中央線の乗り間違いと、Apple Podcast「ベスト10」選出
2025年最後の配信は、今井さんが10分遅刻したお詫びから始まります。原因は、乗り慣れていない中央線でした。
今井さんは新宿方面から来て、目的地の国立を通り過ぎ、立川で降りてしまいます。「国立には速い電車は止まらない」というイメージから普通電車を探したものの、中央線には普通電車がありませんでした。
(中央線は)僕の人生の中では一番、同じ路線なのに違う電車が走ってる。
青木さんも、立川で慌てて特快に乗り、国分寺まで行ってしまうことがあると明かします。今井さんの地元の滋賀県では、電車は新快速と快速の2種類だけだったそうです。
番組は約9か月、37回まで続きました。2025年3月ごろに始まった番組が、Apple Podcastの「ベスト10 2025」に選ばれたことも報告されます。
青木さんは、再生数ではなく編集部が選ぶ賞だと受け止めます。今井さんは、作品を紹介する立場の人が選ぶという意味で本屋大賞 ── 全国の書店員が「いちばん売りたい本」を投票で選ぶ文学賞。作家ではなく、本を届ける側が選ぶ点に特徴がありますに近いと例えました。
僕中心で賞もらったら初めてじゃない?
同じく選ばれた番組には、オモコロの原宿さんの『今じゃない企画室』、三宅香帆さんの一人語り番組『転校』、自炊料理家の山口ゆかさんの『聞くだけでご飯ができるラジオ』があります。
今井さんは山口さんと友人で、番組を始める前にお茶をしたとき、『聞くだけでご飯ができるラジオ』というタイトルに反対したそうです。山口さんはそのタイトルのまま始め、見事に選ばれました。今井さんは「僕の言ったとおりにしていたら、もっといい賞だったかもしれない」と冗談を言います。
目標は立てない。年末に振り返り、立てるなら「方針」
本題は「新年の目標って立てる意味ある?」です。年が明けると目標を立てたくなるものの、年末にはその目標を思い出せない人も多いのではないか、という問いから話が始まります。
青木さんは、1年の目標をほとんど立てたことがないと話します。そのかわりに、年末の休みに1年を振り返ることに力を入れています。
僕毎年Facebookのさ、投稿内容を全部コピペしてさ、1年ずつまとめるみたいなやってんじゃん。
青木さんの振り返りでは、Facebookの投稿に加えて、1年分のGoogleカレンダーもすべて見返します。記憶力が悪いため、「こういうことができた」「こんなに何もしていなかった」という出来事を年末に確かめ直すそうです。
今井さんも目標は立てないほうです。そのうえで、立てるとしたら目標ではなく「方針」だと言います。
今年は絶対、例えば20キロ痩せるぞみたいなことではなくて、(方針で言えば)少し健康的になるみたいな。
今井さんは数値目標をほとんど達成したことがなく、目標があると生活が縛られる感覚もあるそうです。そのため、「会いたかったけど会っていない人に、できるだけ会う年にする」といった方針を立てることはあるといいます。
「20キロ痩せる」のような明確なゴール。達成しにくく、生活が縛られる感じがある
「少し健康的になる」「会いたかった人に会う」のような向き。生活を縛りすぎずに進む方向を決める
青木さんは、振り返りの延長で「流れ」を考えると話します。直近の1年を振り返ると、社会や自分、仲間がこれからどう進みそうかという流れが見えてきます。
振り返る
Facebookの投稿やカレンダーで、直近1年に起きたことを確かめる
流れが見える
社会、自分、仲間について、今から来年へ続く流れが見えてくる
シナリオを描く
「うまくいけばこう」「まずいこともあるかも」と複数のパターンを空想する
青木さんによれば、このシナリオづくりは「夢が広がる」というより、「今ずっとこれを気にしているのはなぜか、それがどう発展していくか」を考える時間に近いものです。
会社の目標の時期にも話が及びます。クラシコムは7月が期末、8月が期首のため、青木さんが1年について考えるのは主に夏です。
