雨の金曜日、牧場の朝と苦しい経営の話
川上さんの牧場がある島根県出雲市は、この日10月30日の金曜日、最高気温20度の雨のち晴れという天気でした。まとまった雨で堆肥を圃場に入れられず、お米農家さんに頼まれている作業が進まないことを「困ったもんだな」とこぼしています。
この日の川上さんの予定は、2週間ぶりの整体と、体調の悪い牛を獣医さんに診てもらうこと、餌の補充など。毎日の牧場仕事の合間に配信をしている様子が伝わります。
続いて川上さんは、畜産業界の倒産が続いていることに触れます。飲食店や小売店でも倒産が増えていて、原因はインフレだと話しています。
売り上げ落ちてないですけど、利益が減ってるってことですよね。なので新しいこといろいろね、やってみようかなと思ってますけど。
川上牧場としては、AIを活用しながら新しい取り組みを試そうとしているそうです。ただ先行きは見えず、不安を抱えながら続けていると率直に語っています。
「牛乳は体に良い?悪い?」1歳9ヶ月の子をもつ親からの質問
この回のメインは、TikTokから届いたリスナーの質問です。SNSで牛乳を「体にいい」とする情報と「良くない」とする情報の両方を見て、不安になっているという内容でした。
初めまして。1歳9ヶ月の娘が牛乳が大好きです。牛乳は栄養豊富で体にいいという情報と良くないという情報がSNSで回ってきて不安になっています。お考えを聞かせていただけると嬉しいです。
玉こんにゃく さんから
川上さんは3人の子どもの父親でもあります。小さい子の食事について、栄養満点に思える蜂蜜も子どもには食べさせてはいけないなど、親にならないとわからないことがあると共感を示しています。
SNSには「牛乳は絶対飲ませた方がいい」という声もあれば、「骨を弱くする」「がんになる」という声もあります。両方が流れてくれば不安になるのは当然だ、と川上さんは親の気持ちに寄り添います。
僕は酪農家なんで牛乳最高ですよ。もうどんどん飲んでください。お子さんにも大丈夫ですよとはね。僕は言いがないんですよ。
川上さんは、酪農家の立場から牛乳を勧める一方で、牛乳批判も全部は否定しないといいます。誹謗中傷はダメだけれど、意見があれば「酪農で何ができるか」を考えるヒントになる、という考え方です。
そこで今回は、WHOやアメリカの小児科学会、イギリス、カナダ、オーストラリアなど、牛乳を長く飲んできた国々のガイドラインや研究を調べて答えています。日本は他の国と比べて牛乳を飲む文化の歴史がまだ浅い、というのも理由の一つです。
結論は「適量なら栄養価の高い食品」
川上さんが最初に示した結論は、牛乳は適量なら栄養価の高い食品だということです。ただし、どの食品も同じで、飲めば飲むほど健康になるわけではないと付け加えています。
そのうえで、1歳9ヶ月という年齢ならではの注意点があるといいます。それは脂肪やがん、骨の話ではなく、牛乳を飲みすぎて牛乳だけでお腹いっぱいにならないことだそうです。
世界では1歳を過ぎた子に牛乳を禁止していない?
SNSでは「そもそも人間が牛乳を飲むのはおかしい」という意見もあり、川上さんも配信中によく言われるそうです。けれど世界の小児科の栄養ガイドラインは、1歳を過ぎた健康な子が牛乳を飲むこと自体を危険とはしていない、と川上さんは紹介します。
WHO ── 世界保健機関。国連の専門機関で、各国に向けて健康や栄養に関するガイドラインを出していますは2023年に、生後12〜23ヶ月の子に母乳以外のミルクを与える場合、動物性のお乳を利用できるとしています。牛乳などの乳製品は、タンパク質、カルシウム、ビタミンB2、カリウム、リン、マグネシウム、亜鉛などを供給できる食品という位置づけです。
このため川上さんは、1歳9ヶ月のお子さんが牛乳を飲んでいること自体を心配する科学的根拠はない、と説明しています。
国ごとの目安量はどれくらい?
