「指数が7%なら自分も7%」は本当か?
井上ヨウスケさんがこの回で取り上げたのは、自分が投資している商品の成績が、自分の成績と同じになるとは限らないという話です。投資を数年続けている人でも意外と知らない事実だと、井上さんは話します。
井上さんが挙げた例は、20年間投資した場合のケースです。買っている投資信託の20年間の年平均リターンが仮に7%だったとしても、投資家本人の成績は7%にはならないといいます。
(投資)数年やってても意外と知らないなと思うことを、ちょっと今日はお話ししたいなと思います。
井上さんがこのテーマを選んだ背景には、プレミアム放送で子どもNISAの問題と商品選択について1時間ほど話し、スライドを30枚ほど用意したことがあります。この回の内容は、子どもNISAの商品選択の大切さにつながる話として位置づけられています。
もう一つのきっかけは、先週の放送に寄せられた空蜜さんのコメントです。先週の井上さんは、株式投資そのものの是非と、自分の状況に当てはめたときにできるかどうかという「個別化」の話をしていました。
空蜜さんのコメントには、日本は恵まれているからこそ真剣に考えるべきなのに、時間が取れなかったり情報に届いていなかったりして考えていない人が多いのではないか、という趣旨が書かれていたといいます。井上さんもその見方に同意しています。
問題意識を持ってしまうと、追加学習のコストが発生するから、人はもうこれ以上の問題はないと思いたいというところがありますよね。
井上さんは、人は周りと同じであれば、みんなが大丈夫と言えば大丈夫だと思えるところがあると話します。それでも投資は数字の世界であり、詳しい人にとっては当たり前で、専門家なら無視しない話だからこそ取り上げたいと語っています。
時間加重と金額加重、2つのリターンは何が違う?
井上さんはまず、この話は「高いときに買って安いときに売るから成績が下がる」というインベスターリターン ── 投資家が実際に得たリターンのこと。売買のタイミングなど投資家の行動によって、商品自体のリターンより低くなる傾向があるとされますの話とは別物だと断っています。
米国株の実質トータルリターンは、インフレ控除後で年平均7%ほどだとよく言われます。2009年から2026年までのS&P500のリターンは年何%だった、という指数そのものの年平均リターンもよく紹介されます。
井上さんによれば、こうした数字はわかりやすいため、S&P500や全世界株に投資すれば自分もそのリターンが手に入ると直感的に思ってしまいがちです。
井上さんは具体例として、月2万円を20年間積み立てるケースを計算しています。投資期間中の指数の年率リターンが5%なら、元本480万円が約822万円になるという計算です。
多くの人は、どんな相場の経路をたどっても、20年間の指数のリターンが5%なら最終的に822万円になると考えがちです。井上さんは、それは「ならない」と言い切ります。
井上さんが挙げる理由は、投資では順路が大切だからです。指数や商品のリターンは時間加重収益率 ── 途中の入金や出金の影響を除いて、運用そのものの成績を測る指標。一括投資して保有し続けた場合の成績に近い考え方ですと呼ばれ、一括投資して20年保有したときに年率で何%増えたかを表すものだと説明しています。
一方で、多くの人は一括投資ではなく積立投資をしています。積立投資の成績は金額加重収益率 ── 投資した金額の大きさを反映して計算する収益率。お金を多く置いている時期の値動きほど、成績に大きく影響しますで考える必要があるといいます。
井上さんは、相場にどれだけのお金を置いているかを考えてほしいと話します。月2万円の積立なら1年目に相場に置いているのは24万円だけですが、10年積み立てれば元本は240万円になり、同じ100%のリターンでも増える金額がまったく違います。
(僕らは)自分のお金を円で見るじゃないですか。まあドルでもいいんですけど、とりあえず通貨単位で見ますよね。パーセント単位で見ないですよね。
前半好調・後半暴落なら成績はズタボロに
井上さんは、積立投資では最初に好調で後半に大きな暴落を食らうと、投資成績がズタボロになると説明します。極端な例として、最初の10年が毎年プラス10%、後半の10年が毎年マイナス10%というケースを挙げています。
この上がって下がる順路で積立投資をしていると、投資家のリターンは指数のリターンを下回ります。逆に、最初の10年が下がり、後半の10年が上がる順路なら、指数よりもリターンは高くなるといいます。一括投資であれば、どちらの順路でも結果は同じです。
