人間ドック前の金曜日、今日のテーマは搾乳方式
10月23日金曜日の配信で、川上さんはまず出雲市の天気と、月曜日ごろに近づきそうな台風への心配を話します。この日は毎年恒例の人間ドックの予定があり、11時までに牧場の仕事を片づけてから向かうそうです。
胃カメラやだ、あとバリウムやだなって思ってます。
そのうえで川上さんは、この日の配信でリスナーの質問に答えると予告します。川上牧場は「つなぎ牛舎」で、人がミルカーという搾乳機を牛のところへ持って行って搾るスタイルです。一方で、牛のほうが搾乳室にやって来る牧場もあり、搾乳のやり方は牧場によってさまざまだと話します。
乾杯の前には、年末に向けて酪農業界が生乳廃棄を避けようとしている状況にも触れます。川上さんは、牛乳だけでなくチーズやヨーグルトなどの乳製品も一緒に食べてほしいとリスナーに呼びかけました。
牛乳で乾杯した川上さんは、前日の懇親会でお酒を飲みすぎたそうで、「牛乳が沁みる」とひとこと。40を超えると飲み会がだるくなると言いつつも、若手の農家さんも来ていて楽しい会だったと振り返っています。
「全部パイプライン方式」発言から生まれた質問
お便りコーナーで読まれたのは、配信アプリSPOONから届いた関心さんの質問です。
搾乳方式がパイプライン方式と言われていましたが、他にどのような搾乳方法があるのですか?
この質問には前段があります。川上さんがTikTokやInstagramのライブ配信をしていたとき、酪農を学ぶ学生から「搾乳方式はパイプライン方式ですか?」と聞かれました。川上さんは、つなぎ牛舎でもパーラーでもロボットでもパイプラインは通っているので「全部パイプライン方式ですよ」と答えたそうです。
そのやり取りを聞いた関心さんが、ほかの方式について疑問を持ったという流れです。川上さんは、スーパーでは同じ紙パックに並ぶ牛乳でも、牧場での搾り方はかなり違うと話します。
牛のところまでですね、人間が歩いて行って乳搾りする牧場だったり、牛が搾乳室まで歩いてくる牧場だったり。
回転する台に牛が乗るロータリーパーラーや、牛が好きなタイミングで入る搾乳ロボットまである、と川上さんは紹介します。この回では、パイプライン方式を出発点に、搾乳方法の進化と「一番新しい設備が一番いいのか」まで考えていきます。
パイプライン方式とは結局なにか
川上さんはまず、農林水産省の資料をもとにパイプライン方式を説明します。つなぎ飼いの牛舎に設置したパイプラインで、搾った生乳をバルククーラー ── 牧場で搾った生乳を冷やして一時保存する大型の冷却タンク。集乳車が来るまで低温で品質を保ちますまで自動で送る仕組みです。
パイプライン方式では、牛はいつもの自分の場所にいます。人が搾乳ユニットを持って牛のところへ歩いて行き、乳頭を綺麗にして前搾りをし、ミルカーをつけます。搾った牛乳はバケツで運ぶのではなく、牛舎内のパイプを通ってタンクへ流れていきます。
つまり牛は動かない、人間と搾乳機が牛のところへ行くというところですね。これが大きな特徴です。
ただし川上さんは、パイプラインという言葉は搾乳方式そのものを意味しないと補足します。日本の現場では「つなぎ飼い牛舎のパイプラインミルカー」を指すことが多いものの、牛乳をパイプでタンクへ運ぶ仕組み自体はパーラーにもロボットにもあります。
つまり「牛をどう並べ、誰がどこへ移動して搾るか」と「搾った牛乳をどうタンクへ送るか」は別の話です。そこでこの回では、搾乳方式を牛と人の動きで分類していきます。
手搾りからバケットミルカーへ、人が運ぶ仕事が減った歴史
