「ゴールポストを動かすな」は難しい
「ゴールポストを動かすな」という表現は、いろいろな場面で使われます。
いくらになったらやめる、といった話も含めて、この言葉はよく聞くと話されています。
ただ、この言葉を真剣に考えると、実はかなり難しいことだと井上さんは指摘します。
動かないゴールポストを設定するのは、よほど内省的な人でないと不可能に近いのではないか、というのが今回の出発点です。
「お金に困る」の定義は人によって違う
「ゴールポストを動かすな」という言葉の裏には、自分の意思が固ければゴールは動かない、という前提が含まれている気がすると話されています。
例として挙がるのが「老後にお金に困りたくない」という目標です。
この目標自体を否定しているわけではありません。ただ「困る」の定義を言語化するほど考えている人は、実は少ないと言います。
あの人がお金に困るっていう表現を使ってる状況は、私にとってはお金に困るには入らないですとか、その違いってなんとなく自分の中で明確になってるかどうかって考えたら、なんかそんなこと考えることないと思うんですよね。
井上さんは「困る」のラインをいくつかに分けて説明します。
ここで問題になるのが、相対的貧困は言葉の中に「相対」が入っている通り、絶対に動く要素だという点です。
自分はこんだけでいいって決めたラインでも、相対的ですから、みんなが上がっていったら絶対に上がっていくわけじゃないですか。
みんなが同意できる言葉ほど曖昧
「孫にお小遣いを渡せない生活は困る」と考える人もいれば、それは「できればしたい」ラインで困るとは違う、と考える人もいます。
つまり同じ「お金に困る」でも、突き詰めれば人によって中身は違います。
それでもお茶飲み話で「老後にお金に困りたくないよね」と言えば、その場では全員が同意できてしまいます。突き詰めないからです。
井上さんは、みんなが同意できる言葉ほど曖昧なラインなのだと整理します。
曖昧にしてるからみんなが同意できるわけじゃないですか。
条件を細かくつけていくほど、同意できる人は減っていきます。
「お金に困りたくない」という緩い条件一つなら多くの人が同意しますが、条件を三つ四つと足すと、同意できない人が出てくるという理屈です。
動かないゴールは「内側」から設計する
では、動かないゴールポストとはどう設計するのでしょうか。
井上さんは、内的なゴールを設計することだと話します。金額ではなく、ライフスタイルに基準を置く考え方です。
「自分はこういう生活で十分」と定義できていれば、お金に困ることはないというラインを感じやすく、ゴールも動きにくいと言います。
一方で、他者比較がゴールに入っている人ほど、ゴールは動くどころか大きくなっていくと指摘します。
みんながこれ使ってるって聞いても、自分のライフスタイル的にはそれあんまりいらんからな、便利とは聞くけど、みたいな感覚の人の方が、多分ゴールポストは動きにくいですよね。
参照点を内側に置くには、内省的な作業が求められます。
他者比較や平均を基準にするため、周囲が上がるとゴールも動く
自分の幸福や不幸を言語化した基準のため、動きにくい
なぜそのライフスタイルがいいのか、どんな時に不幸や幸福を感じるのか。そうした言語化ができている人ほど、「もう十分」という感覚を持ちやすいと話されています。
不確実だから、金額の目標は動く
ここで井上さんは、ケネス・ロゴフの著書『ケネス・ロゴフ ── ハーバード大学の経済学者。『国家は破綻する』などの著作で知られ、金融や財政の歴史を分析してきた研究者です。ドル覇権が終わる時』を読んでいる話に触れます。
この本では、ボルカー ── ポール・ボルカー。1980年代にアメリカの金融政策を主導し、高インフレの抑制に取り組んだ中央銀行トップとして知られます。ボルカーによるインフレ退治の後、低インフレの時代が長く続いたことが語られていると言います。
その結果、多くの有名な論者が「もうインフレは起きない」と語っていました。しかし、それは間違いだったと後にわかります。
ずっと続いたことはそれが当たり前だと思ってしまうところがある。
井上さんは、これは投資の世界とも似ていると考えます。相場が好調だと、相場が不確実であることを人は忘れてしまう、というわけです。
長く続くと一生続くと思い込んでしまうのは、人間が長い記憶を保持しにくい生き物だからだと話されています。
だからこそ、金額ベースの目標も不確実性のなかで達成できないことがある、と指摘します。
外から与えられた目標は動く
井上さんは、自分の過去の目標設定も振り返ります。
ナポレオン・ヒルの本を読み、目標をトイレの壁に貼って毎朝読んでいた時期があったと言います。
そのとき書いたのは年収でした。年収はわかりやすく、しかも「相場より稼げるようになりたい」という相対的な基準で決めがちだと話されています。
相対的なものを選ぶのは自然なことですが、それを選ぶとゴールポストは動いてしまいます。
いわゆる純富裕層のような資産の区分も、外から与えられた目標です。インフレで基準が上がれば、目標そのものが向こうに取り上げられてしまう、と例えます。
もうダメです、インフレになったんで、純富裕層は五千万からですって言われたら、目標、向こうの方に取り上げられてしまうわけですから。
だから動かない目標を考えるなら、外から始まる設計ではなく、内から始まる設計になる、というのが井上さんの見立てです。
ゴールを設定するときは、その起点がどこなのかを見ておくとよい、と提案されています。
まとめ
「ゴールポストを動かすな」という格言はもっともですが、そもそも参照点が他者比較や相対的な基準にあると、意思だけではゴールは動いてしまいます。動かない目標を持ちたいなら、その起点が外にあるのか内にあるのかを点検する価値がある、という回でした。
- 「ゴールポストを動かすな」は、動かないゴールを設定できていないと実行できない
- 「お金に困る」の定義は人によって違い、絶対的貧困・相対的貧困・望む生活などラインが分かれる
- みんなが同意できる言葉ほど、条件が曖昧なぶん基準が動きやすい
- 他者比較や年収など外側の参照点はゴールが動きやすく、大きくもなりやすい
- 動かない目標を持つには、自分の幸福や十分さを言語化した内側の参照点が必要になる




