なぜ青木真也は誰よりも格闘技に誠実でいられるのか
冒頭、三浦崇宏さんは青木真也さんを「人生で一番尊敬している」と切り出します。理由は、青木さんが格闘技を突き詰めるほど何かを突き詰めた人を他に知らないからだと話します。
三浦さんは、自分が広告の仕事に向き合うときの高い指針として、青木さんの姿を置いていると語ります。
青木さんが格闘技を突き詰めるほどに、何かを突き詰めてる人って俺、他にいないと思ってるわけ。
青木さんはこの言葉を受けて、自分がよく揉めるのは、この熱量が自分にとって当たり前だからだと返します。
だって自分の熱量が僕にとって当たり前だから。これより下回るやつ、一生懸命やってないですよ。
格闘技はもともと自分との対話であり、その対話をずっと続けていたら43歳まで対応し続けてしまった、と青木さんは振り返ります。
情報を「盛る」から「削る」へ、おじさんの戦い方
三浦さんは、青木さんが注目されていようがいまいが、練習も研究もずっと欠かさずやってきた人だと紹介します。ところが青木さんは、情報の収集はもうしなくなったと明かします。
青木さんによれば、技術を盛り付けるフェーズは終わり、今は削るフェーズに入っているといいます。新しいことを取り入れると、かえって負けるからです。
もうアップデートすると負けんのよ。アップデートすると良さが消えんのよ、おじさんは。
では何で勝つのか。青木さんの答えは「歴史」でした。積み上げてきた歴史だけは、若い才能には勝てない領域だと語ります。
今は一切新しいことをやらず、足すことはなく、引くことしかしないという方針で試合に臨んでいます。
週3回の練習に「少ない」と言う素人への苛立ち
43歳という年齢で、コンディションが整いにくくなる中、青木さんは週3回の格闘技の練習をしていると話します。ただ、この回数を外では言わないといいます。
理由は、素人がこの回数を聞くと「週3回しかやらないんですか」と反応するからだと青木さんは説明します。
毎日人の体とか、自分の体と自分の変化と向き合ってなくて、それでようやく俺はここにたどり着いたものを、いちいちうるせえよって思っちゃうんですよね。
三浦さんは、誰よりも考え、誰よりも試行錯誤してたどり着いた状態に、安易な感想を言ってくるなという苛立ちだと言葉を補います。青木さんは強く同意します。
「燃費のいい」生き方がスタイルを守る
自分のスタイルを守れる理由について、青木さんは「自分の燃費がいいこと」だと答えます。高い飯も車も時計も欲しくないため、生活のベースが極めて安く済むといいます。
二、三十万あれば十分な生活をしてんのね。それ以上は別になきゃないでなんとかなるから、意地張れるんですよね。
三浦さんは、青木さんが総合格闘家として一番のギャラをもらってきたはずなのに、知り合いの中で一番金を使っていないと指摘します。静岡の実家に暮らし、家も借りていないといいます。
なぜ多くの格闘家が時計や車といった欲望に流される中で自分は流されなかったのか。青木さんの答えは明快でした。
多くを求めないこと。なきゃないでなんとかなるから、意地張れるんすよね。それが強みですよね。
格闘技は反体制、体制側に行くのが一番ダサい
青木さんは、周囲の欲望に流されて時計や車を買うことを「ダセえな」と切り捨てます。格闘技はもともと反体制のものだからです。
三浦さんは、格闘技はメインカルチャーに中指を突き立てて生まれたものだと言い換えます。青木さんは、それが体制側に行くのが一番ダサいと応じます。
要は、反体制のものじゃん、もともと格闘技なんて。それが体制側に行くのは一番ダサいと思う。
世の中の賞賛や承認欲求に負けて曲がらなかった理由を問われ、青木さんは「だってかっこよくないですか」と答えます。ダサいと言われても、自分が一番かっこいいと思える生き方を選んでいるといいます。
象徴的なエピソードとして、青木さんは先輩の藤田和之さんとの控え室での会話を挙げます。キャリアの話を聞いていたところ、藤田さんに突然「ところでさ、俺何歳だっけ?」と尋ねられたといいます。
