引用することを指摘します。青木さんは、同じものを言っているだけで、1冊読んで1文も覚えていないことの方が多いと答えました。
今井さんは本に付箋を立て、いつかメモにまとめようと「読了コーナー」に置いていますが、3〜4年まとめていない本もあり、もう何も覚えていないといいます。
僕にとっては本当にただのお風呂入りとかさ、ご飯食べるの楽しさ、気持ちよさしか求めてないから。
青木さんは、読み終えた後に何も覚えていない残念さはあるものの、最近小説を読み返すと「こんな話だったっけ?」とめちゃくちゃ面白く読めるそうです。
今井さんが、青木さんは何でも得をしようとか持って帰ろうと思っていないのだろうと言うと、青木さんは「持って帰れないってわかってるから」と答えます。最初からではなく、キャパシティがないので開き直ったのだといいます。
メキシコ旅行で何も持ち帰れなかった理由
今井さんは、できれば年1回、1週間ほど一人で海外旅行に行きたいと話します。強制的なデジタルデトックスのようになり、何かを思いついて帰ってこられるからです。
ところが数年前のメキシコ旅行では、初めて何も思いつかずに帰ってきたといいます。体調を崩したこともありましたが、最大の原因はAirPodsでした。
でもずっとそのニケツっていう、千原ジュニアさんとケンドーコバヤシさんが2人で喋ってるやつを聞きながらメキシコシティを歩いてて。
メキシコはスペイン語で英語もあまり通じず、まったくわからない言語なので、周囲の音を遮断してしまったのだと今井さんは振り返ります。英語が少しでも通じる国ならそうはならなかっただろう、といいます。
青木さんは、そもそも旅から何かを持って帰れたことがないと話します。何年か経ってから「あれはこういうことだったのかも」とふと思い出す程度で、また食べたいものも「本当にない」そうです。
アートやグルメを味わうには受容体がいる
青木さんは美味しいご飯が好きですが、求めているのは普通のご飯が美味しく炊けていることや、おにぎりがうまいことくらいです。すごい店に連れて行ってもらっても、そこまでグッと来られず申し訳なく感じるといいます。
それは冷めてるわけじゃなくて、なんかそこまで味わえる多分リテラシーがまだない。
今井さんはこれを、何事にも受容体(レセプター)があるかどうかだと表現し、自分はアートがまさにそうだと話します。
青木さんのアートの受け取り方は、セカンドストリートで100枚ほど並んだTシャツを見て、理由はわからないけれど「この感じいいじゃん」と思う感覚に近いそうです。中古レコード屋で、知らないアーティストのジャケットを「かっけえ」と思うのとも同じだといいます。
一方、今井さんは自分を「文脈厨」と呼び、バンクシー ── 正体を明かさずに活動するイギリスのストリートアーティスト。社会風刺的な作品やパフォーマンスで知られるが落札の瞬間に作品をシュレッダーにかけ、かえって価値が増したような出来事が好きだと話しました。
うんちくが苦手、情報なしで褒めるのが苦手
青木さんは、自分はうんちくが苦手だと打ち明けます。言われるのが嫌なのではなく、覚えられないため、服でも音楽でも映画でも食事でも、通のような振る舞いができず、初見の素人のような話しかできないといいます。
アートでも本来は文脈が大事だとわかっていながら、作家の名前さえうろ覚えになることがあるそうです。
今井さんは逆に、そのほうがかっこいいと考えています。今井さん自身は、情報なしに物を褒めるのが苦手だからです。
編集者にとって、ライターから上がってきた原稿への感想メールは腕の見せどころです。特に書籍で8万字、10万字の原稿が素晴らしかったとき、それをどんな言葉で伝えるかが勝負になるといいます。
もうむっちゃくちゃいいじゃん、原稿、っていうのを、なんかテキストにするのすっごい苦手で。
そのため今井さんは電話して「めっちゃ良かったっす」と20回言うことで代わりにしているそうです。腕のある編集者は、何を引用するか、誰を思い出したかといった言葉で上手く伝えるといいます。青木さんは「難しい競技だな」と感心し、自分には批評は全然できる気がしないと話しました。
巨木や巨石の前で「すっげー」と思う感覚
青木さんがアートでも音楽でも大事にしているのは、巨木や巨石の前に立ったときの「わぁ」という感覚があるかないかです。
何かがこう受け取れてるかどうかとかが、すごく僕は唯一自分が把握できることだから、それがかき消されちゃう気もするのよね。いろいろ言われちゃったりとかすると。
今井さんは、青木さんの服の選び方も素敵だと話します。今井さん自身は情報で買ってしまうため、知らないブランドの服をたまたま気に入ったときは特に嬉しいといいます。
青木さんもその嬉しさは同じだと応じます。その嬉しさを得るために、前知識を入れずに雑多な場所で選ぶほうが楽しいと考えるようになったそうです。最後は「全然違う話になっちゃった」と笑い、旅に行かない青木さんらしい脱線で回が締めくくられました。
まとめ
「世界中を知りまくりたい」というお便りから始まった回は、旅そのものよりも、身体的な満足を超えて概念を追い始める「スタンプラリー型の衝動」の正体へと話が深まりました。青木さんは衝動を抑えるか、やり抜くかで付き合い方を変え、今井さんは移動や文脈を楽しむ自分の旅のあり方を見つめ直しています。
- 旅で「全部行きたい」と思う気持ちは、積ん読やコレクションと同じスタンプラリー型の衝動かもしれない
- 衝動は抑えると長続きし、我慢せずやり抜くと早く終わる、と青木さんは考えている
- まだ好きかどうかわからないときほど、味わうよりコンプリートへ関心が移りやすい
- 旅が面倒なのは旅そのものより「予定が決まること」が嫌だからかもしれない
- 情報や文脈に頼らず「すっげー」と受け取れる感覚を大事にする楽しみ方もある






