令和のヒットは本当に残酷になったのか
公開収録の前半では、MCが「他人の失敗や生々しい人間関係を露悪的に楽しむコンテンツが増えている」という問題を投げかけました。令和のヒットコンテンツはこのまま残酷になっていくのか、という問いです。
三浦さんはまず会場に挙手を求め、みーちゃんと山田さん、ちいかわの映画版、ラブジョーを見た人を尋ねました。どの作品も手を挙げたのは一部の人だけで、全員が見ている作品はありませんでした。
ヒットしたって言ってるでしょ?ヒットの基準が落ちてんのよ。
三浦さんは、博報堂時代や大学時代の友人と集まると「マスコンテンツゲーム」をするといいます。全員が見ているものは本当に少なく、話題作の作家の名前すらカルチャー層以外には知られていなかったそうです。
三浦さんによると、この現象の背景にはフィルターバブル ── 検索やSNSのアルゴリズムが利用者の好みに合う情報ばかりを表示し、利用者が自分の見たい情報の泡に閉じこもってしまう状態のことがあります。例として、高市総理が信頼されていないように見えるのは自分たちのXのタイムラインの中だけで、支持率は実際には高い、と話しました。
俺たちがいかにそのフィルターバブルの中にいるかっていうことには、本当に常に自覚的じゃなきゃいけなくて。
それでも三浦さんは、全員が知るコンテンツが生まれなくなったとは考えていません。大谷翔平がその例で、Netflixで始まった作品がTikTokやインスタのリールで切り刻まれて広がるように、メディアを横断する「ネクストマス」が生まれていると語ります。
三浦さんの見立てでは、令和のコンテンツが露悪的になったのではなく、どの時代も露悪的なものはバズりやすいだけです。過去にも『未成年』や『高校教師』のような際どいドラマがヒットしていたと例を挙げました。
露悪的なコンテンツが今これほど作られる理由について、三浦さんはお金の払い方が多様化したことを挙げます。かつてはジャンプやコミックスを買う形でまとまった金額を払う必要がありましたが、今はショート動画の広告収入や、100円、200円の投げ銭でも収益になります。
ドパガキって言葉があるけれども、短期的な興奮がマネタイズできる時代になってるんですよ。
三浦さんは、露悪的なコンテンツの増加を短期的な興奮がそのまま稼ぎになる仕組みの結果として捉えています。昔もドーパミンは出ていたけれど稼げなかったから、ここまで広がらなかったという整理です。
雑誌や単行本を買うなど、まとまった金額を払ってもらう必要があった
ショート動画の広告収入や少額の投げ銭で、短期的な興奮がそのまま収益になる
一方で三浦さんは「人間は逆張り」だとも話します。ドーパミン的なものがバズるほど、すぐに答えが出ないものを求める気持ちも高まり、三宅さんや深井さんの人気もそこにつながっていると見ています。
わかりやすい解説は悪なのか、それとも読者の問題か
話題は、文学や歴史をわかりやすく伝える三宅香帆さんや深井龍之介さんへと移りました。MCは、わかりやすくしすぎで、わからないものはわからないままの方がいいという批判についてどう思うかを尋ねます。
三浦さんの大前提は、何でもわかりやすくすればいいわけではない、というものです。わからなかったという経験自体にも価値があると考えています。
マラソンに参加してゴールできなかったけど、マラソンで少なくとも40キロ走ったこととか、そこまで努力したことはすごい素晴らしいことじゃん。
三浦さんは、ニーチェのような分厚い思想に挑んでわからなかったことや、5年後に読み返して少しだけわかったことが大事だと語ります。そうしたものを安易に薄めるのは良くない、という立場です。
ただし三浦さんは、三宅さんや深井さんの活動自体は基本的に良いと考えています。二人は大事な友人で尊敬もしており、問題はむしろ受け取る読者の側にあるといいます。
三宅さんや深井龍之介のことを絶対だと思うのが一番やばい。三宅さんも深井さんもただの人だから。
三浦さんによれば、読者が買っているのは三宅さんや深井さんの解釈であって、真実や歴史的な本質ではありません。その例として挙げたのが坂本龍馬です。
日本人が好きな坂本龍馬は、ほぼ司馬遼太郎 ── 『竜馬がゆく』『坂の上の雲』などで知られる歴史小説家。作品が描いた人物像は、日本人の歴史観に大きな影響を与えたといわれますが書いた坂本龍馬だと三浦さんは話します。研究の切り口によっては、大したことをしていない人物という解釈も可能だといいます。
三浦さんはメディアについても同じ構図を指摘します。昔は産経新聞と朝日新聞で同じニュースの書き方がまったく違い、読者もそれぞれのスタンスを知っていました。