最初は手搾りです。人が牛の横に座り、乳頭を手で搾ってバケツに受ける方式で、設備が整っていない国ではまだ使われていると川上さんは話します。ただ、大量の牛を毎日搾る今の商業的な酪農では現実的ではありません。
農水省の九州酪農の歴史資料では、手搾りから昭和30年代にバケットミルカー、昭和40年代からパイプラインミルカー、その後ミルキングパーラー、搾乳ロボットへと設備が進化してきたと紹介されています。
川上さんはこの流れを、人間が牛乳を運ぶ仕事を少しずつ機械へ渡してきた歴史とも言えると表現します。
バケットミルカーは、搾るところまでは機械がやるものの、牛乳はいったんバケットという容器に入るので、人が運ぶ必要があります。パイプラインミルカーになると牛乳は直接パイプで処理室へ送られ、運ぶ仕事がなくなりました。
とはいえ、バケットミルカーは今も現役です。治療で抗生物質を使った牛の牛乳を、出荷する牛乳に混ぜないよう別に搾るときに使われていると川上さんは話しています。
パイプライン方式の強みと、頭数が増えたときの限界
パイプライン方式のよさは、既存のつなぎ飼い牛舎と相性がいいことです。牛を一頭ずつ自分の場所で管理し、そのまま搾れるので、搾乳のために牛を移動させなくて済みます。
酪農家が一頭ずつ近くで見るので、乳房や足、食べ方、糞の状態、体調の変化に気づきやすい面もあります。一頭ずつ管理する牧場では、今も十分に使われている仕組みです。
一方で、パイプライン方式には大きな弱点もあります。牛が動かないということは、人が動き続けるということ。搾乳ユニットを持って牛から牛へ歩き、牛の横で低い姿勢になってミルカーをつける作業を何十頭も繰り返します。
川上牧場がだいたい40頭ぐらいなので、40頭を朝と夕方絞るとね、80回近く牛のところに行くことになります。
頭数が増えるほど、「牛を動かさずに人が移動する」という仕組みそのものが効率の限界になる、と川上さんは説明します。
発想を逆転したミルキングパーラーと3つの並べ方
そこで登場するのがミルキングパーラーです。人が牛のところへ行くのではなく、牛に搾乳場所へ来てもらうという逆転の発想です。牛は普段フリーストールなどの牛舎で自由に歩き、搾乳時間になるとまとめて搾乳専用の部屋へ連れて行かれます。
パーラーでは、人は基本的に同じ場所にいて、そこへ牛が次々やって来ます。人が歩く距離を減らし、牛を流すという考え方です。パーラーにも牛の並べ方によっていくつか種類があります。
| 種類 | 牛の並び方 | 特徴 |
|---|---|---|
| ヘリンボーン | 作業者に対して斜め | 構造が比較的簡単で面積も小さめ。小規模でも使いやすい |
| パラレル | ほぼ90度で横一列 | 牛の間隔が狭く移動距離が短い。後ろ足の間から装着 |
| タンデム | 縦に一頭ずつ | 一頭ずつ出し入れでき、観察や個別処置に向く |
ヘリンボーンは「魚の骨のような形」という意味で、人から見ると牛が魚の骨のように斜めに並ぶことから名前がついています。牛のお尻や乳房へ横からアクセスしやすい方式です。
パラレルパーラーは、頭数が増えて1時間あたりにたくさん搾りたい牧場で、人が歩かずに済む配置として効いてくると川上さんは話します。
タンデムパーラーの面白いところは、一頭だけ搾乳が早く終わったらその牛だけ出して次の牛を入れられる点です。ほかの牛が終わるまで全員が待つ必要はありません。ただ、大量の牛を一気に流すという意味では、パラレルやロータリーとは考え方が違います。
メリーゴーランドのようなロータリーパーラーは最強?
