初のオフライン収録は、フルリモート企業のオフィスから
ポッドキャスト「絶賛懐疑中」は、世の中の当たり前を疑い、世界をちょっとだけ面白くするためのルールを提案する番組です。今回は番組初のオフライン収録で、これまでZoomで遠隔収録してきた二人が、MIMIGURIのオフィスに集まりました。
MIMIGURIはコロナ以降、フルリモートワークを続けている会社です。東南さんは福岡に住み、国外に住むメンバーもいるといいます。
ミミグリはフルリモートワークなんで、もうコロナ以降全くもう出社回帰一生しませんって言っちゃったんで、どんどんみんな移住していくっていうね。
東南さんがオフィスに来たのは、3日間の経営合宿があったためです。安斎さんはその合間に時間を作って収録していると説明しています。オフィスには人が多く、東南さんは他の人の声が入らないか気にしていました。
安斎さんは、オフライン収録は機材の準備が大変で、ケーブルもぐちゃぐちゃだと話しています。いつもとは違う臨場感の中で、今回の議論が始まりました。
「週3も出社する必要ある?」リスナーからの2通のお便り
今回のテーマは「結局何日出社すればいいの?」です。リモートワークか、オフィスへの出社かという問いで、きっかけはリスナーから届いた2通のお便りでした。
リモートワークは本当に人をサボらせて成果が出にくいのか。
もう1通は、週3出社・週2在宅で働く人からの、出社日数そのものへの疑問です。
私は週3出社、週2在宅勤務のデスクワーク環境で働いているのですが、週3も出社する必要ある?って疑問を持っています。どれくらい出社する必要があるのかで話してみてほしいです。
東南さんは、2通のお便りには出社回帰の流れの中で「本当に出社しないとダメなのか」という感情がにじんでいると受け止めています。
完全フルリモート派の二人がリモートを好む理由
東南さんが東京に来るのは、3カ月に1回の経営キャンプのときくらいです。安斎さんはオフィスから徒歩数分の場所に住んでいますが、やはり3カ月に1回ほどしか来ないといいます。
うーん、人に会いたくないもん。
安斎さんは自身を「完全フルリモート派」と言います。久々にオフィスに来たら、出版社などから届いた本が段ボール1箱分たまっていたというエピソードも披露しました。
東南さんもフルリモート派で、その理由の1つは出社にかかる移動時間を無駄に感じることです。もう1つは、リモートワークではやりとりがテキストのログとして残ることだと話しています。
いいこと話した気はするし、ちょっと満足感はその一時的に高いんだけど、なんかあれ何だったっけ?っていう。
安斎さんも、SlackやZoomの自動文字起こしによって、オンラインのほうがかえってログが自動で残ると応じます。
安斎さん自身は、自宅とは別に近所に個人書斎を借り、自分好みに最適化した環境で本を読んだり書いたりしています。重視しているのは、知的生産の作業時間をまとまったブロックで確保することです。
1時間かける3とさ、3時間かける1ってさ、違うじゃん。
誰にも邪魔されない時間を自分でデザインしてコントロールできる点で、安斎さんはリモートワークは「めっちゃ捗る」と話しています。
フルリモートはわずか3%、世の中はどれだけ出社しているのか
安斎さんの「実際リモートワークはどれくらい普及しているのか」という問いに、東南さんはパーソル総合研究所 ── 人材サービス大手パーソルグループのシンクタンク。働き方や雇用に関する調査を定期的に公表していますのテレワークに関する調査を紹介しました。
東南さんの紹介によると、この調査の回答者のうちリモートワークの実施率は22%ほどで、完全にリモートワークをしている人は全体の3%ほどだといいます。
超外れ値じゃん。
東南さんは、フルリモートの二人の議論は「外れ値」の立場からのものだというトーンで聞いてほしいと添えています。安斎さんは、コロナ明けに多くの会社がフル出社に戻り、リモートを取り入れていても週3出社が多いと整理しました。
東南さんは、MIMIGURI COOの原さんとマネーフォワードの武田さんによるポッドキャスト「最高の組織づくり」でも出社回帰がテーマになったと紹介します。マネーフォワードは週2出社を基本に週3を推奨しているそうです。
