当選率の高すぎる公開収録の前説
「考えすぎフラグメンツ」初の公開収録は、金曜の夜、寒いなか集まった観客を前に始まりました。本編の前に、今井さんと青木さんがフリートークで場をあたためます。
今井さんはリハーサル後の1時間、あえて青木さんを避けていたそうです。雑談をすると、本編に残すはずの話がこぼれてしまうからだといいます。
公開収録の参加は抽選制でしたが、青木さんいわく「ほとんど当選している」状態でした。青木さんが応募の少なさを素直にXに書いていたことも話題にのぼります。
今井さんの会社のスタッフは、オードリーの東京ドーム公演で若林さんが「頼むから来てくれ」と言い続けた結果、逆に当選しにくくなった出来事を思い出したそうです。青木さんは「桁がだいぶ違う」と笑って受け止めます。
青木さんは当初、先着順では一瞬で埋まって申し訳ないと考え、抽選制を提案していました。番組は毎回1万人ほどが聴いており、今井さんもポッドキャストとしてはかなりの数字だと感じていたため、二人とも「いけるだろう」と考えていたのです。
まあでもわかんないですよね。また次やったらまた全然違うことが起きるかもしれない。
向かい合わない収録と「考えたまま死んだロダン」
番組のタイトルコールのあと、今井さんは普段は向かい合って話す二人が、今日は30人ほどの観客を前に横並びで座っていると紹介します。台本にあった「拍手を促す」指示を読み上げてしまうなど、運営側の緊張もにじみます。
会場は池尻大橋のホームワークヴィレッジです。かつて世田谷ものづくり学校だった廃校を改装した施設で、今井さんは大きな建物なので最小限の改装だろうと思っていたところ、想像以上にしっかり作り直されていて驚いたといいます。
青木さんは、このプロジェクトを進めた友人から立ち上げ時に「一枚かみませんか」と誘われていました。ところが「そんなでもなくない?」と断ってしまい、実際に来てみて後悔するほど良い場所だったと明かします。
読みはね、ほとんど当たったことないんだよ。本当に。
青木さんは、事業の相談に「今すぐやめた方がいい」と答えたものが大成功したこともあると話し、「あんまり僕には相談しない方がいい」と笑いを誘います。
この日の青木さんは、頬杖をついた骸骨が切り株に座るパーカーを着ていました。ロダンの「考える人」が考えたまま死んだ、というデザインで、クラシコムのデザイナーに「メタルでロダンが死んでいる」とオーダーして作ってもらったものです。
今井さんは、ロックバンドのライブでバンドTシャツを着て出てくるのはアンコールだという持論から、本編はおしゃれをして臨むつもりでした。ところが青木さんは朝からこのパーカーを着ており、子会社の店舗オープンのレセプションにもそのまま出ていたといいます。
文学フリマは「かつてのインターネット」だった
収録の1週間ほど前、二人は文学フリマ東京に隣同士で出展していました。今井さんによると、出展は5000、来場は1万3000で、入場にも1000円ほどかかります。
青木さんは、2万人近くが集まる熱量の高い場を想像していましたが、実際には乳母車を押した家族連れもいるような、居心地のよい雰囲気だったと振り返ります。
一方で青木さんは、半年ほどかけて文学フリマ用の出版物を作ったことに「何やってんだろう」という気持ちにもなったといいます。普段はYouTubeで100万人規模の登録者がいるなかで、「2冊売れた」と喜んでいる自分がいたからです。
いや、でもなんかこの喜びとか、周囲のなんか熱量とかは何かあるんだよなみたいな。
今井さんは、会場で青木さんが言っていた「この場はかつてのインターネットではないか」という見立てを紹介します。SNSの発展で、本音を書くと炎上や誰かを傷つけることを気にするようになったなか、文学フリマなら書きたいことを書ける、という意味です。
いや、なんかさ、あのネットが中学校のクラスみたいになっちゃって。
青木さんは、エモいことや少し痛いことを言うとからかわれる空気がSNS全体に広がったと話します。10年前ならインターネットで真っ先にやりたかったことが、文学フリマに来ているのではないかと考えています。
青木さん自身も、53歳で20年ほど経営を続けてきた人間としては「青臭すぎる」と言われそうな、希望について8万字を書いた本を持ち込みました。それが許容される場は意外と少ないと感じたそうです。