そのため青木さんにとって12月は、来期について考え終えてほっとしている時期です。一方で今井さんのツドイは5月末締めで、1月に目標を決めてもすぐ期末が来てしまいます。今井さんは「12月末締めにしておけばよかった」と気づいたそうです。
人生で一度だけ「腹をくくった」20代の転機とは
今井さんが「人生で目標を立てた場面はあったか」と尋ねると、青木さんは20代後半、実家の子ども部屋で暮らしていたころの話をします。自分がひどくダメになっていく感覚があり、今で言えばメンタルが落ちていたのかもしれないと振り返ります。
26歳ごろ、青木さんを心配した父親が、部屋のドアの下から手紙を差し入れました。
お前は男なんだから、お母さんと妹には、心配をかけるなみたいなことが書いてあった。
普段の青木さんなら「男だから」「大人なんだから」と言われると、ハリネズミのように反発していました。それでもこのときは、長男としての役割など、拒んできた社会的な役割を一度すべて引き受けてみようと腹をくくったそうです。
これからどうしようで腹くくったのってあれくらいしかないかもな。
青木さんはそれ以来、落ち込んでいても心配事があっても、あまり表に出さなくなったといいます。40代になってそれを少し取り戻そうとしたので、良いことだったかはわからないとも話しています。
当時の青木さんには、手元にまったくないものを努力して取りに行こうという感覚がありました。普段は手持ちのものでなんとかするタイプの青木さんにとって、それが最後の経験だそうです。父親の手紙は「マジでムカつく文面」なのに、なぜ受け入れたのかは今でも不思議だと語ります。
目標がないと叶わないことは何か?選ばれる道と起業の道
今井さんは、目標があることにもないことにも、それぞれメリットがあると整理します。目標があると経験値をためやすく、やらないことがはっきりします。目標がなければ、チャンスに臨機応変に対応できます。
青木さんは、目標を立てないと叶わないことは多いと話します。たとえば特定の大学のゼミで学びたいなら受験勉強が必要で、弁護士になりたいなら司法試験 ── 弁護士・裁判官・検察官になるために必要な国家試験。法科大学院の修了などが受験資格になり、長期間の準備が必要ですを受けなければなりません。
相手から何らか許可とか、認められるとか、選ばれるとか、そういうことが必須の何かを叶えたいっていう場合は、これは間違いなく目標を立てて準備する必要があるよね。
一方で、青木さんは起業を、試験やオーディションを通らなくてもよい道だと説明します。最終的にお客さんやクライアントが認めてくれれば続けられるからです。
今井さんは、妹の佐藤さんと始めた青木さんの起業を「兄妹で小さな温泉を掘っていたら、どんどん大浴場になった」ようなものだと例えます。誰かに頼まれたわけでも、許可が必要だったわけでもありません。
実家の庭掘ったら水が出てきて、もうちょっと掘ったら温泉が出てきて、もっと掘ったらなんか石油出てきて。
今井さんは、なぜ目標を持ってコツコツ努力する人がかっこよく見えるのかと問いかけます。青木さんの答えは、人生の主要な場面には、誰かに選ばれたり許可されたりしないと進めないルートが多いからではないか、というものです。
学校に進むにも、就職するにも、試験や面接があります。今井さんも、アーティストならギャラリーに見いだされた人のほうが早いだろうと加えました。
ただし青木さんは、最近はSNSによって、目利きを通らずに世に出る「獣道」が大通りになりつつあるとも話します。作品や人柄が社会の空気とうまく合えば、全体からふわっと引き上げられ、一気にスターになることもあるといいます。
振り返りから見えた「5年前の自分のほうが冴えていた」
今井さんが年末の振り返りのアウトプットについて尋ねると、青木さんは、Facebookの投稿のうち外に出しても問題ないものを、個人のnoteにまとめて貼っていると答えます。自分が読み返すためにやっていて、青木さんにとっては日記のようなものです。
