冬の楽しみは0度の氷風呂?
本題の前に、今井さんが冬の楽しみを尋ねると、青木さんは「アイスバス」と答えます。青木さんは日頃から冷水シャワーを3分から5分ほど浴びるのが習慣で、水道水が冷たくなる12月後半からが本番だと話します。
アイスバスは氷を満たした、ほぼ0度の氷風呂です。青木さんは北海道の屈斜路湖へここ2年ほど毎年通っており、今は5分ほど浸かるといいます。
青木さんのやり方は、オランダ人のヴィム・ホフさんが開発したヴィム・ホフ・メソッド ── 「アイスマン」と呼ばれるヴィム・ホフ氏が考案した、呼吸法と寒冷への曝露を組み合わせた健康法。安全のため指導者のもとで行うことが推奨されていますです。呼吸法で意識を変えたうえで、サウナで体を温めずに氷風呂に入ります。出たあとも火に当たらず、寒い場所で30分から40分ほど運動して体温を戻します。
急に温めると冷えた血液が一気に心臓へ戻り、強い不快感があるためだといいます。青木さんは、この2月ごろが1年で一番運動する時期だと笑います。安全面から、一人では絶対にやらず、インストラクターに頼んで友人と一緒に入っています。
青木さんにとって、アイスバスの価値は体調よりも心の体験にあります。体はやり方さえ間違えなければ大丈夫でも、初めて入ったときは「死ぬ」と思うほどの恐怖と痛みがあったそうです。
(インストラクターが)「青木さん、サレンダーして、サレンダーして」って言うのよ。
抵抗をやめて一度すべてを諦めると、その先に静かな境地が訪れたといいます。青木さんは、不確実な世界で不安を抱えながら生きるなかで、流れに身を任せることで開けるものがあると体で思い出せる経験だと話します。今井さんの冬の楽しみは「ヘッドホンができるようになること」で、話の規模の差に二人で笑い合いました。
転職して教わる側に戻ったとき、素直さはどこへ?
この回のテーマは、リスナーの考えすぎネーム・ムロさんから届いたお便りがきっかけです。今井さんが相談を読み上げました。
転職して教えてもらう側の立場になりました。新人時代の嫌な先輩の教え方を思い出したのか、いざ数年ぶりに自分が教えてもらう側になると、自分に主張があって、くみ取ってもらいたいなと思うようになりました。新人時代の素直さはどこかへ置いてきてしまったようです。
信頼関係の構築なくしては、相手の意見を素直に受け入れることができなくなってしまいました。どういった方針で、どういうコミュニケーションの取り方で、どのくらいのスピード感で進めるかを話し合ったうえで進めたいのですが、その話し合いすらまともに噛み合わない現状があります。こんな状況でも、教えてもらう側はグッと我慢して仮面をかぶっていくのが正解なんでしょうか。
今井さんは、社会人経験があるからこそ新人のように素直になれず、教える側の上手い下手も気になってしまう悩みだと受け止めます。青木さんは「大変だよな」と共感を示しました。
青木さんは、サイバーエージェント ── インターネット広告やメディア、ゲーム事業などを手がける日本の企業。採用で「素直でいい人」を重視する考え方が知られていますの「素直でいいやつを採用しろ」という話を挙げます。素直さは大事だとされ、青木さん自身もそう思う一方で、その素直さが何を指すのかを問いかけます。
今井さんは、素直さには表層と深層の2種類があると考えています。表層的な素直さは「わかりました!」と返事がいいことです。深層的な素直さは、返事は大したことがなくても、言われた通りに行動したり、何かを取り入れたりすることだといいます。
「わかりました!」「押忍!」と返事がいい
返事は普通でも、言われた通りにやり、取り入れて行動する
素直さの正体は「予測可能性」をつくる自己開示
今井さんは、以前「実は素直だ」と話していた青木さんに、その素直さが何を指しているのかを尋ねます。青木さんは、自分のベースには他者と世界をまず一旦信頼してみようとする態度があると答えます。