安斎さんは冗談めかして「聞いたことない」としつつ、その番組の結論を「従業員の生活の質を優先するならリモートは良い選択肢だが、会社の戦略に合うなら適切に出社の機会を使うべき」というものだったと振り返っています。
リモートワークはオフィスの「3つの資源」から離れること
安斎さんは以前、リモートワークに関するレビュー論文 ── 特定のテーマについて多くの調査研究を集め、何がわかっているかを総合的に整理した論文を調べ、自身のnoteにも書いたことがあるといいます。
その論文で安斎さんが面白いと感じたのは、リモートワークの本質を「オフィスにある資源から離れて働くこと」と捉える整理でした。オフィスには重要な資源が3つあるとされます。
机や椅子、大きなモニター、エアコン、Wi-Fiなど物理的な環境
相談できる同僚がいて、サポートや何気ない会話が生まれるつながり
ロゴや展示物、受賞の盾など、その会社らしさを感じられるもの
社会的資源の例として、安斎さんは収録中に届いたウーバーイーツをメンバーが届けてくれた場面を挙げています。象徴的資源の例は、エントランスに置かれた安斎さんの本やグッドデザイン賞の盾、マスコットのグッズです。
安斎さんによれば、こうした資源から遠ざかることで生産性が下がることもあれば、上がることもあり、何らかの変化が生まれるといいます。二人はこの3つを1つずつ検討していきます。
物理的資源は、働く人ごとの環境格差を生む
物理的資源について、東南さんは安斎さんの場合、むしろ書斎のほうが資源を充実させられるのではと指摘します。安斎さんは、自腹を切ってでも仕事環境を充実させたいと答えました。
一方の東南さんは福岡で一人暮らしをしており、別の書斎は持っていません。机を分けると部屋が狭くなるため、ダイニングと仕事机を兼用し、移動できるモニターでモードを切り替えているそうです。
安斎さんは、コロナ禍に登壇中の子どもの乱入が続き、仕事にならないと書斎を借りたと明かしています。仕事部屋がなくリビングで働く人や、子どもを抱っこしながら会議に出る人もいたと振り返りました。
MIMIGURIにも、リモートワークを続けているのにいまだにポケットWi-Fiを使う人がいるといいます。安斎さんは技術リテラシーの差も表れると話しています。
物理的資源から遠ざかってリモートでやると、人によって労働環境の差がめっちゃ出る。
東南さんは、この環境差がパフォーマンスに直結するなら、出社していれば高く評価されたはずの人が低く見られることも起こりうると補足しました。
社会的資源は、良い関係も悪い関係も増幅させる
社会的資源、つまりいつでも相談できる同僚や上司が近くにいるかどうかについて、東南さんは「これが一番大きい気がする」と話します。
福岡にはMIMIGURIの社員の1割ほど、10人ぐらいが住んでいます。東南さんは、福岡メンバーには相談しやすさが生まれていると感じています。
(ポッドキャストを)安西さんとやろうって言って福岡に帰ってきた後に大久保さんと飲みに行ってて、ちょっと協力してくれないかなっていう話をしてから、大久保さんがめちゃくちゃ乗り気になってくれて。
この番組のプロデューサー大久保さんも福岡メンバーです。安斎さんは、大久保さんが札幌に住んでいたらプロデュースしてくれなかったかもしれないと冗談交じりに話しました。
安斎さんは、部下の企画書が1週間ぶりのZoomの1on1で突然出てくるのと、3日間ホワイトボードの前でうなりながら作っていた姿を見ているのとでは、ねぎらい方が変わると例えています。
一方で安斎さんは、人が仕事で悩んだり会社を辞めたりする原因はほとんど人間関係であり、そこに会わなくていいのは楽だとも指摘します。
ZOOMで週1だからギリ耐えれるみたいな。
安斎さんのまとめは、関係性の良し悪しがオフィスに近づくと増幅するというものです。良い部分も悪い部分も、社会的な影響力を感じやすくなるといいます。
象徴的資源こそが会社のカルチャーをつくる
象徴的資源について、安斎さんはMIMIGURIのオフィスが本郷三丁目駅近くにある理由を語ります。前身の会社は安斎さんが東大の研究者だった時代に立ち上げ、最初のオフィスは東大の正門前にありました。