青木さんのFacebookには日々の出来事ではなく、読んだ本や気づいたことが書かれています。1年分をまとめると、意外な事実も見えてくるそうです。
ここで気づいたみたいなこと言ってるけど、直近5年で3回はそのこと(同じこと)に気づいてるからな。
今井さんが「昔の自分のほうが冴えている時もあるか」と聞くと、青木さんは「5年くらい前までの僕はすごく冴えていた。直近5年はぼやっとしている」と答えます。
今井さんはここで、冒険家の角幡唯介さんの著書『43歳頂点論』を紹介します。気力・体力・経験を三角形の3辺とすると、その面積が最も大きくなるのが43歳ではないか、という内容です。
青木さんは、個人の能力の頂点はそのあたりにあるかもしれないと受け止めます。さらに、知識やネットワークも、過去の成功に固執しない程度にほどよく積み上がっている時期だと補足しました。
ぼんやりしたほうが周りが育つ?「らしい」をめぐる話
青木さんは、ぼんやりしても困らないと話します。むしろ切れ味が鋭いままのほうが困っただろうと振り返ります。
もうちょっとぼんやりできるとこまで60代になったら僕なれると思うのよ。で、そしたらね、多分僕の職業上はもっといろんなことうまくいくようになる。
青木さんの考えでは、切れ味のいい思いつきがあっても実行できることは少なく、試してもうまくいかないことも多いものです。社長も組織の一員であり、自分がぼんやりしているほうが、周りの人がいろいろ思いつくようになるといいます。
今井さんは、事業会社の経営者ならそれはわかると納得します。一方で、自分のような「出入り業者」の編集者は、各所でキレのいいことを言わなければならないと話しました。
今井さんは最近の出来事も紹介します。業務外で後輩編集者のプロジェクトを手伝っているとき、後輩がデザイナーに入稿時刻を「13時らしいです」と伝えたことがありました。
(「13時らしいです」の)このらしいは良くないっていう。
今井さんは別のやりとりで、責任を取るのは指示した人なので、確定した情報を自分の責任で伝えることが信頼につながる、と後輩に伝えたそうです。
青木さんは、そのデザイナーも「13時くらいですね」と受け取るだけで、実際には困らないかもしれないと話します。後輩が自分で失敗して気づけば「らしい」と言わなくなる可能性が高く、周りがチクチク指摘すると身に染みずにかえって直らないこともある、という見方です。
青木さんは、自分も細かい性格だと認めたうえで、もう少しぼんやりしたほうが周囲の人も育ちやすいのではないかと話しました。ただ二人とも文章を扱う会社の経営者です。今井さんはSlackの誤字や固有名詞の間違いに厳しく、青木さんは断定的な言い方のように、誰かを無自覚にないがしろにする表現が気になるといいます。
今井さんの2026年の方針は「メモをとる」
ここまでの話を聞いて、今井さんは2026年の方針を決めます。自分が何を考えているかをメモに残していく、というものです。
今井さんがきっかけに挙げたのは、ほぼ日に載っている昔の鼎談記事です。糸井重里さん、松浦弥太郎さん、当時ブルータス編集長だった西田さんが、手書きについて語り合っています。
この記事では、日記を書いていないらしい西田さんが「読み返さなくないですか」と問いかけます。それに対して、糸井さんか松浦さんが、今の悩みに昔の自分が答えを出していることは多い、と応じていたそうです。
将来の自分のために今書くみたいなことをやってみようかなと聞いてと思いましたね。
一方で青木さんは、メモを取る習慣がまったくないと言います。Facebookに書くのも、隣に話し相手がいないからにすぎません。会議でメモを取れる人はすてきだと思うものの、一度もできたことがなく、メモするのはカレンダーの予定だけです。
なんかね、大事なことはね、抜けないんだよ。
今井さんは20代のころ、編集者の先輩である佐渡島庸平さんからも「メモは取らない。大事なことは忘れないから」と聞いたことがあります。当時は「東大を出ているからでしょう」と思ったものの、今は素直にわかるそうです。やるべき大きなことを1つ覚えていれば、付随することは自然に出てくるといいます。