今は産経新聞を産経新聞として読む人はほとんどいません。それでも三浦さんは、Yahoo!ニュースの記事は半分くらいが産経新聞のものなので、会場の半分くらいは知らずに産経新聞の記事を読んでいるはずだと話しました。
メディアには色があって、メディアには法人格があって、メディアには立場があって。
ニュースが細切れにされて届くことで、人々は発信者の立ち位置や資本関係を意識しなくなります。三浦さんは、その状態で声が良く詳しそうな人の話を聞くと、そのまま信じてしまうことを危ぶんでいます。
これはあくまでコテンラジオの視点、発信者の視点を買ってるのであって、歴史の事実や社会の真実を買ってるわけじゃないよっていう自覚がすごい大事だと思う。
MCから、自分ならどんなものを作りたいかと聞かれた三浦さんは、BtoBの仕事なので露悪的なものは作れないと笑いつつ、人間をバカにしないものを作りたいと答えました。
三浦さんは、露悪的なコンテンツは人間を動物的に捉えていると話します。血が出たら見てしまう、Xでエロ画像が流れてきたら見てしまう、といった反応がその例です。
血や性的な画像など、思わず見てしまう動物的な衝動に訴える
理解され、称賛され、感心され、感動される
マーケティング意識を全社に広げる最初の一手
後半は、来場者から寄せられた悩みに三浦さんが答えるコーナーです。最初は40代の方からの、メーカーでのマーケティング意識改革についての質問でした。
メーカーに勤務しております。これからの時代、部署を問わず全社員がマーケティング思想、顧客視点を持つことが不可欠だと強く感じています。しかし、実態はマーケティングは担当部署の仕事という意識が根強く、現場の意識改革が進みません。一社員の立場から会社全体のマーケティング思考を引き上げ、現状を打ち破る火種を作るには、まずどこから仕掛けていくべきでしょうか。
三浦さんは、答えは質問の中の「顧客視点」という言葉にあると指摘します。マーケティング思想と言うと担当部署のものに聞こえますが、顧客起点で考えること自体には誰も反対しないはずだからです。
そのうえで三浦さんは、短期的にはPLを削るかもしれなくても「お客様のことを考えたら、もっとこうした方がいいのでは」と提案することを、まず一つの部門から始めるべきだと答えました。
世の中には驚くほど顧客視点がない、と三浦さんは言います。その代表例として挙げたのが、飲食店の注文用QRコードです。
あれとかもう本当に省人化するためにみんなやってるけど、あんなん一番だるいじゃん。
MCは、時代の流れやDXといった言葉で決める前にお客様の顔を思い浮かべるのがよいのでは、とまとめました。三浦さんはそこに一言を重ねます。
AI時代に人間が介在する価値はヒアリングにある
次は30代の方からの2つの質問です。1つ目はAI活用を前提としたクライアントワークにおける人間の介在価値、2つ目はGOではAI時代でも面白い仕事ができるか、というものでした。
三浦さんは2つ目について「当然できるけど、GOじゃなくてもどこでもできる」と答えました。1つ目の答えは、直前の飲食店のQRコードの話につながっているといいます。
QRコード注文の問題は、会話がないことです。店員から「今日はチャーシューの仕込みがいい」「味噌ラーメンにチャーハンが合う」と言われれば、客は頼むものを変えるかもしれません。
人間って本当の欲望とか本当に困ってることは自分で知らないんですよ。ほとんどの人が知らない。
三浦さんは、相手の本当の欲望を引き出すことこそ人間にしかできないとして、AI時代の人間の価値はヒアリングだと答えました。
ただし三浦さんの言うヒアリングは、「本当に欲しいものは何ですか」と尋ねることではありません。一緒に食事や飲みに行き、「本部長の言ってることに納得いってない」といった本音が出て初めて見えるものだといいます。
三浦さんは、営業の良し悪しを本音にたどり着くまでのスピードで説明しました。
その差は人間力なのかとMCが尋ねると、三浦さんは「この人だったら本音を話してもいいと思わせる力」だと答えました。後天的に身につけられるかという問いには、実績で簡単に得られると言います。
実績ないやつは通った方がいいよね。5回、6回。
さらに三浦さんは、人間力というより観察力だと言い直しました。同じ打ち合わせに出ても「部長は上機嫌だった」と思う人と「全然納得した顔をしていなかった」と気づく人がいて、表情や間合い、気配を読む力が一番大事だといいます。
観察力は緊張感のある人間関係で鍛えられる
観察力の話を受けて、広告代理店で営業をしているという来場者が、観察力をどう鍛えればよいかを直接質問しました。
その観察力って、三浦さんが思う上でどのように鍛えていけば良いと思われますか?