今夜のテーマ「どうしたら自分の考えに自信が持てるのか」
本編のテーマは、会場の参加者から事前に募集したものから選ばれました。二人とも、番組をよく聴いているからこその面白いテーマが多く、今後使わせてもらうかもしれないと話します。
選ばれたのは、ぽぽぼさんから寄せられた「どうしたら自分の考えに自信が持てるのか」というテーマです。今井さんは、企画や提案をしたとき、経験のある先輩や上司の意見を聞くと「そっちの方が正しそうだ」と思ってしまう経験は誰にでもあるのではないかと紹介します。
今井さんは、そうした判断を支えるのは、何を大事にし、何をいいと感じるかという軸や美意識ではないかと考えています。この回は、それがどう育っていくのかを考えすぎてみる、という趣旨で進みます。
自信はもともとあった?「ほらみろ期」と「おじいちゃん期」
今井さんに「もともと自分の考えに自信があったタイプか」と聞かれ、青木さんは「そんな人いる?」と返します。根拠なき自信も全然なかったといいます。
青木さんは、周りの友人のオリジナリティにコンプレックスがあり、すぐ真似をしていたそうです。現在クラシコムでアートディレクターを務め、妹の夫でもある4歳ほど年下の友人・たかし君の靴を、内緒で同じものを買ってしまうほどでした。
結構素直さには昔から定評があって、あの、スッと真似しちゃったりとかしちゃうのよ。
では経営の判断はどうだったのか。青木さんは、起業して最初の数年は、起業前の人生で貯めた考えやネタのストックがあるため、自信を持てる時期があると説明します。
俺が今まで人生かけて集めてきたポケモンカード結構強くね?みたいになって。
今井さんはこの時期を「ほらみろ期」と呼びます。青木さんの場合、2006年に会社を作ってから2016年までの10年ほどは、手持ちのカードが通用する感覚が続いたといいます。
それでも驕らなかったのは、10年かけて売上10億円ほどというペースで、相対的にはすごくないと感じていたからだそうです。35歳ごろに「北欧、暮らしの道具店」を始めたこともあり、驕る要素はなかったと青木さんは話します。
青木さんには、ヴィンテージの北欧食器が軌道に乗った頃から、仕入れ・オリジナル商品・BtoBのメディアビジネスを組み合わせて、儲かりにくい雑貨のEコマースを収益の上がる形にする構想がありました。その形が一度出来上がってしまったのが2016年です。
青木さんは自分の役割を、油田で次に油が出そうな場所を試掘する係にたとえます。妹さんや社員がどんどん採掘を進める横で「次もあるんですよね?」と見られたとき、手元のカードがなくなっていたのです。
ほんとどうしていいか急にわかんなくなって、あの、一年ぐらいおじいちゃんみたいになっちゃうっていう。
手ぶらからの復活は「乗っかる」と「撤退」
おじいちゃん期からの復活について、青木さんは「とにかく意味わかんないことをやろう」と決めたと話します。この姿勢が今にとても生きているといいます。
ドラマ制作の話が出たのも、ちょうどこの2017年秋ごろでした。自分のアイデアではなく制作会社からの提案でしたが、乗ってみようと思えるほど追い詰められていたそうです。
少なくとも死なない程度のことなら乗ってみる、という時期を経て、青木さんは2017年から2018年ごろに「自分で考えなくてもいい」と気づきます。
あの、もう人の考えで生きていくことにしたんですよ。
今井さんが「乗っかるのが得意なんですね」と言うと、青木さんは「撤退がうまい」ことも挙げます。うまくいかないことをダラダラ続けないため、乗るときにも最悪のシナリオを最初に共有するそうです。
ツドイと番組を始める際にも、青木さんは途中で飽きる可能性や、ある時期でやめようと言い出す可能性を伝え、それでも一緒にやってくれるならと始めたといいます。このやり方で、とても楽になったと振り返ります。
乗るかどうかの判断は「ヒト基準」
今井さんは、乗っかる先を船にたとえ、どんな船なら乗るのか、見極めで気をつけていることはあるかと尋ねます。青木さんの答えは「その人」でした。
なんか、ことにはあんまり興味なくて。なんかいい匂いする人がいたら、その人と出会うための何かを考えるっていうか。
今井さんとの出会いも、BtoB担当の執行役員から紹介されたのがきっかけでした。青木さんは、気が合うというより「いい違和感」「いい質感」があり、もう少し付き合わないとわからないと感じたそうです。今井さんたちがポッドキャストを多く手がけていたことから、毎週話せる形として番組が始まりました。
