休日の牧場と、関東で始まる生産調整
この回の配信日は10月31日の土曜日。川上さんは2週間に1回の酪農ヘルパーが入る日で、牧場の仕事はお休みです。午前中に牛乳を届けたり、堆肥を動かしたり、牛を移動させたりする予定を話しています。
本題の前に川上さんが触れたのは、関東生乳販連で11月から生産調整が行われるという急な知らせです。川上さんは「本当に緊急事態」と受け止めています。
川上さんの説明では、関東の牛乳が余っている背景には、北海道の生産が好調で、北海道から多くの牛乳が関東に来ている事情があります。そのうえで、北海道が悪い、関東の消費が落ちたのが悪い、と責め合うのは不毛だと話しています。
一生懸命絞れてね、美味しい牛乳届けたいって思ってるのに、その生産を抑えてくれって言われてる状況なので、はい、ちょっとここはね、消費者の皆さんにちょっと知っていただけたらと思いますよ。
noteと公式LINE、子ども食堂につながるメンバーシップ
川上牧場では、毎日の音声配信を文字起こしして再構成した記事を、noteで毎日公開しています。記事をもっと深く読みたい人向けにメンバーシップも用意されています。
メンバーシップで集まった応援は「#未来の牛乳」として、子ども食堂への牛乳の支援や、小中高の食育活動に参加するときの活動費に充てる予定だと川上さんは話しています。
毎日の配信を聞けない人に向けては、週に1回まとめ記事が届く公式LINEもあります。リンクは音声配信の概要欄に置かれています。
「生産抑制に協力した人がバカを見る」というモヤモヤ
乾杯のあと、川上さんは「うまいのに生産調整されてるなんて」と、やりきれない気持ちを口にします。関東の酪農家の立場に立ち、明日は我が身だと考えて生産抑制に協力するつもりだといいます。
いろんなSNS見ると、その生産抑制に協力したものがバカを見ている状況になってるよみたいなことを言ってる人もいて、もうどうしたらいいんですかって思ってます。
川上さんは、酪農家が減って子どもたちが国産の牛乳を飲みたいときに飲めない状況になるなら、それは大人の責任だとも話しています。消費者にも一緒に考えてほしい、という呼びかけです。
あわせて、川上さんが所属するメタクリ研究所の取り組みが農水省に認定され、認定式があったことも紹介されました。川上牧場でも使っている、市販のカメラにAIを載せて牛舎を見守るシステムで、興味のある畜産農家に問い合わせを呼びかけています。
まゆさんの質問「牛乳1L、何にすると一番効率がいい?」
お便りコーナーで読まれたのは、TikTokから届いたまゆさんの質問です。
例えば牛乳1Lと同じ1Lから作られる乳製品で、食べたり飲んだりするのに一番消費の効率がいいのは何になりますか?
まゆ さんから
川上さんは、リスナーがどうすれば牛乳を消費できるかを一生懸命考えてくれたことがまず嬉しい、と喜んでいます。
牛乳の推奨量について、川上さんは厚生労働省の指針でコップ1杯ほど(180〜210ミリリットルくらい)だと紹介しています。そのうえで、普通の人に1Lをそのまま飲めというのは「結構な量」だと話します。川上さん本人は毎日1L飲んでいるそうです。
最初に言っておくと、答えは一つじゃないんですよね。なぜかというと、効率の意味によってですね、一番効率がいいとされている乳製品が変わるからなんですよね。
牛乳はほとんど水。チーズ100gに1Lが詰まる理由
川上さんが最初に押さえたのは、牛乳は真っ白で濃く見えても、大部分が水分だという点です。水分のほかに乳脂肪、たんぱく質、乳糖、ミネラルなどが含まれています。
乳製品づくりは、牛乳の中の特定の成分を集めたり、水分を取り除いたりする作業でもあります。だから1Lの牛乳がチーズになると、量はぐっと小さくなります。
農林水産省の資料では、生乳100kgからチーズが約10kg作られます。ざっくり言えば牛乳1L前後からチーズ約100gで、Jミルク ── 日本の酪農・乳業の関係者でつくる団体。牛乳・乳製品に関する情報発信や需給の調査などを行っていますもプロセスチーズ100gにおよそ1,000mlの牛乳が使われると紹介しているそうです。
川上さんは、牛乳1Lを飲むのは大変でも、チーズ100gならピザやパスタ、サンドイッチ、お酒のおつまみで意外と食べられると話します。少ない食べ物の量で多くの原料を使うという意味なら、チーズはかなり優秀です。
チーズ100gを食べても「牛乳1L分」にならないのはなぜ?