東南さんは、当時は自分も顧客も「東大の近くで働いている」というアカデミックな雰囲気を感じていたのではないかと振り返り、それが場所の象徴やイメージによるものだと考えています。
安斎さんは、シリコンバレーの会社ならシリコンバレーにいること、渋谷のスタートアップなら渋谷にあることが、会社との結びつきを感じるきっかけになると説明します。
神社でお参りする前に鳥居をくぐるみたいなさ。そういう一応儀礼性、儀式性ってすごく、なんだろう、アイデンティティにすごく関わるんで。
エントランスのロゴを通過し、キーをかざし、天井の高いビルを同僚とエレベーターで上がる。安斎さんは、そうした儀礼から離れるとカルチャーづくりが難しくなると話しています。
安斎さんの考察では、MIMIGURIはフルリモートに振った代わりに、リモートで象徴的資源を強化し続けている会社です。その代表例が毎月オンラインで開く全社総会で、東南さんが企画担当を務めています。
最近の全社総会では「学会発表」を開きました。全員が設定している探究テーマをポスターにまとめ、学会のポスター発表の形式をオンラインでまねたそうです。こうしたメタファーは毎回変えているといいます。
(こうした全社総会は)毎日あのでっかいロゴを拝んで出社するのと同じか、それ以上の多分カルチャー効果があるんですよ。
安斎さんは、象徴的資源が失われると会社で働く意味がわからなくなり、組織づくりが難しくなることが、出社回帰の背景にあるのではないかと個人的に考えています。
フルリモート化
オフィスで得ていた象徴的資源から離れる
意識的な補完がない
リモートで象徴的資源を強化する工夫をしない
働く意味が薄れる
会社のカルチャーを感じられなくなる
出社回帰
組織づくりが難しくなり、出社に戻そうとする
東南さんは、出社で当たり前に得ていた資源を意識していれば、リモートの中でどう取り入れるかという発想になるが、意識していないとただ失われ、出社に戻そうとなるのだと整理しました。
フルリモートは孤独か、帰属感は取り戻せるか
東南さんは、リクルートワークス研究所の調査「集まる意味を問い直す」から、フルリモートと孤独・帰属感の関係を紹介します。
東南さんによると、この調査ではフルリモートかどうかは孤独感に関係がなく、孤独を分けるのは会社の中での関係の質だとされています。安斎さんは、もともと関係が築けていればリモートでも孤独ではなく、孤立していれば働き方に関係なく孤独だと言い換えました。
一方、職場の一員だと感じる帰属感は、孤独とは別物として扱われています。東南さんの紹介では、2021年の調査ではフルリモート層の帰属感が出社中心の層より低かったものの、2026年にはフルリモート層の帰属感が上がり、出社層はほぼ変わらなかったといいます。
2021年はフルリモート層の帰属感が出社中心の層より低かった
2026年はフルリモート層の帰属感が上がり、出社層はほぼ変わらなかった
調査の考察では、もともと会社とのつながりが薄い人がフルリモートを選び、その後の企画や施策で意図的につながりを作ったことで帰属感が上がったのではないかとされています。安斎さんはこれを「回復可能だった」とまとめました。
弱いつながりは、視界に入らないと失われる
東南さんがまだ答えを出せていないのは、リモートワークで隣の部署など普段のチーム以外とのつながりが失われやすい点です。イノベーションは部署の「際」から生まれるとも言われるため、失われるのは弱いつながりではないかと考えています。
安斎さんは大学院生の頃からオフィスの空間デザインの研究をレビューしてきたといいます。部門間の距離や、コピー機やコーヒースポットの配置によって、部門同士の交流が如実に変わるそうです。
安斎さんによれば、コミュニケーションが最も消失するのはフロアが分かれたときで、理由は相手を忘れるからだといいます。
仕事中に思い出さなくなるんだよ。一緒の部屋で働いてない人間のことって。
隣の部門の人が視界に入ると、話す予定を思い出したり、一緒に何かできるという発想が生まれたりします。安斎さんは、記憶と相談や創発は深く関わっていると話しています。
解決策としてオフィス研究で知られるのは、あえて動線を非効率にすることです。安斎さんは、ららぽーとのエスカレーターが2階で途切れて売り場を一周させる作りを例に、視界に入れることの重要性を説明しました。