そこから青木さんは、大事なのは素直さそのものより信頼関係だと整理します。信頼関係を作りやすくする特徴を、人は素直さと呼んでいるのではないかという見立てです。
で、信頼関係において、じゃあ今度は重要なものは何かっていうと、予測可能性なんだよ。
青木さんの説明では、予測可能性とは「これを言えば今井さんはこう反応するだろう」「こう頼めばこうしてくれるだろう」と見通せることです。予測可能性が高い相手とは心理的安全性が高く、仕事の効率もよくなります。
反対に、何で怒るのか、何を喜ぶのか、仕事の段取りで何を大事にしているのかがわからない相手との仕事はストレスになります。青木さんは「価値観が合う人」という言い方も、結局は予測可能性が高い相手を指していると話します。
初対面で何もわからない状態から予測可能性を高めるには、正直な自己開示が必要です。青木さんは、本当は嫌だと思っているのに「いいっすね」と寄ってくる相手には、あらゆる言動に「本当かな?」と疑うコストが生じ、信頼しにくくなると例を挙げます。
一方で、「全体的には好きだけど、ちょいちょい言うあれには違和感がある」と伝えられれば、青木さんは「無意識だった、ごめん。でもこういう意図だった」と返せます。このワンターンだけで、信頼関係は大きく更新されるといいます。
ちょっとリスクを取った自己開示がそれをしてくれて、この自己開示のことをして素直さって言ってるはずなのよ。本当は。
ただし、青木さんは受け取る側の責任も指摘します。率直に言われた側が「何歳上だと思ってるんだ」「上司だぞ」と返せば、相手はもう何も言えなくなります。軽くイラッとしても一旦受け取り、「ショックだ」と正直に返したうえで、信頼関係の結び直しを話し合う姿勢が大切だといいます。
今井さんは、このやり取りを「お互いの取説を書き足していく感じ」と表現し、青木さんも強く同意しました。
正直な自己開示
リスクを取って本音を伝え、受け手も一旦受け止める
取説の書き足し
お互いの反応や意図への理解が増える
予測可能性の上昇
相手の反応が読め、疑うコストが減る
信頼関係の強化
心理的安全性が高まり、仕事の効率もよくなる
「察してほしい」が信頼を壊すのはなぜ?
青木さんはムロさんの状況に話を戻します。教える側の人も「この教え方だとわかりにくい」と言われることを想定しにくいのかもしれません。また、相手から見たムロさんも、しっくり来ていない様子なのに何も言わない、予測しにくい存在に映っている可能性があるといいます。
青木さんは、ムロさんのお便りにあった「察してほしい」という気持ちが、信頼関係を最も損なうおそれのある考え方かもしれないと指摘します。自分が何をしてほしいのかを明示しなければ、相手からの予測可能性は下がります。
察してくれないってことを明示しないと、結局機嫌を悪くするとか、態度とかでそれを分からせようとするみたいなことに繋がっちゃうじゃない、お互い。
青木さん自身は、相手を感情的にさせずに、思ったことを正直に伝える訓練を続けているといいます。言い方や段取り、どこまで言えるかの見極めを含めた訓練です。もともとは「超乱暴な人」で苦労し、反対に上辺を取り繕うともっとひどいことになるという経験もたくさんしてきたそうです。
最善を尽くしても、相手を怒らせたり傷つけたりすることはあります。それでも青木さんは、そうした場面も信頼関係を更新するチャンスになりうると考え、過度に恐れないようにしているといいます。
勇気とは「本当に怖いこと」を知っていること
青木さんは、勇敢さで一番大事なのは、本当に怖いことを怖がることだと話します。その考えを説明するために、息子さんが5歳ごろの寝る前に「パパ、勇気ってどう出すの?」と聞いてきたときの話を紹介しました。
