「株式投資は良いこと」でも、あなたの場合は違う?
この回で井上ヨウスケさんが取り上げるのは、株式投資の是非と、自分が株式投資をすることの正しさは必ずしも結びつかない、という話です。
井上さんによると、株式を持つことを「他の条件を無視して良いこと」とする人がいます。しかし井上さんは、その主張は時間軸やバランスシート上の他の資産を無視していると指摘します。
だから個別的に考えたら、いや株式投資はした方がいいんだけど、あなたの場合は違うよねっていうのが全然あると思ってるんですけど。
井上さんは、こうした個別の事情に踏み込む話はあまり聞かないと感じており、だからこそ今回のテーマに選んだと話しています。
欲望の哲学に夢中、1時間で10ページの読書
本編の前の雑談で井上さんは、前回の「欲望なんて他人からの借り物」という話にリスナーのソラミさんからコメントが届いたことに触れます。そのうえで、今読んでいる本を紹介しました。
井上さんが読んでいるのは、コジェーヴ ── アレクサンドル・コジェーヴ。ロシア出身でフランスで活動した哲学者。1930年代のヘーゲル講義は、のちのフランス思想に大きな影響を与えたとされますの『ヘーゲル読解入門』上巻です。井上さんはルネ・ジラール ── フランス出身の思想家。人の欲望は他者の欲望を模倣して生まれるという「模倣的欲望」の理論で知られますが好きで、コジェーヴはラカンやジラールの議論につながる人物として関心を持ったといいます。
もう今1時間かけて10ページぐらいしか読めないですよ。
井上さんは、読みながら考えたりメモを取ったりするので、なかなか読み進められないそうです。欲望の概念が好きな井上さんは、読み途中でもエッセンスは話せるとして、この本の話はプレミアム放送で扱う予定だとしています。
こどもNISAは「制度設計としてしくってる」?
もう一つの雑談は、こどもNISAの話です。井上さんは格差を広げるといった論点とは別に、こどもNISAは制度設計として失敗していると考えています。この話のために、ClaudeのArtifact機能でスライドを20枚ほど作ったといいます。
井上さんが比較に出したのは、アメリカの529プラン ── アメリカの教育資金向けの税制優遇付き積立制度。州ごとに運営され、運用益が教育費に使われる場合は非課税になる仕組みですです。井上さんの説明では、529プランはプラン内でリバランスをしても課税されず、年齢に連動して株式比率を自動的に下げる仕組みもあります。
井上さんによると、これはシーケンスオブリスク ── 運用リターンの「順番」によるリスク。お金を引き出す直前に暴落が来ると、平均リターンが同じでも結果が大きく悪化することを指しますを考慮した設計です。一方こどもNISAは、売ったら再投資できず、この考慮が全くないと話しています。
プラン内のリバランスに課税されない。年齢に連動して株式比率を下げ、シーケンスオブリスクを考慮している
売ったら再投資できず、シーケンスオブリスクを考慮していない。考慮するならバランスファンドぐらいしか選択肢がない
だからどういうつもりなん金融庁の人は?と思ってたりはするところがあって。
井上さんは、こどもNISAで「オルカンを買っておけばいい」と考える人は多そうだとしつつ、確率論的には「だいぶやんちゃ」だと述べます。ロジックを理解したうえで何を買うかを考えるべきだとして、詳しくはプレミアム放送で話す予定だそうです。
インフレ耐性のある資産を持つことには「完全に同意」
本編で井上さんは、まず株式投資を勧める主張そのものには同意していることを示します。インフレ環境下で日本企業が利益を給与に反映せず、その分が株主の利益として出てくるなら、労働者も株式をバランスシートに入れておくべきだ、という主張です。
で、これは僕完全に同意なんですよ。ここはほんまそうやと思ってます。
ただし井上さんは、この主張には前提があると指摘します。それは、その瞬間のバランスシートだけを評価し、時間軸や他の資産の状況を考慮しない場合の話だという点です。
個人のバランスシートと、株が「固定資産」になる理由
井上さんはここで、バランスシートを個人の財産をまとめたシートとして説明します。左側に流動資産と固定資産があり、反対側に負債があり、資産から負債を引いたものが純資産です。
住宅を例にすると、今売れば5000万円の家を持っていても、住宅ローンが4500万円残っていれば、本当の資産である純資産は500万円になります。
井上さんは、個人でもバランスシートを作るよう勧める人がいるとし、竹川美信さんもそう話していた記憶があると、自信がない様子で付け加えています。
そのうえで井上さんが注目するのは、株式の置き場所です。井上さんの記憶では、企業会計では長期保有目的の株式は固定資産側に入れるルールになっています。このルールに当てはめれば、長期投資をする人の株式はすぐには売らない固定資産になる、というのが井上さんの見方です。
「なんかあったら売れる」は長期投資なのか?
株式を固定資産とみなす考え方から、井上さんは「なんかあったら売れる」という発想に疑問を投げかけます。NISAは最悪売れる、という言い方にも引っかかりを感じているそうです。
「基本売らへんように、その計画立てて、その余剰資金でやるもんじゃないの?」みたいな。
「とりあえず投資やって、あかんかったらすぐ売る」みたいな発想って、それ別に長期投資家の皮をかぶってるだけじゃないの?って思ってしまうんですけど。
資産のほとんどが長期保有目的の株式なら、バランスシートの流動資産はかなり薄くなります。井上さん自身は個人事業主で収入に波があるため、生活防衛資金に加えてバッファーを多めに持っていると話します。
井上さんはこれを、自分の場合はどうかを考える「個別化」だと説明します。対照的に、近年は生活防衛資金をほとんど持たずに株を買えばいいという考え方もあり、その場合はバランスシートのほとんどが固定資産になってしまいます。
投資家なら、流動資産のない会社に投資するか?
