気温差はやめて。今日の牧場と新しい餌の話
配信はいつものように、島根県出雲市の小さな牧場からのあいさつで始まります。日付は5月22日の木曜日、天気は曇りときどき雨でした。
川上さんが真っ先にぼやいたのが、気温差のことです。前日の最高気温が30度だったのに、この日は20度。湿度も高く、牛の体調が心配だと話します。
気温差だけはやめてくれって言ってるじゃないですか。湿度も高いし、うちの牛がおかしくなっちゃう。本当に勘弁してください。
この日の仕事は、近くの畜産試験場から来る予定だった牛が来なくなり、時間が空いたので堆肥を混ぜる作業などにあてる予定だとか。
最近は新しく入れた餌の調子がいいそうです。もやしサイレージと酒粕を牛がよく食べてくれて、乳量もぐっと上がっているので、自動餌やり機の飼料設計を調整しようかなと話していました。
今日のお便り。「引退した家畜を愛玩に」は、どう思う?
お便りのコーナーでは、各SNSや配信アプリに届いたコメントに答えていきます。この日の質問は、AWA(アワ)というアプリの人気配信者・山さんから届きました。
猫カフェ、爬虫類カフェ、犬カフェなどありますが、引退した家畜を愛玩として活用するサービスはどう思いますか?
最近はフクロウカフェのような、動物と触れ合える場所がどんどん増えています。川上さんはフクロウ好きが高じて、島根県のマツエフォーゲルパークをおすすめしていました。
フクロウカフェ行きてぇって思った人は、島根県のマツエフォーゲルパーク、マジでおすすめですよ。あそこ大好きです。
家畜と愛玩動物。役割の「線引き」が緩くなってきた
質問への答えとして、川上さんはまず「家畜」と「愛玩動物」の役割の違いを整理します。牛は牛乳や和牛など、家畜として飼われている動物です。
一方で犬や猫、爬虫類などのペットは愛玩動物と呼ばれ、人間との関わり方がそもそも違うといいます。
牛乳やお肉、フンからできた堆肥など、人間の暮らしを豊かにする。人間にどれだけ役に立つかが価値になる
人間の心や精神に、家族のような癒しを与えてくれる存在
ただ、その線引きが今の令和の時代には緩くなってきているのでは、と川上さんは感じています。食料がコンビニやスーパーで当たり前に買える平和な世の中になったことが背景にあるようです。
牛を抱きしめる文化。海外の「カウカドリング」
引退した牛を牛カフェのように活用することについて、川上さんは日本ではあまりないものの、海外では昔からあると紹介します。
アメリカやヨーロッパでは、牛を抱きしめたり寄り添ったりする「カウカドリング」というセラピーがあり、ストレスの軽減や精神の安定に効果があるとされています。
さらにオランダには「クヌッフレン」という、牛を抱くという意味の独自の単語があるそうです。これは配信内で引用元がナゾロジーだと断りつつ紹介されたものです。
日本の猫吸いに比べて、長い伝統があると知られていますね。オランダではクヌッフレンっていう言葉があるそうです。牛を抱くという意味ですね。
自閉症と牛。テンプル・グランディンさんの視点
川上さんが牛舎の構造やアニマルウェルフェアで参考にしているのが、テンプル・グランディンさんという人物です。
グランディンさんは自閉症を持ちながら、動物の気持ちがわかるといい、アメリカの屠畜場の半数以上の設計に携わってきました。
この方も、役目を終えた牛と触れ合うことで自閉症の症状がやわらぐといった内容を、書籍の中で語っているそうです。
日本でも増える「老牛ホーム」という新しい形
日本でも海外の流れを受けて、引退した牛を活かす取り組みが少しずつ増えています。川上さんは具体的な例をいくつも挙げていきました。
島根県では、引退した牛を引き取り、クラウドファンディングで支援者を募る「老牛ホーム」という形が生まれています。役目を終えた牛たちを見てもらう、新しいスタイルです。
北海道では、酪農従業員の若い方がクラウドファンディングで資金を集め、産業動物としては価値のないとされるフリーマーチンの牛を引き取って、InstagramなどのSNSで注目を集めながら飼っている例もあるそうです。
経済動物としての本音と、揺れる気持ち
