Attio解説の前に:ポッドキャストスタジオが増えている
今回のGrowth Radioは、11月末の収録として近況の共有から始まりました。浜田さんは前日、スタートアップ番組を運営するイナリダさんの新しいポッドキャストスタジオのお披露目に招かれたと話します。
そのスタジオは渋谷の古い物件を安く借りたもので、クラウドファンディングで集めた資金で機材をそろえたといいます。8万円ほどのマイクを2本、録画用のカメラを3台、照明も備えた本格的な環境だったと浜田さんは振り返ります。
清沢さんは、Sansanのオフィスがあった大丸の1階にユートラスがスタジオを作った例も挙げ、自社でリアルな撮影場所を持つ流れがあるのではないかと話します。
昨日、スタートアップ番組をやってるお稲荷さんが、ポッドキャストスタジオをついにオープンしたということで、お招きいただいて行ってきました
リモート収録ではネット環境で音質が左右されるため、リッチなコンテンツを作るにはスタジオが有効だという点で、2人の見方は一致していました。
Attioとは何か:入力不要のAI Native CRM
本題は「Nextユニコーン解説」の第3回で、前回のArcさんに続き、今回はイギリス発のスタートアップAttioを取り上げます。AI Native CRMを掲げるサービスです。
今日はAttioという、イギリス発のスタートアップを取り上げていきたいなと思います
浜田さんは、CRM ── Customer Relationship Managementの略。顧客との取引履歴ややり取りを一元管理するためのソフトウェア。営業支援のSFAと近い領域で使われますの一番の課題は入力だと指摘します。担当者が案件状況やメモを入れてくれず、中身が意味をなさなくなる問題がずっと残っていたといいます。
Attioはこの課題をAIで解決します。メールやZoomのような会議ツールを連携すれば、CRM側が自動で案件状況をデータ化してくれる仕組みです。
NotionやAirtable、日本のkintoneのような汎用データベースは、CRM以外にも経費精算など幅広く使えます。一方でAttioは、UIは似ていても完全にCRM・SFAとして使うために作られている点が違うと浜田さんは説明します。
VC向けCRMからの方向転換という創業ストーリー
Attioのプロダクトローンチは2021年で、ChatGPT登場より前でした。創業者はニコラス・シャープさんとアレクサンダー・クリスさんの2人で、ともにイギリス出身です。
創業の背景には、創業者自身がVCで働いていた経験があります。ファンドのディールフロー管理に適したCRM探しに苦労したことが出発点でした。
ファンドを管理しようとした時に、Salesforceじゃこれどうにもならんっていう話だったってことですね
創業者は勤務後の夜間に自分でプログラミングを始め、数ヶ月後にはVCを離れてプロジェクトにフルコミットしたといいます。最初に作ったのは2017年のFundstackというVC専用のCRMでした。
ただしVC向けCRMは市場が狭く、各社のやりたいことも違うため伸びきらず、そこからAttioへと舵を切ったと浜田さんは説明します。
クローズドベータを経て、2021年11月にシード資金を調達した時点で、すでに100社以上が有料で利用し、ARRも想定で100万ドルを超えていたといいます。滑り出しは非常に早いものでした。
初期ユーザーにはコカ・コーラなどの名前も並び、ProductHuntでも人気1位を獲得しました。清沢さんは、創業者が自分でプログラミングを始めて作ったストーリーに熱さを感じたと話します。
やったことない人がCRM作るってマジすごいよ
その後CTOとしてアレクサンダー・クリスさんが加わり、エンジニアを入れながら開発を進めていますが、浜田さんは創業者自身が基本的なプログラミングをできることの大切さを改めて感じたと語ります。
AI前提で再発明されたCRMの中身
Attioが普通のCRMと違う1つ目のポイントは、AI前提で再発明されている点です。人間の入力を最小限にする設計になっています。
ログインするとまずGmail連携を求められます。連携すると、やり取りしたメールのドメインから相手企業が特定される仕組みです。
浜田さんは具体例を挙げます。従来のSalesforceでは、まず取引先を作るところから始まります。Attioではそれが不要で、メールという非構造データが、取引先とアクティビティという構造に自動で変わるといいます。
清沢さんは、従来のCRMがアカウント情報からトップダウンで正規化していくのに対し、Attioは日々のやり取りからボトムアップで情報をまとめる点が優れていると整理します。