世間の常識どころか自分の年齢すら気にしない先輩の姿を、青木さんは「めちゃくちゃかっこいい」と感じたと語ります。43歳になっても、かっこいいと思っていた人たちがかっこよくいてくれることが、自分がまだやれている理由だといいます。
何も持たない、身動きが取れなくなることだけは避ける
かっこいい自分でいるために「これだけはやらない」ことを問われると、青木さんは明確な禁止事項はないと答えます。ただし、避けたいことは一つあるといいます。
抱えて身動き取れなくなることだけはやりたくないですね。何かに執着するみたいなことだけはやりたくないですね。
その徹底ぶりを示す例として、三浦さんは一緒にアメリカへ行った時のことを持ち出します。青木さんはタクシーを使わず、スーツケースを引きずって空港まで1時間半ほど歩いて帰ったといいます。
あれとかはかっこいいよ、かっこいいんだけど、狂ってるよね。
青木さんは、送ってくれるという車がポルシェだったので断って歩いた、というエピソードも披露します。ポルシェには乗れない、というのが理由でした。
「ちょっとポルシェから俺乗れないわ」って言って歩いて行きました。
三浦さんは、そこまでする姿勢に「自分の美意識がめっちゃ高い」と評します。青木さんもそれを認めます。
「残念だったな、俺だよ」に込めた40代への証明
このスタイルでいると、自分を気に入らない人がたくさんいることを青木さんは切に感じているといいます。会見で放った「残念だったな、俺だよ」という一言も、その意識の表れでした。
三浦さんは、その言葉は「羨ましいだろう」の裏返しであり、お前らがムカついている俺が大舞台に来たぞという意味だと解釈します。青木さんは「まだまだ生きてるからな」という証明だったと語ります。
青木さんは、40代のおじさんたちの嫉妬心を強く感じるといいます。ジムも家も持たず、勝手に生きてプロレスをやり、人の文句を言って生きている自分に、みんな腹を立てているのだろうと分析します。
三浦さんは、40代は一番しんどいタイミングだと語ります。まだ勝負できると思いつつ、会社や仲間や家族や常識が体を取り巻き、身軽に動けないジレンマに苦しむからです。
一方で青木さんは、そうした人たちに対して「これはこれで大変だ」とも思っていると付け加えます。何かを抱える生き方も、自分にはできなかったことだと認めています。
「甘い話じゃない」冬の時代を生き抜いた自負
今あるものは才能で一発当てたものではなく、積み上げでしかない、と青木さんは強調します。2006年からこの仕事だけで食べてきた中で、やめようと思った局面も何度もあったといいます。
青木真也でも、格闘技やめようと思ったことあるんですか?
特に33歳から34歳ごろ、桜庭戦の後に気持ちが浮き、ONEでチャンピオンを落としたあたりは、扱いも悪くなり「もういいんじゃないか」と思ったといいます。それでもごまかしながら続けてきたと振り返ります。
青木さんは、勘違いしてほしくないこととして、キャリアの前半と後半の違いを説明します。2012年から2013年ごろまでは、地上波や放送局がプロモーションを担ってくれる時代でした。
しかしDREAMを離れてONEに移って以降は、試合のプロモーションから物語の設計まで、青木さんが自分一人で担うようになったといいます。
時に格闘技選手は強さから逃げてるとか、ごまかしてやってると思うかもしれないけど、じゃあ誰ができるの?って思うところはやっぱあるわけで。
エージェントもマネージャーもつけず、海外の団体やジムと直接交渉し、一人で海を渡ってきた経験が、誰にも口出しされたくないという姿勢の源になっていると青木さんは語ります。
フリーランスが絶対に譲ってはいけないこと
三浦さんは、クリエイターでありアスリートでもある青木さんに、フリーランスで自分の腕で食べていく人が絶対に譲ってはいけないことを尋ねます。
フリーランスで自分の腕で飯食ってる人が、生きていく上で絶対譲っちゃいけないことって何だと思います?
