総合指数のなかで体型はどこに位置するのか
この回は、前月まで続けていた牛群検定の話を受けて、乳牛の遺伝能力、とくに体型評価に入っていく研修回です。搾乳前の休憩に研修生の質問に答える、いつものスタイルで進みます。
川上さんはまず、育種の物差しになる総合指数(NTP)の中身を説明します。総合指数は3つの成分の重み付けで成り立っているそうです。
総合指数は7.0掛ける三乳成分、足す1.8掛ける耐久性成分、足す1.2掛ける繁殖疾病成分という、この3つの成分でできています。
つまり、いちばん重みが大きいのが泌乳成分で、次が耐久性成分、その次が繁殖疾病成分という順番です。この総合指数を使って育種すると、乳が出て体型も良く、繁殖もそこそこというバランスのいい牛ができる、というのが日本の物差しだと川上さんは話します。
3つの成分のうち、泌乳成分と繁殖疾病成分は、毎月やる牛群検定の中で調べられる項目です。どれだけ配合を与えてどれだけ乳が出るか、いつ種付けしたか、といった記録がそれにあたります。
耐久性成分は毎月ではなく体型検査で決まる
3つの成分のうち、耐久性成分だけは毎月調べるものではない、と川上さんは説明します。乳牛の体型を一度調べれば、その牛の体型はこんなものだと出る、という性質のものだからです。
もう一回取ったら終わり。
そうです。だから耐久性成分を最初にちょっと重点的にやって、今月の後半ぐらいに全体の育種の方向の話をしていこうかなと思ってます。
赤本によれば、耐久性成分には機能的体型と生産寿命に関係する形質の育種価が含まれ、機能的体型としては肢蹄と乳房成分の育種価が含まれる、と書かれています。計算式も紹介されますが、川上さんは正直な感想を漏らします。
全く意味が分かんないですね、これ。
難しい式はさておき、耐久性成分の中身は肢蹄と乳房成分だ、というのがポイントです。資料には「乳房成分は長命性を最も説明できる構成要素」と書かれていて、乳房の作りがどれだけ長く生きて生産できるかに直結する、という位置づけになっています。
体型審査の「1〜9段階」と、決められた検査月齢
体型審査は年に2回、春と秋に行われ、牛を1頭ずつ見て、各形質が1〜9のどこに当てはまるかを評価します。体高で言えば、170センチ以上なら9くらいになる、といった具合です。ここで清水さんが、高さはセンチで表さないのか、と質問します。
(体高は)センチでは表さないんですか?
センチでは表さないけど、大体何センチっていうのはある。
清水さんが見た資料では60か月で体高144センチが平均くらいと書いてあったそうですが、それは和牛と乳牛で物差しが違う話でした。牛の種類が違えば基準そのものが変わる、というやり取りです。
この「1〜9の9段階で評価できる基準」がある形質は、体型指数の中に22項目あります。ただし、体型審査はどの牛でも受けられるわけではなく、産次ごとに分娩月齢の範囲が決まっています。
| 産次 | 分娩月齢の範囲 |
|---|---|
| 初産 | 18〜35か月齢 |
| 2産 | 30〜55か月齢 |
| 3産 | 42〜75か月齢 |
この月齢の範囲が、体型審査を受けられるかどうかを左右します。たとえば種付けを早くしすぎて18か月未満で分娩しても、その初産の体型審査は受けられません。流産や死産で産次がずれて範囲から外れた場合も、審査を受けられないことがあるそうです。
この範囲内じゃないから(受けられない)。
そうそうそうそう。
さらに条件として、検査時に分娩後365日以内で正常に泌乳中であることや、先天的な盲乳や3本乳(乳頭が1本出ない状態)がないことも求められます。ただし、後天的な盲乳の場合は認められるそうです。
3本乳の牛は「点をつけるまでもない」という判断
3本乳をめぐっては、後天的なら認められるものの、川上さんは自分の考えをはっきり述べます。乳期の指数が大きく落とされるため、3本乳の牛は基本的に見てもらわない、というスタンスです。
