『我々は宇宙人』は誰と観るべき映画?
番組の冒頭、今井さんは映画『我々は宇宙人』を観た感想を話します。今井さんにとってはめちゃくちゃ面白い作品で、観終わったあとに人と話したくなったといいます。
(観た後に)人と話したくなったんですよ。
ああ、そうだよね。自分語りちょっとしたくなるよな。
そこで今井さんは、これから観る人に「人と一緒に行ったほうがいい」と勧めました。ところが周囲からは「あんなの人と行けるか」と非難が集まったそうです。
青木さんは、映画で思い出すことが人に言えないものばかりだという反応なのだろうと受け止めます。今井さんは物語に深く没頭しないタイプだと自己分析しつつ、それでも作品はおすすめで、何度観ても気づきがありそうだと話しています。
「新しいもの好き」である必要はあるのか?
今回のテーマは「新しいもの好きのほうがいい?」です。AIをはじめ新しいサービスやテクノロジーが毎週のように登場し、知っているかどうか、使えるかどうかで仕事に差がつくとも言われています。
一方で、新しいものが得意でない人も、使い慣れたものに愛着を持つ人もいます。今井さんは、変化についていくために新しいもの好きである必要があるのかを問いかけます。
青木さんの答えは意外なもので、本来の自分は変化を好まないといいます。変化はストレスだからです。
新しいものが出てきて、それに対応しないことで、本当に変化して欲しくない大事なものが壊れたり、変な風になったりするのが嫌だから、強いて新しいものに触れようと心がけてはいる。
青木さんにとっての大事なものとは、経営するクラシコムと、社員、お客様、投資家といったステークホルダーです。面倒だからとAIなどに触れずにいると、大切にしてきたものが壊れるかもしれない。だからこそ強いて触れているといいます。
つまり青木さんは、変化が嫌いだからこそ新しいものに触れるという逆説的な立場です。
「爪の先」のような進化まで追う今井さん
対照的に今井さんは、自他ともに認める新しいもの好きです。この日も収録前に、前日に発表されたメガネ型のウェアラブルデバイス「XREAL Aura」を調べていたといいます。
今井さんによれば、XREAL Auraはかけると目の前に大画面が広がり、YouTubeやNetflixを観られるデバイスです。スマホにつなぐ従来品と違い単体で動き、バッテリー部分にコンピューターが入っている点で、Apple Vision Pro ── Appleが2024年に発売したヘッドセット型デバイス。現実の空間にアプリや映像を重ねて表示できる一方、高価格や重さが話題になりましたに近いと説明しています。
なんかそういう、僕、その、爪の先みたいな進化のものを、結構追っちゃう。
さらに今井さんは、腕時計型で1日中録音してくれるデバイスにも触れます。青木さんは「あれ興味ある」と反応し、知っているだけで相当だと今井さんに指摘されて「新しいもん好きか、俺」と笑います。
ダイソンのAI歯ブラシは壮大な無駄遣い?
