HKT48からライバー事務所経営者になるまで
ゆうこすさんは15年前、HKT48に半年から1年ほど所属していました。デビュー前に脱退し、その後の道を自分でつくっていったといいます。
最初に始めたのは生配信でした。前田さんが手がけるSHOWROOMで、まずライバーとして活動します。
SHOWROOMをやって、そのSHOWROOMでお金をまず50万稼いで、そのお金でカメラとかパソコン買ってYouTube始めていき。
同じ頃、2016年前後には、まだ言葉として定着していなかったインスタグラマー ── InstagramのフォロワーやPR案件で収入を得る発信者。2016年頃はまだPR案件の仕組みも一般的でなく、呼び名も定着していませんでしたとしての活動も始めます。自分を商品としてPR案件を取り、自社商品を作って売るところまで広げていきました。
そして2019年、ゆうこすさんはライバー業界に本格的に飛び込みます。ライバーという職業に強く魅力を感じていた一方で、業界がグレーに見えられていることに課題を感じていたためです。
(ライバーが)割とちょっとグレーな業界だったので、変えていくぜと思って、2019年に立ち上げて。
なぜ「ライバーから手数料を取らない」のか
ゆうこすさんが経営する会社は「321」といいます。ライバーのマネジメントを行う事務所で、DeNAが運営するポコチャでは事務所の売上で4、5年連続1位を維持しているといいます。
所属するライバーの数は1万6千人。年齢層は幅広く、60代のトップライバーもいるといいます。会社全体の売上は21億から22億ほどにのぼります。
ただしこの売上は、ライバーが稼いだ金額が一度事務所に入り、その後ライバーへ渡る構造のものだと、ゆうこすさんは補足します。そのうえで、321の最大の特徴を明かしました。
では321はどこで稼ぐのか。ゆうこすさんは会社立ち上げ時、各アプリと直接交渉したといいます。アプリ側が事務所にノルマを課し、それを達成すると売上に応じた金額が上乗せで支払われる仕組みです。
(アプリ側に)月に何人入れるし、離脱率も、まあ細かく結構それを設定してもらって、それが達成できたら(報酬が上乗せされる)。
ライバーの離脱率は非常に高く、大体1週間だとゆうこすさんは話します。何を話していいかわからず、始めてもすぐ辞めてしまう人が多いのです。だからこそ背中を押し、ノウハウを伝える事務所の存在に意味があると考えていました。
一方で、誰でもスマホ一つで始められる時代に、なぜ間に入る必要があるのかという疑問も生まれます。ゆうこすさんは、これはYouTuberが辿った道と同じだと指摘します。
(ライバーが)より売れてくれば売れてくるほど、なんで(事務所が必要なの)?ってなると思う。
派手なイベントに投資し、去年ようやく黒字
321の売上はほぼ人件費だけなのかという問いに、ゆうこすさんは業界の実情を明かします。売上のほとんどを広告やイベントといった販管費に使っているというのです。
その結果、業界最大手でありながら、黒字になったのは去年が初めてでした。多くのライバー事務所は逆に、赤字になりにくいビジネスモデルだといいます。
では、なぜ321はそこまでお金をかけるのか。それは、グレーに見られがちな業界のイメージを変えるためです。甲子園球場を貸し切って始球式をやるなど、派手なことに投資してきました。
派手なことをやった方が、え、こんなのやるの?みたいな(驚きで)、やるだけでやっぱクリーンなイメージ持ってもらえるかなって。
視聴者5人で月30万稼ぐシングルマザーの世界
高木さんが、女性インフルエンサーの福岡みなみさんが15億でM&Aされたという話題を出します。儲かるマーケットに見えたが実際はどうなのか、という問いです。ゆうこすさんは「話づらい」と苦笑いしつつ、みなみさんのところはTikTokライブが主体で、買収した会社との相性が良かったのだろうと解説しました。
ここで話題は、ゆうこすさんが魅力を感じるライバーの世界そのものへ移ります。きっかけは、ある所属ライバーの配信を見ていた時のことでした。配信の画面外から赤ちゃんの泣き声が聞こえ、その人はすぐ配信を終えたといいます。
