30年変わらないMacの起動音と、音にこだわるサービス
この回の題材は、Macを起動したときに鳴る「ジャーン」という起動音です。はりまさんは、Macの起動音はピッチが多少変わることはあっても、30年ぐらいほぼ変わらずに使われ続けていると紹介します。
はりまさんは、Appleが製品に異常なこだわりを持つことはこの番組でも何度か触れてきたとしたうえで、音にもそのこだわりが表れていると話します。一方のやーまんさんは、最近はMacをシャットダウンせずスリープで使うため、起動音を聞く機会が減ったと振り返ります。
僕もそんな感じです。2週間に1回とかですね。
話はそこから、製品の音全般へ広がります。はりまさんによると、プログラムやデザイン、サイトの表示速度にこだわる人は周りにたくさんいる一方で、ウェブサービスや製品の音にこだわる人はかなり少ないといいます。
しかし、イケてるサービスというのは音にもこだわるというところがね、あります。
例として挙がったのは、Slackのメッセージ着信音、LINEの着信音、PayPayやQUICPayの決済音です。決済音について、やーまんさんは店名を読み上げられるタイプは好きではなく、iDのほうがいいと話します。PayPayの音については、宣伝効果はすごいと認めつつ、好き嫌いで言えば好きではないという立場です。
はりまさんが個人的な名作として挙げたのは、Skypeの起動音でした。飛行機が飛ぶような「ぎゅー」という音がとても好きで、いいサービスは音もいいと感じるそうです。
起動音は何のためにある?「ショーの始まり」を告げる音
はりまさんは、そもそも起動音は何のためにあるのかとやーまんさんに問いかけます。やーまんさんの答えは「起動したよ」と知らせるため、というものでした。
はりまさんはこれを受けて、起動音はまず正常に起動したことを知らせる音だと整理します。うまく立ち上がらないとエラー音が出るので、「ジャーン」と鳴れば起動したとわかるわけです。
そのうえでMacの場合は、プラスアルファとして、これから新しいことが始まるという予感を持たせたい意図があるのではないかとはりまさんは考えます。買ってきたMacの電源を入れて「ジャーン」と鳴ると、何かいいことが始まりそうだと感じられるという話です。
Mac買ってきて電源入れました。ジャーンってなったら、お、これから。
やーまんさんがこれを「ショーの始まりだ」と言い表すと、はりまさんも同意します。効果音の役割は、成功や失敗、メールの着信などのイベントが起きたことを、音で直感的に伝えることだとまとめています。
正常な起動
エラーなく立ち上がったことを知らせる
イベントの通知
何かが起きたというメッセージを直感的に伝える
始まりの予感
これから新しいことが始まるという気分をつくる
「悪魔の音程」から「ジャーン」へ。上司に反対されたジム・リークスの一手
はりまさんによると、Macの起動音には「暗黒の時代」がありました。今の「ジャーン」になる前の1980年代から90年ごろまでは、トライトーン ── 三全音とも呼ばれる、増4度(減5度)の音程。不安定で不穏な響きを持ち、中世以来「音楽の悪魔」と呼ばれてきましたという音程の音が起動音として流れていたといいます。
トライトーンは「悪魔の音程」と呼ばれる、ちょっと不気味な音です。社内でも誰が聞いても最悪の音だと言われていたのに、誰も積極的に変えようとはしなかったそうです。
そこに現れたのが、音の専門家のジム・リークスさんです。リークスさんはAppleに来て起動音を改良しようと新しい音を作りましたが、上司からは「余計なことをするな」と言われてしまいます。
ここではりまさんは、この時どうするかをやーまんさんにクイズとして出します。やーまんさんの答えは「勝手に変える」で、これが正解でした。
もう勝手に変えるね、それだったら。
リークスさんは仲のいいMac担当のエンジニアに頼み込み、起動音を勝手に変えてもらいました。バレたあとに猛反発を受けたものの、こう言って押し切ったといいます。
「今から変えたらどっかバグ出る可能性高いんで変えない方がいいっすよ」って言って。
やーまんさんは、この切り返しを自分もたまに使うと笑います。
はい。「元に戻す方がコストもリスクも高いですよ」っていう。