青木さんは、最近買って「壮大な無駄遣いになっているかもしれない」ものとして、ダイソンの歯ブラシを挙げます。カメラとライトが付いていて、AIが歯と歯の間を判定すると高圧の水がプシュッと出る仕組みです。
歯ブラシとフロスを2回に分けずに済む「夢の機械」だからこそ試したくなったと青木さんは話します。ただ、本当に歯間を掃除できているのかを確かめる方法がありません。
全く手応えがないので、ただプシュプシュ言ってるだけじゃない?って感じられるから。まあまあ高いのよ。
使い始めて1か月ほど。すっきりする感覚はあるものの、良すぎてわからないだけの可能性もあり、青木さんは「人柱っぽくなってるのか、本当に良かったのか」と迷っています。
今井さんは、欧米で矯正が当たり前の歯並びを前提にしているなら、日本人の歯にどこまで合うかはわからないと指摘します。青木さんは「まだ信じてる」としつつ、バージョン3ぐらいが良いのだろうと締めくくりました。
ガラケー時代に「iモード」を使わなかった青木さん
今井さんは、新しいものに飛び込むのが加齢とともに億劫になったかを青木さんに尋ねます。青木さんの答えは、むしろ若い頃のほうが億劫がっていたというものでした。
でも若い時の方がもっと守るものがないからさ。億劫がってたよね。
青木さんはガラケー時代、iモード ── NTTドコモが1999年に始めた、携帯電話からインターネットに接続できるサービス。メールやウェブ閲覧を携帯で使う文化を広げましたのような携帯のネット接続サービスを契約せず、SMSと電話しか使えない携帯を使っていたそうです。仕事上も必要がなく、困っていなかったからです。
iPhoneも2008年頃は「あんなの使えるわけない」と軽く見ていたといいます。使い始めたのは3GSが出た頃で、クラシコムの事業で必要性が出てきたことがきっかけでした。
一方の今井さんは、auのガラケーに地図機能が付くといち早く使いました。大学時代、初めての店の飲み会でも「住所もらえれば大丈夫」と言い、周囲に気持ち悪がられたそうです。
青木さんは、19〜20歳ぐらいの息子さんや周りの若者を見ても、新しいものを積極的に追いたいとは思っておらず、必要があればやる程度に見えると話します。自分に関係がなければ追いかけなくていいと考える人も多いのではないか、という見立てです。
新製品は「3巡目」くらいがちょうどいい?
今井さんは、AIは追いかけてメタバースは追いかけない、といった判断を青木さんがどうしているのかを尋ねます。青木さんは「追っかけすぎない」ことを常に意識していると答えます。
ダイソンの歯ブラシのように、出たばかりの製品は本当に良いかわからず、最初から乗ると良いものにたどり着くまで3回ほど買い続けることになるからです。青木さんの経験則では、iPhoneもバージョン4ぐらいから使い勝手が良くなったといいます。
AIについても、1年ほど前まで盛んに言われていたプロンプトエンジニアリング ── AIに出す指示文(プロンプト)の書き方を工夫して、望む出力を引き出す技術。AIの性能向上とともに重要性が議論されてきましたを、青木さんはAIの進化ですぐ不要になると見て本質的ではないと考えていたそうです。
それが後日負債になっちゃったりするじゃん。こっちの古い仕組みでガチガチに仕組み作っちゃってるから、簡単に乗り換えられないんだよねみたいな。
青木さんは例としてSEO ── 検索エンジンで上位に表示されるための工夫。かつてはリンクを大量に集めるといった手法が効いたものの、検索エンジンの進化で通用しなくなりましたを挙げます。リンクを大量にもらうような稚拙な方法で上位が取れた時代があり、検索エンジンが進化したとき、その手法をとった人たちが淘汰されたという話です。
新しい手法が流行
稚拙な方法でも成果が出る時代がある
仕組みを固める
その手法に合わせて本格的に作り込む
技術が進化
より本質的な評価ができるようになる
負債になる
古い仕組みが足かせになり、乗り換えられない
軽く触るのは積極的、本格導入は保守的
青木さんの姿勢は、新しいものに「軽く触る」ことと「本格的に取り入れる」ことを分けるというものです。
(新しいものに)軽く触れようみたいなのは積極的だけど、本格的に取り入れようとかは本当に保守的。
実際、クラシコムがスマートフォンアプリをリリースしたのは2020年で、それまではプッシュ通知なしでウェブだけで運営していました。YouTubeアカウントを本格的に動かし始めたのも2019年頃だといいます。
可逆性を担保して個人として触り、何が起きているかをインプットする。ここは積極的
事業の仕組みとして取り入れる。コストや負債を考え、ここは保守的
今井さんはこれを「見(けん)の期間」と表現し、青木さんも「この見の胆力」が大事かもしれないと応じます。そのうえで青木さんは、一次情報を大事にして自分で見に行くと話します。
言葉にして伝えられる情報ってそんなに多くないんだよね。新しい時って。
ダイソンの歯ブラシも、説明文では「カメラとAIで歯間を判定して水を出す」と書かれているだけです。機能していそうか、すっきりするかは体験しないとわかりません。青木さんは他人の説明も参考にしつつ、自分の軸を持ちたいといいます。
変化の速さを「体でわかっておきたい」のはなぜ?