クラシコムのアプリも、人から始まった事例です。ベンチャーでプロダクトマネージャーをしていた人が転職を希望し、当時はアプリもないのに、青木さんはその人と働きたくて採用を決めました。
入社までの数か月で仕事があるか不安になったとき、青木さんは前年にベトナムで見た、ソフトウェア開発会社・サンスタリスクの小林さんの会社を思い出します。目を輝かせて働くエンジニアたちに発注したい気持ちと、新しい仲間の仕事が結びつき、アプリを作ることにしたのです。
そのアプリは現在およそ500万ダウンロードで、売上の8割ほどを占めているといいます。ただ青木さんは、最初はヒットしないと思っており、1年ほどこの人たちと仕事ができればいいと考えていたそうです。
退路を残す人が、なぜ上場を選んだのか
今井さんは、青木さんの判断が人ありきの「後付け」であることと、気まぐれでキャンセルできる余地を常に残すことは、株主のいる上場企業に向かないのではないかと問いかけます。2017年に始めたことの1つが、まさに上場準備でした。
上場準備も乗っかり案件で、証券会社や監査法人へのコストがかかるものの、「やっぱりやりたくない」と言っても怒らないなら進めていい、という約束で始めたといいます。
あの、常に退路を確保してきた自分としては一番やっぱ怖かったよね。上場する直前は。
青木さんが気づいたのは、M&AやIPOだけでなく、承継・清算・倒産もイグジットだということでした。イグジットするかどうかではなく、どのイグジットを選ぶかが課題だと考えたのです。
承継
当時小学生の息子が継ぐ前提で会社を作るのは避けたいと考えた
M&A
売却後に自分が続けたい気持ちはおそらくないと考えた
IPO
オーナーシップを持ちながら前に進め、後を託す経営者もやりやすい
誰かに経営を託すなら、オーナー家がほぼ100%を持つ会社を任されるのは気の毒であり、パブリックな会社のほうがやりやすいだろう、という判断もあったと青木さんは話します。
提案するなら「おすすめ順」をつける
話は、提案する側の今井さんへ移ります。青木さんは、提案には自信が必要なイメージがあると問いかけます。
今井さんは、不正解を提案することはないとしたうえで、AもBも正解という場面でも「Aです」と言い切ることがあると答えます。青木さんは、初めての人気店でおすすめを教えてくれない店は意地悪だ、とたとえて共感します。
その五人の中で僕らの優先順位はこうです。
今井さんは、番組のゲスト候補を5人出して「どうですか」と投げる提案は極力しないそうです。番組の状況や青木さんとの相性を考えれば順位がつけられるので、その努力をするといいます。
さらに、青木さんが選びたがっても今はやらない方がいい人は、最初から選択肢に入れないといいます。今井さんは新しいメンバーに、「決まったら困るものを持っていかない」ように伝えているそうです。
一方で、締め切りまでに自信を持ちきれない場合もあります。そのときは正直に、「この3人は団子です」と順位を決めきれないまま持っていくことがあると今井さんは話します。
そもそも自信は必要?アイデアではなく考えのプロセスへ
青木さんは、考えすぎ流派なら最初に問うのは「そもそも自信って必要か」ではないかと切り出します。台本にも同じ問いが書かれていたと今井さんが明かし、会場が沸きます。
今井さんは、自分のやり方を「自信が持てるまで考えてから行く」と言い表します。青木さんも、自分の考えに自信を持つことは必要だと考えたうえで、では「考え」とは何かを問い直します。
青木さんによると、提案のアイデアそのものに自信を持つのか、アイデアにたどり着くまでのプロセスに嘘がないことに自信を持つのかで、話は大きく変わります。
てか自信を持ちすぎたアイデアの提案って、受ける方からすると若干押し付けがましい。
受け手から見ると押し付けがましく、余地を残してくれない
考えの嘘のなさに自信を持つ。受け手が求めているのはこちら
今井さんは、この番組を提案したときのことを思い出します。青木さんの相方の候補として、人気のポッドキャスターなど3人ほどを挙げ、4人目に今井さん自身を入れていました。
