島根で牧場を探して、川上牧場にたどり着くまで
今回のゲストは、今年の7月から川上牧場で研修を始めた研修生さん。収録時点でまだ3日目という、できたてほやほやの新人さんです。
川上さんいわく、新しい研修生が来るとリスナーも喜ぶそう。まずは、なぜ川上牧場を選んだのかを聞くところからスタートしました。
島根県で牧場できるとこないかなって探してる中で、お母さんの知り合いが川上さんの親戚の方だったんです。
サイトを見たら、すごいいろんなことに取り組んでらっしゃって、研修生システムもあると知って、熱心にやってらっしゃるなと思って選びました。
川上さんは、全国で酪農をやってみたい人にもぜひ来てほしいと呼びかけます。そのうえで、始めたばかりの仕事について感想をたずねました。
搾乳とかする時に、目の前のことにばかり集中して、全体を見なきゃいけないこともまだ全然できないんです。
並行していく作業が多いと思うんですけど、その並行作業が慣れない限り、なかなか難しいなと。
酪農は「見て覚えろ」から抜け出せるか
研修生さんの「難しい」という素直な感想を受けて、川上さんは酪農現場の課題を語ります。それは、多くの牧場で技術や知恵が言語化されていないこと。
自分の長所は何ですかって酪農家さんに聞くと、いや特になんもないよってみんな答えるんだよ。
でも実際は、牛の観察やエサの微調整、機械の整備を自然にこなしているといいます。ただ、それが継承されず「見て覚えろ」のままになっているのが問題だと話します。
だからこそ、ただ毎日作業するだけの人は、何十年やっても経験や知識が身につかないことがあるのだそう。
川上さんが研修生に勧めるのは、一つ一つスケッチしたりメモを書いたりして、日々蓄積していくこと。今ならブログやSNSも役立つといいます。
実際に研修生にはXとInstagramのアカウントを運営してもらっているそう。疑問と気づきを共有すると、インプットとアウトプットの両方ができて吸収が速くなるというのが狙いです。
牛乳が「なくなる日」は来るのか
話題は研修生さんの疑問から、牛乳を取り巻く現状へ。担い手が減り、消費量も少ないと聞いて、国の取り組みが気になったといいます。
今お米がすごい不作で問題になってますよね。なくなるって考えたことがなかったけど、牛乳もいずれ起こりうるじゃないですか。
川上さんが挙げたのは、7月頭に関東へ台風が近づいたときの話。北海道の牛乳を運ぶ大きな船が2日間動かせなくなったのだそう。
あと1日台風が過ぎなかったら、関東の牛乳が陳列棚からなくなるぐらい足りなくて。もう今も自転車操業の状況です。
背景にあるのは、酪農の一極集中。日本の牛乳生産量の6割から7割近くを北海道が占めているといいます。
さらに、暑さが続くと牛がエサを食べられず生産量が伸び悩みます。すると海外から輸入することになり、国内の生産量が増えても農家の手取りは増えにくいという難しい構造が続いているそうです。
愛玩か、経済動物か。牛への向き合い方
話は「自分の育てた牛のお肉を食べられるか」という問いへ。研修生さんは「ちょっと難しいかも」と正直に答えます。
生まれて育ってきた子がそうなるってなった時、ちょっと見れないかもしれない。
川上さんはこれを「愛玩動物視点」と呼びます。今はそう感じるのが自然で、現実はいつか来るもの。そして「これも慣れだ」と続けます。
川上さん自身、農業大学校時代に屠畜場へ行くカリキュラムがあり、みんなで可愛がっていた牛の出荷に立ち会った経験があるそうです。
うわーかわいそう、屠殺されるわって思いながら連れてきて、一瞬でパッと目の前で。早すぎて。
衝撃はあるんだけど、もう綺麗だった。作業に無駄がなくて、とても綺麗だったんです。
そのうえで川上さんは、自分は牛を「経済動物」として好きなのだと語ります。犬や猫のように可愛いという感覚とは、少し違う目線です。
競走馬が速く走るように、牛はお肉や牛乳をどれだけ生産するかが役目。だから病気になっても「助けてあげよう」ではなく、人間にとっての経済効力で見るといいます。
人間に役立つことが役目。生産性を軸に牛を見る。大きな牧場や経営の視点で重視される
1頭ずつ名前をつけて可愛がる。家族経営の牧場などに多い見方
経営主と従業員の「ずれ」をどう埋めるか
川上さんが強調したのは、この視点の違いを事前にすり合わせておく大切さです。研修を終えて他の牧場へ行くときにも関わってくる話だといいます。
大きな牧場では従業員が何十人もいて、牛1頭あたりのコストがシビアになります。そこに強い愛情を持つ人が入ると、心がきつくなって辞めてしまうことがあるのだそう。
だから面接のときなどに、牧場のスタイルと合わせておいた方がいいと川上さんは話します。愛玩動物の視点で酪農をする人も、家族経営を中心に実際に多くいるそうです。
大きい牧場を持ちたいけど、1頭1頭可愛がりたいって子もいますよね。
そういう人はどこかで現実に向き合い、自分の中で解釈していくステップが必要になる、というのが川上さんの見方です。
草を食べ始める子牛。牛の体の「意味がわからない」魅力
最後は、川上さんが牛を好きな理由へ。それは、腹の中の微生物が草を分解し、大量の牛乳を生み出すという不思議さでした。
腹の中のルーメン微生物で草を食って、タンパク質を作らせて、牛乳を40キロぐらい出す。この意味がわからない生き物が好きなんです。
技術が進歩しても、このお腹の中はまだ全然解明されていないといいます。開けると状態が変わってしまうため、閉じたままでは中がわからないのだそう。
生まれた子牛はミルクしか飲めないんだけど、草をあげたら草を食い始めるんですよ。
どこからルーメン微生物を得ているのか、まだわからない——この「意味がわからない」ところこそが面白いと、川上さんは楽しそうに語ります。研修生さんも「仕組みが面白い」と引き込まれていました。
まとめ
研修3日目の新人と酪農家が、仕事の難しさから牛乳の需給、牛への向き合い方まで率直に語り合った回でした。答えが一つでないテーマを、そのまま分かち合う空気が印象的です。
- 酪農の技術や知恵は言語化されにくく、観察・記録・発信の蓄積が学びを速める
- 牛乳生産は北海道への一極集中が進み、災害や気候変動、国際情勢に弱い構造がある
- 川上さんは牛を「経済動物」として見る一方、愛玩動物として可愛がる牧場も多い
- 経営主と従業員で牛への視点がずれると現場がきつくなるため、事前のすり合わせが大切
- 草を食べ始める子牛やルーメンの仕組みなど、牛の体にはまだ解明されていない魅力がある




