中高生と過ごす牧場の1週間とミルクフェス2026
10月15日の木曜日、川上牧場の川上さんはいつものあいさつから配信を始めます。この日の出雲は最高気温23度、晴れ時々曇りの過ごしやすい天気だそうです。
川上牧場ではこの週、火曜日から地元の農業高校生、前日からは地元の中学生が職場体験に来ています。前日には子牛の分娩があり、中高生も一緒に立ち会ったといいます。
初めて分娩を見た感想も、また音声配信に収録してますので。
この日も、子牛へのミルクやりや飼料作業を中高生と一緒にやる予定だと話されています。
週末の土曜日には、東京の豊洲公園「花木とモニュメント広場」で、10時から16時まで「牛乳でスマイルプロジェクト ミルクフェス2026」が開かれます。これまで「土日ミルクフェス」と呼ばれていたイベントで、名前は変わっても中身は同じだそうです。
川上さんの担当は、関東の酪農家さんが連れてくる本物の牛の展示の前で、子牛や親牛について説明する役です。会場の入り口を入って左側あたりにいるので、声をかけてほしいと呼びかけています。
また、会場で川上牧場の公式LINEに登録した人には、オリジナルステッカーを配る予定です。XやInstagramのフォロー、音声配信を聴いているという一言でもかまわないそうですよ。
黒い毛だと美味しい?しゃぶしゃぶ屋で生まれた疑問
お便りコーナーでは、公式LINEの質問フォームから届いたまゆさんの質問が紹介されました。
豚肉や牛肉で黒毛が黒豚や黒毛和牛というようなブランド名になるのはなぜでしょうか?黒毛が特に美味しいとか、そういったことがあるのでしょうか?しゃぶしゃぶを食べに行った時に、お肉のメニューに豚バラロースと黒豚ロースとか、国産牛とか黒毛和牛とか表記が別になっていたので気になりました。
川上さんはまず、この質問のもっともらしさに共感します。食べるのは肉なのに、なぜ毛の色が商品名に入っているのか。お肉の色はどれも同じなのに、という素朴な疑問です。
そのうえで、川上さんは最初に結論を示します。黒い毛が美味しさを作っているわけではないというのが答えの軸です。
黒という毛の色が特定の品種を見分ける目印になっていて、その品種が長年肉質を重視して改良されてきた。
なので結果として、黒という言葉に品質のイメージが乗っているという、これが一番近いかなと思います。
黒豚は「黒い豚」ではない?バークシャーと鹿児島黒豚
日本でいう黒豚は、黒い毛の豚なら何でもよいという意味ではありません。川上さんによると、農林水産省はバークシャー ── イギリス原産の豚の品種。体の大部分が黒く、肉質のよさで知られています。日本では黒豚として流通しています種を黒豚として紹介しているそうです。
バークシャーは体の大部分が黒いものの、鼻先、4本の足先、尻尾の先の6か所が白いため「六白」とも呼ばれます。川上さんは、ホルスタインも同じく六白と呼ばれることに触れつつ、黒っぽい別の品種がいても食品表示上の黒豚にはならないと説明します。
ここはね、結構知らない人が多いかなと思います。僕も知らなかったですね。
バークシャーが評価された理由も意外です。一般的な豚より発育が遅く、産む子豚の数も少ないため、生産効率だけを見れば優等生ではありません。一方で、肉のキメが細かく柔らかいという特徴があります。
川上さんは、畜産ではここが面白いところだと話します。早く大きくなる、たくさん子どもを産むという能力も大事ですが、食べたときの品質を重視すると別の価値が出てくる。黒豚は、効率より肉質を買う豚としてブランド化されてきたというわけです。
さらに有名な鹿児島黒豚は、バークシャーであるだけでは完成しません。鹿児島では、肥育の後期にサツマイモを含む飼料を一定期間与えるなど、飼い方や餌まで含めて品質を作っているそうです。
品種
バークシャーという遺伝的な特徴を持つ豚を使う
育種と飼養管理
鹿児島での育て方や管理を重ねる
餌
肥育後期にサツマイモを含む飼料を一定期間与える
鹿児島黒豚
旨味や甘み、脂肪の性質に特徴が出るとされる
鹿児島黒豚の場合も、毛が黒いから美味しいのではなく、品種と育て方の積み重ねが味の特徴を生んでいる、と川上さんはまとめています。