だってこれは(牛の)能力を見て子牛を産ませようと思うわけじゃん。3本乳にして抜群の乳期を持っていたにも関わらず、そこから子牛を取らない。
抜群の泌乳能力があっても、3本乳の状態から子牛を取って乳房の高い牛を作ろうとは思わない、というのが川上さんの判断です。清水さんも、それなら最初から選から外れる、とまとめます。
もう端から、もうすでにちょっと落選。点つけるまでもないかなっていうところはありますわ。
ただし逃げ道もあります。1本出ていなかった牛が2産目で4本乳に回復し、ちゃんとした乳期に戻れば、その2産時の体型検査を受けられて、決定得点も決まってくる、とのことです。
もう一つの条件が、同一の検査グループに同期牛がいることです。1頭だけでは見てもらえない、という決まりで、川上さんもこの理由はよくわからないと正直に話しています。頭数が少ない農場はどうしているのだろう、というくらいレアなケースだそうです。
高さと肢蹄で全然違う「遺伝率」の話
体型形質でとくに大事なのが遺伝率だ、と川上さんは強調します。形質によって、次の世代にどれだけ引き継がれるかが大きく違うからです。
たとえば高さの遺伝率は0.51と高く、小さい牛を掛ければすぐ改良が進みます。一方、肢蹄の遺伝率は0.11しかなく、脚の作りをマイナス方向に改良するのはかなり難しい、という差があります。
遺伝しやすく、狙った方向に改良を進めやすい形質
遺伝しにくく、改良の効果が見えるまで世代を重ねる必要がある形質
川上さんの試算では、肢蹄を高さ並みの改良速度でやろうとすると、5代くらい掛け合わせないと成果が見えてこないそうです。だから種牛選びのとき、肢蹄をマイナスにする改良はやめた方がいい、と話します。
決定得点の「体貌と骨格」―頭・肩背腰・胸・尻
ここからは、体型評価の中身を項目ごとに見ていきます。決定得点は100点満点で、主要形質は4つの区分に分かれます。体貌と骨格が25%、肢蹄が20%、乳用強健性が15%、そして乳器が40%という配分です。
まず体貌と骨格の25点は、頭が2点、肩・背・腰が7点、胸・肋骨が6点、尻が10点という内訳です。尻の配点がいちばん高いのが特徴です。
頭は「長さは中等で輪郭が鮮明」「目は生き生きとして大きく」といった基準で2点がつきます。ただ川上さんは、顔の改良は難しいのであまり考えない、と本音を語ります。
よっしゃ、顔を改良していくぜっつって。まず難しいんで、顔なんてちょっと考えないね。
肩・背・腰の7点では、背腰の強さが重視されます。川上さんは、つなぎ牛舎でカウトレーナーを使っていると肩が広がりにくくなる、という自分の牛舎での具体例を挙げます。
体が700キロあるでしょ。四本足で25パーセントずつ均等に体重を支えるためには、肩の強さもしっかり必要なので。
胸・肋骨の6点は胸の深さや脇の充実、尻の10点は腰角から坐骨にかけての傾斜や幅などで評価されます。文章がやや詩的で、聞いていた清水さんも見た目の違いを言葉にしづらそうにしていました。
尻の角度は「星マーク」を狙う―中間がいいという発想
体型評価の線形グラフには星マークがついています。これは、1〜9のどちらの端でもなく、中間程度がちょうどいい形質を示すものです。尻の角度がその代表例です。
あ、ちょうどいいよっていう(印)。
そうそう、ここがちょうどいいよっていうところに星マークがつきます。その星マークを狙って改良をしていこうかなっていうところですね。
あまりに斜尻な牛や、ハイピン(尻が高い牛)は好ましくないため、尻の角度は極端な方に振れない中間が良いとされます。川上さんはジェネティクス北海道の資料にある「サム」という種牛を例に、坐骨が高くなっているので尻の改良にはあまり向かない、と読み解いています。
一方でこの「サム」は脚の改良が抜群で、蹄の角度がそろっている点は評価できるものの、後肢が内側に寄り気味なのが気になる、と川上さんは話します。ただし肢蹄は遺伝率が低いので、多少ひどく見えても実際に子へ伝わるのは1割ほどにとどまる、という点は忘れないようにと補足します。
