2年で価格倍増、プロテイン値上げは何が起きている?
CEOセオさんは今回、プロテインの価格高騰が止まらず、2年で価格が倍増しているというニュースを取り上げます。健康志向で市場が拡大する一方、ホエイプロテインのビジネス構造や成り立ちを深掘りすると、面白いマーケティングと仕組みが見えてくるといいます。
話の前提として、セオさんはプロテインの身近さに触れます。プロテインバーや飲料が流行し、筋トレや運動をする人が手軽にタンパク質を摂っているほか、YouTubeで筋肉づくりを発信する人たちが独自のプロテインを出していることにも言及しています。
ニュースの要約として、明治の主力ブランド「ザバス」は粉末プロテイン17品、バー4品の計21商品を、2026年6月出荷分から約6〜28%値上げしています。さらに9月の納品分からは内容量も11〜22%削減するとされ、実質的な値上げに踏み切る形です。
アルトメットライフのプロテインブランド「グロング」も、2026年3月以降に平均約50%の値上げをしているとセオさんは紹介しています。
ホエイの輸入単価が5年で約3倍になった理由
各社が値上げする原因は、ホエイパウダーの輸入平均単価の上昇です。1キログラム当たりの単価は2021年の746円から、2026年1月には2234円まで上がり、5年で約3倍になっているといいます。
セオさんによると、日本はホエイ原料をかなり輸入に依存しているため、原油高や円安の影響で仕入れ値が上がってしまいます。海外でも価格は上がっていて、卸値は最高値になっているそうです。
そうした中で、森永乳業だけは2028年3月以降を目処にホエイプロテインの増産を検討しているといいます。セオさんは「森永だけはちょっと特殊」として、この理由を後半で説明しています。
ホエイはもともと何だったのか?チーズ製造で出る9割の副産物
セオさんはここで、そもそもホエイとは何かを説明します。チーズを作る過程では、牛乳の約10%がチーズという固形物になり、残りの約90%が乳清 ── 牛乳からチーズなどの固形分を取り除いた後に残る、黄色がかった液体。タンパク質や乳糖、ミネラルを含みます、つまりホエイとして排出されるといいます。
身近な例として、ヨーグルトの表面にたまる水のようなものが、いわゆる乳清、ホエイだとセオさんは紹介しています。
え、ヨーグルトとかにある、ちょっとこう水が溜まってるみたいなのありますね。あれがいわゆる、乳清と言われる、ホエイと言われるものですね。
ホエイは元々、産業廃棄物として扱われていました。タンパク質を含んだまま河川に流すと微生物やプランクトンが大量に発生して環境汚染になるため、処理に頭を悩ませていたという背景があるといいます。
捨てられていたホエイは、どう価値ある商品に変わった?
処理コストを避けるため、ホエイは豚などの家畜の飼料に転用されるようになりました。フランスやスイス、イタリアでは、ホエイで育てた豚を「ホエイ豚」と呼び、日本にもそうしたブランドが存在するとセオさんは話しています。
セオさんは、廃棄物を高級食材の豚肉へと転用した点を「マーケティングのセンス」として評価し、新しいビジネスに転換した例だと捉えています。
ホエイの約50%が未加工のまま家畜に与えられていた状況の中で、1960年以降にウィスコンシン大学などがホエイからタンパク質だけを抽出する技術を確立したといいます。人工甘味料や香料と組み合わせれば、どんな味にもできる粉が作れるようになりました。
産業廃棄物
チーズ製造で出る約9割のホエイが、河川に流すと環境汚染になる処理の悩みの種だった
家畜の飼料
処理コストを避けるために豚などの飼料へ転用され、「ホエイ豚」というブランドも生まれた
タンパク質の抽出
1960年以降、ウィスコンシン大学などがタンパク質だけを取り出す技術を確立した
プロテイン市場
甘味料や香料と組み合わせた粉が生まれ、業界ぐるみのタンパク質ブームで価格も上がった
「タンパク質至上主義」はマーケティングだった?