和牛と国産牛の違いと、黒い毛が「ラベル」である理由
続いて黒毛和牛の話です。川上さんが「ものすごく間違えやすい」と強調するのが、和牛と国産牛は同じ意味ではないという点です。
和牛は品種の話で、基本的に黒毛和種、褐毛和種、日本短角種、無角和種の4種類と、それらの交雑種を指します。一方の国産牛は品種名ではなく、日本での飼育期間がもっとも長い牛という産地の区分です。
品種の区分。黒毛和種など4品種とその交雑種
産地の区分。ホルスタインなどの乳用種や交雑牛も含む
しゃぶしゃぶ屋のメニューに戻ると、国産牛は「日本で育った牛肉」という情報、黒毛和牛はそれに加えて黒毛和種という品種まで示している違いになります。ただし、お店ごとに産地や格付けなど独自の条件がつくこともあり、どこでも同じ規格というわけではないそうです。
黒毛和種の強みとして挙げられるのが脂肪交雑 ── 赤身の筋肉の中に脂肪が細かく網目状に入ること。いわゆるサシや霜降りのことで、牛肉の格付けでも重視される項目ですです。黒毛和種は和牛4品種の中でも、特にサシを作る能力が高い品種として改良されてきました。
長い時間、人間がこの牛は肉質がいいな、この牛はサシが入りやすい、この血統を残していこうと選抜してきた。
川上さんは、黒い毛と美味しさの関係を例え話で説明します。黒毛和種を白く染めても肉は美味しくならないし、ホルスタインを黒く染めても黒毛和牛の肉にはならない、というものです。
その証拠に、黒くない和牛もいます。褐毛和種、いわゆる赤牛は黄色がかった褐色や赤褐色ですが、れっきとした和牛です。日本短角種も濃い褐色で、黒い=和牛、黒くない=品質が低い、ということはまったくないと話されています。
黒毛和種は本当に美味しい?霜降りは多いほどいいのか
では黒毛和種は本当に美味しいのか。川上さんは、美味しさには好みが入るので順位をつけること自体がナンセンスかもしれない、と前置きします。脂の多い牛肉が好きな人もいれば、赤身の強い牛肉が好きな人もいるからです。
そのうえで、黒毛和種が柔らかさや脂肪交雑、香りで高く評価された研究はあるそうです。複数品種を比べた官能評価研究で、食感や風味の評価が高かった例があると紹介されています。
さらに、黒毛和種の脂肪はホルスタインなどと比べて融点が低い傾向も報告されています。しゃぶしゃぶのように薄く切ってさっと火を通すと、脂の口溶けや柔らかさの違いを感じる人もいるかもしれない、と川上さん。
いやー食べたくなってきた。
ただし、霜降りが多いほど無限においしいわけではありません。昔は「サシが多いほど高級で美味しい」というイメージが強かったものの、研究を見るとそこまで単純ではないそうです。
サシが多いほど高級で美味しいというイメージが強かった
サシの入り方や脂の溶けやすさまで研究され、量だけでは決まらない
同じくらいの脂肪量でも、粗いサシより細かく入った小ザシのほうが好まれた研究があります。脂肪が極端に増えると、タンパク質や一部の遊離アミノ酸が減る可能性も報告されているそうです。
いまはオレイン酸 ── 脂肪を構成する脂肪酸の一種。牛脂に含まれる割合が高いと脂が溶けやすく、口溶けがよいとされますや脂の融点のような「脂の溶けやすさ」も研究され、品種改良に使われていると川上さんは話しています。
白い豚は「普通の豚」?黒がブランドになるまで
豚についても、黒い毛が肉を柔らかくしているわけではありません。バークシャーを肉質重視で残してきたことに加え、餌、育て方、出荷日齢、保存、調理が重なって、美味しいと感じる豚肉になると川上さんは説明します。
逆に、白い豚が「普通の豚」というわけでもありません。一般的な豚肉には、ランドレース、大ヨークシャー、デュロックなどを組み合わせた交配がよく使われるそうです。
| 項目 | 一般的な交配豚 | 黒豚(バークシャー) |
|---|---|---|
| 使われる品種 | ランドレース、大ヨークシャー、デュロックなどの組み合わせ | バークシャー |
| 重視する点 | 多産性、発育、肉質、飼いやすさの組み合わせ | 特徴ある肉質 |
| 弱み・特徴 | 効率と肉質を高度に両立させている | 発育が遅く子豚が少ないが、肉のキメが細かく柔らかい |