川上さんが注意を促したのは、チーズ100gを食べれば牛乳1Lを丸ごと飲んだのと同じ、というわけではない点です。
チーズを作るときは、牛乳が固形のカード ── 牛乳に酵素や酸を加えて固めた固形部分。これを水切りしたり熟成させたりしてチーズになりますと、液体のホエイ ── 乳清とも呼ばれる、カードを取り除いたあとに残る黄色っぽい液体。ヨーグルトの上にたまる水分もその仲間ですに分かれます。
チーズになる側。主にカゼインというたんぱく質、乳脂肪、カルシウムなどが集まる
液体として残る側。ホエイたんぱく、乳糖、ミネラルなどが残る
農水省もチーズ製造でカードとホエイに分かれることを示していると川上さんは紹介しています。原料として1L使うことと、1L分の栄養を全部食べることは別、というのがこの章のポイントです。
バターは40gまで縮む。でも脂肪しか集めていない
バターについて、農水省の資料では生乳100kgから作れるバターは約5kgです。牛乳1L分なら約40〜50gのバターに相当します。
Jミルクの説明では、市販のバター200gを作るのに200mlの牛乳が24本分、つまり4.8Lが必要です。1Lあたりに直すと約42gで、川上さんも「めちゃめちゃ濃縮されてますよね」と話しています。
では、バターが一番効率がいいのか。川上さんは「ここに落とし穴があります」と続けます。バターは牛乳を丸ごと固めたものではなく、牛乳から乳脂肪だけを集めた食品だからです。
遠心分離
牛乳を脂肪分のクリームと、残りの脱脂乳に分ける
クリーム→バター
クリームからバターを作る
脱脂乳→脱脂粉乳
大量に残る脱脂乳を粉にすると脱脂粉乳になる
川上さんは、農水省の資料でバターとおよそ同量以上の脱脂粉乳が同時に作られる関係が示されていると紹介しています。バター40gを食べても、牛乳1Lの脂肪部分を濃縮して食べただけというのが正しい見方です。
「余ったら全部バターに」が通用しない生乳需給
牛乳が余るたびに、SNSでは「だったら全部バターにすればいい」という声が毎年のように出ると川上さんは話します。
バターだけが売れて脱脂粉乳が売れなかったら、今度は脱脂粉乳が余るわけです。
川上さんによれば、農水省も、バターを作ると脱脂粉乳などの無脂乳固形分 ── 牛乳から水分と乳脂肪を除いた成分。たんぱく質、乳糖、ミネラルなどが含まれますが必ず同時に出るため、両方の需給を見る必要があると説明しています。川上さんはこれを「牛乳の需給を考えるうえでものすごく大事」と強調しています。
ヨーグルトは減らない、粉乳はぐっと軽くなる
ヨーグルトはどうでしょうか。プレーンヨーグルトは、原料の乳を殺菌し、乳酸菌を加えて発酵させて作ります。チーズやバターのように大量の水分を取り除かないので、牛乳1Lから作ると、できあがりもほぼ1kgに近い重さになります。
量を小さくするという意味では、ヨーグルトの効率はあまり上がりません。ただ、発酵で味や食感、保存性が変わり、牛乳を飲むのとは違う食べ方ができるのがヨーグルトの良さだと川上さんは話します。
もっと極端なのが粉乳です。農水省は全粉乳を、生乳や牛乳からほとんどすべての水分を除いて粉末にしたものと定義しているそうです。体積も重さもかなり小さくなり、保存性が劇的に上がります。
ちょっとお腹すいたわ、ちょっと粉乳食おうって言ってスプーンでガバッて食う人ってなかなかいないと思うんですけど。
粉乳の多くは、パンやお菓子、飲料などの加工食品の原料になったり、再び水に溶かして加工されたりする、と川上さんは説明しています。
目的別に見ると、どれが一番効率的?
ここで川上さんは、4つの乳製品を「効率の意味」ごとに整理し直します。
| 目的 | 向いているもの | 注意点 |
|---|---|---|
| 少ない量でたくさんの原料を使いたい | チーズ(約100gで約1L分) | ホエイが残る |
| 脂肪を一番小さく濃縮したい | バター(約40〜50g) | 脱脂乳が残る |
| 成分をなるべく丸ごと食べたい | 牛乳そのもの、ヨーグルト | 量はあまり減らない |
| 長く保存したい | 粉乳、バター、ハードチーズ | そのまま食べる用途は少ない |
農水省も、日持ちしない牛乳や発酵乳などを優先して生乳を配分し、残りをバターや脱脂粉乳、ハード系の熟成チーズなど日持ちする製品に回す構造を説明していると、川上さんは紹介しています。
そのうえで、まゆさんの質問にある「食べたり飲んだりするのに一番消費効率がいい」という意味なら、川上さんはチーズを一番に挙げています。何回かに分けて食べられ、冷蔵保存も料理への活用もしやすいからです。
チーズのホエイは捨てない。実は余らせたくない副産物
チーズを作ると出るホエイについて、川上さんは「捨てるものではない」と話します。昔はホエイの処理が問題になることもありましたが、今はプロテインや乳幼児向けの食品、飲料、お菓子、パンなど、さまざまなものに使われています。
農水省の製造工程でも、ホエイを乾燥させてホエイパウダーにし、パンやお菓子、飲料に使う流れが示されているそうです。チーズとホエイまで使い切れば、牛乳をかなり有効に使えます。
いろんなものに変化できるっていうのは、この牛乳のすごさかなというところですね。
一方で、「余った牛乳を全部チーズにすればいい」という発想も簡単ではないと川上さんは指摘します。チーズ作りには設備や菌、酵素、熟成させる保管場所、人手が必要で、何より売れなければ意味がないからです。
皆さん最近チーズ食べられましたか?国産のチーズ食べました、国産のチーズ食べられました?