ごめん、赤ちゃん泣いたから終わるわって言って終わったんですよ。
その人は地方に住むシングルマザーで、毎月きれいに30万ほど稼いでいました。ネットニュースになる「月1千万」「1億」のライバーとは違う、平均的な収入で暮らす人です。
さらに驚くのは、その視聴の規模です。月30万稼ぐ人でも、リアルタイムで見ている人は5人いるかいないか。コメントを見ると、応援しているのは自分の親がシングルマザーだった人が多い印象だったといいます。
色恋や推しではなく、共感でつながる場。ゆうこすさんはこれを、身近な業態にたとえます。
スナックに千人もいたらママとの距離は生まれません。20人から30人だからこそ、ママにも常連にも会いに来られる。各アプリはリスナー同士がつながりやすい仕組みを整えており、その居場所を小さく数多くつくっているのです。
見つけ方も地域や共通点がベースになっています。たとえば「北九州市」で検索すれば、そこで配信している人に出会えます。地元や吹奏楽部といった共通点があれば、リアルなスナックのように通いたくなる、というわけです。
ほっこりした世界と、札束が飛ぶTikTokの世界
高木さんは、TikTokには渋谷のセンター街のような、欲望が渦巻く印象があると率直に語ります。島のシングルマザーがほっこり応援される世界と、札束をはたくゲームの世界は、同じライバーでも印象が違うのではないか、という問いです。
ゆうこすさんも、その違いを認めます。多くのアプリでは投げ銭額の上限が1万から1万5千円程度ですが、TikTokは桁が違うといいます。
(TikTokは)本当に八万九万とかがあったりとか、あとバトル機能、どっちが五分間で投げられるかみたいなのとかも。
稼ぐ人が目立つため、それを見た人が煽られてしまう側面もあります。ゆうこすさんは、飲み屋と一括りに言ってもスナックもキャバもあるように、アプリごとに世界が全く違うとまとめました。
そのうえで、自分がつくりたいライバーのあり方を一言で語ります。瞬発的に稼ぎたい人を否定はしないが、目指す方向は別だといいます。
千社の事務所が生んだ「グレー」の正体
ゆうこすさんは、業界が「グレー」と見られる理由を具体的に説明します。それは投げ銭そのものよりも、事務所のあり方に原因があるといいます。2016年頃には給料の未払いも多かったといいます。
問題は、マネジメント事務所が乱立したことです。1千社ほどあると言われるほど増えました。その多くは、ライバーにDMを送りまくって契約させ、売上の半分ほどを取り、何もしないビジネスでした。
(ライバーに)DMをぶわーってもう送りまくって契約させて、売り上げの半分ぐらい取って何もしなければめっちゃ売り上げ立つやん。
数値が大きく見えるため、それで会社を売る動きも流行りました。しかし買った側が中身を開けると何もなく、潰れていく例が続出したといいます。ゆうこすさんは、福岡みなみさんのところはそうではないと先に断ったうえで、この構造を説明しました。
一般の利用者にとっても、無差別なスカウトは怖い体験です。「稼げます」というDMが大量に届き、断ると長期間の配信禁止で縛られるといった話もあると、ゆうこすさんは問題視します。
無差別なDMの何が問題なのか。高木さんが街での水商売の勧誘にたとえると、ゆうこすさんは深くうなずきました。友達に「あれ受けたの?」と言われたくない、そう思わせてしまうことこそが業界のイメージを悪くしているのです。
友達の知り合いの結婚式のインスタの投稿に(いきなり)ライバーやりませんかって来てたんですよ。マジで無差別なんすよね。
だからこそ321ではDMの無差別送信を禁止しているといいます。しかし業界超大手からも、いまだにゆうこさん自身へ勧誘が来る状況だと明かしました。
なぜ「小さな経済圏」にこだわるのか
高木さんは、より過熱した領域に行くのがビジネスの王道ではないかと問います。なぜゆうこすさんは、小さな経済圏を成り立たせることにこだわるのか、という問いです。