一番インパクトがあるのがロータリーパーラーです。川上さんは「YouTubeでぜひ見てもらいたい」と言い、メリーゴーランドのような搾乳施設だと紹介します。
ロータリーパーラーでは、大きな円盤がゆっくり回り、牛が一頭ずつ乗って搾乳ユニットをつけられます。一周する頃には搾乳が終わって牛が降り、次の牛が乗る。これをずっと繰り返します。作業者が長い距離を歩かなくていいのが大きな特徴で、大きな牛群を短時間で搾る処理能力は非常に高いそうです。
ロータリーパーラーを動画で見ると、これ最強じゃんとかって思っちゃいますけども。
ただ、ロータリーパーラーは設備費も建築費も大きくかかります。待機場、牛の通路、牛乳処理施設まで、大量の牛を流せる牛舎設計を全部セットで考える必要があります。農水省も、設備が大型で建設費が高いとしています。
そのため、80頭の牧場と1000頭の牧場で同じ設備が最適になるわけではない、と川上さんは強調します。
搾乳ロボットは「搾る機械」より「データを集める装置」
最先端が、AMS(オートマチックミルキングシステム)、いわゆる搾乳ロボットです。これまでの方式は「朝5時から、夕方4時から」と人間が搾乳時間を決めていました。搾乳ロボットでは、牛が自分からロボットへ行きます。
個体識別
やって来た牛が誰かを見分け、搾乳してよいか判断する
洗浄
乳頭を洗浄する
位置確認と装着
カメラやセンサーで乳頭の位置を確かめ、アームがカップをつける
搾乳と取り外し
搾乳し、終わったらカップを外す
さらに搾乳ロボットは、4本の乳頭を一つずつ扱えるのが面白いところだと川上さんは話します。従来の装置では4本の乳頭につけるユニットをまとめて管理することが多いのに対し、ロボットは流れが少なくなった乳頭のカップだけを外せます。
つまり、搾乳ロボットは搾る機械というより、毎日牛からデータを集める装置、そうやって考えてもらってもいいんじゃないかなと思います。
乳量や搾乳データを、個体ごとや乳房の区画ごとに取れるシステムもあるそうです。
ロボットなら人はいらない?変わるのは仕事の種類
「ロボットなら人間はいらないのか」という疑問に、川上さんは「全然そんなことはありません」と答えます。ここはものすごく誤解されやすいところだといいます。
搾乳ロボットの牧場にも残る仕事は、たとえば次のようなものです。
- 自分からロボットへ行かない牛(フェッチカウ)を連れて行く
- エラーやカップがつかないときの対応、夜中のアラーム対応
- 牛乳の品質確認、洗浄、メンテナンス
維持費や修理費、飼料管理、牛の訓練も重要だとされています。搾乳ロボットを入れても仕事がゼロになるわけではなく、仕事の種類が変わるということです。
川上さんは、手で搾る時代から、機械で搾り、パイプで運び、パーラーで牛を動かし、今は牛自身がロボットへ行く時代になったと振り返ります。酪農家の仕事は「自分で搾る」から「搾れる仕組みを管理する」へ変わってきていて、工場の自動化と結構似ているかもしれない、と話しています。
一番いい搾乳方式はどれ?答えは「牧場による」
「結局どれが一番いいの?」という問いへの川上さんの答えは、「牧場による」です。40頭、80頭、300頭、1000頭では条件がまったく違います。
つなぎ飼いかフリーストールか、家族経営か従業員を雇うか、これから頭数を増やすか、投資できる金額、近くに修理業者がいるか、そして経営者自身がどう働きたいか。こうした条件ですべてが変わってくるので、「最新だから一番」とは言えないといいます。
1000頭の牧場で成功した設備を80頭の牧場に持ってきても投資を回収できないかもしれず、逆に30頭で効率的だった仕組みを500頭でやれば人が疲弊するかもしれません。
搾乳設備は一度作れば何年、何十年と毎日使います。だからこの選択は経営そのものだ、と川上さんは話します。
設備費で払うか、人と体力で払うか
