なぜ搾乳前の休憩に「種牛評価成績の見方」なのか
この配信は、川上牧場の川上さんが搾乳前の休憩に、研修生の質問に答える会をそのまま録音したものです。研修生だけでなく、酪農に興味がある人や従事している人にも、川上さんの考える酪農を伝えたいという意図で続けられています。
今回のテーマは種雄牛評価成績、つまり種牛カタログの見方です。ジェネティックス北海道のカタログには成績の説明が書かれていますが、専門用語ばかりで初見ではほとんど意味が取れません。
書いてあるんですけど、やっぱ難しいじゃん。もう全く意味がわからん。
そこでこの回では、カタログの説明文を上から順にざっと追いながら、川上さんが噛み砕いて解説していきます。教材として使うのは、レッドスターキングピンサムETという種牛のページです。
ストロー番号から生産履歴まで。ページ上段の読み方
まずページ上段にあるのが、種牛の番号です。サムの場合はJP3H576000という番号で、これは牛群検定で使う種のコードと同じものです。
これ牛群検定とかの、その種のコードとイコール。
そうそうそう、一緒です。一緒です。
番号の頭のアルファベットは、どこの種かを表します。JP3Hがジェネティックス北海道、JP5Hが家畜改良事業団、JP4Hが十勝受精所の種です。海外産だとUSAなどの国コードが付き、国産種牛は国内番号として後ろの5桁の数字が振られます。
隣には英語表記の名前、耳の番号である個体識別番号、繁殖者、生産者、生年月日が並びます。サムの場合、繁殖者はアメリカのカントリーデイリー、生産者は北海道の赤塚冬樹さんです。
名前にETと付いているのは、この牛が受精卵から生まれたことを示します。アメリカの受精卵を日本に輸入し、北海道の赤塚さんのところで受胎・出産させた、という経緯が上段から読み取れます。
「サムください」で通じる理由。名前とアイコンの使い方
カタログでは正式名レッドスターキングピンサムETのうち、実際の注文では末尾のサムという呼び名で通じます。「キングピンの種ください」ではなく「サムの種ください」と言わないと伝わらない、という現場の話です。
キングピンの種くださいじゃなくて、サムの種くださいって言わないと伝わらないね。
同じ頭の名前を持つ種牛がいるため、頭ではなく末尾の固有の呼び名で指定するのが慣習になっています。数年前にはスーダンと頭に付く種が多く、「スーダンだけください」と末尾で区別していたそうです。
名前の周りには各社の「売り」を示すアイコンが並びます。ロボット推奨やA2A2ミルクといったマークがあり、その説明はカタログの最初の目次ページに載っています。
川上さんによると、数字の羅列や線形を細かく見るのは手間なので、アイコンでパッと判断できるのは便利だといいます。ロボット搾乳が普及したことで、ロボット推奨のアイコンが付き始めたのも最近の流れです。
分かりやすいですよね。ロボット搾乳に向いたやつが欲しいなと思ってて、アイコンついてなかったらね。
その、なんかちょっと違うかなっていう。
名前の下には性別精液の有無を示すマークもあります。ペラペラめくれば、判別精液があるやつとないやつがすぐ分かるようになっています。
本牛と母牛の写真で何を見るか
名前の下には、その牛の売り文句と一緒に、本牛と母牛の写真が並びます。写真から体型や脚の角度をイメージし、どういう牛なのかを掴む材料になります。
ジェネティックス北海道はカタログのQRコードからムービーも見られるため、種牛や娘牛の動く姿を確認できるのが利点だといいます。ただし歩様までは撮られていないことが多いようです。
研修生は、ロボットやフリーストールでは牛が歩けるかどうかが大事なので、そこを知りたいと話します。歩けないことが淘汰の直接の理由になるわけではないものの、ロボット飼育だからこそ気になる点だといいます。
歩けんくて言うわけじゃないけど、正直そこって、あの、重要性は低いし、それが理由で淘汰はしない。
でもなんかそういうロボットであるが故にそこは知りたい。
そう、死活問題なところもあるもんね。
研修生は、カタログの横向きの写真に違和感があったとも打ち明けます。日頃見ている牛は餌を食べて下を向いているのに対し、写真の牛は顔を上げて見栄えよく撮られているためです。
この、この角度がなんか牛っぽく見えないわけじゃないんですけど、この横姿ってなんか不思議っていうか。