青木さんにとって、新しいものに触れるのは人より早く動くためではありません。日々の意思決定が「世界認識」に左右されるからです。
AIによって世界がどう変化するかっていう世界認識を変化させとかないと、AIと関係ない判断もそれに規定されるじゃん。
組織をどうするか、どの事業分野に投資するかといった判断も、世界がAIでどう変わるかという実感を前提にしています。だから青木さんは、変化の方向性やインパクト、速さを体感しておきたいといいます。
意思決定って多分にこう運動神経的に、その日々こう起こることだから、体でわかっときたいなみたいなことは結構あるかもね。
今井さんは、ウェブ系の仕事が多い優秀なデザイナーの友人が、新しい折りたたみ型のiPhoneを必ず買うと話していた例を挙げます。それがある生活でインターネットがどう変わるかを体感しないと仕事にならない、という理由です。
青木さんも、画面サイズの多様化にプロダクトのデザインやインターフェースがどう対応すべきかは、すぐに正解がわからず試行錯誤の時間が必要だと応じます。青木さん自身も、実用に耐えるようになった段階で折りたたみスマホに乗り換えたそうです。
今井さんは、AirPodsを早く買ったものの、最初は歩きながら独り言を言う人のように見えたと振り返ります。今では当たり前の光景で、今井さんは歩きながらポッドキャストを録るとき、恥ずかしさを隠すためにあえてAirPodsを耳に入れているそうです。
新しいかどうかより「見分けるセンス」が大事?
青木さんは、「新しいもの好きのほうがいいのか」という問いが生まれる理由を考えます。自分には切実でなくても、「これからはこれだ」と言う人が巷にあふれているから、このままでいいのかと不安になるのではないか、という見立てです。
今井さんは、自分の直感は割と当たる気がすると話します。あるAppleの発表会の翌日、稼いでいる先輩たちとの食事で「今回はApple Watchがやばかった、あれが本命」と盛り上がっていたものの、今井さんは内心「そうかな」と思っていたそうです。
Vision Proも二人とも買ってしまった例です。青木さんは「やらかし案件」と言い、今井さんも使えばすごいものの重すぎて、専用に首を支える椅子まで買ったのに今は全然使っていないと笑います。
もう本当に30分してたら具合悪くなるよ。
青木さんは、編集者志望の人やインターンに「新しいもの好きのほうがいいか」と聞かれたらどう答えるかを今井さんに尋ねます。今井さんの答えは、新しいもの好きである必要はないけれど、流行っているものは一旦見ておいたほうがいい、というものでした。
でも新しいのとまた違うんです。受けてるもの。
青木さんはこれを、新しいかどうかより見分けるセンスのほうが大事だという話だと整理します。Apple Watchの件でも、自分のセンスで「ちょっと違う」と見分けられたから、やらなくていいことをやらずに済んだわけです。
今井さんは、そのセンスを磨くには、流行っているのに自分にはピンとこないものにも触れる必要があると話します。街中でAirPodsを着けた人を1日に3人見たら一度体験してみる、興味がなくても流行っている映画や展示は観に行く、といった具合です。
気になるのに「億劫だからスルーする」のは損?