1歳を超えると、牛乳は世界各国で普通に食事に入ってきます。川上さんは、国ごとの目安量を順に紹介しました。
| 国・機関 | 内容 |
|---|---|
| イギリス(NHS) | 1歳から殺菌牛乳を主な飲み物の1つにできる。1〜3歳は約300mlで1日に必要なカルシウム約350mgを供給 |
| オーストラリア | 12ヶ月以降、1日2カップ程度、約500mlまで |
| カナダ | 1〜2歳は1日約500ml、750mlを超えないように |
| アメリカ小児科学会 | 1日24オンス(約710ml)未満 |
イギリスのNHS ── イギリスの国営の医療サービス。国民向けに健康や子育ての情報も発信していますについて、川上さんは研究機関のようなところと紹介しています。アメリカ小児科学会の数字は、2026年に出た鉄欠乏に関する最新の臨床報告によるものです。
国によって数字は少しずつ違います。それでも共通しているのは、牛乳を禁止するのではなく、適量を食事の一部として使うという考え方だと川上さんはまとめています。
牛乳の強みは「まとめて摂れる」こと
牛乳の強みは、ひとつの栄養素ではないと川上さんは話します。タンパク質、カルシウム、リン、カリウム、ビタミンB2、ビタミンB12など、成長に必要な栄養をまとめて飲み物として摂れることです。
しかも調理や加熱もいらず、コップに注いで飲むだけ。小さい子は大人ほど一度にたくさん食べられないので、少ない量でエネルギーやタンパク質、カルシウムを摂れる食品には意味がある、と川上さんは説明します。
牛乳以外でそういう食品ありますかねと探してみると、なかなかないですよね。
WHOも、乳製品は12〜23ヶ月の子の多様な食事の一部として、栄養を満たすのに役立つとしています。
「牛乳を飲むと背が伸びる」は本当?
大人が子どもによく言う「牛乳を飲まないと背が伸びないよ」。川上さんはこの言い伝えも研究から確かめています。
世界の研究をまとめたレビューでは、牛乳や乳製品を摂った子で身長の伸びがやや大きかった研究があります。過去の比較試験をまとめたメタ解析 ── 複数の研究結果を統計的にまとめて、全体としてどんな傾向があるかを調べる方法では、牛乳約245mlを毎日追加すると年間約0.4cm成長が大きかったという推定もあるそうです。
一方で、別のランダム化比較試験 ── 参加者をくじ引きのように無作為に分けて、条件の違いによる効果を比べる研究方法をまとめると、身長に明確な差が出ないという研究もあります。そのため川上さんは、牛乳を飲めば背が高くなると断言するのは違うと話しています。
身長は遺伝や全体の栄養状態、睡眠、健康状態など、いろいろなものに影響されます。牛乳は成長に必要な栄養を届ける食品の1つ、と考えるのがよさそうです。
骨は牛乳だけでは丈夫にならない
骨についても、川上さんは「牛乳を飲めば絶対に折れない」わけではないと説明します。
乳製品を摂ることで骨塩量や骨密度に良い影響が見られた研究がある
牛乳を多く飲むことで骨折リスクが明確に減るとは確認できなかったメタ解析もある
成長期の骨を作る栄養源として、牛乳や乳製品には意味があります。ただ、たくさん飲めば大人になって骨折しなくなるとは言えない、というのが川上さんの説明です。
骨には牛乳だけでなく、運動、ビタミンD、ほかの食事、年齢、ホルモンなど、いろいろな要素が関わっているそうです。
「牛乳は体に悪い」研究も調べてみると?
川上さんは反対側の主張もきちんと見ていきます。SNSで流れてくる「牛乳を飲むと病気になる」という話について、2025年に発表された大規模な研究を紹介しました。
この研究は、95本のシステマティックレビュー ── あるテーマの研究を決められた手順で網羅的に集め、評価してまとめる方法やメタ解析をまとめ、乳製品と29種類の健康アウトカムの関係を調べたものです。
川上さんは、悪影響が示されたものが約4%あることも知っておいてほしいと話します。そのうえで、これで牛乳がすべての人の健康食品だとは言えないものの、「牛乳でさまざまな病気になる」という大きな主張を、科学全体が支持しているわけではないとまとめています。
牛乳でがんや心臓病になる?