川上さんは、写真は見やすいツルタイプをイメージして撮られたものだと説明します。それでも写真があれば、首の長さや体の幅、深さ、脚の角度、乳器の付着の強さなどを掴めるので、ありがたいと話します。
血統3代と泌乳曲線グラフから読めること
写真の次は血統構成です。上から父、父方の祖父母、母方の祖父母と、3代の掛け合わせが並びます。似た血統が重なると近交退化が起きるため、3代祖くらいを見て使える種か避けるべき種かを判断します。
その隣には泌乳曲線のグラフがあります。標準的な種牛の曲線と、この種牛の赤い線が示され、その間に自分の娘牛の成績が収まる、という見方です。線の幅は信頼度と対応しています。
サムの場合、普通の牛に比べて飛び出す乳量が抑えられ、後半に向けて泌乳持続性が高いタイプだと、この曲線から読み取れます。他の種牛と比べると、なだらかな曲線かどうかの違いも見えてきます。
さらにその横には、耐久性や体細胞などの主要形質ごとに、この牛が全国で何位かというランキングが出ます。自分の改良方針、たとえば体型も乳も欲しいといった狙いに合うかどうかを、ここで確認できます。
GNTPと各成分。成績欄の全体像
下段からは成績の数字に入ります。まず目に入るのがGNTPで、サムはプラス2699です。
下に入ってGNTPって書いてあるね。サムの場合はプラス2699。
GNTPは、ゲノムを調べたうえで検定もかけた総合的な数値です。長命連産効果や乳代効果といった項目は、前月に扱った検定の回で話した内容にあたり、計算式は赤本にまとまっています。
成績は産乳成分、耐久性成分、繁殖疾病成分に分かれます。サムは全項目がプラスで欠点がなく、産乳の主要形質3つもプラス、マイナスがない、という読み方になります。
表の左側には泌乳持続性・決定得点・体型が、右側には産乳成分として乳量や乳成分が並びます。それぞれに「%R」という信頼度が付いているのがポイントです。
頭数が増えると信頼度が上がる仕組み
体型の数字には、調べた頭数と牛群の数が併記されています。サムの体型は30頭・26牛群を調べて信頼度73%、乳量や乳成分の側は37頭・32牛群で信頼度85%です。
乳量側のほうが頭数が多いのは、体型調査までする人より、牛群検定だけを行う人が多いからです。頭数が多いほど信頼度が高くなる、という関係がここからよく分かります。
娘牛の平均成績にある乳量の数字は、実測ではなく補正乳量です。ミルクの欄に1万1979といった大きな値が出ていても、娘牛が全員それだけ搾れているわけではありません。
あてずっぽうなわけのじゃないけど、これを鵜呑みにしちゃうと。
一万一千出てないじゃんっていうのはちょっと違う。補正乳、あくまで補正乳量。
一方で、決定得点だけは娘牛の実測平均なので信じてよい、と川上さんは言います。身長170センチの人が30人いてほぼ全員170センチだから170と書いてある、というイメージだと説明します。
この決定得点はもう本当に娘牛って調べて出たやつの平均を出しているので、決定得点だけは信じてもいい。
分娩難易度の数字はなぜ鵜呑みにできないのか
続く産子難産率や娘牛難産率には「予測値」の欄があります。予測値は、父母や過去の種牛の分娩難易度から算出した見込みで、実際の検定成績が集まるにつれて数字が確定していきます。
サムの産子難産率はまだ頭数が揃っておらず、信頼度17%の参考値です。頭数が増えている娘牛難産率などは、少しずつ実データが反映されています。
リスクを避けたいなら、新しい種より信頼度の高い古い種を使うほうが安全です。ただし川上さんは、数字の裏にある報告のされ方を理解して見ることが大切だと釘を刺します。
ムキムキマッチョな人が一人で分娩して、自然分娩、解除しなかったっていうところも、これに報告されてるっていう、その数字の裏をちゃんと理解して見ることが大切ですね。
なので僕はほぼ見ないです。
研修生も、この率はある意味「無理くり数字で表してくれている」ものだと受け止めます。自分がお金を出して買うときには、難産率の数値は補正材料にならないと感じるといいます。
ただなんかほんまに自分がお金出して買うんやったら、あの時にここの数値は何の補正にもならないよなとは思う。
川上さんは、もし難産率が高い種を使いたいなら、判別精液でメスを狙えば産子が小さくなる、という回避策も示します。あくまで参考値として付き合うのがよい、という結論です。