こうして生まれたリークスさんの起動音は、1991年発売のQuadra 700に搭載されました。その後、1996年にスティーブ・ジョブズさんがAppleに復帰し、1997年にジョブズさん好みの音に合わせて変更されたといいます。今の起動音も、ほぼこの音に近いそうです。
はりまさんは、禅が好きなジョブズさんに合わせて、瞑想的な音に近づけていった経緯があると紹介します。やーまんさんは、東洋っぽい音と言われればそうかもしれないと受け止めていました。
効果音づくりにルールはない?サウンドロゴと番組の効果音
やーまんさんが悪魔の音程を聞いてみたいと言うと、はりまさんはYouTubeで聞けるとしたうえで「チュイーン」と口で再現します。やーまんさんも、確かに気持ちいい音ではないと納得します。
はりまさんは、こうした音を考えるのはすごく大変らしいと話します。成功なら明るめ、失敗なら不協和音を入れるくらいの目安はあっても、音づくりにはほぼルールがなく自由だからです。
やーまんさんが、店内で流れる音楽とは違う「効果音」の話かと確かめると、はりまさんはサウンドロゴくらいなら効果音に近いと答え、インテルのサウンドロゴを例に挙げます。
話はこの番組の音にも及びます。ゴロゴロ起業ラジオでは、章の変わり目に効果音を入れています。はりまさんは、効果音ラボから10個ぐらいダウンロードして選んだと明かします。
そうですね。ね、だから(話が)切り替わったよっていうのを伝えないといけないんでね。
はりまさんが調べる中で「有名な音」として知ったのが、Netflixのロゴが出るときの音です。やーまんさんはこの演出が大好きだと話し、赤いNがカラフルなストライプ柄に広がっていく映像と「ドドーン」という音が、映画が始まる感じをつくっていると説明します。
インスピレーション元はビートルズ。iPhoneのシャッター音も同じ人
はりまさんによると、Macの起動音にはインスピレーション元があります。ビートルズの「A Day in the Life」という曲のラスト、オーケストラが緊張感を高めた末に「ジャーン」と鳴る部分から着想を得たと、リークスさんがインタビューで語っていたそうです。
やーまんさんはその場でYouTubeで聞き、余韻が長いと感じつつ「近いっちゃ近いな」と納得します。
ここからやーまんさんは、アニメなどで足音やコップを置く音を作る職人の話をします。はりまさんも、地面に砂を敷いてペットボトルなどで音を作る例を挙げ、やーまんさんは「職人って技だな」と感心します。
はりまさんはそこで、起動音を作ったジム・リークスさんが、iPhoneのカメラのシャッター音を作った人でもあると紹介します。そのシャッター音は、リークスさん自前のキヤノンの一眼レフの音を録音し、スロー再生したものだそうです。
なんか役割、こういう役割を果たすためにこの音使うっていう発想。
やーまんさんは、かっこいい音源を作る発想ではなく、役割を果たすために音を使う発想が面白いと話します。はりまさんは、面白そうだが自分ならアイデアに詰まりそうだと返します。
番組のジングルの話にもなり、初めて聞く人にはいいが、ずっと聞く人には邪魔になるかもしれないという難しさも語られました。
「音はロゴと同じ」。耳は空いている差別化の場所
はりまさんによると、Macの起動音はリークスさんが作って以降も何度も変更が検討されました。そのたびにリークスさんは、ある主張をして起動音を守ってきたといいます。
やーまんさんは、音を聞いただけで数秒でMacだとわかるのは、ある意味ブランディングだと受け止めます。はりまさんは、Windowsは多分バージョンごとに起動音が変わっていると対比します。
やーまんさんは、目で見る情報での差別化はやり尽くされていて、匂いや音、体感で個性を出す発想が面白いと話します。はりまさんの答えは、耳は意外と空いているというものでした。
そうですよ。耳は意外とね、空いてるんで。
はりまさんは、みんながスマホを見ていても、イヤホンをしていなければ音は聞こえるはずなので、そこにどう届けるかを考えるのはいいかもしれないと続けます。