まず取引先を手動で作り、上から正規化していく。入力が担当者に依存する
メール連携から相手企業とやり取りを自動でデータ化する。ボトムアップで構造化される
日本でも近い動きがあります。浜田さんは、シスリーのフリクティオが近いこと、ジーニーが展示会で「入力不要のSFA」を打ち出していたこと、アップワードが位置情報や音声から自動入力する仕組みを持つことを挙げます。
新興CRMはかなり入力不要モデルに振り切ってるのが増えてるなって感覚はありますね
レゴのように組めるUIと、CRM民主化の思想
2つ目のポイントは、柔軟性と拡張性です。従来のCRMは業務フローをソフトに合わせがちですが、Attioはユーザーの好きな形に作り変えられるビルダー指向です。
浜田さんは、柔軟性自体はSalesforceにもあると前置きしつつ、Salesforceはワークフローの種類が多く、どれを触ればいいか分かりにくいと指摘します。Attioは直感的にワークフローを組める点が差だといいます。
Attioは「レゴブロックのように自由に組み立てられるCRM」を標榜しています。清沢さんはNotionの創業者も同様の表現を使っていたと触れ、レゴの捉え方に日米で文化差があるのではないかと話します。
日本人だとレゴってどっちかっていうとカタログ通りに組み立てる
UI・UXはモダンでシンプルです。LPもプロダクトサイトも基本は白黒で、重要なボタン以外に色を使わないミニマリズムだと浜田さんは説明します。
Salesforceは高度なフローを組める強力なシステムである一方、ハードルが高く億劫になる側面もあります。Attioはユーザーフレンドリーで手軽に使え、結果的にプロダクト主導で口コミが広がったと清沢さんは整理します。
なお、AI Native CRMを謳う新興企業はClarifyなど3〜4社あるものの、リーダーとして伸びているのはAttioだろうというのが2人の見方です。
値上げ・PLG・SNS発信という成長の作り方
マーケティング戦略として、まず価格戦略が挙がりました。PMF後に大胆に値上げをする一方、ユーザー獲得には振り切っています。将来ユニコーンになりそうな企業を早期に取り込むスタートアップ向けプログラムも用意しています。
浜田さんは、AttioはPLG ── Product-Led Growthの略。営業主導ではなく、製品そのものの体験を入り口にして無料利用などから顧客を広げていく成長モデルだと説明します。14日間の無料トライアルがあり、メール連携するだけで取引先リストが自動でできる斬新な体験を、まず使ってもらう戦略です。
新しいものが出てくる時はPLGが強いと浜田さんは指摘します。Salesforceも最初は1ユーザーずつ使われ、Zoomも各ユーザーが無料で試せる形だったと例を挙げ、既存の牙城を崩す戦い方だと整理します。
一方で、日本でPLGが成功している例は少ないという話になりました。浜田さんはChatworkやヌーラボのBacklogを挙げつつ、それ以外は少ないと話します。
日本でPLGがなかなか成功しないのは、文化の差なのか、市場構造の差なのか
浜田さんは、日本は社内にエンジニアが少ないことを理由の1つに挙げます。設計の段階で外部の会社に頼らざるを得ないため、自分たちで使い始めるのが難しいといいます。逆に社内にエンジニアが多いソフトウェア企業向けのツールは、海外製を中心にPLGで広がっていると説明します。
清沢さんは、日本ではSIerが中心となってシステム導入が主導される点も、この構造につながっていると受けとめます。
もう1つの武器がSNSとコミュニティです。正式ローンチ前のステルス段階から、プロダクトの改善状況や新機能をXで積極的に発信し、スタートアップコミュニティでも情報共有していたといいます。
小さなアップデートでも妥協せず逐一公開する姿勢が、熱烈なファンを生みます。浜田さんは、Salesforceが年3回のリリースであり、しかも今はAgentforceに寄せているため、CRMとしての進化が見えにくい点と対比します。
Attioがまた機能できたみたいな、どんどん進化していくことがやっぱ魅力に映る可能性はありますよね
清沢さんは、immedio自身も毎月リリースノートを発信し、スポットで新機能を伝えると反応が良いと実感を語ります。ユーザーが製品の進化を一緒に体験できることが重要だと話しました。
マルチプロダクトを持たず、CRMで正面から戦う
次にマルチプロダクト戦略に触れましたが、Attioは現時点で別ラインの製品を展開していません。理由はシンプルで、CRM自体が巨大な市場だからです。