お金が少ないうちにプラスが続き、お金が多く積み上がってからマイナスが続くため、指数より成績が悪くなる
お金が多く置かれている後半にプラスが続くため、指数より成績が良くなる
井上さんがまとめる理由はシンプルで、積立投資の成績は、マーケットにお金を多く置いているときにプラスのリターンが続くかどうかで決まるということです。
「いや、もう俺、100万投資した、1000万投資した、1億投資した。でもマーケット置いてんねん」って言ったら、指数のリターンがそのまま自分のリターンで考えられるわけなんですけれども。
一括投資なら指数のリターンをそのまま自分のリターンと考えられますが、積立投資ではその考え方ができない、というのが井上さんの指摘です。
出口で暴落を避けるには?シーケンスリスク対策
井上さんは、積立投資は順路次第であり、最後に暴落が来れば成績はズタボロになると理解すればよいと話します。理屈としてそうわかっているなら、出口で暴落を食らいにくくすればよいという考え方です。
その方法としてセオリーとされるのが、出口に向かって少しずつ株式比率を下げていくことです。井上さんは、これがいわゆるシーケンスリスク ── 投資の成果が、リターンの平均値だけでなく、どの順番でリターンが訪れるかに左右されるリスク。特に退職前後など出口付近の下落の影響が大きいとされます対策だと説明します。
順路が結果を左右する
積立投資は、お金が多く積み上がった後半の値動きの影響が大きい
出口の暴落は取り返しがつかない
最後に暴落すると成績がズタボロになる
株式比率を下げていく
出口に向けて少しずつ株式比率を下げ、暴落の影響を受けにくくする
ただ井上さんは、YouTubeで発信している実感として、ほとんどの人はこれを理解できていないのか理解したくないのか、とにかくギリギリまで株を持っていたほうがいいと思っているようだと話しています。
井上さんがここで引き合いに出すのが、哲学者エピクテトス ── 古代ローマ時代のストア派の哲学者。自分の力でどうにかできることと、どうにもできないことを区別して生きることを説きましたの「コントロールできるものとコントロールできないものを分離する」という考え方です。
井上さんは人間関係の例で説明します。誰かに嫌なことを言われた場合、相手がそう言ったことは変えられない事実で、それを嫌なことだと解釈したのは自分であり、受け取り方は自分でコントロールできるという整理です。
マーケットコントロールできないんだから、コントロールできないことにコントロールしようとしたって意味がないわけで、僕らがコントロールできるっていうのは自分のポートフォリオだけじゃないですか。
井上さんは、退職が近づいてきたら株式比率を下げていくことくらいしか自分にできることはないと話します。神様にお祈りしても仕方がないという言い方です。
出口での暴落は取り返しがつかないため、「株式にしておけばもっと増えたかもしれない」という後悔はあっても、やれることはやっておくべきだというのが井上さんの考えです。
教育費と子どもNISAは商品選びが重要
井上さんは、この順路の問題がいちばん難しくなるのは教育費だと話します。教育費はお金が必要なタイミングが決まっているため、その時期に向けて金額を確定させていく必要があり、商品選びがとても重要になるという理由です。
一方で井上さんは、子どもNISAはそこまでの設計がされていないと見ています。子どもNISA用に作られたターゲットデート型の商品は今のところなく、リバランスできる設計でもないと指摘しています。
(子どもNISAは)その商品選択のリテラシーっていうのを皆さんに丸投げしてる制度だと僕は思ってるんですよ。
井上さんは、子どもNISAを使うならせめて利用者側のリテラシーで補わないと、後で「知らなかった」「金融庁が言ったから」と言う側になってしまうと話します。詳しい内容は10月のプレミアム放送で、30枚ほどのスライドを使って解説しているそうです。
井上さんは改めて、指数が何%だったかは正直関係ないと強調します。平均7%のリターンと言われても、どの20年を取るかで数値は大きく違い、さらに同じ7%の20年でも積立投資なら結果が変わるといいます。
同じ年率7%の20年でも2000万円の差