タンパク質を手軽に摂れる粉ができたことで、業界ぐるみで「タンパク質至上ブーム」というマーケティングが打ち上げられたとセオさんは見ています。
ですから、これ結構ね、マーケティング入ってるんですよ、このタンパク質至上主義って。
筋トレの文脈で「タンパク質を摂りましょう」「大人1人当たり何グラム摂りましょう」とやたら言われるようになった背景には、マーケティングが潜んでいるというのがセオさんの考えです。結果として、筋トレやフィットネスブームに乗り、ホエイプロテインの価格も上がっていったといいます。
セオさん自身も、一時はいろいろなプロテインを飲んでいたそうです。ただ、タンパク質を摂りすぎるとお腹の調子が悪くなることもあり、筋肉の仕組みは調べてもよくわからないと率直に語っています。
まあ正直いろいろ調べてもわかんないですよ。筋肉ってそもそもわからないんですよね。
セオさんによれば、ボディビルダーのような人は通常の食事だけでは必要なタンパク質を確保できません。一方で一般の人の筋肉量なら、食べ物から摂ったほうが良質ではないかという考えもあり、摂りすぎの是非や睡眠との関係など、何が正解かは難しいとしています。
そのうえでセオさんは、少なくとも過剰にタンパク質を摂るブームはあり、今は「だいぶ落ち着いたかな」と受け止めています。
マンジャロなどGLP-1の普及が、なぜチーズ需要を減らすのか
ホエイはチーズを作らなければ出てこないため、ホエイの供給量はチーズの生産量に左右されます。ここでセオさんが「すごく面白い話」として挙げるのが、マンジャロやオゼンピック、ゼップバウンドといったGLP-1 ── 食欲を抑えたり血糖値を下げたりする働きを持つホルモンの一種。これに作用する薬が糖尿病や肥満症の治療に使われていますと呼ばれる薬です。
セオさんによると、GLP-1は基本的には糖尿病や肥満症の薬で、肥満の人が非常に多いアメリカで大きく伸びています。日本で痩せている人がダイエット目的で使うケースもあるものの、それはごく少数だとしています。
米国では成人の約12%がGLP-1を利用しているといいます。そのうえで、コーネル大学の研究結果として、GLP-1利用者のチーズ購入が7.2%減少したことが紹介されています。太らないようにチーズを控えるためです。
チーズは減り、プロテインは増える「需給の逆転現象」とは?
チーズの需要が下がればホエイの供給も下がります。さらにGLP-1を使う肥満症や糖尿病の人は、筋肉を維持して代謝を良くするために高タンパク質の摂取を推奨されるため、結果としてホエイプロテインを飲むようになるとセオさんは説明します。
GLP-1利用者がチーズを控え、チーズ購入が7.2%減少。チーズ製造で出るホエイの供給が減る
筋肉維持のため高タンパク質の摂取が推奨され、利用者がホエイプロテインを飲むようになる
セオさんはこの状態を、供給が減り需要が増える全く違った逆転現象と表現しています。その結果、米国ではホエイプロテインの月末在庫が2023年比で約半減しているそうです。
肥満症の薬からホエイプロテインに影響が及ぶという流れは、チーズなどの原料まで全部見ていって初めてわかることだとセオさんは強調します。そして輸入に依存する日本には、この状況に円安が直撃しているといいます。
なぜ森永乳業だけが原料高を追い風にできるのか?
輸入原料の高騰で明治などは値上げを迫られています。一方、森永乳業にはMIRAIというドイツの子会社があり、ここがホエイを製造できるため、ホエイの市況が伸びるほど森永乳業にとっては追い風になるとセオさんは説明しています。
日本企業としては珍しいポジショニングで、2028年3月期には大幅な増益が予想されているといいます。会社名の表記は書き起こしで「Mirai」「MIRAI」と揺れており、正式表記はMIRAIです。
ホエイプロテイン市場はどれくらいの規模?日本は成熟期へ
セオさんは次に市場規模を見ていきます。ホエイプロテインの世界市場は、2025年に最大1兆8000億円と言われる大きなマーケットです。
日本のタンパク質を含む食品全体の市場は、2020年の1700億円から2025年には約3000億円に拡大しています。そのうち日本のホエイプロテイン市場は470億円で、前年比1%ほどの伸びにとどまり、かなり成熟しているといいます。
| 市場 | 時期 | 規模 |
|---|---|---|
| ホエイプロテイン世界市場 | 2025年 | 最大1兆8000億円 |
| 日本のタンパク質関連食品全体 | 2020年 | 1700億円 |
| 日本のタンパク質関連食品全体 | 2025年 | 約3000億円 |
| 日本のホエイプロテイン市場 | - | 470億円(前年比約1%) |
かつてはコンビニのサラダチキンブームがすごかったとセオさんは振り返ります。その背景にはRIZAP ── パーソナルトレーニングジムを運営する企業。食事管理と筋力トレーニングを組み合わせた短期集中型のダイエットプログラムで知られますの影響があるのではないかと推測しています。