ゆうこすさんは、瞬発的に稼ぐバトルの世界も含めて全部広げたいとしつつ、自分自身が惹かれる方向を語ります。
その原点は、アイドルを辞めた後にSHOWROOMをやっていた時の衝撃でした。アイドル時代は知られてなんぼ、握手会に並んでなんぼの世界でした。しかし生配信では、視聴者数が少なくても直接投げ銭が届いたのです。
総選挙でもCDの売上枚数は出るけど、誰が何枚送ってくれたかはわかんないですよね。
見てくれる人との距離が近く、応援がダイレクトに届く。そこにシンプルな楽しさを感じたことが、いまの事業観の原体験になっていると、ゆうこすさんは振り返ります。自分が稼げて嬉しかったから、稼げる子が増えたら嬉しいという素直な動機です。
ライバーがなぜ「言えない仕事」になるのか
高木さんは、この世界が広がるために今何が足りないのかと尋ねます。テクノロジー的にはスマホ一つで完結する時代に、何が欠けているのか、という問いです。
ゆうこすさんの答えは、サポートし、知らせる人だといいます。ライバーはいまだにYouTuberやTikTok映えと同じイメージで見られがちで、その実態が知られていないのです。
もう一つの問題は、ライバーであることを隠したくなる空気です。だからこそ、ライバーの雑誌を作るなど、やっていることがかっこいいと思えるブランディングに力を入れています。
なぜ隠したくなるのか。ゆうこすさんは、ライバーが「お願いされてやる仕事」である点を挙げます。事務所からDMで依頼されて始めるため、自発的に選んだ感覚が持ちにくいのです。
(ライバーは)お願いされてやる仕事なんですよね、ライバーって。みんなDM来てるから。
高木さんは、発信そのものが仕事になると承認欲求が職業化されて見えると分析します。スナックのママは飲み物や場を売っているから受け入れられるが、生で時間や関係を売っていると感じると水商売的に見えてしまう、という見立てです。
一方で、歌手を目指す人が路上ライブの代わりに配信で稼ぎ、自主開催ライブに客が来るようになる。そうした事例なら受け入れられると2人は確認し合います。場や目的が介在するかどうかが、印象を分けているのです。
会社から「ゆうこす」を消した理由
ここから話題は、ゆうこすさん自身の立ち位置へ移ります。会社の立ち上げ当初は「ゆうこすの事務所」として打ち出していましたが、それには限界があると考えていました。
(ゆうこすを)出しすぎてるっていうか、出しちゃうと頭打ちってあるじゃないですか、絶対的に。
そこで、いかに自分を引いていくかが課題になりました。今では駅に置くフリーペーパーにゆうこすさんは一切載っておらず、「誰ですか?」という人が入ってくることを良しとしています。社長も自分ではなく、マネージャーに務めてもらっているといいます。
ただ、その結果として、ゆうこすさん自身は会社でやることが少なくなってきたとも明かします。営業や広報には出るものの、実働はしていないのです。
また、ゆうこすさんの発信と321の相性が悪いことも悩みでした。フォロワーはメイクやファッションを見たいのに、経営の投稿は数字が明らかに低いといいます。ゆうこすさん自身も、ライバー活動はほとんどしていない状態でした。
HIKAKINやコテンラジオに並ぶアイコンは誰か
高木さんは、YouTubeのイメージはHIKAKINが作ったと指摘します。一人のアイコンが業界のイメージを作るインパクトは大きい、という視点です。ライバー事務所は機能であるがゆえに象徴にはなり得ず、ゆうこすさん自身がその役割を担うのが自然ではないかと提案します。
しかしゆうこすさんは、自分が前に出ることへの抵抗を口にします。
ゆうこすが配信やってなかったら、私の売り上げがプラスになったかもしれないって思われたらどうしようと思っちゃって。
高木さんは、YouTuberで再生数を奪っていると思われないのと同じで、むしろ事例を作って全体を引き上げるのだと返します。それでもゆうこすさんは、この世界にどこか置きにいっている自分を感じていました。