やーまんさんは、水がかかったり風が吹いたりする4DX ── 座席の動きや風、水しぶき、香りなどの演出を映像に合わせて加える体感型の映画上映方式。韓国の企業が開発しましたの映画館を例に、映画館がアトラクションのようになってきたと話します。はりまさんも、ディズニーやUSJにもそういう演出があると応じます。
匂いのマーケティングとファヒータ効果
やーまんさんは、匂いは飲食店でよく使われていると話します。焼肉の匂いで焼肉が食べたくなったり、ラーメン屋の前を通るといい匂いがしたりするという例です。
やーまんさんによると、今は香りの技術も進化していて、印刷に香りを付ける技術や、香りを調整して作る調香 ── 複数の香料を組み合わせて、狙った香りをつくり出すこと。香水や化粧品、食品の香りづけなどで行われますもあるそうです。展示会もたくさんあるといいます。
はりまさんが焼けた肉やゴム、ガソリンスタンドの匂いまで作れるのかと驚くと、やーまんさんはいけると思うとしつつ、いい匂い系が多いと答えます。やーまんさんは消臭剤について、匂いをつけているだけではと思うこともあるが、除菌できている感じにはなると話します。
はりまさんは、風呂用洗剤はいい匂いのほうが効いている感じがすると同意し、自宅の殺虫剤がいい匂いで思わず嗅いでしまったと話します。
いやだから虫にしたらさ、地獄の匂いやで。
はりまさんは「今日は音ですよ」と本題に戻しつつ、匂いの話に関連してファヒータ効果 ── 肉料理ファヒータが鉄板で焼ける音や香りが周囲の客の注文を誘う現象。シズル感を活かした販促の例として語られますを紹介します。肉がジュージュー焼ける音がすると、周りの人もそれを注文したくなる現象で、これをレストランの手法として開発した人がいるそうです。
ファヒータはメキシコの肉料理で、音を聞かせれば聞かせるほどみんなが注文するという発想から、どう聞かせるかを考えていったといいます。
なぜスタートの合図はピストルの音なのか
はりまさんは、陸上競技のスタートの合図がなぜ音なのかとクイズを出します。信号機のように目で見てわかる合図でもいいはずだからです。
やーまんさんは、音のほうが速いから、あるいは分かりやすいからと答えますが、どちらも違いました。伝わる速さで言えば光より速いものはありません。
五感の中で刺激に対して最も早く反応するのが聴覚なんですよ。
はりまさんによると、聴覚の次が視覚で、その差は0.02秒ほどだといいます。やーまんさんはクラクションを鳴らされるとドキッとすると話し、はりまさんも、前の車への合図ならパッシングよりクラクションのほうが早いと同意します。
音のほうが速い、または分かりやすいから
五感の中で刺激に最も早く反応できるのが聴覚だから
はりまさんは、音は頑張っている人が少ないブルーオーシャンだと話します。やーまんさんは、売店で迷っている客が商品を手に取った瞬間に音が鳴れば、コンバージョン率が上がるかもしれないとアイデアを出し、はりまさんはECサイトでもカゴに入れると音が鳴るところはありそうだと返します。
緊急地震速報はなぜ3回鳴るのか
はりまさんは、緊急地震速報の音を作った人の話を紹介します。危険を知らせるための特殊な音で、緊張感が激しすぎてボツになった音もあったそうです。
やーまんさんは、今の音でも十分怖いと話します。はりまさんによると、緊急地震速報は「キュイキュイキュイ」と3回鳴らすのが大事だといいます。
その理由として、はりまさんはドアのノックを例に挙げます。ノックは大体2回で、1回より用事があるとわかりやすく、3回にするともっと急いでいることを表せるという説明です。
やーまんさんは、スマホゲームで宝箱を開けるときの気持ちいい音や振動にも触れ、達成感や「またやりたい」という体験が作られていると話します。はりまさんは、LINEの送信音の「シュポッ」を挙げ、現実と地続きでない音を作った発想に驚きます。
別にメッセージを送ってシュポッってなるわけないじゃんっていう、現実と地続きじゃなさすぎる音があって。
f分の1ゆらぎ、タイプ音、ASMR。気持ちいい音の世界
はりまさんは、気持ちいい音の有名な法則としてf分の1ゆらぎ ── 規則的すぎず完全にランダムでもない、ゆらぎのパターン。自然界の音などに見られ、心地よさと結びつけて語られることがありますを紹介します。規則的すぎず、完全なランダムでもない音のことで、海の波の音や雨の音が例として挙がりました。