RIZAPが「これは食べていい、これは食べちゃダメ」とダイエットの食事を示し、鶏ももではなく胸肉を勧めるような流れがあったといいます。そうしたブームを経て、日本のプロテインは今は成熟産業になっているというのがセオさんの見立てです。
明治の業績と、世界の乳業大手5社による寡占
セオさんは、値上げが続けばプロテインを「もったいない」と感じて摂る人が少しずつ減っていくかもしれないと話します。そのうえで明治ホールディングスの業績を紹介しています。
明治ホールディングスの連結売上高は1兆1700億円で前年比1.7%増、営業利益は933億円で10%増と好調です。ザバスなどを含むニュートリション事業は950億円で前年比6.1%増ですが、通期では1190億円で前年比2.4%増にとどまり、値上げしている割には横ばいだとセオさんは見ています。
世界のホエイ原料市場は、乳業大手5社がほぼすべてを寡占しているといいます。いずれも酪農資源に恵まれた国の企業で、日本メーカーはここから原料を調達する買い手の立場にあります。
| 企業 | 国 |
|---|---|
| グランビア | アイルランド |
| フォンテーラ | ニュージーランド |
| アーラ | デンマーク |
| ラクタリス | フランス |
| フリース&カンピーナ | オランダ |
その中で、ドイツの子会社でホエイを内製化している森永乳業は、原料高が追い風になる珍しい日本企業です。明治はザバスのブランド力でまだ価格転嫁しやすいものの、そうでないブランドは単純な値上げになり、客離れが起きるのではないかとセオさんは指摘しています。
ただの値上げではない、副産物ビジネスという視点
ニュースの論調は、原料高と円安、健康志向による市場拡大で値上げが止まらないので、消費者は節約しようというものだとセオさんは整理します。しかしセオさんは、マーケティングとビジネスが絡み合い、GLP-1の話まで出てくるこの流れを、ただの値上げとは見ていません。
セオさんが注目するのは、ホエイのような副産物がビジネスになる成り立ちです。調べていくと、ほかにも同じ構造の例がいくつもあるといいます。
豚骨はもともと廃棄同然の副産物でしたが、九州のラーメン屋がスープに使い始めたことで豚骨ラーメンが生まれました。全国区で人気になった結果、豚骨自体が高値になっていったといいます。
セオさんはメルカリにも触れ、自分がいらないものを誰かが欲しがることがビジネスのきっかけになると話します。不要なものが生かされていくのは、ある種サステナブルでもあり「非常にいいこと」だと評価しています。
ほかにもセオさんは次のような例を挙げています。カニカマは原料のスケトウダラで本物より安く美味しいとされてきたものの、資源の枯渇で高級化して成り立たなくなるという話も出ています。
| もの | もとの扱い | その後 |
|---|---|---|
| ホエイ | チーズ製造で出る産業廃棄物 | 家畜飼料やプロテインとして巨大市場に |
| 豚骨 | 廃棄同然の副産物 | 豚骨ラーメンが全国区になり高値に |
| ネギトロ | マグロの中落ちなどの廃棄部位 | 叩いて寿司ネタにしたら大人気に |
| 鶏胸肉 | 安さが売り | 高タンパク・低脂肪でもも肉より高い時期も |
「これいらないかな」を別の視点で考える
捨てられていたものや価値として見られていなかったものが、別のものに変換されることで市場まで作り上げてしまう。セオさんは、ここがビジネスの面白いところであり、アイデア次第で立ち上がるニュービジネスだと語ります。
セオさんはリスナーに対し、自社のビジネスの中で「これいらないかな」と思うものも、頭をひねって別の視点で考えてみてはどうかと提案しています。
例として挙がるのがCDです。再生機もないのに誰が聴くのかと言われながら、グッズ的な要素としていまだに買われています。うちわも本来は涼むためのものですが、顔を描いて振ることで、誰を推しているかがわかる推し活グッズになっています。
まあほんとビジネスというのはアイデア一つから生まれるものでもあるということで、皆さんのビジネスの中でも考えてみてもいいんじゃないかなというふうに思いました。
まとめ
プロテインの値上げは、円安や原料高だけでなく、GLP-1の普及でチーズが減りホエイ需要が増えるという需給の逆転にもつながっていました。セオさんは、廃棄物だったホエイが巨大市場になった歴史から、不要に見えるものに新しい価値を見出す副産物ビジネスの視点を提案しています。
- 明治ザバスは約6〜28%の値上げと内容量削減を行い、ホエイの輸入単価は5年で約3倍になっている
- GLP-1利用者のチーズ購入減でホエイ供給が減る一方、筋肉維持のためプロテイン需要は増えている
- ドイツに製造子会社を持つ森永乳業は、原料高が追い風になる珍しい日本企業とされる
- ホエイは産業廃棄物から家畜飼料、プロテインへと転用され、タンパク質ブームのマーケティングで市場が広がった
- 豚骨やネギトロ、推し活うちわのように、価値がないと思われたものが別の視点で新しい市場になり得る