青木さんが息子さんに話したのは、森でライオンに遭遇し、息子さんの足では逃げられない場面のたとえです。その状況なら、自分は息子さんを逃がし、自分が食べられることを選べると思うと伝えたそうです。
もちろん食べられることは怖いが、僕にとっては自分が意気地なしだったせいで、息子であるお前が食われちゃうことの方が怖いから。
青木さんはこの考えを職場の対話にも当てはめます。工夫して本音を伝えた結果、衝突が起きるかもしれません。それでも、問題をそのままにしておくほうが怖いと考えれば、比べて怖くないことは怖がらずに済むといいます。
今井さんも、自分が動くときの判断基準を明かします。「めんどくさい」「傷つきたくない」以外にやらない理由がないと気づいたら、しんどいと思いながらも言うようにしているそうです。ムロさんにも、15分でも30分でもいいので指導係の人と話す時間を取ることを勧めました。
不機嫌のループを断つ、新入社員の「機嫌のよさ」
青木さんは、ムロさんがまだこの会社で頑張りたいのであれば、と前置きし、ここからは損得の話だとしたうえで、とにかく不機嫌に見せないことが大事だと話します。不機嫌な人は相手から見て予測しにくく、そこから信頼しないループが回り始めるからです。
不機嫌に見える
相手から予測しにくくなる
信頼されない
信頼できない人向けの対応や仕事の任せ方をされる
傷つきが生まれる
信頼されていないと感じ、さらに不機嫌になる
クラシコムは、入社する人のほぼ8割が未経験者だといいます。入社した人から「どういう勉強をしたらいいですか?」と聞かれると、青木さんは「1年から1年半は、機嫌よくいてくれるだけでものすごい貢献だよ」と伝えているそうです。
青木さんはその理由を赤ちゃんにたとえます。一族に赤ちゃんが生まれ、健やかに育つと、父親は仕事を頑張り、兄や姉には自覚が芽生え、祖父母は元気になるかもしれません。赤ちゃん自身は具体的なことを何もしていなくても、健やかにそこにいるだけで一族という組織に貢献しています。
新入社員みたいな人って、会社にとってはその入ってくるだけでなんかね、祝福なんだよね。
逆に、新入社員が元気をなくしたり、上司に食ってかかったりすると、「赤ちゃん元気ないみたい」と一族のテンションが下がるのと同じ状態になります。青木さんは「機嫌よくあり続けるには成熟が求められるので、実は一番難しいかもしれない」と認めたうえで、それでもお願いしているといいます。
実際、新人が楽しそうに働いていると、メンターになった2〜3年目の社員が急に自立したり、マネージャーが元気になったりするそうです。今井さんはそれを「組織全体にバフがかかる感じ」と表現しました。新人のスキル面での成長は会社の規模から見ればわずかでも、機嫌のよさはDay1からできる貢献だというのが青木さんの考えです。
今井さんは、指導係を信頼して要望を一度伝え、それが叶わなかったとしても機嫌よくいれば、周りは見ているはずだと話します。青木さんも、誰かが助けてくれるという感覚が「世界に対する信頼」だと応じます。会社が合わないだけなら、崩さなかったそのフォームのまま転職先で活きるかもしれないとも話しました。
あわせて青木さんは、礼儀の重要性も強調します。礼儀を欠いた主張は、内容が正論でも「お前のその言い方」の問題にすり替えられてしまうからです。言うべきことをきちんと伝えるためにも、マナーや気遣い、機嫌に気を配る必要があるといいます。そのうえで、教える側が乱暴、無神経、意地悪という場合もあり、ムロさんはそれもわかったうえで大変なのだろうと思いやりました。
「教える・代わりに決める・心配する」3つのマネジメントコスト
今井さんは、機嫌の話から、青木さんがよく話す「3つのマネジメントコスト」を思い出します。青木さんによると、それは「教える」「代わりに決める」「心配する」の3つです。