高木さんは、まだ若いのに地域のほっこりした経済圏の話に落ち着くのは早いのではないかと投げかけます。もっとライバー最高という高さを作ってもいいのではないか、飽きているのかもしれない、という指摘です。
こんだけライバー楽しいよって言っときながら、私自身はなんかネチネチと作る経営だったりとか、作る方が好きって(いって)逃げてますね。
さらに高木さんは、コテンラジオのようにニッチな存在でも、何人かのアイコンが出ることで業界の景色が変わると例を挙げます。ライバーの代表格が誰かと問うと、TikTokで稼ぐ人はいるが、メディアに出るアイコンはいないとゆうこすさんは答えました。
坂元裕二作品に選ばれ、「今がピーク」と思った日
高木さんの問いを受け、ゆうこすさんは過去の判断ミスかもしれない出来事を語り始めます。坂元裕二さんのドラマで、垢抜けない妹役がメイクをするシーンに、ゆうこすさんのYouTube動画が使われたのです。
(妹役が)ゆうこすもてちゃんねるのYouTube見ながらメイクをしているっていう、本当に短いワンシーンが映ったんですよ。
坂元裕二作品に選ばれるのは嬉しいことでした。しかし同時に、ゆうこすさんはある感覚に襲われます。それは「今がピーク」だと思ってしまう感覚でした。
あ、私はこれ今ピークって思わないといけないって思っちゃったんですよね。
そこでもっと頑張ろうとなるタイプではなく、ゆうこすさんは321の系統が楽しいと、そちらへ向かいました。落ちることを想定し、321からも「ゆうこす」を抜こうと動いたのです。ただ、もっと頑張っておけばよかったのかという迷いも残っています。
「モテ」と言い切れなくなった32歳
ゆうこすさんは、自分をプロデュースする際に決めたテーマを明かします。それは「ニッチでポップでキャッチー」という判断軸でした。「モテるために生きてる」というモテクリエイターの肩書きは、まさにキャッチーそのものでした。
しかし、経営者になり、母になり、多くの人と会うなかで、キャッチーに言い切ることが難しくなっていったといいます。当時21歳だった自分が、いまは32歳になっていました。
いろんな人の背景とかに視点が出てきちゃうじゃないですか。(だから)言い切れなくなってきちゃって。
最近の仕事も、子宮頸がんワクチンの啓発など、社会性の高いものが増えました。バズるにはモテテクをやった方がいいとわかっていても、モテの概念自体が自分の中で変わってしまったのです。
北九州から出てきた頃は「男性の5歩後ろを歩く方がいい」というモテを信じて始めました。しかし今は、モテとは何かと問われても一言で言えず、長くなってしまう。かといって過去を後悔しているわけでもない。そこにジレンマがあると、ゆうこすさんは正直に語ります。
さんま御殿で味わった「落として」の地獄
高木さんは、その悩みを「いい悩み」だと受け止めます。状態に良し悪しはなく、自分がどのビジョンを大事にしたいかで方向が決まる、という考え方です。
ゆうこすさんは、全盛期にさんま御殿へ出た時のエピソードを語ります。紹介VTRで渋谷の認知率98%と大きく持ち上げられた直後のことでした。
(さんまさんに)へー、モテクリエイター、今俺のこと落としてって言われたんですね。
上げられた状態から一気に落とすことを求められる。ゆうこすさんは、これが「無理かも」と思った瞬間だったといいます。その場は反射でウインクをして切り抜けましたが、帰り道で死ぬほど落ち込んだと振り返ります。
反射でボケを返せる人たちはすごいが、自分はそうなれなかった。ゆうこすさんは、一人で悶々と考える方が好きだと自己分析します。それはアイドルを辞めた理由にもつながっていました。
HKT48は当時平均年齢13歳で、17歳だったゆうこすさんは最年長。深夜番組やグラビアに出られるのは自分だけで、忙しすぎたのです。高校3年で「ずっとアイドルするのか」と考えてしまったといいます。
何か課題があって、それを達成するためにはどうしようっていうのを考えるのがすごく好きで。