緊張感ですね。この人の受け答えを間違ったら死ぬっていう意識の中で人と向き合うんですね。
三浦さん自身の観察力は、高校の柔道部で磨かれたといいます。組んでいるとき、相手が右と左のどちらから技をかけてくるかを必死に見ていたからです。
高校や大学時代の恋愛も重要だったと三浦さんは振り返ります。相手が怒っているのか寂しいのかを読み取る緊張感のある向き合いが、観察力を伸ばすといいます。
一回一回緊張感のある向き合いだけが人の観察力を伸ばすし、それ以外はないですね。営業ロープレとかして全く意味がない。
質問者が「真剣に向き合うことですね」と返すと、三浦さんはそれでは精神論だと指摘しました。必要なのは、間違えたら自分に大きな危機が起きるような人間関係を実際に作ることで、パワハラ上司の下に行くことなども挙げています。
続いて別の来場者から、三浦さんがどんな視点でコンテンツを消費しているのかという質問がありました。三浦さんは、何をしないかを決めていると答えます。
勉強になるから読もうとか、これはみんなが読んでるから読もうという摂取は絶対しないようにしてます。
三浦さんが読むのは、自分が見かけてドキドキしたものや、信頼する人が本当に勧めてくれたものです。そのためビジネス書はほとんど読んだことがないといいます。
何を消費するかはもうキリがないけど、何をしないかを決めることの方がその人をなんか強くすると思います。
MCが「クリエイターは流行を知るべきだ」という意見もあると重ねると、三浦さんは流行をすべて追うのもそれはそれで良いと認めました。ただ、箕輪さんのように読書量と教養の土台があってこそで、ドーパミンコンテンツだけでは人間の心の奥深くを理解するのは難しいと話しています。
「自分を大切に」を売りたいなら効果を言うな
次の来場者は、自分を大切にできる人を増やしたいという思いで起業し、プロダクトを売ってきた人です。本当に届けたい人ほど買ってくれず、意識高い系と見られる冷笑文化とどう戦えばいいかを尋ねました。
本当に届けたい人たちはなんか買ってないなっていう感覚がすごいあって。
三浦さんが持ち出したのは、新興宗教の勧誘の手法でした。勧誘で最初に教わるのは、宗教の話をしないことだといいます。
世界中の新興宗教が信者を勧誘するときに最初に習うことがあって、それは何かっていうと、宗教の話をするなってことなんですよ。
三浦さんによれば、勧誘はお金がない、物価が高いといった相手の悩みから入ります。そして最後に、その根源的な課題の答えとして宗教があるらしい、と相手に気づいてもらうのが基本だといいます。
悩みから入る
「最近お金ないですよね」など、相手が本当に悩んでいる話をする
課題を確かめる
物価高への抵抗や友達がいないことなど、根源的な課題に触れる
答えとして示す
課題を解決する方法として宗教があると相手に気づいてもらう
そのため、自分を大切にする人を増やしたいなら、「これは自分を大切にするためのものです」と言ってはいけないと三浦さんは助言します。楽しい、ポイントが貯まる、出世するといった入り口の結果として、自分を大切にする行動につながるように設計するということです。
三浦さんは、メンタル系のサービスは効果を絶対に言わないのが基本だとして、新興宗教などがどう広がったかを調べるとヒントがあると締めくくりました。
肩書き抜きの人間関係で仕事はできるのか
最後の来場者は、ビジネスの世界では肩書きありきでないとつながれないことに違和感があると話しました。「あなただから」という関係とビジネスは両立できるのか、という疑問です。
三浦さんの答えは「現実は無理」というものでした。大人になって肩書きも実績も一つもない人はむしろ怪しく、普通に働いていれば営業ランキングのような何らかの実績があるはずだといいます。
別にそれ(実績)ってそれも含めて人間なのよ。
三浦さんは、髪の毛が臭い人と話すと警戒するように、服装や外見もすでに人間の一部だと例えます。大人になると、そこに実績や名刺も加わるという考え方です。
もちろん、肩書きがなくても話してみたら面白くて友達になることはあると三浦さんは認めています。そのうえで、利害関係のある友人との付き合いは正直面白いと話しました。
今までよりももっとゲームのルールが増えて楽しいゲームになると思った方がいいと思います。
公開収録の最後に三浦さんは、来場者へのお礼とともに、YouTubeは迷いながらも石川さんを中心にみんなで頑張っていると話しました。アイデアで世の中を面白くする人が増えるよう、一緒に広げてほしいと呼びかけています。
まとめ
三浦崇宏さんは、露悪的なコンテンツの流行を、短期的な興奮が収益になる仕組みとフィルターバブルの結果として捉えました。そのうえで、情報の発信者の立ち位置を意識することや、相手の本音を観察する力こそが人間の価値になると語っています。
- 令和のヒットが露悪的に見えるのは、短期的な興奮が少額課金や広告で稼げるようになったことと、フィルターバブルの影響が大きい
- 三宅さんや深井さんの解説自体は良いものだが、読者は発信者の解釈を買っていると自覚する必要がある
- マーケティング意識の改革は、まず一つの部門で顧客視点の提案を徹底することから始まる
- AI時代の人間の価値はヒアリングであり、その土台になる観察力は緊張感のある人間関係で鍛えられる
- 「自分を大切に」を届けたいなら効果を言わず、相手の悩みから入る