次に川上さんは、搾乳時間だけを比べてもダメだと指摘します。ロボットで搾乳時間が減っても、それだけで成功とは限りません。設備費、修理費、電気代、消耗品、牛を連れて行く時間、データを見る時間がかかるからです。
搾乳時間は減るが、設備費・修理費・電気代・消耗品などがかかる
設備投資は抑えられるかもしれないが、毎日人が歩き、腰を曲げて時間をかける
川上さんはこれを、設備費で払うのか、人と時間と体力で払うのかという見方で整理します。以前の配信で話した最低賃金ともつながる話で、人件費が上がれば、人がやっていた仕事を機械化する価値も上がると話しています。
搾乳設備が変えるのは牛の暮らしと牛舎の思想
もう一つ重要なのは、設備を変えると牛の暮らしまで変わることです。パイプライン方式なら牛は自分の場所で搾ってもらい、パーラーなら決まった時間にみんなで搾乳室へ移動し、搾乳ロボットなら自分で搾乳しに行きます。
搾乳ロボットの牛舎では、牛がロボット・餌場・休息場を自由に行き来できる「フリーフロー」や、ゲートで移動を誘導する「ガイデッドフロー」など、牛舎全体の動線まで設計します。搾乳機を一台変えるだけでは済まず、牛舎そのものの思想が変わるというわけです。
川上さんが「一番覚えて帰ってほしい」と話すのは、設備の名前ではなく、誰が動くかという視点です。
| 方式 | 人 | 牛 |
|---|---|---|
| パイプライン | 牛から牛へ移動する | 基本的にその場にいる |
| ミルキングパーラー | 搾乳場所にいる | 搾乳場所へやって来る |
| ロータリーパーラー | 搾乳場所にいる | 回転する台に乗って大量に流れる |
| 搾乳ロボット | 仕組みを管理する | 自分で搾乳機へ入っていく |
酪農の技術はずっと人と牛の動きをどう減らすかを考えて進化してきたんだと思います。
川上さんは、今度牧場の映像を見るときは、人がどこに立っているか、牛が誰のところへ動いているか、搾った牛乳がどこへ流れているかまで見てほしいと呼びかけます。同じ「牛乳を搾る」仕事でも、牧場によってまったく違う設計になっていることがわかるはずだ、と話しています。
元酪農ヘルパーが感じた「パーラーと体の相性」
川上さんは酪農ヘルパーをしていた経験から、バケットミルカー、パイプライン、タンデム、パラレル、ヘリンボーンのすべてで搾ったことがあるそうです。その中では、後ろから搾るパラレルが搾りやすいと感じているといいます。
まあこれ本当に作業動線でね、全然違うんですよね。
川上さんによれば、規模拡大のときに今までと同じ形のパーラーで頭数だけ増やし、作業効率がとても悪くなった牛舎もあったそうです。
また、旦那さんが餌やり、奥さんが搾乳という分担の牧場で、奥さんが育児や出産で離れたとき、パーラーの高さや動線が旦那さんの体に合わず搾りにくい、といったこともあるといいます。身長差だけでも搾り方が変わってしまうそうです。
何十年も使う設備だからこそ最適解は本当に難しい、と川上さんは語ります。そのうえで、頭数が少ないうちはつなぎ牛舎が本当にやりやすいとも話していました。最後はKindle本やFarmEcho AI、和牛交配チェックアプリの紹介をして、金曜日の配信を締めくくっています。
まとめ
搾乳方式は、手搾りからバケットミルカー、パイプライン、ミルキングパーラー、搾乳ロボットへと進化してきました。川上さんが一番伝えたかったのは、設備の新しさではなく「人と牛のどちらが動くか」という視点と、牧場ごとに合う方式は違うということです。
- パイプラインは牛乳をタンクへ送る仕組みで、パーラーやロボットにも通っている
- パイプライン方式は人が牛のところへ、パーラーは牛が人のところへ動く
- 搾乳ロボットは仕事をなくすのではなく、「搾る」から「仕組みを管理する」へ仕事を変える
- 一番いい搾乳方式は、頭数・建物・人・お金・将来計画で決まり、牧場によって違う