気質・受胎率の数字は「会員みんなで守る」信頼性
気質の欄には搾乳性や体細胞スコア、娘牛受胎率、空胎日数などが並びます。サムの初産受胎率は46.6%、空胎日数は55日で、いずれも牛群検定から集計された数字です。
これらも報告のされ方次第で変わり得ます。3回つけたのを1回で報告する人もいれば、きちんと報告している人もいて、外からは区別できません。だからこそ、数字の裏を読み取る理解力が求められます。
そういうこともできちゃうところではありますもんね。
ここで研修生が指摘するのは、検定成績を正しく報告することが、めぐりめぐって自分に返ってくるという点です。おろそかにすれば、その分だけ種牛の成績の信頼性も損なわれます。
決定得点も産乳成分も受胎率も、すべて会員がやっている検定の積み重ねで成り立っています。信頼性は一人の努力ではなく、酪農家みんなで守っている部分だ、という認識が両者に共有されています。
線形審査の見方と、星マークが示す「日本での理想」
線形のページでは、体型の形質ごとにグラフが左右に振れ、SBVという数値が示されます。SBVが2以上の形質には網掛けが付き、数字がいい部分がひと目で分かるようになっています。
ただしボディコンディションスコアや尻の角度は、極端に振れていればよいわけではありません。日本での飼い方で生産性が高いとされる位置に星マークが付いており、そこへSBVが向いているのが望ましいとされます。
特に乳頭配置は搾乳性に直結するため、星マークの方向を意識すべき形質です。逆に、尻を大きく改良したいといった明確な狙いがあれば、その方向へ振った牛をあえて選ぶこともできます。
それをもう何回も繰り返すことによって、まあ。
改善されて改良されて。
線形の下には娘牛の写真が並び、娘牛の状態が示されます。ただし写真は載っていたり載っていなかったりで、新しいカタログほど写真や情報が増えている傾向があるようです。
ベースチェンジと理想型の変化。カタログはコンパスではない
重要なのは、NTPの計算式も重み付けも、目標にすべき「いい牛」の理想型も、時期によって変わるという点です。だから成績が公表されるたびに、計算式がどう変わったかを確認する必要があります。
たとえばベースが2005年から新しい年次に更新されると、底上げされた分だけ上の数字が下がって見えます。実際は能力が下がったわけではなく、基準が上がっただけです。
だけどこの数字自体が下がったようなイメージが出るから、「おい、下がってんじゃお前、この牛」ってなる。
研修生は、理想型が年々変わることの怖さを言葉にします。星マークや高い数字だけを頼りに買い続けると、いい種をつけているつもりでも、牧場の方向性がバラバラになりかねないといいます。
なんかええのつけてるねんけどなぁ、いいのが生まれないなってなりそうな気はして。
研修生の比喩が鋭く、カタログをコンパスだと思い込んでしまうことが問題だと指摘します。北の位置は変わらないのに、この指標は理想型が動くため、同じ場所を指し続けてくれるわけではないのです。
一番大事な「信頼度」と信頼幅の話
ここから川上さんが最も伝えたかった信頼度の話に入ります。娘牛頭数が多いほど「%R」で示される信頼度は上がりますが、そこには「信頼幅」という考え方があります。
信頼度が一番大事。この数字がどうとかああとかそういう話じゃなくて、信頼度が一番大事。
川上さんは例を挙げます。産乳成分プラス1000で信頼度99%の種牛から生まれた牛が1100だったとしても、それはおかしくありません。信頼度が99でも、成績には幅があるからです。
信頼幅は頭数が少ないほど大きくなります。カタログの中でも信頼度が高い部類の秀牛でさえ、乳量の信頼幅はプラスマイナス271ほどあり、幅にすれば500以上になります。
一番信頼度が高くて、一番信用が置ける部分でもそれだけあります。
つまり信頼度99%でも、幅の外側に当たる1%では、想定を大きく外れた牛が生まれることがあります。信頼度68%の新しい牛なら、32%はその数字どおりにならない計算になります。
研修生は、これを宝くじにたとえます。当たる前提ではなく外れ基本で付き合わないと、68%当たると思い込んで、歪んだ期待を持ってしまう、というわけです。
