後継者不足の質問に、川上さんが返したのは
今回のお便りコーナーに届いたのは、YouTubeからのこんな質問でした。
後継者不足が深刻だと聞きますが、現状と対策について考えてください
定期的によく来る質問だと川上さんは言います。ただ、この日の答えは少し切り口が違いました。
前提として、日本は人口が減っていて、牛乳の消費量も年々減っていくのは確実だと話します。だからこそ、今ある牧場すべてに後継者が必要なわけではないのでは、というのが川上さんの見方です。
むしろ無理に後継者を作って増産すると、供給が過多になって牛乳が余ってしまう。コロナ禍のときのような状況になれば、後を継いだ人がさらに厳しい経営を背負うことになります。
家族経営のその先にある、経営スタイルの選択肢
今の農業は家族経営が多いですが、それを法人経営にしていくのか、それとも別のかたちにしていくのか。川上さんはいくつかの選択肢を挙げます。
たとえば海外にあるような、地域で農場を持って支えていくやり方です。
いろいろな経営スタイルでやっていけるよ、という状況を日本でも作っていかなければいけない。後継者の有無より、経営のかたちそのものを増やすという発想です。
後継者より深刻な「酪農を支える人」の不足
川上さんが一番深刻だと考えているのは、農業をやりたくてもできない状況になっている担い手不足のほうでした。牧場の外側で酪農を支える人たちが、どんどん減っているのです。
具体的にどんな役割が足りていないのか、川上さんが挙げたものを並べてみます。
- 牛の餌を運ぶ物流業者
- 牛乳を運ぶ集乳車の運転手
- 牛を診る獣医
- 人工授精(AI)で種付けをする人
- 作業機の修理やメンテナンスの業者
酪農はとても裾野が広い産業だと川上さんは言います。だからこそ、牧場そのものより先に、酪農を支える産業の担い手不足を解消しないといけない、という危機感でした。
隙間バイトから始める、新しい関わり方
では、どうすればいいのか。川上さんは、先日タイミーという隙間バイトの会社と一緒にセミナーに登壇したときの話を紹介します。
そのセミナーで印象的だったのは、一次産業で働いてみたい人はまだまだいる、という話でした。
今の現状で働きたいんだけど、全部働く場所がないから断っているような状況だっていうのをお話ししておりまして
つまり、受け皿がないだけ。だから川上さんは、農家で隙間バイトを受け入れる人が増えてほしいと呼びかけます。
この配信を聴いている農家さんへ、タイミーから始めるのが簡単だとすすめつつ、JAが進めているデイワークでもいいと言い添えます。短時間でもちょっと体験してみたい人が、近所で手軽に関われる場所が増えてほしい、という願いです。
公務員やJA職員の副業が、古い農業を変える?
担い手を増やす動きとして、川上さんは国で話し合われている公務員の副業解禁にも触れます。
農業関連の公務員は意外と多く、技術普及員や農業支援に関わる人がいます。ただ、現場に出られないことが多いのが実情です。
そうした人が副業で現場仕事を経験し、それを本業に生かせれば、農業の古い考えや「もっとこうしたほうがいいのでは」という改革が進むのではないか、と川上さんは考えます。
同時に、JA職員がデイワークで副業してもいい、という地域も出てきているそうです。短時間でも手伝ってくれる人が増えれば、担い手不足の解消につながる新しい働き方になっていく、と話します。
若い人が入ってこられない、古い文化の話
担い手不足が根本的に大事だとしつつ、川上さんはもう一つの壁を指摘します。それは、若い人が入ってこられる環境が、まだ酪農業界に整っていないことです。
「俺たちはこうやってきたから、お前たちもこうやれ」という空気や、男じゃないといけない、家族が農業をやるものだ、といった昔ながらの文化がまだ残っていると言います。
こうした考えを、川上さんはぶっ壊していきたいと語ります。時代やニーズが変わっているのに、仕組みが古いままでは、誰も入ってこられず、入っても続けられません。
合理化や機械化、働き方の柔軟化を進めて、続けやすく、未経験の人も関わりやすい仕事にしていく。それが世代交代の中身なのだ、というまとめでした。
現場から届いた「技術が継承されない」という声
配信の後半、川上さんはコメント欄に届いたリアルな声を読み上げます。ある人の上司が今月末で辞めるものの、機械に乗る機会がなく技術が継承されない、という話でした。
農業ではオペレーター、つまり機械に乗る人の技術がとても重要です。ところが法人化・会社化が進むと、勤務時間内に作業を終わらせる必要が出てきます。
作業効率、作業の機械の乗りが上手な人が乗っちゃうので、若手が乗れないみたいなね
さらに、若手にようやく乗せて覚えてきたと思ったら辞めてしまう、という悪循環も起きているそうです。
別のコメントでは、できる人を優先して初心者を教育しないのに、規模だけ拡大しているという指摘もありました。川上さんは「現場の声、届いてます」と受け止めます。
ただ、それも仕方ない面があると川上さんは言います。会社として続けるには生産量を上げる必要があり、天気が続く限られた期間内に仕事を終わらせなければいけないからです。
機械化すれば今度は償却の期間があり、早く借金を返そうと規模を拡大する。止まれないいたちごっこになっている、と川上さんは現場の実感を語りました。
まとめ
「後継者がいない」という問いに、川上さんは「本当に必要なのは後継者ではなく、酪農を支える人の裾野かもしれない」という視点で答えました。世代交代のかたちも、働き方の入り口も、これから変えていける余地があるという回でした。
- 人口も牛乳消費も減る中、全牧場に後継者が必要なわけではなく、大事なのは世代交代のかたち
- 物流・集乳・獣医・人工授精・機械修理など、酪農を支える裾野の担い手不足が深刻
- タイミーやJAのデイワークなど、隙間バイトから農業に関わる入り口を増やしたい
- 公務員やJA職員の副業解禁が、古い農業を変えるきっかけになる可能性
- 技術が継承されず、規模拡大が止まらない「いたちごっこ」という現場のリアルな声



