なぜCHEESE STANDは多品目を作れるのか
前回はチーズそのものの基本を扱いましたが、山川さんはまず、スーパーやチーズショップでいろいろなチーズを食べてみることを勧めます。そのうえで、作り手に直接話を聞けるCHEESE STANDにもぜひ来てほしいと話を振ります。
山川さんはCHEESE STANDのパンフレットを手に、作っているチーズの種類の多さに驚きます。藤川さんは、この多品目こそが自分たちの強みだと考えています。
僕らは結構その多品目作っているって結構強みかなと思っていて。
なかなか日本のチーズ工房で結構多品目作ってる方って、いるにはいるんだけど、まあ数少ないかなと思ってます。
藤川さんによると、CHEESE STANDはもともとパスタフィラータ ── チーズの生地を熱湯の中で練って引き伸ばし、繊維状の組織を作るタイプのチーズの総称。モッツァレラやカチョカヴァロが代表例ですタイプのフレッシュチーズから始まりました。2、3年前に熟成チーズを手がけるようになったことで、品ぞろえのバリエーションが大きく広がったといいます。
モッツァレラとリコッタ、2品だけで始めた理由
CHEESE STANDが最初に作ったチーズは、モッツァレラとリコッタです。藤川さんは、この2品だけで店を始めたことを「結構無謀なこと」と振り返ります。
2品を選んだ理由は、藤川さんがイタリアのナポリで受けた感動にあります。モッツァレラ工房で出来たてを食べさせてもらったのが、この2つだったそうです。
すごくこの街でやるにはフレッシュさが命っていうのを、街に出来たてのチーズをっていうコンセプトでやっていたので。
モッツァとリコッタっていうのはフレッシュがすごくダイレクトに伝わるチーズなので、この2品から始めたっていうのを。
山川さんは、CHEESE STANDでは店のコンセプトとチーズそのものが一体になっていると受け止めています。
モッツァレラは包丁ではなく手で裂く
藤川さんの説明では、モッツァレラはパスタフィラータタイプのチーズです。球体ですが、裂けるモッツァレラと同じように練って繊維感を作り、繊維と繊維の間に熱湯や塩を練り込むようなイメージで仕上げます。
モッツァレラは2、3日ほどで味が落ちるといわれるため、藤川さんは出来たてで食べてほしいと話します。
藤川さんが勧めるモッツァレラの食べ方は、薄くスライスしてトマトと並べる定番のスタイルではありません。手でグッと豪快に裂くと繊維が表れ、そこにかけたオリーブオイルが繊維の間に染み込んでいくといいます。
トマトと並べる定番のスタイル
繊維感が表れ、オリーブオイルと塩が繊維の間に染み込む
山川さんも、手でちぎったほうが味を感じやすいと同意します。藤川さんは合わせる食材として、これからの季節なら桃がおすすめだと挙げています。
「再び煮る」リコッタが3回受賞したチーズに
リコッタという名前について、藤川さんは語源から説明します。「リ」は英語でいうREのような「再び」、「コッタ」はパンナコッタのコッタと同じくイタリア語で「煮る」という意味です。
リコッタは、牛乳を煮てチーズを作ったあとに残るホエイ ── チーズを作る過程で、固まった部分を取り除いたあとに残る液体。乳清とも呼ばれ、乳たんぱくや乳糖を含みますを、もう一度煮て作るチーズです。ホエイの中の乳たんぱくを煮詰めて作るため、乳糖の甘みが感じられるといいます。
藤川さんによると、CHEESE STANDのリコッタはジャパンチーズアワードで最優秀部門賞を3回受賞しています。シェフからも褒められることが多いチーズだそうです。
リコッタの食べ方として、藤川さんがいちばんに勧めるのは蜂蜜をそのままかけることです。それが最もダイレクトに味が伝わるといいます。