どれほどパフォーマンスの高いスタッフでも、マネジメントコストに見合っているかで評価されます。優秀な人は「教える」と「決める」のコストがすぐに下がる一方で、「心配」のコストをさまざまな形でかけてくる人もいます。反対に、スキルでは劣っていても心配がいらず、コストパフォーマンスが高い人もたくさんいるそうです。
| コスト | 内容 | 入社直後 |
|---|---|---|
| 教える | 仕事のやり方を教える | 最大の時期 |
| 代わりに決める | 本人の代わりに判断する | 最大の時期 |
| 心配する | 様子を気にかける | Day1から下げられる |
今井さんが「入社初日から下げやすいコストは心配ですね」と確認すると、青木さんは強く同意します。新入社員は「教えられているだけなのに、教える側が元気になる」ボーナスタイムにいるため、心配を下げることがそのまま大きな貢献につながるといいます。
経験のある年長者が謙虚に機嫌よく学ぶ姿を見せると、周りは「あの人すごくない?」と「メロメロ」になり、若い人以上の貢献になることもあるそうです。
相手が言われたことによって、自分は自分を変更する、その用意があります。で、自分も相手に変更してほしいことがあったら正直に言いますという態度が対話だと思って。
青木さんは、対話とは説得でも要求でもなく、こうした態度の交換だと話します。難しい局面でこの対話的な姿勢を見せてくれる人とは「一緒に働けて嬉しい」と感じるといいます。
50代で味わう「無様でいる自由」とは?
最後に今井さんは、経営者が茶道やそば打ちなど異分野をゼロから習いたがる気持ちが青木さんにもあるのかを尋ねます。青木さんの答えは「あります」でした。
青木さんは最近、哲学者の谷川嘉浩 ── 日本の哲学者。哲学を一般向けに開く著作や講座で知られていますさんが主催する少人数のクラスに参加しています。課題図書は日本語なのに1行もわからず、ほとんど1行ずつGeminiに解説させながら読んでもわからないそうです。ほかの参加者の中には理解できる人もいて、「俺だけこんなにわかんないの?」という状況がワクワクするといいます。
その無様である自由があるっていう。
青木さんは、名前を覚えていないとしつつ、昔インドを旅した人の言葉を紹介します。ガンジス川のほとりで、火葬の焼け残りを野犬が食べる光景を見て「人間は犬に食われるぐらい自由なんだな」と感じたというものです。エピソード説明では、これは藤原新也さんの言葉として紹介されています。青木さんは「いい言葉ではない」と断りながらも、そこで作者が感じた自由はあると思うと話します。
50代になり、得意分野ではそれなりに一人前のことができると思っている青木さんにとって、めちゃくちゃ無様になる経験は自由を感じさせるものだといいます。いたたまれなさは誰に脅かされているわけでもなく、自分が受け入れればいいだけだからです。
青木さんは、今後出演予定のぶん振りや、募集しても定員が集まらなかったオーバーシンカーズナイトのような経験も同じ感覚だと話します。今井さんの「それでも全然生きてる」という言葉に、青木さんは「自由が拡張していく感じ」と応じ、二人はムロさんへのエールで回を締めくくりました。
まとめ
教わる側に必要な素直さとは、返事のよさではなく、信頼関係を築くために本音をリスクを取って開示することだと語られました。そのためには勇気と、不機嫌に見せない機嫌のよさや礼儀が支えになるというのが、二人の考えです。
- 素直さの本質は信頼関係であり、信頼の土台は相手の反応が読める予測可能性にある
- 正直な自己開示で互いの取説を書き足していくことが信頼を強め、「察してほしい」は予測可能性を下げる
- 勇気とは本当に怖いことを知っていることで、問題を放置するほうが怖いと考えれば本音を伝えられる
- 新入社員の機嫌のよさは「心配」のマネジメントコストを下げる、Day1からできる貢献になる
- 異分野で無様になる経験には、自由が広がっていく感覚があると青木さんは話す