井上さんは、以前セミナー資料を作るためにS&P500のデータを調べた経験を紹介しています。同じ20年間で年率7%の平均リターンになる区間を2つ見つけたそうです。
一括投資なら、この2つの区間は当然同じ結果になります。ところが積立投資をした場合、最終的な金額は2000万円ほど変わったといいます。
井上さんは、これこそが積立投資においてとても重要なことなのに浸透しておらず、「指数が7%なら7%で増えるのでは」と思われている程度だと話します。
知ると「なんでこんな大切なことを僕らは知らずに積立投資していたんだろう」って思う。
井上さんは、この知識は初心者から順番に学んでいく中で、どこかで出会うべきものだと考えています。
大切な情報ほど届かない?YouTubeとAIの情報格差
井上さんは、この順路の話はYouTubeで話しても再生数が伸びないと打ち明けます。伸びるなら無限に出すけれど、伸びないコンテンツで大切だと思うものは出せない、という発信者としての悩みです。
ほんまに「これ知っといた方がええやん」っていうようなことを出す場所がないんですよ。だって出したい人間にインセンティブがなかったら出せないですよね、商売やから。
井上さんは、同じような話ばかりが繰り返し再生される状況を「グロい世界」と表現しています。その結果、知っている人は知っているけれど、知らない人は一生知らないことがずっと残るといいます。
この状況はAIを使っても同じだと井上さんは見ています。人は知りたい情報を調べるから情報に触れられるのであり、欲していなければその情報には届かず、興味がなければ深掘りもできないという理由です。
AIは知りたい人には情報を与えてくれるため、知ろうとする人とそうでない人の情報格差はますます広がるところがある、と井上さんは話しています。
出口を決めるのは規律、欲に従うと失敗する
井上さんは最後に、商品の成績がそのまま自分の成績になるのは一括投資をしている人であり、積立投資をしている現役世代は「商品の成績が何%だから大丈夫」とは全く思えないと整理します。
井上さんはリーマンショック後の相場を例に挙げます。その後の相場は大きく上がりきっていますが、それが30年投資の前半に当たっていたなら、あまり嬉しくないかもしれないといいます。
「うわ、それやったらこの15年、自分の後半部分に来てたら最高やったのにな」かもしれないわけですよね。
井上さんは、この仕組みを理解していれば、目標金額に届いた段階で資産を絞っていこうと考えられると話します。ただ、人間は欲深いので、もう少し株を置いておきたいと思ってしまうとも付け加えています。
井上さんによれば、伝説の投資家たちの本を読むと、彼らは基本的に規律に基づいて投資しており、欲に従うと失敗すると書かれているといいます。井上さんはジェシー・リバモア ── 20世紀前半に活躍したアメリカの伝説的な相場師。巨額の利益を上げた一方で、何度も破産を経験したことで知られますを挙げ、破産したのは自分で決めたルールを守れなかったときだったと記憶をたどっています。
でも規律を守るとおもんないんでね。そう。だから結局何を大切にしてるかっていうところではある気はするんですけど。
井上さんは、最初は株式を多めにしてもまったく構わないとしたうえで、出口ではコントロールできる唯一のこととして株式比率の調整をすべきだと話します。
特に教育費のように必要な時期が決まっているお金については、「子どもが18歳か20歳まで引き出さないから、20年あればオルカンで年率5%くらいで運用できるだろう」という甘い考えでいると、出口で大きく後悔するかもしれないと井上さんは注意を促しています。
まとめ
井上ヨウスケさんは、積立投資では商品や指数の年平均リターンがそのまま自分の成績にはならず、相場の順路によって結果が大きく変わると解説しました。だからこそ、出口に向けて株式比率を下げるという、自分でコントロールできる対策が重要になると話しています。
- 指数や商品のリターンは時間加重収益率で、一括投資なら自分の成績と一致するが、積立投資では一致しない
- 積立投資は、お金が多く積み上がった後半の値動きの影響が大きく、出口の暴落で成績が大きく崩れる
- S&P500で同じ年率7%の20年間でも、積立投資では2000万円ほど結果が違った例がある
- 出口に向けて株式比率を下げるシーケンスリスク対策が、自分でコントロールできる対策になる
- 必要な時期が決まっている教育費では商品選びが特に重要で、子どもNISAは利用者側のリテラシーで補う必要がある