川上さんは、黒豚以外は適当に作られた豚ではなく、むしろ効率と肉質を高度に組み合わせた豚だと強調します。黒豚は、成長速度で不利があっても肉質に価値を置く別の方向の品種だと考えるとわかりやすい、という整理です。
では、なぜ「黒」に高級感が出たのか。川上さんによると、最初は毛の色が品種を見分けるわかりやすい特徴だっただけです。その品種を何十年、何百年と交配し、餌や飼い方を工夫し、産地や品質基準を作ってきた積み重ねで、黒という一文字に歴史や肉質の情報が圧縮されるようになったといいます。
黒毛、黒毛って言われると、もうみんなよだれが出ちゃうっていうね。それぐらいのブランド力になってきたと。
もう一つの注意点は、黒毛和牛イコールブランド牛ではないことです。黒毛和種は品種で、そこに地域、血統、飼育期間、枝肉の格付け、飼い方などの独自条件をつけたものが各地のブランド牛になります。例として、かごしま黒牛は地理的表示にも登録され、生産地や生産方法の基準があるそうです。
しゃぶしゃぶで食べ比べるなら、値段の意味も知っておきたい
質問のきっかけがしゃぶしゃぶ屋だったことから、川上さんは食べ比べの楽しみ方も提案します。豚ロース、黒豚ロース、国産牛、黒毛和牛を同じ席で頼めるなら、脂の香り、柔らかさ、口に残る脂の感じ、赤身の味、噛んだあとの余韻を確かめてみてほしいそうです。
黒豚だから必ず好みとは限らず、黒毛和牛でも脂の強さが苦手な人もいます。赤身の強い国産牛のほうが好きな人もいて、それが食の多様性だと川上さんは話します。
メニューでは、黒毛和牛や黒豚のほうが高く、値段がそのまま味の順位に見えがちです。でも値段には味以外のたくさんの要素が入っています。
たとえばバークシャーは発育が遅く、産む子豚も少ないので、同じ量のお肉を作るにもコストがかかりやすい。価格が高い理由の一部は、美味しいからだけでなく、作るのが大変だからでもある、と川上さんは伝えています。
まゆさんの質問への答えを一言でまとめると、黒いから美味しいわけではない、ということになります。黒豚ならバークシャー、黒毛和牛なら黒毛和種という品種の毛色がたまたま黒く、その品種を人が肉質重視で改良し、餌や飼い方、産地、加工、調理が合わさって今のブランドになっているという整理です。
毛の色だけで味は決まらない。次にメニューを見るときは
川上さんは最後に、黒くない和牛もいるし、黒豚ではない美味しい豚もたくさんいると念を押します。黒毛和牛の中でも肉質には個体差があり、毛の色だけで味は決まらないというのが、この回でいちばん大切なポイントです。
焼肉屋やしゃぶしゃぶ屋でメニューを見るときは、値段だけでなく「品種の違いか、産地の違いか、ブランドの違いか」まで見てみると、同じメニューが少し違って見えるかもしれません。
できればですね、両方食べて、両方いっぱい食べてですね、全部食べて、いっぱい消費してもらえたら嬉しいなと思います。
鍋の季節を前に、川上さんは国産のお肉をしっかり食べてほしいと呼びかけます。味の違いなど気になることがあれば、すぐ質問してほしいとも話していました。
お知らせとしては、Kindle本『酪農未経験者のために 遺伝改良と飼養設計編』と、その内容を読み込ませたAI「FarmEcho AI」が紹介されました。黒毛和牛の近交係数を測れるアプリ「和牛交配チェック」は86名の牧場関係者が使っていて、年内に100名を目指しているそうです。
まとめ
黒豚や黒毛和牛の「黒」は、美味しさそのものを生む色ではなく、品種を見分ける目印です。その品種が肉質重視で何世代も改良され、餌や育て方、産地の基準が重なったことで、黒という一文字にブランドの価値が乗るようになりました。
- 日本の黒豚はバークシャー種のことで、黒っぽい豚なら何でも黒豚になるわけではない
- 和牛は品種、国産牛は産地の区分で、国産牛にはホルスタインなども含まれる
- 褐毛和種や日本短角種のように、黒くない和牛もれっきとした和牛
- 霜降りは多いほどよいわけではなく、サシの入り方や脂の溶けやすさも大切
- お肉の値段には、味だけでなく成長速度や繁殖能力など作る大変さも含まれている