ゆうこすさんは、ちょうどアナリティクスが見られるようになった時期に活動を始め、課題解決の面白さにはまりました。今でも会社の課題を金曜に聞き、土日にひねり出して考えるのが好きだといいます。
大谷翔平が塁に出れば、味方はヒーローになれる
高木さんは、ゆうこすさんを「策略家」と表現します。テーマや肩書きを決めて狙って動く戦略が得意だ、という見立てです。だからこそ、ライバーを広めるなら「ゆうこすが出る」のが一番シンプルではないかと重ねて提案します。
ゆうこすさんは、自分が出ることに考えが至らなかったと答えます。自分が出るとむしろマイナスではないか、主役は他のライバーみんなだ、という気持ちがあったのです。
高木さんは、それはHIKAKINが「UUUMをやっている」と言わないのと同じだと指摘します。321をアピールするのではなく、所属ライバーの一人として活動すればいいのです。
普通このライバーってこんなことまでやるんだをやってるだけです。
さらに高木さんは大谷翔平をたとえに出します。大谷が「出るのは悪いから」と日本代表を辞めれば、見る人もチャンスも減ってしまいます。トップが出ることで、味方がヒーローになる可能性が生まれるのです。
ゆうこすさんは相談を続けます。売れないライバーでもいいのか、それとも売れる必要があるのか、という問いです。高木さんは、インパクトが必要であり、現役であることが条件だと答えました。
「ファンが萎える」ジレンマの正体
ここでゆうこすさんは、抵抗の本当の理由に近づきます。今から配信を告知しても、来るのは5人いるかいないか。ファンに刺さらないのではないか、という不安です。
理由は、ゆうこすさんの主戦場がInstagramやYouTubeであり、投げ銭で生きるライブ配信アプリではないことにあります。YouTubeはショーであり、ファン同士がつながる仕組みがない分、スナック的な要素が弱いのです。
そしてもう一つ、ライバー活動を発信するとフォロワーが萎えていくのが目に見えている、という問題がありました。
なんでそんな発信ばっかするの?って言われたこともあるし。
高木さんは、この状況を鋭く整理します。今のファンを大事にするか、ライバーを辞めるか、その二択に近いのではないか、と。もっとも、短期的に削れても劇的には減らないだろうとも付け加えました。ゆうこすさん自身、「ゆうこす」を外した321のビジョンは考えていたが、ゆうこす個人のビジョンはどうしていいかわからなくなっていたと認めます。
早すぎるミドルエイジクライシス
高木さんは、ゆうこすさんの葛藤を「早熟なミドルエイジクライシス」と名づけます。アイドルからYouTuber、ライバー、事務所経営へとゲームチェンジを繰り返してきたゆうこすさんならではの状態だ、という見立てです。
高木さんは自身の経験も重ねて語ります。新しいことをやる時、行動自体に価値があり、一つ事例ができればいい。しかし60点、70点を出すのは簡単で、そこから先へ磨き込むほど時間対効果は下がっていく、というのです。
七十点出しに自分の体が慣れちゃってて。(新しい領域に行けば)出るからっていうのにすごい慣れて。
高木さんは、一つの領域を積み上げてきた人には30代後半でたどり着けなくなる、と続けます。だからこそ原点回帰し、ビジョニングという狭い領域で突き抜けようと1、2年前に決めたといいます。新しいムーブを始めるのは一度やめる、という決断でした。
ゆうこすさんも深く共感します。自分はコピー能力が高く、60点70点を出すのが得意だと認めたうえで、アーティストである夫のあり方に憧れを口にしました。
(夫は)他とか気にせず自分の中の百を追い求めますみたいな。私にはできないし。
ゆうこすさんは、将来への不安や「幸せって何だろう」という問いも生まれてきたといいます。17歳でアイドルをやっていたから、こうした問いが人より早く訪れたのかもしれない、と振り返ります。
今は321が大きくなり、仲間を増やすことに一番幸せを感じている。ただ、タレントとしての「ゆうこす」については、ビジョンがない状態になっていたのです。