三浦崇宏 さんからの質問
青木さんの答えは「多くを求めないこと」でした。一人でやっている商売である以上、売り上げは限られており、自分が一人親方だと理解することが大切だと語ります。
青木さんは、会社を運営してチームで売り上げをつくる三浦さんと自分を比べても意味がないといいます。競技もルールも違うのだから、金額の差でひしゃげていては仕事にならないからです。
売り上げなんか知れてるっすよ。俺だって俺が何人もいないから、一試合のギャラしかないよ、どんなにもらったって。
「下げたらやめる」ギャラ交渉で自分を下げない流儀
マネージャーもエージェントもいない中で、自分より力の強い団体とどう交渉するのかを問われ、青木さんは「自分は下げない」と即答します。
青木さんは30代後半から「ギャラが下がったらやめる」と決めていたといいます。だから提示額が下がれば「じゃあやりません」と言うだけだと語ります。
あ、いくらですか。あ、じゃあやめますって言って下げないって。
ONEとの契約でも、最後に提示された額が今までの半分ほどだったため、頭にきて5倍の額を言い返したといいます。青木さんは、揉めること自体を恐れていません。
その根拠は、揉め方さえ間違えなければ、魅力があればまた声がかかるという確信です。格闘技の世界は離合集散であり、離れてもまたくっつくものだと語ります。
自分が所詮一人親方だって思うことじゃないですか。
好き嫌いと評価を分ける、プロの仕事の作法
青木さんは、極論ONEと決別した後でも、良い条件を提示されれば普通に握手して仕事をすると思う、と語ります。好き嫌いで仕事をしていないからです。
好きでも起用すべきでない人もいれば、嫌いでも面白ければ組む相手もいる、と青木さんは説明します。面白くて儲かればいい、という割り切りです。
だからこそ、嫌われること自体は自分にとって大きな問題ではないと青木さんは言い切ります。好き嫌いで評価が分かれないことが、その理由です。
朝倉未来との違いは「格を無視するかどうか」
三浦さんは、対戦相手の朝倉未来さんも交渉上手で媚びない点で青木さんと似ているのではないかと問いかけます。青木さんは、朝倉さんや平本蓮さんを「現代の格闘技や社会をハックした人」だと表現します。
SNSやマーケティングの手法でボリュームゾーンを狙う手法を、青木さん自身も理解しているといいます。それでも、彼らには譲れないものがある人たちだと評価します。
一方で青木さんは、自分はそのやり方があまり好きではないと語ります。物事には格があると考えており、それを無視しない人間だからです。
俺はやっぱりこう、物事には格があると思うし、それを俺は無視しない人だから。
そのために多少儲からなくてもいいと思うタイプだと青木さんは言います。三浦さんが「儲かってますよね」と茶化すと、「全然儲かってないよ」と返しました。
メインストリームじゃない、めんどくさい側を選ぶ理由
三浦さんは、秋山成勲戦の後に青木さんが「俺は天心や武尊にはなれない」と語ったことに触れ、朝倉未来さんはどちら側の人なのかを尋ねます。
青木さんは、朝倉さんや平本さんは終末のイオンとつながっている延長線上にいるが、自分はそこにはいないと答えます。あえて自分を「ちょっとめんどくさい系」と表現します。
もうそのそうだね、ちょっとめんどくさい系と言った方がいいですよね。
それを好んで選んだのかを問われ、青木さんは「そういうことがやりたかったから」と答えます。学生の頃にダラダラ喋るニコニコ動画を見ていたような、メインストリームでないものに憧れてきたからです。
SNS時代の詐欺師とスポンサーへの怒り
青木さんは、儲かる方法を語る人たちを「全員ぶん殴りたい」と強い言葉で語ります。三浦さんは、SNSとAIのせいで詐欺師が増えたと応じます。
青木さんが特に腹を立てるのは、RIZINなどで表舞台に出た途端に「スポンサーさせてください」と近づいてくる相手だといいます。
「スポンサーさせてください」って言われて、じゃあいくら出すんだよって言った時に、えーみたいな。やりとりしただけ損ですみたいな。
そうした誘いに乗ってしまうのが今のファイターだと青木さんは見ています。だからこそ、それも含めてかっこよくいたいと語ります。
「かっこよくいるための経費」という価値観
儲かることや楽でいることへの誘惑が高い時代に、青木さんは「儲からなくていいからかっこよくいたい」と言い切ります。歩くことも、車に乗らないことも、その表れです。