清沢さんは、マルチプロダクトは1つの製品ではTAMが小さい場合に取られやすい戦略だと整理します。CRMはTAMが無限に広く、戦う相手がHubSpotとSalesforceなので、正面から挑む選択だと説明します。
CRMはなんか無限に広いし、戦わなきゃいけないのがHubSpotとSalesforceなので、正面から行くってことでしょうね
組織規模はLinkedInで見ると50〜200人のレンジで、清沢さんは150人前後ではないかと推定します。想定年商は20〜30億円規模で、この人数でその売上を出す組織の強度に2人は驚いていました。
AI時代に人間へ残る価値:議事録から感情まで
今後のビジョンとして、Attioは次世代のスタンダードなCRMを掲げています。AI駆動で顧客情報が自動的にまとまり、人間はお客様とのやり取りだけをすればよい世界を描いていると2人は見ます。
浜田さんは、その先には次の行動をサジェストする機能も出てくるだろうと予想します。清沢さんは、CSの現場ではフェーズ管理やネクストアクションの入力といった地味な業務が多く、そこを完全自動化できると嬉しいと話します。
浜田さんは、immedioで使っているCircleBackがネクストアクションを勝手にまとめ、担当者にメンションまでする例を挙げ、Attioにできないはずがないと語ります。
CircleBackもめちゃくちゃ精度高いので、頼りすぎてるんじゃないかっていう気もするんですけど
働き方の変化にも話が及びます。かつては議事録を手で書きながら頭を整理していましたが、そのモードにとらわれると遅れてしまうという難しさを浜田さんは感じているといいます。
清沢さんは、社内の飲みの席でもこの議論が出たと明かします。CircleBackに完全に委ねる派が多い中、清沢さんは自分で書く派で、お客さんがポロッと言ったキーワードは残しておきたいと話します。
お客さんの顔色とか、提案した時のテンションって、それ多分まだ人間でしか検知できない
浜田さんは、Infoboxのカンファレンスで聞いた話を紹介します。AIが判断すればみんな同じ答えを出すようになるため、人間の価値は逆に、合理的な判断ではできないことをやる点に移るという内容です。
浜田さんは、それをやらないとホワイトカラーも工場労働者と同じになってしまうと危機感を語ります。清沢さんが議事録のメモにこだわるのも、お客さんの顔色やテンションという人間にしか検知できない情報を持った上で、テコ入れの要否を見極めるためだと補足します。
さらにAttioの将来像として、お客さんの感情までデータ化したいという方向性も話題になりました。浜田さんは、眼鏡をかけると文字をズームしてくれるチャットボットの例を挙げ、あくびやしかめっ面すらAIが記録する時代も遠くないと話します。
最後は、AI時代に人間へ残る価値の話に着地しました。浜田さんは、Salesforceのイベントで難波さんが紹介したエピソードを引きます。同じ曲でも、人間が作った前提で聴いた人の方が、AIが作った前提の人よりはるかに高く評価したという話です。
清沢さんも、うまい絵でもAIが作ったと分かった時点で冷めてしまう感覚に共感します。情緒的な価値やアートの評価にも同じことが起きるという点で、2人の見方は重なりました。
浜田さんは、AI時代を一周回ると、結局は会いに行って飲みに行くしかなくなり、信頼が価値になるかもしれないと話し、この回を締めくくりました。
まとめ
AttioはメールやWeb会議の連携から自動で情報を構造化する、入力不要を掲げたAI Native CRMです。PLGやSNS発信で熱烈なファンを作り、CRM市場に正面から挑む一方、対話ではAI時代に人間へ残る価値まで議論が広がりました。
- Attioはメール・会議連携でメールなどの非構造データを取引先とアクティビティに自動でデータ化し、入力不要を実現している
- 汎用DBのNotionやkintoneと違い、完全にCRM・SFAとして作られ、レゴのように組めるモダンなUIを持つ
- 創業者はVC向けCRM「Fundstack」から方向転換し、2021年のシード調達時点で有料100社超・ARR想定100万ドル超と滑り出しが早かった
- 14日間無料トライアルなどのPLGとステルス期からのSNS発信で、広告に頼りすぎないオーガニックな成長を作っている
- マルチプロダクトを持たずCRM一本でHubSpotやSalesforceに正面から挑み、対話では顧客の感情や共感など人間に残る価値も論点になった