青木さんは、この問いを抱く人は新しいものを追える人を見て、そうなれない自分を責めているのかもしれないと考えます。ビジネスパーソンとしての損得で言えば、キャパシティの中でできるだけ新しいものに触れるのが真っ当なアドバイスだろう、と今井さんと一致します。
ただ青木さんは、本当に重要なのは新しいかどうかではないと言い直します。たとえばXで『我々は宇宙人』が面白いという声を見て、観たいと思ったのに行動しなかった、というような場面です。
新しくてもやらんでいいこといっぱいあるし。だけどなんか自分が気になっちゃうものを億劫だからスルーし続ける癖がついちゃうと、損か得かで言えば、まあちょっと損かもな。
今井さんは、自分が担当する編集学校のインプットの回で話す内容を紹介します。人に「あれ観ました?」と聞かれて「観たいんすよ」と答える自分が、すごく恥ずかしいというのです。
青木さんは「俺すげえ言ってるけど、それ」と笑いながらも、自分に「じゃあ行けよ」と言える今井さんを「スーパーハードボイルド」と評します。そのうえで、青木さん自身もちょっと無理をして触れていると認めます。
ただし青木さんは、それは先のための行動で、今を心地よく過ごすことにはフォーカスしていないとも話します。幸せかという問いなら「大概にしたほうがいい」と考えているそうです。
「中途半端」が一番損?止まっている時計の格言
青木さんはもう一つの視点として、中途半端が一番損なのかもしれないと話します。衝動があればできるだけ触りに行く人と、自分が切実に感じることだけでいいと割り切る人。この両者はどちらも得をしているイメージがあるといいます。
ここで青木さんは、秋元康さんの言葉だったかもしれないと断りながら、「止まっている時計は1日に2度合う」という格言を紹介します。今井さんは、キングコングの西野さんも応用していたかもしれないと補足し、青木さんも出典は定かではないとしています。
青木さんの説明では、時計の針を追いかけて歩き続けてもずっと追いつけませんが、12時の位置にとどまっていれば最低1日2回は時が合います。新しいものを追い続けるより、じっとしているだけで一生に2回ぐらい自分の時代が来るタイミングがある、という意味です。
なんか全部回収するぐらいバチーンって合うタイミングが、ただボーッとしてるだけで起こったりするっていうのも、またなんか事実だなってすごく思うから。
だから、新しいものにどうしても手が出ない人は、待つほうを徹底してみるのもいい手だと青木さんは話します。衝動的に動くことが向いていないのだから、という理由です。
自分の「衝動」に自覚的になるには?
青木さんは自分を、やや多動気味で衝動がたくさん湧く一方、後回し癖もあるタイプだと分析します。後回し癖さえ克服すれば、衝動に従っていろいろ触ることから得るものがあるといいます。
一方で、そもそも衝動がない人が無理に新しいものを追いかけると、かえって損をしてしまう。今井さんは、自分の特性を見極めるのが大事だということだと受け止めます。
「これ可愛いな」「これ気になるな」「これ怖いな」といった衝動に自覚的になる。ただし衝動に引きずり回される人生がいいわけでもない、と青木さんは付け加えます。多動力が向いている人もいるけれど、どちらが良いとは言えず、結局は「自分らしく」だと締めくくりました。
文学フリマ東京43に「企業芸術論」を持って出店
最後に青木さんから、文学フリマ ── 作り手が自ら作品を販売する文学作品の展示即売会。東京をはじめ全国で開催されています東京43への出店のお知らせがあります。11月8日の日曜日、東京ビッグサイトで12時から17時まで開催され、青木さんは個人名で2回目の出店をします。ブースは南1・2ホールです。
前回は、編集者の中島さんとの往復書簡の本『希望の回路』と、クラシコムを美学的に鑑賞する試み『立体と断面』を持ち込みました。今回は8月からAmazonで電子書籍とオンデマンド出版で販売している『企業芸術論』を、文学フリマ仕様にデザインし直して持っていくそうです。内容はAmazon版と同じなので、購入済みの人は注意が必要です。
青木さんによれば、『立体と断面』が制作論だったのに対し、『企業芸術論』は鑑賞論です。ビジネスを芸術作品として鑑賞できるとしたらどんな枠組みになるかを、研究をもとに私論としてまとめたもので、「役に立つことが全然書いてない」と笑っています。
まとめ
新しいもの好きであること自体が得になるわけではなく、軽く触ることと本格導入を分け、気になるものを億劫さで見送らず、自分の衝動の性質を知ることが大切だと二人は語り合いました。
- 青木さんは変化が嫌いだからこそ、大事なものを守るために新しいものに触れている
- 軽く触るのは積極的に、本格導入は保守的にすることで、早すぎる飛びつきが負債になるのを避けられる
- 変化の方向性や速さを体で知っておくことが、AIと関係ない日々の意思決定にも効いてくる
- 新しさより「見分けるセンス」が大事で、気になるのに億劫だからスルーし続けるのは損かもしれない
- 衝動に従って動くか、止まっている時計のように待つかを徹底し、中途半端を避けるのも一つの道