Jミルクによると、国産牛乳はまず賞味期限の短い飲用向けが優先され、その後に生クリームやチーズ、最後に脱脂粉乳やバターへ回る需要構造になっています。牛乳余りは加工すれば解決するのではなく、加工した商品を誰が食べるのかまで考える必要がある、というのが川上さんの見方です。
乳製品は「水を運ばない」保存と物流の発明
川上さんは、乳製品づくりを「水を運ばない技術」とも表現しています。牛乳1Lをそのまま運ぶと水も一緒に運ぶことになりますが、チーズやバター、粉乳にすれば水を減らし、成分を濃縮して運べます。
冷蔵技術がなかった時代から、人は牛乳をチーズやバター、発酵乳に変えて保存してきました。川上さんは、乳製品はおいしさだけでなく、保存と物流の発明でもあると話しています。
最後の整理として、牛乳1Lを一番小さくする競争ならバターや粉乳、普段の食事で食べやすいのはチーズ、牛乳全体をそのまま使うならヨーグルト。用途によって答えが変わる、というのが今回の結論です。
何kgになったかではなく、全部の成分を食べてもらえるか
川上さんがまとめで一番大切だとしたのは、何kgの商品になったかだけで牛乳の消費効率を判断しないことです。
バター、脱脂粉乳、チーズ、ホエイ、それぞれに分けて全部に価値をつけて全部食べてもらう。
そこまでできて初めて牛乳を本当に、本当にですね、効率よく使ったと言えるんじゃないかなと思います。
これは日本の牛乳の需給問題そのものでもあります。バターにすれば脱脂粉乳が余り、チーズにすればホエイが残る。副産物まで食べてもらえる市場を作ることが、これからの乳業や酪農団体にとってかなり重要になる、と川上さんは考えています。
個人的な感想として、川上さんは「牛乳1Lを飲むのは大変でも、チーズ100gならビールやワインと一緒に食べられそう」と話します。いつものチーズ1切れにたくさんの牛乳が使われていると感じると、スーパーやコンビニで乳製品を見る目が変わるかもしれません。
人口が減るなか、廃業する酪農家も増えている
川上さんは、牛乳もチーズもバターも脱脂粉乳もヨーグルトも食べてもらうのが一番いいとしつつ、「無理ですよね、これだけ食べるのね」と本音ものぞかせます。
日本の人口が減っていくなかで、生産量は伸ばしたいし、酪農家は減らしたくない。その両立をどうするかを、リスナーと一緒に考えたいと川上さんは呼びかけています。
(牛乳を)食べたいんだけど食べられないっていう消費者の方が増えておりましてっていう状況になっておりますので、はい、結構焦ってます。
配信の最後には、酪農未経験者向けのKindle書籍『遺伝改良と飼養設計編』や、そのデータを読み込ませたFarmEcho AI、黒毛和牛向けの計算アプリの紹介もありました。アプリは現在86の牧場が使っていて、年内に100牧場を目指しているそうです。
まとめ
牛乳1Lを一番効率よく消費できる乳製品は、何を「効率」と見るかで変わります。食べやすさならチーズ、小ささならバターや粉乳、丸ごと食べるならヨーグルト。そして本当の意味で牛乳を使い切るには、副産物まで含めて食べてもらう仕組みが欠かせない、というのが川上さんの答えです。
- 牛乳1Lはチーズなら約100g、バターなら約40〜50g、ヨーグルトならほぼ1kgになる
- 普段の食事で牛乳をたくさん消費するなら、チーズが一番取り入れやすい
- チーズはホエイ、バターは脱脂乳が必ず残るため、重さだけでは消費効率を判断できない
- 「余ったらバターやチーズに」では解決せず、副産物まで売れる市場づくりが需給問題の鍵になる
- 関東では11月から生産調整が始まり、酪農家の厳しい状況が続いている