六十八パー当たるとか六十八パー良くなるじゃ、ちょっと考え方としては、あの曲がった歪んだ人を生みますもんね。
遺伝率とゲノム検査。信頼度が意味を持つ前提
信頼度の背景には遺伝率という数字もあります。赤本の各形質の遺伝率を見ると、乳量の遺伝率はおよそ0.5と示されており、その割合のうえに信頼度が乗るため、実際の成績は相当ブレます。
さらに前提として、母牛の成績は牛群検定をしなければ信頼度ゼロです。信頼度ゼロの母牛に種をつけて娘牛の良し悪しを語るのは、そもそも成り立たない、と川上さんは言います。
母牛の成績、牛群検定しなかったら信頼度ゼロパーセントだからね。それにこの牛タネをつけて、娘牛がどうだったこうだったっていうのはやっぱナンセンスだよね。
この未計算の段階を補い、新しい牛の低い信頼度を少しでも上げようとして生まれたのがゲノム検査です。ゲノム検査の意味も、信頼度の理解とセットで初めて腑に落ちます。
だからその牛群検定なんてしなくてもいいじゃんっていう発想で、だけどいい牛作りたいっていう、それはちょっと無理な話。
ゲノムヤングサイアーとの付き合い方
成績の数字がいいゲノムヤングサイアーは人気ですが、信頼度を考えると川上さんはあまり使わないといいます。牛群の中で全く使わないわけではないものの、宝くじを買うような感覚だと表現します。
それこそほんと宝くじを買うようなイメージ。だけどやっぱ母牛の成績が出て、ちゃんと明確で、この牛だったらこの種使ってもいいっていうやつじゃないと、ヤングサイアーはやっぱ使わない。
研修生は、数字そのものに踊らされる怖さを自覚しています。「ジェネティックいくら、いくら万円か」という話になる前に、自分の牧場に置き換える「電卓」を各自が持つべきだと語ります。
大事なのは、GNTPトップ40のような数字を丸暗記することではなく、その数字がどんな意味を持つかを読み替える力だ、という整理です。数字を出す側と読む側の理解のずれが、誤解を生みます。
国産種牛の強みと、遺伝改良は長期投資という話
一方で川上さんは、国産種牛にははっきりした強みがあるといいます。深い知識がなくても、日本の環境に合う遺伝形質で選ばれ、成績が出ている種牛を使える点です。
誰が何も考えなくてもNTPトップ四十を使っておけばいい改良していきますよっていうのが国産種牛の大事なところなんで。
その強みは、会員みんなの牛群検定データが共有されて初めて成り立ちます。「検定なんて意味ない」と切り捨てず、共有の仕組みとして考えないと、酪農家同士で足を引っ張り合うことになりかねません。
この川の水は全部俺のもんだみたいな。ほんまに必要なくて、みんなである意味共有でやってるから成り立つ部分。
研修生が特に危ぶむのは、読み取り方を誤った的外れな意見が、大先輩の口から語られて格言化してしまうことです。理想型が変わり続けるからこそ、知っている人ほど感覚を揃えておく必要があるといいます。
そして遺伝改良は、本質的に長期投資です。毎日実験できるわけでも、すぐ結果が出るわけでもなく、同じ人が長く取り組んで初めて積み上がる、きつい世界だと二人は確認します。
遺伝改良って本当大切なところは長期的なんだよ。その、長期投資になるんだけど。
最後に川上さんは、牧場で一番大事なのは牛だと締めます。牛作りを本気で自分でやるのか、誰かに頼むのかは考え方次第ですが、自分の買いたい牛を選ぶこと自体が楽しい、というのが川上さんの立場です。
まとめ
種牛カタログは、赤い数字やアイコンでパッと見て選べるように作られていますが、それだけを追うと理想型の変化や信頼度の幅に足をすくわれます。数字の裏にある意味を読み替え、牛群検定という共有の土台の上で、長期投資として牛作りを考える。それがこの研修回で川上さんが一番伝えたかったことです。
- カタログは上段の番号・生産履歴から、名前・アイコン・写真・血統・泌乳曲線・成績・線形の順で読める
- 決定得点は娘牛の実測平均なので信じてよいが、乳量は補正乳量、難産率は報告のされ方に左右される参考値
- 一番大事なのは信頼度。信頼度99%でも信頼幅があり、想定外の牛が生まれるのは当たり前という前提で使う
- 母牛の牛群検定なしでは信頼度ゼロ。国産種牛の強みも、会員みんなの検定データの共有で成り立っている
- カタログはコンパスではなく理想型が動く指標。数字を自分の牧場に置き換える力を持ち、遺伝改良は長期投資と心得る