もういいのよ、儲からなくていいからかっこよくいたいですよ。だからかっこよくいるための経費みたいなもんですよね。
何かあった時に周囲に金を払うことも含めて、青木さんはそれらをかっこよくいるための経費だと捉えています。単なる金銭だけでなく、時間や苦労も惜しまないという価値観です。
なぜ今、「かっこいい店じまい」を意識するのか
三浦さんは、今回の大きな試合が青木さんにとって「かっこいい引け際」になっているのかを尋ねます。青木さんは、退くタイミングとしてここで退けないと見苦しくなると語ります。
青木さんは、好きだけれど「かっこよくない」と感じてしまう格闘技の先輩がいると明かします。そうならないために、現役をちゃんと引きたいと考えています。
何があればかっこいい店じまいになるのかを問われ、青木さんは自分がすでに見苦しい領域に入っていることを自覚していると語ります。アントニオ猪木さんのファイナルカウントダウンを引き合いに出します。
俺もう気がついたらファイナルカウントダウン三年弱なんですよ。やべえなこれと思って。
引退のルールとして「ギャラが下がったらやらない」と決めているものの、今回もまた上がってしまったといいます。それが困る、と青木さんは苦笑します。
「格闘技が好きじゃない」やりきったことの証明
青木さんは、格闘技を辞めたい気持ちがすごく強いと打ち明けます。ずっとやってきたことで、もう好きではなくなっているといいます。
三浦さんが確認すると、青木さんは格闘技界だけでなく、格闘競技そのものに対しても「なんだこれ」と思う気持ちがあると語ります。そしてそれを、やりきったことの証だと解釈しています。
痛いし面白くないと思えるようになったことを、青木さんはむしろ肯定的に受け止めています。それだけ格闘技に向き合いきったということだからです。
影響を与えた人への責任を、次の試合で果たす
三浦さんは、20代の柏村選手が青木さんへのリスペクトを表に出していることに触れます。青木さんは、当時の自分の映像を見て、今の自分にないクリエイティブさやエナジーがあったと認めます。
クリエイティブや狂気を失った40代は何を大事にすべきかを問われ、青木さんは自分が影響を与えてきた人たちの存在を挙げます。
自分に影響を受けた人たちをちゃんと導いてあげたりとか、何かを残してあげられるようにするのが責任よ。
青木さんは、いろんな人の人生に影響を与えてしまった責任があると強く感じているといいます。それをちゃんと回収し、着地させていきたいと語ります。
この責任感が、noteで発信した「今回は勝ち負けにこだわる」という姿勢とつながっています。かつて自分を追っていた人たちに、最後にちゃんとやったところを見せたいという思いです。
環境ごと追い込む、めんどくさい男の最後
勝ち負けにこだわるのはしんどいだろうと問われ、青木さんは「だから辞めたいんだよ」と本音を漏らします。面白くないからこそ、辞めたいのだと語ります。
今回は自分を環境ごと追い込んでいるといいます。甘いことを言う相手には連絡せず、プロレス関係者への連絡もタイトにしていると明かします。
一方で、8月末までのプロレスは休まず続けるといいます。それは、自分が憧れたかっこいい先輩たちがやっていたことだからです。
最後まで周囲に何を言わせたいのかを問われ、青木さんは変わらぬ答えを返します。
最後までみんなに言わせたいですよね、めんどくせーなって。
三浦さんも「これどうすんの、この後?という感じになってほしい」と応じ、対談を締めくくります。9月10日の試合には、チケットを買って行くと約束しました。
まとめ
43歳・青木真也さんの生き方の核にあるのは、多くを求めず、何も抱えず、自分がかっこいいと思える自分でい続けることでした。積み上げてきた歴史を武器に、影響を与えた人たちへの責任を果たすかたちで、かっこいい店じまいへ向かおうとしています。
- 技術は足すのではなく引き、積み上げた歴史で勝負するフェーズに入っている
- 燃費のいい生き方が「多くを求めない」フリーランスの強さを支えている
- ギャラが下がったらやめると決め、交渉で自分を下げない流儀を貫いている
- 好き嫌いと評価を分けることが、嫌われても揺るがないプロの作法になっている
- 影響を与えた人への責任を果たすため、最後の試合で勝ち負けにこだわると決めている