東南さんが、パソコンの起動画面を全メンバーの顔にするアイデアを出すと、安斎さんは「気持ち悪い」と笑いつつ、MIMIGURIの全社総会でのシャッフル対話はそれに近いと応じます。
あれ(シャッフル対話)は100人弱いる仲間のことを記憶から抜けないようにするために、いい施策なのよ、多分。
リモートワークは人をサボらせるのか
議論はヘイヘイさんのお便りに戻ります。安斎さんは、MIMIGURIは成果がめっちゃ出ているので成果は出ると答えたうえで、リモートワークでは「やっぱちょっとサボる」とも認めました。
やりたくない仕事やらされてて、少しでも手を抜きたいと思ってる人をリモートワークに放ったら、それはサボるよ。
安斎さんによれば、やりたい仕事であったり、マネージャーが目標設定を工夫して動機づけしていたりすれば、人はそれなりに働きます。東南さんは、リモートはそれがより顕著に出るだけだと受け止めました。
安斎さんは、リモートワークではマネジメントのエラーが表に出てしまうと整理しています。
東南さんは、安斎さんがフルリモートで環境を整えてから成果が出やすくなったと指摘します。以前は年1冊ほどだった本の執筆が、今は数冊になったといいます。
週3は絶対いらない、では週1か月1か
ヒラトモヤさんのお便りについて、二人はそろって「週3は絶対いらない」と答えます。安斎さんの答えは週1出社でした。
安斎さんは、組織づくりに投資すれば週0でもいけるが、一般論としてはそうもいかず、ミーティングはオフラインのほうが生産性が出ると考えています。そこで提案するのが、水曜日だけ出社する形です。
週1ぐらいペースメーカーでいいんじゃない?
東南さんは「週1も会う必要ある?」と返し、オフラインで会うならもっと晴れの場にして月1程度にしたほうが、行こうという気持ちになり象徴的資源も感じられると考えます。
安斎さんは、3カ月に1回の合宿ではランチや飲み会の店を失敗したくないという力学が働くことを例に挙げ、月1にすると特別な日になりすぎると反論しました。
月1出社にしたらさ、好きなやつとしかランチ行かなくなるよ。
安斎さんは、朝ロゴの前で手を合わせ、ミーティングとランチを詰めて「もう人間に会いたくない」と帰り、残りの日は集中して働くリズムがよいと話します。東南さんも、カレンダーの作り方という組織づくりの観点から、しぶしぶ週1に理解を示しました。
提案ルールは「2週間に1回出社すべし」
最後のルールは東南さんが決めることになりました。週1は多いと感じる東南さんの提案は、2週間に1回の出社です。
週1出社。晴れの場にしすぎず、ミーティングをまとめるペースメーカーにする
月1出社。特別な日にしたほうが行こうと思え、象徴的資源も感じられる
東南さんは、晴れの日にしすぎないほうがよいという安斎さんの意見に一理あると感じ、隔週ならルーティンにもしやすいと考えて、間を取った頻度に落ち着きました。
安斎さんは「俺はどうせ出社しない」と笑いつつ、世の中で週3が流行る中、2週間に1回を提案するのはありだと評価しました。
安斎さんは、物理的資源・社会的資源・象徴的資源のどこが自社で手薄なのかを見極め、そこを強化すればフルリモートも可能だと話します。組織づくりの努力次第で出社頻度は本質的に減らせるという考えです。
ただし安斎さんは、戦略的にフル出社がよいと判断する会社もあり、それは尊重するという前提で、変に縛られずにいろいろな可能性があってよいとしています。
まとめ
フルリモート派の二人は、オフィスの3つの資源という整理を手がかりに、出社の意味を問い直しました。出社かリモートかではなく、失われる資源をどう補うかが組織づくりの鍵だというのがこの回の着地点です。
- リモートワークはオフィスの物理的・社会的・象徴的資源から離れて働くことだと整理できる
- 安斎さんは、象徴的資源の喪失による働く意味の薄れが出社回帰の背景にあると考えている
- 調査では、フルリモートかどうかは孤独感に影響せず、帰属感も工夫で回復しうることが紹介された
- リモートでサボりが出るのはマネジメントの綻びが表れるためで、成果は出せると二人は話す
- 今回のルールは、週3でも週1でも月1でもなく「2週間に1回出社すべし」