はりまさんは、一時期は雨の音を流しながら作業していたといいます。最近は、YouTubeでプログラムを書く様子を1時間ほど撮った動画を、画面は見ずにキーボードのタイプ音だけ作業用BGMとして聞いているそうです。
周りで作業してる人がいるような感覚で作業できて、ちょうどいいなと思って、よく聞いてますね。
やーまんさんは、娘さんがスライムのようなものに注射器で空気を入れて膨らませ、プチプチ潰す遊びにハマっていると話します。シャインマスカットをかじる音を耳元で聞かせてくることもあるそうです。
はりまさんはそれを「すごいASMRじゃん」と受け、ASMRを聞く若い人たちは耳世代なのではと話します。やーまんさんは、目と耳がセットで楽しまれているのだろうとしつつ、自分には何がいいのか全くわからないと話します。
キーボードの音も好みが分かれ、やーまんさんの友人は斜め前の人のEnterキーがうるさいと怒っていたそうです。はりまさんは、メカニカルキーボードだと結構うるさいと認めつつ、自分は好きだと話します。
一番落ち着くのは無音。静かさという価値
はりまさんに好きな音を聞かれたやーまんさんは、瞑想をしていた時期に、森の音や小鳥のさえずり、波の音などのヒーリング系の音がかえって落ち着かなかったと振り返ります。
結局何が一番落ち着くかっていうのを自分なりに検証して出した答えが無音。
やーまんさんは今では、車を運転するときもラジオをつけず無音にしているそうです。はりまさんは、無音にも環境音がある状態からノイズキャンセリングまで種類があると指摘しつつ、人類はみんな無音が好きだと話します。
はりまさんは、新幹線にできた個室のレビューで「めちゃくちゃ静か」という声があったことを挙げ、静かであること自体に価値があると話します。
世界は。世界はうるさい。
Podcastも音。番組のジングルづくりへ
やーまんさんが「このラジオも音」と話すと、はりまさんは、Podcastのレビューでは音への文句が多いと明かします。ノイズだけでなく、話の内容はいいが話者の声が無理だった、という感想もあるそうです。
二人は声は変えられるのかという話で盛り上がったあと、やーまんさんがゴロゴロ起業ラジオ用のジングルを作ってほしいと提案します。はりまさんは、番組名を喋った声を加工して、かっこいいジングルにしたいと話し、リスナーからのジングルも募集しました。
やーまんさんは、自分のブランドのプロモーション動画の音楽を作ることがあると明かします。ネイビーのストライプの商品では、自分の声で「ネイビーストライプ」とリズムよく言った素材を、おっさんの声と子どもの声で合唱する形にしたそうです。
ちょっとした音源とかだったら自分で作ったり、自分で声録ってそれサンプリングして。
二人はその場で番組名を声で録音し、この回の最後に流すことにしました。好評ならBGM化し、反応がなければ今回限りにするといいます。
音に役割を持たせることには伸びしろがある
締めくくりではりまさんは、Macの起動音には、気持ちいい音であること、ちゃんと動いたという成功を伝えること、これから何かが始まると暗示することが込められていると振り返ります。
やーまんさんは、音に役割を持たせて機能させる発想には、まだまだ伸びしろがあると感じたと話します。
はりまさんも、文字を打つときにタイプ音以外の音を当てても意外と気持ちいいかもしれないとし、いろいろ試せばいい音に出会えそうだと話していました。
まとめ
Macの起動音は、悪魔の音程と呼ばれた音を変えようとしたジム・リークスさんの行動から生まれ、「音はロゴと同じ」という考えで30年近く守られてきました。二人の話は、そこから効果音や匂い、無音の価値まで広がり、音に役割を持たせることの可能性が見えてくる回になっています。
- Macの起動音は、正常な起動を伝えつつ「ショーの始まり」を予感させる役割を持つ
- ジム・リークスさんは上司の反対を押し切り、エンジニアに頼んで起動音を勝手に変えた
- リークスさんは「音はロゴと同じ」として、起動音をコロコロ変えないよう主張してきた
- 聴覚は五感で最も早く反応できる感覚で、緊急地震速報の3回の音にも意味がある
- 目の差別化がやり尽くされる中、耳はまだ空いているブルーオーシャンだと二人は話す



