現物と乾物、何が違うの?
今回のテーマは、研修生さんが最近興味を持っているという牛の餌、飼料設計です。まず出てきたのが「現物」と「乾物」の違いでした。
川上さんの説明はシンプルです。みずみずしいキャベツのような状態が現物で、水分をカラカラに飛ばしたものが乾物、というイメージです。
現物はキャベツです。水分をめちゃめちゃ取った、カピカピに乾いたやつが乾物です。
なぜ計算のときは乾物で考えるのでしょうか。理由は、餌の材料ごとに水分量がバラバラだからです。
木でさえ水分を含んでいるように、あらゆるものに水分が入っています。その水分をいちいち足していくと計算が難しくなるので、水分を全部除いた残りだけで話をするのが飼料設計なんですね。
水分があるから、栄養素もぎゅっと凝縮されるわけですよね。だから濃くなるわけです。
たとえばサイレージを10キロ与えても、半分は水分。乾物にすると5キロぶんとして計算する、というわけです。
600キロの牛は、どれだけ食べられる?
次に出てきたのが「乾物摂取量」という言葉です。牛が1日にどれだけ乾物を食べられるか、という量のことですね。
体重600〜700キロの牛なら、乾物でだいたい20〜23キロ、多いと26キロほど食べられるそうです。
ここで川上さんが出したのが、具体的な計算問題でした。600キロの牛が乾物20キロ食べられるとして、内訳を考えてみます。
牧草
乾物で5キロ
配合飼料
乾物で10キロ
残り
乾物であと5キロぶん
サイレージ
乾物5キロ=現物では10キロ
研修生さんも一緒に頭をひねりながら、サイレージは半分が水分だから現物では10キロになる、と計算していきます。
難しい。
さらに酒かすのように水分が7〜8割もある餌もあり、成分は飼料やタイミングによって変わります。だからこそ「一概には言えない」むずかしさがあるんですね。
餌を「追加していく」か「食べきるまで待つ」か
乾物摂取量の話は、餌のやり方の違いにもつながっていきます。
川上牧場では、時間になったら餌をどんどん追加していくスタイルです。ただ、酒かすのような好きな餌ばかり食べて、他を残すこともあるといいます。
酒かすはめっちゃ食ってるの見えたでしょ?だから他のものを残すわけですよ。まずいやつとか餌が嫌いなやつは残していく。
一方で、牛舎のタイプによっては「分離給与」といって、1つずつ餌を出し、食べきるまで待つ牧場もあります。
川上さんが酪農ヘルパーで訪れたおじいちゃんの牧場では、餌をやって3時間ほど休憩し、きれいに食べてから次の作業に移っていたそうです。
10頭ぐらいのところで4〜5時間ぐらいかける牛舎とかもあったりする。
搾乳の時間がバラバラになるのでは、という研修生さんの問いに、川上さんはこう返します。
おじいちゃんは毎日それで楽しんでやってるからいいんじゃない?
飼料設計は誰が考えている?
各牧場で餌の設計が違うなら、それを専門に考える人はいるのでしょうか。研修生さんの素朴な疑問です。
栄養士みたいに、飼料設計を専門的に考えて各牧場に行く人はいるんですか?
研修生 さんからの質問
餌屋さんに栄養学を学んだ専門の獣医さんがいて、その人が飼料設計を担当することが多いそうです。牧場側はそれをもとに、牛の反応を見ながら工夫していきます。
これはすごいいい餌だよって言っても食べなきゃ意味がないので。食べさせる努力と技術は酪農家の方があるので。
おもしろいのは、理論通りの「完璧な飼料設計」が必ずしも正解ではない、という点です。
カロリーやタンパクが高すぎる設計でも、牛が痛まず事故もなく、酪農家に利益が出ているなら、それでいいんですと川上さんは言い切ります。
人間でも不摂生な生活してるのに、痩せてすごい健康的な人とかいるじゃないですか。あんな感じ。
ただし、出産がうまくいかないなど事故が増えたとき、原因がわからなくなります。どこから直せばいいか迷わないためにも、飼料設計はしておいた方がいい、という話でした。
努力しても「混ざる」牛乳。それでもやる意味は?