青木さんは、頭の良さだけではないと考えます。仕事の出来が自分の生存に直結するようになると、大事なことは抜けなくなるからです。会社を自分で経営する立場なら、本当に大事なことを忘れれば「死ぬもん」と話します。佐渡島さんも講談社時代にヒット作を担当し、その影響の大きさに緊張していたのではないかと推測しました。
青木さんの2026年の方針は、反応までの「タメ」をつくること
今井さんが2026年をどんな年にしたいか尋ねると、青木さんは毎年思っていることだと前置きして答えます。何かが起きたりニュースが入ってきたりしたとき、反応するまでの「タメ」をつくりたいそうです。
青木さんの反応はだいぶ遅くなってきたものの、まだ早いといいます。目指すのは、何を考えているかわからないと思われるくらいの遅さです。早いほうがいいとされているのになぜか、と今井さんが聞くと、青木さんはこう答えます。
青木さんは、社会問題や大きなニュースに注意を向けないわけではありません。すぐに強く反応しないことを大事にしているのです。本当のところどうなるかは、誰にもわからないからです。
社会問題のように自分から少し距離のあることには、タメをつくれるようになってきたそうです。難しいのは、目の前で自分に起きるリスクやチャンスです。「今動かないと手に入らないかも」と思う場面でも、「タメをつくってうまくいかなかったら仕方ない」と心から思えるようになりたいと語ります。
いろいろなことに自分なりの意見を持ち、心を痛め、暗い気持ちになっていた
関心は持ち、自分の考えも持ちつつ、行く末を見守る姿勢が強くなった
青木さんは、反応に意味がないとは考えていません。ただ、1人の人間が持つ注意や思考のリソースは有限で、何にでも反応すると、自分の役割や「どう生きたいか」に役立たない思考で頭がいっぱいになってしまうといいます。
ビジネスでは、風が吹けば桶屋が儲かる ── ある出来事が、意外な因果のつながりを経て、無関係に思えるところへ影響を及ぼすことのたとえのように、地球の裏側の出来事が為替、原材料、市場、税金を通じて会社の土台を揺るがしかねません。当事者にとって喜ばしい民主革命でさえ、取引先の工場が壊れれば心配事になります。
身近な例として、青木さんはクラシコムで社員の約2割が産休を取る状態が続いていることを挙げます。とても喜ばしいことなのに、「あの部署は大丈夫か」とつい心配してしまいます。それでも薄目でぼんやり見守り、最悪の事態になったら動くくらいで、なんとかなることが多いそうです。
恐怖とか不安とか、あるいは逆に興奮とか、そういう情動が立ち上がってくるまでの時間を伸ばしたいみたいな。
話を受けて、今井さんは二人の方針をこうまとめます。今井さんは思考のログを「貯め」、青木さんは反応までの「タメ」をつくる。2026年は二人とも「ためる」年です。
番組は、リスナーからのお便りやSNSの感想が増えてきたことへの感謝で締めくくられました。12月31日の配信は休み、次回は年明けからです。
まとめ
新年の目標を立てることについて、青木さんと今井さんはどちらも「目標より振り返りと方針」という立場でした。ただし、選ばれることや許可されることが必要な道では、目標を立てて準備することが欠かせない、という点にも二人は目を向けています。
- 青木さんは目標を立てるかわりに、Facebookやカレンダーで1年を振り返り、これから続く流れとシナリオを考えている
- 今井さんは、数値目標より生活を縛らない「方針」を立てるほうが合っていると話す
- 試験やオーディションのように「選ばれる」必要がある道では、目標を立てて準備することが欠かせない
- 青木さんは、ぼんやりしても困らず、むしろ周りが育ちやすくなると考えている
- 2026年の方針は、今井さんが「メモで思考のログを貯める」、青木さんが「反応までのタメをつくる」