乳用強健性の「質のいい牛」とは
次の区分は乳用強健性で、体全体に活力があり、乳用牛としての強さを示すものが評価されます。ここで川上さんは「質のいい牛」と「粗い牛」の違いを具体的に語ります。
皮膚を引っ張ってみたときに、粗暴な牛はびよーんと伸びますが、質のいい牛はシルクのような質感で皮膚が薄い、というのが川上さんの説明です。その薄さが乳房にも表れ、絞るときにパーンと張り、絞った後はシュッとする乳房になるそうです。
なんか逆にこう薄いと、破れやすいというか、傷つきやすいのかなってイメージだったけど、それだけじゃないんですね。
清水さんは、質のいい牛を「高級な服の方が耐久性が低いようなもの」とたとえますが、川上さんは、性能や全体のバランスで考えると質のいい牛の方が価値が高い、と話します。
その性能というか、牛としての全体のバランスって考えると価値が高い。
そうそうそう。体全体の輪郭が鮮明で、伸び伸びとして鋭角的である。
資料の言い回しがあまりに文学的で、2人は「伸び伸びとしてるのにシャキーンとしている」という表現に笑います。清水さんは「大正の、西洋の感じ」「ポエマーなノリ」と評していました。
乳器は命―そしてトゥルータイプという理想像
乳器は40点と最も配点が高く、川上さんは「乳器が命」と言い切ります。乳房の付着が強く、4つの乳区が釣り合い、長年にわたり高い生産能力を表すものが評価されます。
そして川上さんが紹介するのが、トゥルータイプという理想体型です。インターネットで「ホルスタイン トゥルータイプ」と調べると画像が出てくる、100点満点のホルスタインの姿です。
この体型を見て、このトゥルータイプの100点満点だとして、うちの牛を体型審査で見てもらった時に何点かっていうのが、だから決定得点というものですね。
日本記録で一番すごいのは98点くらいで、カナダでも98点だそうです。みんながこのトゥルータイプを目指して、体型のいい牛を選んでいくわけです。
ただし、トゥルータイプの形は国によって違い、目指すものそのものが異なります。カナダやアメリカでは大きさが求められる時期もあり、脚の角度の好みも歴史とともに変わってきました。フリーストールが増えれば歩様の良さが重視されるようになる、という具合です。
歴史によって、このトゥルータイプは変わっていくんですよ。大体5年に一回ぐらい変わるかな。
農場ごとの「トゥルータイプ」と、好きな牛を持つこと
川上さんがいちばん大事だと言うのは、農場ごとのトゥルータイプを作ることです。自分が好きな牛はどれなのかを明確にしないと、どこに向かって改良すればいいかわからなくなる、という話です。
私が好きな牛はどの牛なんだろうかっていう。その牛を目指すために目標がないと、どうやったらいいかわからなくなっちゃうから。
川上さん自身の「好きな牛」は、2010年のワールドデイリーEXPOで2連覇したハービュー・ロイ・フロスティーという98点の牛です。数値ではなく、見た瞬間の圧倒的な良さに惹かれたと語ります。
好きな牛の基準は人によっても年代によっても違う、と川上さんは言います。自分がいいと思う牛と、父親がいいと思う牛は違うし、絶世の美女の基準が時代で変わるのと同じだ、というたとえです。
なんかその半分はみんながその50点満点な部分があって、あとは個人の気持ちの部分の得点も結構ありますもんね。
どんな農場に行っても「この牛はいいな」と思える1頭を見つけると、その農場の見方が変わる、というのが川上さんの持論です。汚い牛舎でもきれいな牛舎でも、良い1頭を見つける姿勢が大事だと話します。
体型・乳量・繁殖・長命性はつながっている
体型の良さは乳量の多さに比例し、脚の強さは長命性、つまり長生きに関わります。尻の角度は繁殖性につながる、というように、体型と生産の各要素は切り離せない、と川上さんは整理します。