「もう一回それをやろう」——取り戻したゲームチェンジ
対話が核心に近づき、高木さんが一つの気づきを口にします。ゲームチェンジは、派手でなくてもできるのではないか、というのです。
高木さんは、ゆうこすさんが元々やってきたことを言語化します。可愛い元アイドルがグラビアで男性に売るのはみんながやること。しかし、ぶりっ子のHowToを女の子に向けて届けたことがゲームチェンジだった、という整理です。届け方と届ける先を変えただけだといいます。
この言葉を受けて、ゆうこすさんの中で忘れていた欲が動き出します。
そんなに大掛かりでなくてもよかった、とゆうこすさんは思い出します。会社が大きくなる幸福感がある一方で、身動きが取りづらくなり、「会社は会社、自分は自分」とカニバらないよう無意識に線を引いていたことにも気づきました。
一個の自分のはずなのにみたいな。
高木さんは、そのゲームチェンジの能力を、変化が必要なライバー業界に活かせば、「ゆうこすしかできなかった」ものが生まれるはずだと後押しします。8時間配信とは違う形も含めて、道はあるという励ましです。
ジャパネットゆうこす——物を介して人とつながる
そこでゆうこすさんは、忘れかけていた別の構想を思い出します。神宮前に一棟ビルを借りていた、という話です。地方の話ともつながる、と前置きして明かしました。
ゆうこすさんはフォロワーが1万人いない頃から、生配信で物を売っていました。韓国の東大門で買い付ける様子をツイキャスで流し、BASEで売る、初期のライブコマースです。中国でライブコマースが広がる前のことでした。
え?生配信しながら物売ったらめっちゃおもろくね?って言って、ゲームチェンジじゃね?って言って。
今、TikTokショップが盛り上がっているのにスターがいない。そこのスターになろうと思っていたのだと、ゆうこすさんは語ります。自分の時間を切り売りするのではなく、物を介するからこそ自然につながれる、という発見がそこにありました。
高木さんは、アメリカの深夜テレビ通販の逸話を紹介します。散らかった部屋に悩む主婦が電話をかけてきて、身の上話まで延々と話す。オペレーターは決して電話を切らず、全部聞く。すると主婦はすっきりして買って帰るというのです。
物や場があるからこそ会話ができる、という点で2人は一致します。お酒があるから「今日何飲もうか」と話せる。掃除機があるから片付けの悩みを話せる。物を介した方が、多くの人はコミュニケーションしやすいのです。
高木さんは、これはゆうこすさんの強みを全部生かせる形だと整理します。最初にライブコマースをやり、地方の営業にも行け、メイクやファッションの実績もある。だからこそ「ゆうこすにしかできない」形になるのです。
自分にしかできないことってかっこいいです。
福岡は「やずや」「かねやか」など通販の聖地でもあります。地方でいい化粧品や食材を仕入れ、東京のスタジオで売る。ジャパネットのように、自分で作らなくても仕入れて届けるモデルなら、ライバーの職業像も広がり、企業とのコラボもしやすくなります。ゆうこすさんは「解決した」とすっきりした様子を見せました。
まとめ
20億規模のライバー事務所を築きながら、ゆうこすさんはいつしか「自分が出るのは申し訳ない」と一歩引いていました。しかし高木さんとの対話を通じて、届け方と届ける先を変える「ゲームチェンジ」こそが自分の武器だったことを思い出し、ライブコマースという次の一手へと踏み出します。
- 321はライバーから手数料を取らず、アプリとの直接交渉による上乗せ報酬で成り立つ独自モデルを築いた
- ゆうこすさんが目指すのは、視聴者5人でも月30万稼げるような「小さく長く続く生業」としてのライバー
- 無差別なスカウトDMや事務所の乱立が、ライバー業界が「グレー」と見られる主因になっている
- 坂元裕二作品への起用を「今がピーク」と受け取り、一歩引いたことがゆうこす個人のビジョン喪失につながっていた
- 物や場を介してつながる「ジャパネットゆうこす」構想が、彼女の強みを生かす次のゲームチェンジとして浮かび上がった