ここで話題は、研修生さんのお母さんの疑問へと移ります。川上さんがどれだけ丁寧に育てても、集乳された牛乳は他の牧場のものと混ざってしまう、という点です。
どんなに川上牧場の牛乳が優れていても、混ざったら評価されないよね、すごいよねって母が言っていて。
川上さんは、自分の牛乳の品質が悪くなる時期もあると正直に話します。24時間365日努力していても、調子が落ちることはあるんですね。
悪い時に他の酪農家が助けてくれてる部分もあるので、それはもうお互い様だし、そういう業界だと思ってるんで。
乳脂肪が高くても、独自に販売するにはリスクが高く、安定供給できるだけの乳量もまだない。だからこそ「持ちつ持たれつ」なのだと語ります。
ちなみに乳脂肪の高さについても、川上さんは奥深い話をしてくれました。脂肪が牧草由来か、牛の体由来かで牛乳の味が変わるといいます。
親父さんのやり方は牛を太らせる。体脂肪が血液に出て乳脂肪に変わるので脂肪は高いんだけど、その脂肪が何由来なのかで違うんだよね。
1000頭牧場と、海外への輸出という夢
集乳の仕組みの話から、川上さんの大きな構想も見えてきます。
目指しているのは、海外と同じレベルの1000頭規模の牧場。さらにオーナー制で第2、第3の牧場を作り、1万頭規模まで広げたいと語ります。
1000頭やって、それの牧場をこれからやりたい人ができるようにさせて、オーナー制みたいな感じにして。
そしてもう1つ、船を1隻使って西日本から東南アジアなどへ牛乳を輸出したい、という構想もあります。
北海道から西日本へは牛乳の輸送距離が遠すぎて1日で届かない一方、島根からなら海外の方が近いこともある。川上さんは、島根県にはその潜在能力があると考えているそうです。
北海道から牛乳が送れないんですよ、1日で。国際問題とかいろいろあるので難しいですけど、それぐらいやりたいよねって思ってます。
小さく生まれた子牛を、どうするか
配信の終盤、川上さんが「もう1つだけ」と切り出したのは、命の話でした。予定より1カ月早く生まれた小さな子牛のことです。
やっと立って自分でミルクを飲めるようになったものの、他の牛に負けるのは目に見えている。餌の時間にいじめられる姿を、研修生さんも実際に見ていました。
あの状態でずっと生き続けるのと、あの場で立たずに殺処分と、どっちが幸せだと思いますか?
採算は取れず、大きくならないため出荷しても二束三文。それでも川上さんは、この子を生かすと決めています。
酪農をしている以上、こういう牛が出てきても自分が負担して育てて、なんとかお肉にしていく考えがあるからやる。
ただし、これは経営判断としては「間違っているかもしれない」とも言います。従業員を雇い、雇用を守る立場なら、別の判断もありうるからです。
何に重きを置くかですよね。正解はないですよね。
育てないと決めた場合はどうするのか。研修生さんの問いに、川上さんは淡々と答えます。放置して死んだ牛には死亡保険があるといいます。
一方で、この小さな子牛は乳牛ではなく、お肉用の交雑種でした。もし乳牛だったら判断は変わっていた、とも話しています。
ミルク(乳牛)だったら僕は殺してましたね、多分。ずっとうちにいないといけないから。
「経済動物にきっぱり」というより、少しだけ愛のほうに寄っている。研修生さんは川上さんの姿勢をそう表現していました。
川上さんは本当に「人に興味がない」のか
話の流れで、川上さんが自分について語る場面もありました。牛の血統にしか興味がなく、名前より番号や血統で牛を覚えるといいます。
その牛の血統にしかあんまり興味がない。番号わからないやつは、種の名前が入ってると、あ、こいつだってわかる。
さらに「人の感情がわからない」「人に興味がない」とまで言う川上さん。けれど研修生さんは、そんなことはないと思うと返します。
でもそんなことないと思いますよ。
飼料設計の学び方についても、最後にはっきりした答えがありました。本を読んで実際にやるしかない、経験がすべてだ、という一貫した姿勢です。
本を読んで使えるようになった気になってるやつは信用できません。
だからこそ、名前をつけた子牛にどんな餌をやろうかシミュレーションするところから楽しむといい、というアドバイスで締めくくられました。
まとめ
飼料設計の基本から牛乳の流通、そして小さな子牛の命の選択まで。研修生さんの素朴な疑問を入り口に、酪農家が日々向き合う判断のリアルが見えてくる回でした。
- 飼料設計では水分を除いた「乾物」で計算する。サイレージは半分が水分と考える
- 600キロほどの牛の乾物摂取量はだいたい20〜26キロが目安
- 理論通りの飼料設計より、牛が健康で利益が出ているかが実際の判断軸になる
- 努力しても集乳で牛乳は混ざるが、川上さんは「お互い様」の業界だと捉えている
- 小さく生まれた子牛を生かすかどうか、正解のない経営判断に酪農の現実が表れる




