なぜ脱Notionを考えたのか
井上さんは、読書のアウトプットや情報整理にNotionを使い、全部のログを残してきました。
ただ最近、そのやり方を見直そうと考えているそうです。Notionを無料プランに戻し、Capacitiesという別のツールへ移行しようとしています。
ただし、ツールそのものが目的ではありません。変えたいのは、情報の残し方という「考え方」の方だと強調しています。
記憶を作る4つのプロセスと「符号化」
井上さんは、記憶を作るには4つのプロセスが必要だと説明します。符号化して、固定化して、貯蔵して、思い出す、という流れです。
このうち一番大切なのが「符号化」だと言います。記録をそのまま残すのではなく、そのとき何を感じたかといった情報に紐づけて残す作業です。
問題は、人間はサボりたがりだという点です。プロセスを減らしたいのに記憶は残したい、という矛盾を抱えていると話します。
情報ってね、とりあえず残しとこうって残しても、何の記憶にも残らないというか。結局データめっちゃあるけど、なんか使わないという感じですね。
実際、EvernoteやNotionのウェブクリップで「後で使える」と思って保存しても、検索に引っかからず、タグ付けしてもデータが埋もれて死蔵してしまう、というのが井上さんの実感です。
自分の言葉に置き換えるメモの作り方
符号化が大切なのは、自分のコストをかけて残すからだと井上さんは言います。ウェブクリップは自分の言葉になっていないため、記憶のフックが作れていないと指摘します。
そこで井上さんは、本を読むとき必ず手元にメモを置きます。理解のために本に線を引きつつ、メモしたいことが出てきたら手元に書き出すそうです。
そのメモは、誰かに本の内容を伝えるためのものではありません。要約は要約屋に任せればいい話で、自分の興味分野にどう活用できるかにしか興味がない、と話します。
僕、あの、読んだ本をね、どういう話でしたよってあんま喋れないんですよ。要約したくて本を読んでるわけじゃなくて、僕が興味がある分野に対して、その本から学習することでどう活用できるかっていうことにしか興味がないので。
だから井上さんのメモは、他人が見ても意味がわからないものになります。ページ番号や、自分の言葉に書き換えた内容などが並んでいるそうです。
記憶は「紐づけ」でよみがえる
井上さんは、記憶には思い入れや紐づけが欠かせないと語ります。紙の本が電子書籍より記憶に残りやすいと言われるのも、情報量が多いからだと説明します。
本の触り心地、分厚さ、フォントの大小、「大体真ん中あたりに書いてたな」といった読書時の感覚が、記憶の定着に結びつくというのです。
その例として、井上さんは祖母の思い出を挙げます。祖母の顔ではなく、まず祖母の家が思い浮かぶと言います。
ラーメンの、あの、わかりやすいラーメン入ってる器、あれおばあちゃん家にあってね。おばあちゃんカップヌードルを作って、カップヌードルからその器に出してくれるんですよ。
こうした細部は、意識して覚えたものではなく、祖母を思い出すと勝手についてくると言います。記憶には紐づけの作業が必要で、そこはサボれない、というのが井上さんの考えです。
一枚のメモを「命題」に切り分ける
続いて井上さんは、読書メモをどう作り直すかを具体例で説明します。以前読んだ『欲望と幻想の市場』という本の話です。
本を読みながら、内容とは直接関係なく浮かんだことをメモしていったそうです。たとえば、こんなメモを書いていたと言います。
年300万で生活することができたとする。これ以上下げにくいと仮定すると、年収500万になった時に増えた分をすべてオプションと考えることができるか。
読み終えてしばらく経ってから、井上さんはこのメモを1つのメモに直しました。「増えたお金を生活費に変換する場合、それはオプションじゃなくて義務や必要となる」という形です。
つまり、雑多に書いたメモを「AはBである」という命題の形に変えていく作業です。これは井上さんが理解するツェッテルカステンの一要素だと言います。
1枚のメモにたくさんの主張が詰まっていると見返しにくいため、切り分けたほうが後々見やすくなる、というのが狙いです。
バックリンクで「どこから来たか」を残す
この作業自体はNotionでもできると井上さんは言います。それでもCapacitiesを選んだのは、バックリンクがしやすいからです。