個人的な意見として、川上さんは「牛は経済動物だ」という認識で飼っているといいます。なるべくお肉や牛乳の生産をして、人の役に立てるようにするのが大事だという立場です。
ただ、その考え方を自分で「老害」だとも言い添えます。消費者も生産者も考えが変わってきていて、認識も変わってきているのでは、と揺れています。
いちばんの不安は「家畜伝染病」
一方で、川上さんが本気で怖いと語るのが家畜伝染病です。外国人にも人気のマイクロブタやアルパカの触れ合いカフェが増えるなかで、この点だけは強く心配しています。
理由は、こうした施設では伝染病の封じ込めが難しいからだといいます。
あそこから家畜伝染病が出た時に、封じ込めれないんですよ。
普通の農家であれば、届出伝染病が出た時に最寄りの家畜保健所や家畜診療所に報告し、早期発見・早期封じ込めができます。ですが触れ合い施設はそうした管轄ではないため、出た時に莫大な被害が出てしまうのでは、と危惧します。
だからこそ、線引きはしっかりしてほしい。でも世の中はそれを求めているのか、いないのか。川上さんは「複雑なところ」と正直に話していました。
バターの話から見えた、日本の牛乳の「均一さ」
後半では、noteに届いたコメントも紹介されました。「バターはどう作られる?歴史と製造方法を徹底解説」という記事へのコメントです。
バターは全て同じでしょと思っていましたが、違うんですね。
これに対して川上さんは、牛乳も乳製品も本来は産地ごとにいろんな特色があるものだと応じます。
ただ日本では、生産量が少ないなかで小さな農家が生き残るため、みんなで牛乳を出荷して大手メーカーに売る協同組合の仕組みが歴史的に発達しました。その結果、特色が薄れてしまったといいます。
背景
生産量が少なく、小さな農家が多かった
仕組み
協同組合でみんなの牛乳を集めて大手メーカーに出荷し、売る力をつけた
結果
いつでもどこでも同じような品質・味の牛乳や乳製品が並ぶようになった
それでも各メーカーや6次産業化した農家が違いを出しているので、その差を感じて食を豊かにしてほしい、と川上さんは呼びかけていました。
子牛は人気、親牛は……。切なさと、希望
コメントを見ながらの雑談では、老牛ホームの経営が傾いているという話も出ました。
川上さんが切なそうに語ったのが、動物の「人気の移り変わり」です。
子牛の時は人気だけど、親牛になると人気じゃなくなっていく感じを見ていて切なくなりますね。もうペットもそうじゃないですか。子犬子猫の時は可愛いけど、大きくなったら要らなくなるみたいな。
それでも川上さんは、前向きな可能性にも触れます。引退した牛に「100万円出す」という人が実際にいて、そうなると牛乳やお肉よりも経済が動くこともある、と。
最後に川上さんは、不安だった家畜伝染病についても解決の道筋を示します。届出がすぐに家畜保健所や診療所へ届くシステムが整い、触れ合いの際に防疫対策をきちんとすれば、心配は減らせるという考えです。
- 家畜保健所や診療所へすぐ連絡が行くシステムを整える
- 来場時に防護服を着る
- 手と指を洗い、靴底を消毒する
- ゴム手袋をつけて撫でる
うまいことここら辺がこうなってくれればいいと話し、経済動物としての立場を大切にしながらも、新しい形の可能性に期待を寄せて締めくくりました。
まとめ
引退した牛を愛玩やセラピーに使う「牛カフェ」について、川上さんは経済動物としての本音と、海外で広がる牛の癒しの文化のあいだで揺れながら、正直に考えを語りました。いちばんの懸念は家畜伝染病ですが、仕組みと防疫を整えれば道はあるという前向きな着地です。
- 家畜は「役に立つ価値」、愛玩動物は「癒しの価値」。ただ、その線引きは令和の今、緩くなってきている
- 海外にはカウカドリングやオランダの「クヌッフレン」など、牛と触れ合う文化やセラピーが昔から存在する
- 日本でも老牛ホームやSNSでの支援など、引退した牛を活かす新しい形が少しずつ増えている
- 最大の不安は家畜伝染病。届出システムと防疫対策が整えば解決できる、というのが川上さんの見立て
- 日本の牛乳が均一なのは協同組合の歴史ゆえ。それでも各メーカーや6次産業化農家の違いを楽しんでほしい