今井さんは前日まで、自分より良い答えを探して議論を続けたといいます。自分で「俺を入れよう」とは言いにくく、メンバーが言い出すのを待っていたそうですが、青木さんはそれも含めて正しいプロセスだと受け止めます。
判断基準は「正直・公正・親切」の順番で
青木さんは、嘘のなさは構えとして圧倒的に強いと話し、クラシコムの理念体系にある判断方針「正直、公正、親切」を紹介します。
ここでの正直は、何でも話す透明性ではなく、欺瞞がないことを指します。自分で自分を騙す自己欺瞞や、先入観にとらわれたバイアスがない状態です。そのうえで全体から見て理にかなう公正があり、その範囲で最大限親切にする、という順番です。
親切が先に来ると、歪んだ世界観による的外れな親切や、誰かを喜ばせて誰かをないがしろにすることが起きると青木さんは説明します。欺瞞があることは、突っ込まれたくないところがある、つまり脇が甘いということだといいます。
例えば、朝まで考えても自信のない提案を「自信がないんです」と持ってこられると、ツッコミどころがなく、一緒に考えようという流れになります。結果的に提案が良くなることも多いそうです。
だけど、「自信があるやつ出せなかったんですよ」っていうことによって、一気に強くなるんです、こっちは。
逆に、自信がないのに合理性や流行を理由に自分を納得させて持っていくと、相手が少し渋い顔をするだけでドキドキしてしまいます。青木さんはこの対比から、自分の考えに自信を持つことは正直であることにかなり近いと述べます。
「本当だから役に立つ」露悪ではないリアルを身につける
青木さんは、松浦弥太郎さんの「本当だから役に立つ。役に立つから面白い」という言葉が、クラシコムの重要な方針の1つになっていると紹介します。面白いことをやろうとする人への警告だと青木さんは受け止めています。
ただし青木さんは、本当であることと露悪的であることは違うと強調します。「家が汚いんです」といった本音は確かに本当でも、それは露悪だといいます。
青木さんのたとえは、ジャンクフードです。目の前にあれば食べてしまうけれど、本当に望んでいるのは美味しく健康的な食生活であり、それを無視して「どうせ俺はこう」と言うのも一つの欺瞞だと話します。
ジャンクフードを食べてしまう自分だけを本当だとし、ありたい自分を無視する
つい食べてしまうことも、健康的な食事を望むことも両方含める
青木さんは文学フリマでも、将来への希望や叶えたい夢を正直に出している人たちを見て、ツッコミどころがあっても構えは強いと感じたそうです。嘘がないことに自信が持てれば、責められても「こういうものなんで」と言えるからです。
青木さん自身は、起業前後は自信がある人を装っていたといいます。周りと並んだ自己紹介で小さな「盛り」を入れたくなり、後で恥ずかしくなる経験を重ねたことで、拙さを先に出すようになりました。
その僕の乏しさとか拙さで、僕のことをなんかこう、「こいつとは付き合わなくていいや」って思う人いたら、まあそいつとは付き合わなくていいなって
今井さんも、おしゃれなアートディレクターに編集の仕事を聞かれると、オウンドメディアやポッドキャストより先に雑誌のブルータスを挙げてしまうと告白します。青木さんは、本当のことでも「どのカードから出すか」にいやらしさが出ると返し、二人ともようやくやめられるようになってきたと笑います。
収録の最後、青木さんは最初は不安だったものの、会場の反応のおかげで話しすぎたくらいだったと振り返り、二人は来場者に感謝を伝えて締めくくりました。
まとめ
「自分の考えに自信を持つ」という問いに対し、青木さんは、アイデアそのものではなく考えのプロセスに嘘がないことへの自信を挙げ、それは正直であることに近いと結論づけました。経営での「乗っかる」判断から提案の順位づけ、露悪ではないリアルまで、一貫して欺瞞のなさが強い構えをつくるという話が続いた回です。
- 青木さんの自信は、起業前のストックを出し尽くした2016年に一度途切れ、人の提案に乗る姿勢で復活しました
- 今井さんは、自信が持てるまで考えて順位をつけ、決めきれなければ正直にそう伝えて提案しています
- 受け手が求めるのはアイデアへの過剰な自信ではなく、考えの嘘のなさだと青木さんは考えています
- クラシコムの判断方針は、正直を土台に、公正、親切の順で積み上げる構造です
- 本当であることは露悪ではなく、ありたい自分も含めて欺瞞なく向き合うことだと語られました