ここで井上さんは、投資家として会社の財務諸表を見る場面に置き換えて考えます。ある会社が長期投資計画を立て、計画がうまくいく前提の数字を示している一方で、バランスシートには流動資産がほとんどない、という状況です。
僕は、「いや、投資せえへんかな、そんな会社」って思っちゃうんですよね。だってなんか全然こう、脆弱じゃないって思うんですよ。
井上さんによると、長期計画を立てるなら成功する確率を高めなければならず、そのために必要なのがある程度の流動資産です。危機があったときに脆弱ではないポジションを作っておくことが、計画の成功確率を上げます。
井上さんは、単に投資をしたい人と、老後のための資産形成として長期投資を成功させたい人とでは、スタンスが変わると整理しています。
投資をすること自体で目的が達成できるので、したければすればよい
長期投資を成功させるために、生活防衛資金などを手厚く持ち、成功確率を上げる必要がある
稼ぐ力があれば、偏ったバランスシートも許される
井上さんは、バランスシートに加えて損益計算書(PL)にも目を向けます。バランスシートが資産を見るのに対し、損益計算書はその年にいくら稼ぎ、いくら残ったかを見るものです。
井上さんの説明では、損益計算書が素晴らしく、キャッシュフローが非常に安定していれば、多少偏ったバランスシートでも許されます。稼ぐ力が大きく、経費率が低く、利益率の高いビジネスなら、何かあっても吸収できると思えるからです。
反対に、個人に置き換えて無理な節約で投資資金を捻出している家計は、予期せぬ出費をすぐに吸収できません。井上さんは、バランスシートも損益計算書も脆弱な状態なら、数字を見て「この会社ちょっと怖いな」と思うと話しています。
原則は正しくても、偏りは別問題
ここまでの話を井上さんは、株式がバランスシートにあることは基本原則として良いが、バランスシート上の偏りは別問題だとまとめます。理論的にはそうでも、あなたの場合はそこまで持たないほうがいい、という個別化の話です。
井上さんは、最近は個別化を嫌い、「うまくいっているからいいじゃないか」と考える傾向を強く感じるといいます。脆弱さという概念も昔からあまり大切にされていない、と話します。
僕なんかどっちかって言ったら、「いや脆弱なライフプラン作るべきじゃないやろ」って思うし、脆弱な人生計画を立てるべきじゃないと思うし、脆弱な家計を持つべきでもないと思う
井上さんは、一時的に大きく稼いで一時的に大損するより、安定的にプラスを出して長期で勝てるポジションを取るべきだと考えています。ただ、一時の大勝ちで気持ちよくなることにみんながフォーカスしがちだとも感じているそうです。
自分の家計を、ひとつの会社として見られるか
井上さんが最後に提案するのは、自分の家計を会社に見立てる視点です。自分の家計と同じバランスシートや損益計算書を持ち、長期投資計画を立てている会社があったら、その会社に投資したいと思えるかを問いかけます。
この数値を持つ長期の投資計画を立ててる会社があった時に、その会社に是が非でも「この会社硬いな、もう全然投資したいな」って思えますかっていう話ですね。
井上さんは、この問いにイエスと答えられず「ちょっとどうかな」と思うなら、ポジションの取り直しを考えるべきだと話しています。
正しいポジションでも、取る量を誤れば「飛ぶ」
井上さんは、投資で一番難しいのは正しいポジションを取る量だと語ります。トレーダーが買いの正しいポジションを取っていても、賭け方が下手なら資金を失うことがある、という例えです。
株式を持つ、買いで構えるなど、方向として間違っていないこと
資金量や状況に合わせて、取る量を誤らないこと。取りすぎると方向が正しくても失敗する
井上さんは、資金量に応じたゲームのやり方があるのは当たり前だとして、ポーカーや、マーケティングのランチェスター戦略 ── もとは軍事理論から生まれた競争戦略。マーケティングでは、強者と弱者で取るべき戦い方が違うとし、弱者は局地戦や差別化で戦うべきだとされますを例に挙げます。理論的に正しいことと、自分が取るべきポジションは違うというのが、この回の結論です。
まとめ
井上ヨウスケさんは、インフレ耐性のある株式をバランスシートに持つこと自体には同意しつつ、偏ったバランスシートで長期投資をするのは別問題だと語りました。自分の家計を会社に見立て、その会社に投資したいと思えるかを問うことで、自分に合ったポジションの量を考えられます。
- 株式を持つことは基本原則として良いが、時間軸や他の資産を無視した判断にはならない
- 長期保有の株式は固定資産と考えられ、流動資産が薄いと長期投資の成功確率が下がる
- 損益計算書が強ければ偏りも許容されるが、無理な節約で捻出した投資は脆弱になりやすい
- 自分の家計を会社に見立て、投資したいと思えるかで点検する
- ポジションの正しさと、取る量の正しさは別物である