体型の良さ
乳量の多さや体づくりに比例する
脚の強さ
長命性(長く生きて生産に使えるか)につながる
尻の角度
繁殖性(分娩や受胎のしやすさ)につながる
だからこそ、乳量だけを見て掛け合わせるのではなく、体型のいい牛もバランスよく組み合わせていく必要がある、というのがこの区分の結論です。尻の高さ(ハイピン)が繁殖性や淘汰につながる話は、清水さんとのやり取りの中でも具体的に出てきました。
だからバランスよく、乳量だけじゃなくて体型がいいやつも掛け合わせていかないとダメですね。
淘汰の理由として第一に挙がるのは繁殖性と乳房炎です。牛群検定でどんな体型の牛がどんな理由で廃用になっているかの傾向がわかるため、日本ではこういう牛は避けよう、という改良の指針にもなるそうです。
最近の流れとして川上さんが挙げたのが飼料効率の考え方です。体が大きいほどたくさん食べて乳が出ると思われていたけれど、実際は中程度の体の牛の方が牛群に残り続け、生産寿命が長く、繁殖もそこそこ良いとわかってきた、という話です。
体が中程度の牛の方が、その牛群に残り続けて、生産寿命が長くて、繁殖性もまあそこそこでっていうのがわかってきた。
模様や病気は遺伝するのか―そして免疫力の改良
最後は清水さんの素朴な質問から、体型審査には出てこない形質の話になります。まず牛の模様は遺伝するのか、という問いです。
白っぽい牛どうしを掛け合わせても、なかなか真っ白にはならないそうです。ただし親には似るもので、最近よく出るパンダのようなブチ模様は、ある種牛の影響だといいます。隔世遺伝で祖父母の特徴が出ることもあり、一概には言えない、というのが川上さんの答えです。
下痢しがちな子や病気については、遺伝より環境要因が大きい、というのが基本の考え方です。冬生まれだったか、子牛の時の飼育環境がどうだったか、といった条件の方が影響する、と川上さんは話します。
一方で、遺伝でわかるようになってきた病気もあります。ケトーシス、乳房炎、後産停滞、第四胃変位などのなりやすさは、ゲノムでわかるそうです。ただこれらも遺伝率自体は低いため、結局は環境要因が大きいと考えられています。
そのなかで川上さんが「素晴らしい」と語るのが免疫力です。カナダで進んでいる改良で、免疫力の数字はとても遺伝率が高いのだといいます。
免疫力が高い牛と高い牛を掛け合わせると、100パーセントぐらいの確率で免疫力が高い牛が生まれるっていう。
免疫力が高いと、免疫力の高い初乳が出ます。移行抗体を含む質の良い初乳が出れば子牛が元気になり、好循環で回るという発想です。カナダでは、いくら乳量や体型が良くても免疫力が低ければ淘汰し、そこからは子牛を取らないほど徹底しているそうです。
川上さんは、ゲノムでいろいろわかるようになったことで、遺伝率の低い形質でもゲノムの数値を合わせれば、自分の好みの牛をより精度高く作れるようになる、と締めくくります。自分に合った牛群を作れる時代になってきた、というのがこの回全体の着地点です。
まとめ
今回は、乳牛の体型評価と決定得点、そして遺伝率を育種にどう活かすかを学ぶ回でした。数字で牛を読み解きつつ、最後は「自分が好きな牛=農場ごとの理想像」を持つことが大事、というところに話が着地しています。
- 総合指数は泌乳・耐久性・繁殖疾病の3成分の重み付けで決まり、耐久性成分は毎月ではなく体型検査で調べる
- 決定得点は100点満点で、乳器40%、体貌と骨格25%、肢蹄20%、乳用強健性15%の配分。乳器の配点が最も高い
- 形質ごとに遺伝率が違い、高さは高く肢蹄は低い。尻の角度などは端ではなく中間(星マーク)を狙う
- 体型・乳量・繁殖・長命性は切り離せず、中程度の体の牛が生産寿命や繁殖で有利とわかってきた
- トゥルータイプという理想像を土台に、自分が好きな牛を明確にして農場ごとの目標を持つことが改良の出発点になる