「牛乳でがんになる」という話について、川上さんは世界がん研究基金 ── WCRF。食事や運動とがんの関係について、世界中の研究を評価・発信している国際的な団体の評価を紹介します。WCRFは、乳製品が大腸がんのリスクを下げる可能性について強い根拠があると評価しています。
一方で前立腺がんについては、乳製品の摂取がリスクを上げる可能性を示す研究もあります。ただしその根拠は大腸がんほど強くなく、WCRF自身も乳製品全体について一律の推奨は出していないそうです。
牛乳はがんを防ぐでも牛乳はがんになるでもないということですね。がんの種類によって研究結果が違うということです。
川上さんは、成人の前立腺がんの話をそのまま1歳9ヶ月の子に当てはめるのも無理があると付け加えています。
心臓病については、牛乳に含まれる飽和脂肪酸 ── 肉の脂やバターなどに多い脂肪の成分。摂りすぎると血中コレステロールが上がりやすいとされますが話題になります。WHOは心血管疾病のリスクを下げるため、食事全体で飽和脂肪酸を摂りすぎないよう推奨しています。北欧の栄養勧告でも、低脂肪乳や発酵乳製品は比較的良い結果が多い一方、高脂肪乳の大量摂取には注意しているそうです。
ただしここでも年齢が大事で、1歳9ヶ月の子に大人の心臓病予防と同じ理屈で脂肪を減らす必要はないと川上さんは話します。カナダやオーストラリアでは、2歳未満には成長に必要なエネルギーや脂質を考えて普通の牛乳を勧めています。
つまり2歳未満の子には、脂肪を除いた低脂肪乳や脂肪を増やした加工乳ではなく、普通の成分無調整牛乳がよいとされている、ということです。
いちばん大事なのは「牛乳でお腹いっぱいにしない」こと
ここからが一番大事なところだと川上さんは言います。牛乳が大好きなこと自体は悪くありませんが、大好きすぎる場合は注意が必要です。
牛乳をたくさん飲む
小さな子は胃が小さく、牛乳だけでお腹いっぱいになる
ほかの食事が減る
肉、魚、卵、豆など鉄を含む食品を食べなくなる
鉄が足りなくなる
牛乳には鉄分がほとんどない
貧血のリスク上昇
鉄欠乏性貧血のリスクが上がる
川上さんは、これは牛乳アンチの話ではなく、世界共通の小児栄養の話だと強調します。アメリカ小児科学会は2026年、牛乳を大量に飲む幼児は鉄欠乏のリスクが高まるとして、5歳未満では牛乳と植物性ミルクを合わせて1日約710ml未満にするよう勧めています。
ヨーロッパの小児栄養の文献では約500ml未満、カナダは500ml程度を目安に750mlまで、オーストラリアは約500ml程度とされています。数字に幅はあっても、考え方はほぼ共通しているそうです。
飲みすぎで重い貧血になった例も
川上さんは、怖がらせたいわけではないと前置きしつつ、実際に牛乳の飲みすぎで重い貧血になった例も紹介しています。2026年に報告された症例では、16ヶ月の女の子が1日に牛乳を1〜1.5リットル飲み続け、重度の鉄欠乏性貧血 ── 体内の鉄が足りず、血液中で酸素を運ぶヘモグロビンが作れなくなって起きる貧血になったそうです。
別の研究でも、13〜36ヶ月で重い鉄欠乏性貧血になった子の多くが、1日約710mlを超える牛乳を飲んでいました。
ただし川上さんは、牛乳が毒だから貧血になったわけではないと念を押します。牛乳ばかり飲んで、鉄を含む食事が足りなくなったことが大きいという説明です。
これはね、おにぎりだけ食べ続けてもですね、バナナだけ食べ続けても、栄養が偏るのと同じ構造だからと思いますんで。
お子さんが「牛乳欲しい」と言っても「今日はこれだけだよ」と区切り、ほかの食べ物と一緒に摂ってもらうとよい、と川上さんはアドバイスしています。
1歳9ヶ月のお子さんについて川上さんが伝えたいのは、牛乳好きは基本的に心配しなくてよく、牛乳が食事の代わりになっていないかを見ることが大事、ということです。ご飯や野菜、魚、肉、卵、豆腐、果物をいろいろ食べて元気に育っているなら、SNSの投稿1つで急にやめる必要はないと話しています。