藤川さんは、リコッタを豆腐のように鰹節と醤油で食べる和風のアレンジも紹介します。鼻に抜けるミルク感が残るので、山川さんも醤油や味噌とミルクの相性の良さにうなずきます。
牛乳を煮る
最初のチーズを作り、ホエイが残る
ホエイを再び煮る
ホエイの中の乳たんぱくを煮詰める
リコッタ
乳糖の甘みを感じられるチーズになる
看板商品ブラータはどう生まれたのか
山川さんが「看板」と呼ぶのが、ブラータです。藤川さんも、ブラータを自分たちの看板商品だと考えています。
ブラータは2014年ごろ、テレビ番組「月曜から夜ふかし」で紹介されて一気に火がつきました。藤川さんは、そこからブラータブームのようなものがあったのではないかと話しています。
CHEESE STANDのブラータは巾着状で、紐もチーズで作っています。紐を切ると、中からドロッとチーズがあふれ出す作りです。
藤川さんはブラータの存在をイタリアでちらっと知ってはいたものの、本や文献でしっかり見たことはなかったそうです。実際に見たのはニューヨークで、フランスでも流行っていると聞いていました。
ブラータを作り始めたきっかけは、藤川さんが好きな西麻布のレストラン「ハウス」ハウスのシェフから「作ってくんない?」と頼まれたことでした。
ブラータに合わせたい甘じょっぱさと果物
山川さんが初めてブラータを食べたのは、CHEESE STANDのブラータを使うお店「パス」パスの朝食だったそうです。そこではメープルシロップと塩をかけた甘じょっぱい食べ方で出されていました。
藤川さんはブラータを桃などのフルーツと合わせるのも勧めています。個人的に好きなのは、マンゴーやアメリカンチェリーのように味が濃くしっかりした果物だといいます。
果物をバルサミコでマリネしてからブラータと合わせると、酸味が加わってより美味しくなるそうです。山川さんも「今度やってみよう」と興味を示します。
フレッシュタイプは4種類
山川さんは、ここまでに紹介したチーズはすべてフレッシュタイプだと整理し、ほかのフレッシュチーズについて尋ねます。
藤川さんはまず裂けるモッツァレラを挙げ、続けてカチョカバロも挙げかけます。ところがカチョカバロは3週間ほど熟成させているため、フレッシュではないとスタッフから後ろでツッコミが入り、藤川さん自身も言い直します。
店舗では、チーズケーキ用にマスカルポーネのようなものも作っているそうです。グリークヨーグルトは以前は作っていたものの、今は作っていないといいます。
山川さんは、CHEESE STANDのフレッシュタイプを主に4つとまとめます。
熟成チーズと、スタッフの名が付いたチーズ
熟成タイプとして藤川さんが最初に挙げるのは、モッツァレラタイプの生地を熟成させたカチョカバロと、それをスモークしたものです。
3年前に作った青山台の「チーズスタンドラボ」チーズスタンドラボでは、白カビチーズと酸凝固 ── レンネットではなく、乳酸菌の働きで主に乳を固める製法。ヨーグルトに近い仕組みで、なめらかで酸味のある生地になりやすいですタイプのチーズを作っています。酸凝固タイプはレンネットを少しだけ入れ、ヨーグルトのように乳酸菌を主体に固めたチーズだといいます。
酸凝固タイプのチーズの名前には、「東京」「白」、そして「柳」が入っています酸凝固チーズの商品名。柳平さんというスタッフが作りたいと言ったことから名付けたそうで、「柳って何ですか?」とよく聞かれるのだと藤川さんは笑います。
七変化するセミハードチーズ
藤川さんが最近すごく美味しくなっていると話すのが、6、7か月ほど熟成させて出しているセミハードチーズです。
セミハードチーズは若いうちはラクレットのようにとろっと溶けるため、ホットドッグにかけるラクレット代わりにも使っているそうです。一方で6、7か月熟成させると旨味が強く出て、ハードチーズのような食べ方になるといいます。
若いうちはラクレットのようにとろっと溶ける