「あれ、このアイデアってなんかすげえいいアイデアやな」って、例えば1年後の僕が思うじゃないですか。「でもこれ、なんでこんなこと思いついたんやろう」って思った時にバックリンクついてるんで、「あ、そうか、この本の読書メモから来たんだ」みたいなことが遡りやすくなってて。
Notionでもデータベース同士を紐づければ同じことはできるものの、後から設定するのがややこしくて苦手だと井上さんは話します。
Capacitiesでは、人物名を登録しておけば、その人が書いた書籍、読んだ日付、読書メモ、そこから抜き出した個別メモまでたどれるようにしているそうです。
AIに任せると「空っぽな自分」ができる
井上さんは、人はつい手っ取り早く賢くなりたくなり、「AIにやらせればいい」と考えがちだと言います。しかし記憶定着について調べるほど、そうはいかないと感じたそうです。
人間は文脈でしか覚えられず、その文脈を作るには自分が注意を注ぐ負荷が必要だと説明します。心ここにあらずの旅行では記憶が残らないのと同じだ、というわけです。
その例として、井上さんはほとんど覚えていないイタリア旅行の中で、鮮明に残っている場面を挙げます。バチカン美術館の近くで、1ユーロの置物を10ユーロで買ってしまった話です。
「俺は正直な男だからね」みたいな言って、「俺ここでもう一個買うわ。おっちゃんありがとう」って言って買って、歩いてたら、最終的に普通の店で1ユーロで売ってたっていうね。
強烈な出来事だからこそ記憶に残る。だから日常的に読んだ本を血肉にしようとするなら、メモを取る手間はサボれない、と話が戻ります。
井上さんは、記録の量と記憶を混同しがちだと指摘します。「第二の脳を育てる」という発想は幻想で、溜めたデータは自分の脳ではないという考えです。
AIを使うと、わからないことがわかった気になりやすいとも言います。AIが間違っていても、自分が理解していなければ見抜けない、という危うさです。
だから結局AIに聞いて、AIに聞いた後も、結局自分の言葉でメモを残さないと、自分の記憶にはならないんですよね。
AIには答えを丸ごと任せず、自分の言葉で書いた理解が合っているかを確認する使い方がよい、と井上さんは提案します。
本を読む
理解のため線を引き、手元のメモに気になったことを書く
自分の言葉にする
内容を「AはBである」という命題の形に書き直す
1枚ずつ切り分ける
1テーマ1メモに分け、後で見返しやすくする
つながりを残す
バックリンクで「どこから来たメモか」を遡れるようにする
あえて手作業で逆走する
井上さんは、AIが考えを代行してくれる時代だからこそ、そこは譲ってはいけないと考えています。あえて面倒なことを自分でやる意味がある、というわけです。
Notionに「後で振り返れるように残しておいて」と任せるだけだと、数年後に「なんじゃそりゃ」となってしまう気がする、と率直に話します。
だから今は、ローカルに手打ちで1つずつ自分の手でまとめていく方が、結果的に記憶に残るのではないかと考え、あえて逆走するように取り組んでいるそうです。
空っぽな自分育てていって、最終的に「あなたはAIの使い方上手だけど空っぽですね」みたいな。「じゃあそのテクニックだけ教えてもらったのもあなたいらないですね」ってなってしまう気がするので。
井上さんは、AIへの評価が定期的に揺れると笑います。「AIすげえ」と思いながら「AIクソやな」とも思うそうです。
それでも結論は、自分の力で自分の言葉に置き直すことが改めて重要だ、というところに落ち着きました。
まとめ
情報を溜めることと記憶に残すことは別だ、というのが今回の核心です。井上さんは、AIやツールで効率化できる時代だからこそ、自分の言葉に置き換える手間はサボれないと語りました。
- 記憶定着には符号化・固定化・貯蔵・想起の4プロセスがあり、なかでも自分の言葉に紐づける符号化が要になる
- ウェブクリップのように自分のコストをかけずに溜めた情報は、検索にもかからず死蔵しやすい
- 読書メモは「AはBである」という命題に切り分け、バックリンクで出所を残すと再利用しやすくなる
- 記録の量と記憶は別物で、「第二の脳」は幻想。溜めたデータは自分の脳ではない
- AIに答えを任せても記憶にはならない。自分の言葉でメモし、理解の正しさを確認する使い方が有効