乳糖不耐症と牛乳アレルギーは別もの
SNSでは混ざりがちな「乳糖不耐症」と「牛乳アレルギー」について、川上さんは別ものだと整理しています。
乳糖を分解する酵素ラクターゼが少なく、お腹が張ったり下痢をしたりする。子どもでは2歳以降に徐々に始まることが多く、症状はもっと後に出る場合も
牛乳のタンパク質に対する免疫反応。乳幼児期に比較的多い食物アレルギー
乳糖不耐症の時期については、アメリカ国立糖尿病消化器腎疾病研究所 ── NIDDK。アメリカ国立衛生研究所(NIH)に属し、糖尿病や消化器、腎臓の病気を研究する機関の情報を紹介しています。
牛乳を飲むたびにじんましんや嘔吐、ゼーゼーした苦しそうな呼吸、下痢を繰り返す、血便が出るといったことがあれば、SNSで判断せず、小児科やアレルギーの専門医に相談してほしいと川上さんは呼びかけています。
世界で共通する考え方と「食べ物の良し悪し」の見方
WHO、アメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリアで、細かい量や母乳から切り替える年齢は違っても、大きな考え方はかなり共通していると川上さんはまとめます。
川上さんはさらに、SNSの仕組みにも触れます。「毒だ」と思う人には毒の情報ばかり、「健康にいい」と思う人にはいい情報ばかりが届くようになっているといいます。
でもね、あの科学的な答えはですね、大体その真ん中です。誰が何歳で、どのくらいで、何と一緒に、どんな体質で、ここからここをね、ちゃんと見ていないとですね、食べ物のいい悪いは決められません。
水も飲みすぎれば危険で、塩も砂糖も醤油もお酒も摂りすぎはダメ。牛乳も同じで、量と食事全体を見ることが大事だと川上さんは話しています。
酪農家として伝えたいこと
改めての結論として、健康な1歳9ヶ月の子が牛乳を適量飲むことに、体に悪いからやめた方がいいという科学的根拠はない、と川上さんは答えます。気をつけたいのは鉄で、牛乳を飲んだあともご飯をちゃんと食べられているかを見てほしいそうです。
もし牛乳ばかり欲しがって食事をほとんど食べない、1日700ml以上や1リットル近く飲む、顔色が悪い、疲れやすい、食欲が極端に少ないといった様子があれば、小児科で相談し、必要に応じて鉄の状態を確認してもらうと安心かもしれません。
そして酪農家として、川上さんがひとつ伝えたいことがあります。牛乳を「体にいいから飲ませなきゃ」だけにしないでほしい、ということです。
おいしいとか冷たい牛乳が好きだったりとかですね、牛さん好きとか、朝ごはんをやっぱ牛乳だよねとかね。そういう食べ物としてのね、楽しさ、食育ですよね。
牛乳が好きでたくさん飲みたいという声は、酪農家個人としてはとても嬉しいと川上さんは話します。美味しく楽しく継続的に牛乳と付き合ってほしい、という思いが伝わる締めくくりでした。
上の子が高校1年生になった川上さんは、情報があふれる今の子育ては自分の頃とは違うだろうと想像します。科学は研究とともに変わっていくので、牛乳や酪農について不安があれば、その都度、科学的根拠をもとに答えていきたいと話しています。
まとめ
牛乳好きの1歳9ヶ月の子をもつ親の不安に、川上さんは世界のガイドラインと研究から「適量なら大丈夫、ただし牛乳だけでお腹いっぱいにしない」と答えました。良い・悪いの二択ではなく、年齢や量、食事全体で考えることが大切だというのがこの回の核です。
- WHOや各国のガイドラインは、1歳を過ぎた健康な子が牛乳を飲むことを禁止していない
- 目安は国により1日約500〜710ml未満で、牛乳を食事の一部として使う考え方が共通している
- 身長や骨、がん、心臓病への影響は研究によって結果が分かれ、「飲めば健康」「飲めば病気」のどちらとも言えない
- 幼児で特に気をつけたいのは、牛乳でお腹が満たされて鉄を含む食事が減ること
- 乳糖不耐症と牛乳アレルギーは別もので、気になる症状があれば専門医に相談する