6、7か月の熟成で旨味が出て、ハードチーズのように食べられる
藤川さんによると、セミハードチーズは水分が少しあるため、ほかの素材との相性が良いのも面白いところです。チーズの周りにさまざまな素材をまとわせています。
- 岩手県の遠野屋遠野屋さんのどぶろくの酒粕
- シーベジタブルさんのスジアオノリ
- よなよなエールさんで使い終わったホップ
藤川さんは、こうして七変化するセミハードチーズを「結構面白いチーズ」と表現しています。
リコッタサラータはなぜ浸透しないのか
熟成タイプとして藤川さんが最後に挙げたのが、リコッタを熟成させたリコッタサラータです。リコッタをホールのまま塩をかけ、3、4週間ほど熟成させて作ります。
これがね、本当にうまいんですよ。これすごい好きなんですけど、なかなか浸透しない。
藤川さんによると、料理にパルミジャーノをかけるとパルミジャーノの味になってしまいます。リコッタサラータなら、塩分を足しつつミルク感が加わる「ミルクの粉」のような使い方ができるといいます。ズッキーニなどの青野菜とも相性が良いそうです。
リコッタサラータが浸透しない理由について、藤川さんは割高になるからかもしれないと推測します。300グラムほどのリコッタを作っても、熟成で水分が抜けて150グラムほどになってしまうからです。
山川さんは、熟成タイプが加わったことで方向性や食べ方、料理のバリエーションが広がったと受け止めます。元ピザ職人で料理好きの藤川さんが、料理人の視点でチーズを見ていることに、品ぞろえの一貫性を感じると話しています。
まず買うなら、ブラータ、リコッタ、セミハード
山川さんが「今食べてほしいのはどれか」と尋ねると、藤川さんはまず買うならと、ブラータ、リコッタ、セミハードの3点セットを挙げました。
モッツァレラが入っていない理由を聞かれると、藤川さんはモッツァレラは好きで、作っていて一番難しいから面白いと感じるチーズだと答えます。ただ淡白な味なので、わかりやすさでは甘みが飛び抜けたブラータ、旨味が飛び抜けたセミハードを選んだといいます。
(モッツァレラは)好きなんですけど、僕も一番やってて難しいから面白いなって感じるチーズなんですけど、淡白というか。
山川さんは、CHEESE STANDには季節の商品も多いので、それも含めて一通り食べてほしいと話します。
藤川さんはさらにブラウンチーズも紹介します。3点セットも国内外のコンクールで上位の賞を取っていますが、ブラウンチーズも2023年ごろにワールドチーズアワードでスーパーゴールドを受賞したそうです。
チーズ工房を巡る楽しさ
締めくくりに、藤川さんは宣伝のようになったと笑いつつ、一つひとつのチーズをこれぐらいの熱量で説明するスタッフが店にいるので、ぜひ足を運んでほしいと話します。
山川さんは、日本全国のどのチーズ工房も自分のこだわりを持っているので、いろいろな工房を巡ってこだわりや話を聞くと楽しいはずだと呼びかけます。
二人は今後、日本のチーズの現状や、お互いが気になっているチーズ工房についても話したいと、次回以降の話題にも触れています。
まとめ
今回はCHEESE STANDのチーズを、創業時の2品から熟成チーズまで紹介し、藤川さんおすすめの食べ方をたどる回でした。どのチーズにも、出来たてのおいしさと料理人の視点が生きています。
- CHEESE STANDはナポリで感動したモッツァレラとリコッタの2品から始まり、熟成チーズで品ぞろえを広げた
- モッツァレラは手で裂き、リコッタは蜂蜜か鰹節と醤油、ブラータは味の濃い果物と合わせるのがおすすめ
- セミハードチーズは酒粕や海藻、ホップをまとわせる七変化のチーズで、熟成で旨味が増す
- まず買うならブラータ、リコッタ、セミハードの3点セットで、ブラウンチーズも国際的な賞を受賞している


